表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生は友と共に!  作者: 鬼桜天夜
第1章 『騎士の國 オルフェウス』
7/22

いざ王都へ

鞭のしなりによる変則的な攻撃。今のところアリアのサポートもあって当たってないが、一撃でもアウトならもし剣がなかったらと思うと、ちょっとゾッとする。一定の距離を保っているが、一回でも気を抜くと殺られるだろう。後どれぐらいの時間稼ぎが必要なのか分からないが、持って数分だ。体を相手に合わせて急速に動かしてるせいで、動きが鈍くなってきている。身体強化みたいな魔法とかないのだろうか、そんな余裕が生まれるほどに体とは反対に、脳は加速する。

そのおかげで、ここまで戦って分かった。相手はそこまで接近戦は得意じゃない、なら隙さえ突ければ躱して一撃入れられるんじゃないか。タイミングと、その想像(イメージ)する未来を現実にする力が残っているかどうか。


「つぁっ!」

叫びながら体を捻り、剣で鞭の軌道をそらす。死への恐怖と体の疲れで、汗が滲んでいる。もはや考えている暇は無さそうだ。私は決意をし、その一瞬を探る。本当にあるかないかの瀬戸際に、そのチャンスがあるはずだ。相手に悟られないよう、反撃するのをバレないように、


見えた!視界の端に映ったリリスの表情は、少なからずマズいと思ったようだ。そのチャンスは、リリスの顔に驚愕の色を足した。


「はぁっ!!」

中距離をずっと保っていたが、私の右腕を飛ばそうとし、鞭が伸びる。鞭はしなり見た目より遠くに攻撃できるが、二撃目が遅くなる。リリスの右脇腹を狙い、突進する。距離を詰めるのはもう度胸試しに近い気がする。空中を地面すれすれで跳ぶ。剣先が、届く、


「させるわけないでしょう」

身体がぐわんと倒れる。背中に強い衝撃が来てようやく理解した。剣が体を貫くことはなく、さっきまで右にあった鞭が私の剣を巻きとっていた。それは鞭は一本だったのに、二本に分裂したのだ。


「鮮血魔法《処刑女の愛した鞭》」

体が痺れて、立てない。それに魔法が進化した?


「アイカ!」


「さて、ここまでやれたご褒美、受け取って?」

考えるのも束の間、リリスが手にしていた鞭は何本も増え、先が剣のように鋭くなった。魔法が形を変える事によって、殺傷能力を得るのか。すると、鞭が上から迫ってくる。せめて顔面だけでも避けないと、!

必死に左に動こうとする。右眼に触れるそのギリギリに、あの光景がフラッシュバックした。いや、実際にはフラッシュバックしたのではなく、私の目の前に同じ出来事が起きたのだ。一迅の風が吹いて、血の鞭は四散し、鮮血の華が舞い散る。彼はまた、私を助けてくれた。


「無事?」

私を安心させる為なのか奮い立たせる為か、その真意を私は知らない。でも彼のその微笑みを見れたことで、現実が戻ってきた気がする。


「藍華っ!生きてる!?」

後から遅れて緋華李も来てくれた、今も怖くて仕方ないだろうに。本当に、私は友達に恵まれた。緋華李の肩を借りて、よろけながらも立ち上がる。


「んん?あら?あらら?貴方、レオン殿?」


「殿、と呼ばれる程の地位には立っていないが」


「あら?ってことは、そういうことよね?」


「貴女の仰る意味が分からないが、これ以上友を傷つけるのなら、本気で斬るぞ」


「ふぅん?そう、そうなのね。もう、ここまで。良いわ、いいものを見れた御礼に見逃してあげます。でも忘れないで、私は貴方たちを忘れない」

そう言うと、リリスと言う女性はまた不敵に笑い蝙蝠となり、散らばり、影に消えた。


緊張の糸が一気に解けたせいなのか、身体からどっと疲れが出る。はぁと、人生、もとい転生人生で一番大きなため息をついた。さすがに気配は消えたのでこれ以上警戒は必要ないが、それでも周りを気にしてしまう。


「ひとまず、みんな生きてて、良かった」


「藍華ーー!」


「抱きつくな騒がしい耳が痛い」


「そう言うなよ。あんな剣幕して来たんだから、そのタックルで済むだけありがたいんじゃないか」


「それもそうか」

改めて考えると、そうか。緋華李にとったら悪夢という誰かの死が実現しかけたのか。そう考えると、なんだか悪い気がしてきた。


「もう、こういうことやめて」

でも、それでも私は、


「できればな」


「ほんっと頑固だよね!」

全員気を抜いていた訳ではない。あの格上を相手にしていたのだ、直ぐにダラダラと出来るはずがなかった。でも、彼女はそこにいた。


「みんな勢揃いね?良かった良かった、誰か一人でも欠けてたら、依頼した事を悔やんで、明日は眠れなかったかも知れなかったわね」


「誰っ!」

鞘に収めた剣をもう一度取ろうとする。


「藍華藍華。この声、聞いたことあるような」


「やっぱり貴女でしたか。いくら俺を信頼しているとは言え、こんな変な依頼をしたのは」

入口の影から音もなく来たのは、ウリハラギルドの受付嬢、メルティさんだった。


「分かっててやりましたよね?」


「何を?」


「情報どこから仕入れたんですか」


「女はミステリアスであるべしってね」

話を聞く限り、嵌められたらしい。生きてたからまだしも、ほんっと死んでたら酒のつまみにもならなかっただろうに。私は苦笑いしながら考える。魔王にその配下、六芒星(ヘキサグラム)。魔界とやらに居座っている強者ども。あんなのとこれから対峙しなくちゃならないのかもしれないのか。改めて、強くならなくてはならない思いに駆られる。


