第十一話 聖女の真実
ユーリのとんでもない告白に混乱しつつも、ジグは確認するように言うのだ。
「でも、殿下は聖女様をお好きなのではないのですか?」
「ち、違う! なんだそれは?」
とんでもない誤解だと、ユーリは嫌そうに顔をしかめる。そして、うんざりしたようにジグに隠していた真実を口にするのだ。
「あんな、腐れ外道の聖女の皮を被った悪魔など、誰が!」
「げ、外道? 悪魔?」
信じられないとジグが表情で訴えると、ユーリは眉間にしわを寄せて嫌そうに言うのだ。
「ノヤマダは、お前の前ではいい子の皮を被っていただけだ。アイツほど危険な生き物は魔王くらいだ」
そう言ったユーリは、聖女召喚の際の真実を口にしたのだ。
それは、今から四年ほど前のことだった。
魔王軍がマルドゥーク王国を攻めてきて、数日後のことだった。
国に伝わる伝承によって、窮地を救うと言われていた聖女を召喚することになったのだ。
そして召喚されたのは、野山田理子という異世界の少女だった。
召喚された理子は、すぐに状況を飲み込んだうえで、召喚に立ち会ったユーリたちに言ったのだ。
「おお~。メイン攻略対象は、イケメーン。でも、私、ユーリみたいな好きな子苛める系の面倒なの無理なんだよねぇ。折角、クロノクライシス、通称クロクラの世界に来たんだから、推しを全力で攻略しないとね!! う~ん、でも私の推しって、隠しキャラだからなぁ。とりあえず、シナリオ上、魔王討伐はしないとだから、ユーリたちに協力するよ。よろしく~。おっと、そっちにいるのは、兄貴系攻略対象のオーエンね! くふふ~。スチルで見るよりもすごい雄っぱい~。って、ダメダメ、逆ハーは、こういうトリップ系では破滅コースだからね。私は、推し一筋よ!!」
周囲を圧倒していることに気が付かず、意味の分からないことをペラペラと口にする理子にユーリは、「こいつとは馬が合わないな」と直感するのだ。
ユーリたちのことを「乙女ゲームの攻略対象」と呼ぶ理子は、「ゲーム」という予言の書で得た知識で、魔王軍の本拠地や、魔王軍の戦力、戦法を次々に教えたのだ。
着実に魔王討伐の準備が整っていたのだ。
そして、理子は討伐メンバーにユーリとオーエンを指名したのだ。そして、「王宮にいる魔法使いの男爵令嬢」と告げたのだ。
その時、王宮で魔法を使える男爵令嬢はジグリールだけだったのだ。
ユーリは、ジグリールの参加を反対したが、理子は言うのだ。
「シナリオ通りにしないと、予定が狂うのよ! 魔法使いの子がいないと、隠しルートに入れないのよ!!」
またしても意味の分からない理由を並べられて困惑しているうちに、ジグリールが魔王討伐対策会議室に連れてこられてしまっていたのだ。
そして、理子はジグリールを見て、またしても意味の分からないことを口走り、ユーリの頭痛を酷くしたのだ。
「えっ? その子が魔法使いなの? まじか……。てか、うわ~。男爵令嬢まじかわ。これで悪役令嬢なんて草、大草原不可避を通り越して、竹生える。あっ、でも、もしかしてここって、製品版の方じゃなくて、同人時代の方? あちゃ~、そうなると、シナリオちょっと変わってくるかも? 私、製品版の方しかプレイしてないしなぁ。しかも、同人版って、悪役令嬢存在しないし……。まぁ、なんとかなるよね?」
出会ってすぐに、理子から謎の言葉を告げられるジグリールは、瞳を潤ませてスカートをぎゅっと握ってしまうのだ。
そんなジグリールに気が付いた理子は、ジグリールを抱きしめて頬ずりしながら言うのだ。
「うわ~。かわいい~。もしここかR18同人ゲームの方だと、同行した魔法使いって、ユーリに犯されるシナリオがあったはず? あれ、オーエンだっけ?」
抱きしめられながら、とんでもない予言を聞かされたジグリールは、全身を真っ赤に染めることになったのだ。
「おおおお、おか……」
「あはは。ごめんごめん。う~ん、でも、最終決戦の時、魔王が何かするって掲示板で見たような? 魔法使いちゃん、大丈夫。何とかなるよ」
根拠のない自信を振りかざす理子は、ユーリによってジグリールから引き離される。
「ノヤマダ! 何をこそこそと話しているのだ!」
「ぶーぶー! 美少女ともっとイチャイチャしたかったのに~。ユーリのけちんぼ!」
「喧しい!!」
その後、理子が指名した数人のパーティーで魔王討伐に旅立ったのだが、理子の謎の指示に従った結果、ものすごい速さで魔王軍を降していくこととなったのだ。
しかし、その手段は実に汚い手段だったのだ。
平気で兵糧に毒を混ぜる。風上を陣取って、毒を風で流す。噂を流して、魔王軍の命令系統を混乱させる。などなどだ。あまりにも酷い作戦の場合、ジグリールに伏せることもあったくらいだったのだ。
ユーリの話を聞き終わったジグは、目を丸くさせるのだ。
まさか、たまに意味の分からないことを言うことはあっても、ジグの中では可愛らしい女の子と言うのは聖女の印象だったからだ。




