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のまどる  作者: 蒼き流星ボトムズ
1/6

【第一話】 福井アニメの悪夢、蘇る(不破操)

不破操


21歳。

高校在学中からオンラインでの声優業請負を行っており、芸名『冬野こ~り』として成功を修め、既に法人化している。

両親とは死別。

福井県鯖江駅近くの防音ルーム付の邸宅に起居している。


小学生時代は橋本友蔵が立ち上げた劇団に所属しており、児童演劇コンクールで最優秀賞を獲得した事もある。

橋本の逝去により劇団が解体してからも、未亡人である久子とは連絡を取り続けており、その縁で同門である小鹿夫妻の娘を預かる事となった。

そのアニメ企画の名は『のまどる』


制作会社もキャストも未定ながら、あらすじだけが流出していた。




「福井市の女子高生、七田里奈・浜津真美・富良美佐緒の三人は力を合わせてご当地アニメを作り始める」




という簡素な物。


ネットニュース経由で、この流出情報を何気なく知り、その瞬間に事態のヤバさに気づいた。




私の名前は不破操。


そう。


あらすじの文中にある『富良美佐緒』は明らかに私の名をモジったものなのだ。


単なる偶然ではない。


何故なら、あらすじにあった他の2人の役名も私の高校の先輩の名前に酷似しているからだ。




「師匠。  何かありましたか?」




不安そうな顔でこちらを覗き込んでいるのは、一月前から自宅に居候させ始めている小鹿夫妻の娘である。

先月までジュニアアイドルとして人気を博していただけあって、理不尽なまでに美人である。


不細工ゴリラ代表の私としては横に並んで欲しくない。




「うーん。 来てくれて早々申し訳ないんだけど。


アンタ厄介ごとに巻き込まれたかも知れんわ。」




「厄介ごと… ですか?」




「えーっとね。


まだ情報が不完全だから何とも言えんのだけど。


私、アニメ化されるみたいなのね。」




「アニメ… ですか?  お、おめでとうございます。」




「あー。 キャスティングされた訳じゃなくてね…


早い話、私の知らない所で勝手に私の名前が使われてるみたいなんだわ。


ほら、ここ見てみ?」




「富良美佐緒の部分ですか… 確かに名前は似てますけど…。


字も違いますし、そこまで神経質にならなくてもいいんじゃないですか?」




「うん。


富良だけだったら、スルーしたんだけどね。


『七田』ってキャラ名があるでしょ?


モデルは誰だと思う?」




「そりゃあ八田里夜ですよね?」






八田里夜。


福井県知事を2期務めた八田摂理の曾孫に当たる女だ。


(ちなみに江戸時代には福井藩の家老を務めていた家系だ。)