「メルティさん。騙したことは別にいいです」


「騙されてくれてありがと」

女って怖い、割と本気で。


六芒星(ヘキサグラム)とは、魔王とは、どんな奴なんですか?」


「知らないわ」


「えっ」


「えぇ」


「はぁ」


「い、いやいや!知らないならなんでこの依頼を!?」


「実はね?これ王命だったのよ」


「っ!?王命だって!?メルティさん!本当なんですか!」


「アリアちゃん、王命って何」

レオンの後ろでアリアにこっそりと聞いている緋華李に、私も混ざる。


「王命って言うのはね、文字通り、女王様からの、直々の、命令。秘匿され、民にも、知られる事は、ないの。でも、本来それは、円卓の騎士達に、降されるもの。何で、ギルドに?」

女王に円卓の騎士か。本当に情報が足らないな。


「それでね?貴方達には王都に出向いて欲しいの」


「なっ!?」

レオンの顔が、あの時と同じ苦い顔をしている。


「えっ?何でですか?メルティさん」


「ギルドの報告書じゃ、信頼に足らないとか何とかで。全く、陛下も酷いわよね」


「俺も、ですか」


「ごめんなさい。貴方を行かせるのは不本意なのだけど、対処するのに彼女たち二人の名前だと信用できないって」


「信用もクソも無いだろうが…」


「という事は、私もですか?メルティ」


「いいえ。レオン、ヒカリちゃん、アイカちゃんの三人だけよ」

二人は極端に王都に、もしかしたら女王に会いたくないらしい。余程の圧政政治でもしているのだろうか。それにしては、ウリハラは賑わっていると思うけど。


「とりあえず戻りませんか?それに、死体の埋葬もしなきゃいけない」


「そうだな」


「うん、手伝うよ」



「ギルドに着いたけど、何か質問はある?」

いやこの空気で言うんですか。埋葬して花を手向けた後、ギルドに無事に帰還して、丸いテーブルに向かい合って座っているが、なんだこの重々しい空気は。

レオンはさっきから下向いてるし、アリアはもはや泣きそうだし。どうしたものかと悩んでいると、あいつが動いた。


「じゃあはいっ。王都にはいつ行けばいいんですか」


「明日には出発してくれる?本当に身勝手なのは承知の上だけれど、予定日に間に合わなくなってしまうから」


「明日、ですか」


「ほんとうに、身勝手ですよ」

下を向いたままレオンが言う。こんな風にものを言う彼を初めて見た。

若干面食らっていた私だが、ゆっくりとレオンは顔を上げた。


「…行きます。王都に」


「レオン、嫌なら無理にでも断って」


「いいんだ、いつかは会わなきゃいけない」


「私はそろそろ仕事に戻らなきゃ、王都までの道のりにある"妖精の森"までは馬車で送るわ」


「ありがとうございます」

メルティさんが受付の方へ行くのを見送ると、アリアが立つ。


「ごめんなさい。王都は、あまりいい思い出が無いの」

それだけ言うと、すぐに背を向けて行ってしまった。


「レオン、どうしても話せないんだな。前にエリアとやらが話していた、出来事は」


「それ、は」


「別に責めてるわけでも、強制させたいわけでもない。ただ、そのトラウマとこれから出向く女王様は、何か関係あるんじゃないかなって思っただけ」

彼女は当然の疑問を抱いている。いつも普通にしていた友達が、ある一定条件下において、急に具合が悪くなったりしたら心配する。それはごく当然の反応だ。でも、これは人に話していい問題なのか。それが俺には判断できない。話さなければ、裏切っている気分だし、話せば遠のいてしまうかも。俺はこの"大切さ"を知ってしまった。手放したくないと、願ってしまったのだ。


「本当にできればでいいですよ」



「話すと長くなるから手短かに。俺はあの女王に嫌われている、もっと言えば、憎まれてるんだよ」

ここで話さなかったら、真に友達とはきっと言えない。


「理由に心当たりは?」


「ないよ。でも、もしかしたら俺の出自かもしれない」


「出自、ですか?」


「俺には家族が居ない。正確に言うと、知らないんだ。それを知る人は、もう殺された」


「そうか」


「だから俺はどこぞの貴族の生き残りかもしれないし、女王の反逆者の子息かもしれない。とにかく、俺は何かしらの理由で、女王の恨みを買って人生最悪な目に会わされたんだよ」


