第二話 ハジーナ村の癒し
ジグが営む魔法薬店は、週休四日という、週の半分は休みという異例の営業形態をしていた。
しかし、それに文句を言う村人などいなかったのだ。
たとえば、誰かが病気になって、すぐに薬が必要な時には、店が休店日でもジグは薬を用意してくれたからだ。
その日も、イヴァンを抱っこしたジグは、のんびりと散歩がてら村を歩いていた。
そして、道行く人に声を掛けられるたびに、恥ずかしそうにしながらも笑みを浮かべて談笑するのだ。
日用品を置いている雑貨屋で、砂糖と小麦粉を購入したジグにイヴァンは、嬉しそうに言うのだ。
「まぁま、くっき? さくさく?」
期待のこもった金色の瞳でジグを見つめるイヴァンが可愛くて、ジグはイヴァンのぷにぷにのほっぺにキスをしながら微笑んで言うのだ。
「ふふ。今日はね、クッキーじゃなくて、パンケーキにしようと思うの」
「ぱんけー?」
初めて聞く言葉に、イヴァンが首を傾げる。
その姿が、本当に可愛くて、ぎゅっと抱きしめたジグは、楽しそうに笑うのだ。
「そうだよ。パンケーキ。昨日、村長さんの奥様から、ベリージャムを頂いたから、それをたっぷりかけて、イヴの大好きなハチミツもたっぷりかけてね」
「じゃむ、はちみつ、いっぱい!!」
「うん。いっぱいね」
そう言って、微笑み合うジグとイヴァンを見つめる村人たちの瞳はとても優しいものだった。
可愛らしいジグと天使のようなイヴァンのやり取りは、村人たちの癒しとなっていたのだ。
村人たちから、見守られていることを知らないジグとイヴァン親子は、のんびりとした歩みで村の外れにある家に帰っていった。
家に着いたジグは、イヴァンに手洗いとうがいをさせた後に、手作りのウサギのぬいぐるみを渡して頭を撫でる。
「イヴくんは、ママがパンケーキ作っている間、うーたんと一緒に大人しく待っていられるかな?」
ジグがそう言うと、イヴァンはキリっとした表情を作って、自信満々に宣言するのだ。
「うん!! まってられるよ!! うーたんとイヴ、いいこ、いいこ!!」
「そっか。うん。いい子いい子」
「きゃ~」
イヴァンとウサギのぬいぐるみを一緒に抱きしめたジグは、にっこりと微笑んでキスをするのだ。
イヴァンも、嬉しそうに悲鳴をあげてキスをジグに返していた。
「まぁま~。ちゅ~」
「んもう! うちの子はどうしてこんなに可愛いの!!」
「かわいいは、まぁま~」
結構な時間をじゃれついていたジグは、最後にイヴァンの額にキスをしてからその身を離していた。
そして、キッチンであっという間にパンケーキをふわふわに焼き上げる。
焼き上げたパンケーキにホイップクリームと貰ったベリージャム。そして、イヴァンの大好きなハチミツをたっぷりかけてから、リビングに運ぶ。
甘いココアの入ったカップもテーブルに置いて、イヴァンに声をかける。
「イヴ、おやつにしようね」
「わ~い!!」
イヴァンは、目の前のパンケーキに瞳を輝かせる。
そして、大き目に切ったパンケーキにたっぷりのハチミツとベリージャムとホイップクリームをつけて頬張る。
「うま~。あま~い」
そう言って、両手を頬に当てて金色の瞳を輝かせたのだ。
イヴァンの嬉しそうな姿にジグも花のような笑みを浮かべるのだった。