区分としては漫画家になるのだろうが、既に文化人としての地位を築いている。


現に漫画に興味のない小鹿ですらその名を知っていた程である。


本来なら、八田が高校を卒業したのと入れ違いに私が入学した程度の関係性である。






「うん。 そうだよね。 普通は八田先輩の名前をモジったものだと思うよね。」




「じゃあ、八田漫画の番宣企画ですかね?」




「いや、あの人は絶対関与してないよ」




「違うんですか?」




「だってあの人福井のこと嫌いだし。 まあ、私もだけど。 


だからあの人が福井アニメに関わることなんて絶対にあり得ない。」




「それが厄介なのですか?」




「うーん、この浜津真美っていうのがね…」




「この名前も元ネタがあるんですか?」




「ヤクザ。」




「え?」




「これ地元の人間ならみんな知ってるんだけどね。


福井には花津一家っていうガチの暴力団があるのね?」




「じゃあ、この浜津って…」




「そこの組長の孫娘に花津真美って女がいる。」




「話がヤバい方向に向かって来ましたね…」




「高校の先輩なのよ。 私の一コ上ね。


この人の紹介で八田先輩とも面識が出来ちゃったのよ。」




「じゃあ高校の先輩とアニメ化されちゃうってことですか?」




「うーん、八田先輩同様に花津一家にも絶対に話は通ってない。


だからヤバい。


要するに勝手にヤクザをアニメ化しちゃってるかもって事ね。」




「あー、ヤバいですね。」




「で、多分このままじゃ私が疑われる。」




「え? 何で?」




「だって私が声優志望だったのは周りに知られてたし。


それに… 八田にしろ花津にしろ福井では有名な家系で、かつカネも持ってるのね。


だからあの人たちにはアニメ化する動機がない。

必然、消去法的に…」




「師匠が疑われますか…?」




「花津一家に殺されるかも知れん。」




「知り合いなんですよね? 仲も良かったんですよね?」




「あそこはガチだから…  昔は大ぴらに人殺しまくってたみたいだし。」




「ヤバいっすね!?」




「私ら殺されて埋められるかも知れん…」




「え? 私もですか?」




「いや、むしろアンタが一番疑われるかも」




「ええ!? 私、福井来たばっかりですよ!?」




「アンタ、東京で何してた?」




「あ、アイドル活動的な… してました。」




「で、このアニメ企画の名称が『のまどる』だ。」




「の、のま?」




「後半の『どる』は高い確率で『アイドル』の『ドル』だと思う。


女子高生3人組の物語とあるから、まあ十中八九そうだろう。」




「た、確かに。


じゃあ、『のま』は?」




「恐らく『ノマド』の『のま』だ。


語感的に他の候補は思いつかない。」




「ノマド?」




「元は遊牧民を意味する言葉だが、現代のビジネス用語としては拠点を持たないフリーランスを指す言葉だ。」




「…。」




「見方によっては、アンタはノマド的なアイドルとも言える。


つまりアンタをプッシュする為の企画を私がでっち上げた様に見えなくもない。」




「いやいやいや! 卒業宣言しましたし! フリーじゃないっスよ!」




「部外者にはそんな事情わからんよ。


てか私がフリーランスだしな。


法人化したけど。」




「いやいやいや!

大体、アニメの企画なんて素人が出来る訳ないじゃないですか!」



「…地上波に乗せれるか否かは兎も角として、私ならこういうネットの怪情報に混ぜる位は出来る自信がある。

まあ、実際に出来るかどうか分らんが…

いや、私なら出来るな。

少なくとも、この程度の芸当なら出来る女だと思われてる…」



「いやいやいや。

こんな数行の文章で師匠が何かやったなんて…  思われませんよね?」




「気持ちは分かるけどさ。

ヤクザから見たらモロに最有力容疑者よ?

少なくとも私が花津真美なら最初に私を疑う。

消去法で私が一番怪しい。


…花津先輩は異常に疑い深いから絶対に信じてくれないと思う。」




「どうするんですか?」




「誤解を解く。

と、言うより誤解されたらマジで埋められる可能性が高い。

現状、かなりヤバい状態にあることだけは自覚してくれ。」




「風俗に売れらる位で許してくれませんかね?」




「いや、あそこはそんなに甘くない。

敵対者は見せしめにキッチリ殺すタイプのヤクザだから。」




「あああ…

のどかな故郷に隠居しに来たつもりだったのに…」




「田舎は闇が深いよー。

ちなみに福井は日本有数の豪雪地帯でありながら夏は糞暑くて、一年中雨が降ってる。」



「いいトコないですね。」



「ないな。

ちなみに日本で唯一イオンが無い県が福井だ。」



「でもきっちりヤクザは居るんですね?」



「うん、居る。

しかも嶺北のヤクザは全部花津一家の系列なんだってさ。」



「…。」



「とりあえず、私は今日から保身に専念するから。」



「声優の仕事は…?」



「もちろん、大幅縮小する。

ていうかアンタと話しながらTwitterのプロフ欄修正しておいた。」



「あ、本当だ! 新規依頼停止ってなってる。」



「こういうのは早め早めに動かなきゃな。

じゃあ、先輩方に連絡とる方法考えるか…」




私の名前は不破操。


声優だ。


といっても活動はオンライン限定。


世間からは半ば蔑称気味にネット声優とか同人声優と呼ばれている。


残念ながら仕事の内容は9割以上がエロ。


なので当然活動を隠している。




恐らく。


周囲からは父の遺産でブラブラ遊んでいる放蕩娘と思われている。




かつての同級生の記憶には「ブスの癖に声優志望だった子」としてのみ残っているはずだ。


そしてそれ以上に、「花津真美のお友達」というデメリットしかないレッテルが私には貼られ続けていた。




小鹿は半信半疑だが、この状況は本当にヤバい。


早急に対策しなければ私は間違いなく殺される。



高度成長期、福井。

嶺北地方の若者達の中でも最も獰悪なグループが愚連隊を結成し、暴力団関係者との抗争を開始した。

白昼堂々の殺戮劇が幾度も繰り返され、嶺北の覇権は愚連隊側が握るに至る。

黒衣で統一したその異様な出立から、彼らは『黒シャツ団』と呼ばれ大いに恐れられた。


その中でも発起人であるリーダーの青年は一際目立っており、眉目の秀麗さと豪胆な逸話の数々で若くして広くから畏怖を勝ち取っていた。


名を、花津敬介という。

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