「お前も災難だな」


「まぁね。俺はその恨みのせいで、王都じゃ反逆者扱いを受け、出禁なんだよ」


「えぇ!?それ支離滅裂すぎません?出禁なのに来いって」


「だから俺は頭にきてるし、またそんな不遇な扱いされたらたまったもんじゃないってわけだ。折角ウリハラで上手くやってこれたのに、ね」


「だからこの地域だけだったのか」


「そういうこと」


「逃げ出した、というのは?」


「追い出された、が正しいんだけど、アイツはその理不尽に抗って欲しかったんだと思う。俺の推測が半分だけど。言ったろ、良い奴だったんだって」


「…そう、だったなのか」


女王はレオンに何か思うところがあった。もしくは、レオンの父母を知っていて、父母に恨みがあった。いや、そんなことせずとも相手は一国の王。抹消する事なんて容易なはず。でもそうしなかった、何らかの理由によって。フォーさんはどう思う?


《レオン自身が恨みを買ったという線は、少なくともないだろうな。だが、レオンではなく"レオンの存在"が何か癪に触ったのやも知れんな》

存在自体が邪魔だった?


《憶測の域を出ん。だが、レオンから何かを感じるのは事実。その何かという不確定要素が、大きく関わってくるだろうな》

憶測の域を出ない、か。丁度いい。話のわかる女王様だったら直接聞こう。可能性は限りなく低いが。






「遅いぞ緋華李。遅刻じゃないが、五分前行動は厳守だって、前から言ってるだろ」

翌日はあいにくの曇り空。初の遠征だと言うのに、こんな天気では上がる気分も上がらなくなるというもの。町の入口で待ち合わせなのだが、しかし珍しいな。緋華李はグータラ人間だが、五分前行動はいつも守ってきたのに。


「ごめんって。昨日の事、ちょっと考えてて」

顔の前で、「このとおりっ」と言いながら手を合わせる。おちゃらけようとしていても、いつもの元気が無いのはすぐ分かった。


「お前、本当にだいじょ」


「お待たせ」

どうやら悪いのは天気運だけでは無かったようだ。急用でもないし、そのうち自分で立ち直れるだろう。それよりも、心配の種は今来た男の方だ。私は何気なく顔を見る。その気遣いはいらなかったようだった。


「吹っ切れたようで何より」


「レオンさん、あの」


「気遣わなくて構いませんよ。俺はあの場所へ行きたくて行く。それで十分でしょう」



「分かりました。レオンさんが、そう言うなら」

どうやら友も覚悟ができたようだ。これで心身共にようやく準備が整ったというもの。だけど、到着予定時間だと言うのに、馬車が一向に来ない。


「馬車は少し先で待機してるわ。話が終わったのならさっさと乗ってくれない?」

私と緋華李が一斉に横を向くと、そこには私と同じくらいの背丈の女性が居た。青緑色の髪に黒縁メガネ。曇天空が、更に彼女の雰囲気を暗くさせる。こう言っては失礼だが、根暗なオーラを感じるのは私だけだろうか。


「ソルティさん。来ていたなら一声かけてくれても」

ソルティさん、と呼ばれた女性は、ため息といかにも嫌々そうな視線をこちらへ向けた。


「ほら、早く乗ってよ。言っとくけど、いくら姉さんのお願いでも、あんたらを接客する気なんてないから」

態度といい言葉遣いもそうだが、あまり好ましく思われていないようだ。話から考えて、どうやらメルティさんの妹らしい。


「ねぇ、あの人ってメルティさんの妹さん、だよね?」


「話の内容的にはそうだろうな」

それだけ言葉を交わすと、私たちはソルティさんの後について行った。朝靄はもう無いはずなのに、霧が濃くて視界が悪い。本当、こんな日の遠出は不吉で仕方ない。


「わぁ!馬車乗るの初めてー!」

子供のようにはしゃぐ友を横目に、馬車を眺める。馬はこの二頭が連れてってくれるようだ。馬に乗ったことも実物も見たことないから、思っていたよりも大きく感じる。つぶらな瞳に凛々しい顔。個人的には白馬もかっこいいと思うけど、この子達も可愛い顔をしている。


《主、この子と言うが人間の年齢では主より年上だ》

そう言う事じゃないんだよなぁフォーさん。何?それとも、もしや嫉妬かい?


《森の賢者が嫉妬などするものか》

ぷりぷりしちゃって。まぁいいや。


「よろしく、二頭共(ふたりとも)

動物は視線に敏感だと言うし、そろそろ中へ入るとしよう。馬には挨拶だけして、私は後ろの馬車へ乗り込んだ。馬車は見た目のオンボロ具合とは違って、かなり丈夫だった。予想通り狭かったけど。

向かい合わせに椅子が設置されており、武装などはしていないようだった。本当に普通の馬車だ、普通の馬車など生前見る機会はなかったけど。


「何も無いといいな」


「わざわざ自分から何か起こりますって言わなくても」


「本心だよ、本心」

さて、馬車を襲撃されたら護衛戦になるが、守りながら戦うのってどのくらい大変?


《想像以上、とだけ言わせてもらおう》

了解、なんとなくだけど想像つく。まともに戦える事をそのときの私に願おう。一番良いのは、何も無いことだけど。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