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異世界転生は友と共に!  作者: 鬼桜天夜
第1章 『騎士の國 オルフェウス』
6/22

坑道の吸血魔女

自分が人と違うのに気づいたのは、己の人生をかなり歩んでからだ。違うというのは、自分の主観だが、決して悪いことではないと思っている。まぁそれが世間もそうとは思わないけど。

自分が世間から、普通から逸脱しているのに気づいた時には、もう、遅すぎたんだ。



「レオン、ここが件のカルバス坑道?随分と広そうだけど」


「あぁそうだよ。そしてここに、目的の"吸血魔女"が居るみたいだな」

メルティから、もといギルドの試験を受けた一行は目的地のカルバス坑道に来ていた。試験は初仕事にしては不確かな内容となっていた。

ウリハラから北にあるアトラスから、さらに東にある坑道で偵察をするというものだ。だが本来、初仕事はもっと簡単なものだがメルティの話によると、「レオンが居るなら大丈夫でしょう?」とかなりの信頼を置いてるのがわかる。

それから翌日、藍華達はフォーさんの道案内で坑道に来ていた。レオンが最初は道案内をする事になっていたのだが、フォーさんのプライドが許さなかったのか、役割を取るなと言わんばかりの眼力に、流石のレオンも根負けした。


「アリアちゃんも着いてきて良かったの?ここ、そこそこ危ないんだよね?」


「大丈夫、だよ。なんなら、ヒカリさんより、戦える、よ」


「もしや私マウント取られてる!?」


「よし行くぞ」


「気をつけて行こう」


「私も、精一杯、頑張るね」


「私のことは無視なのかよ!」





坑道内は魔女が占拠されたのがつい最近なので、廃坑道と呼ぶほど荒れてはいない。

「ん?」


「どしたの?もしかして今更ビビってる?」


「いや違う、というかそのニマニマ顔やめろ」


「はいはい。それで何か気になる事でもあったの?」


「空耳かもしれないけど、水の音が聞こえた気がするんだよ」


「水の、流れる、音?」


「良い耳してるねアイカ。ここは坑道でもあるが水路も通っているんだよ。ここの近くは大きな湖や泉があるからね」


「成程な。もしもがあったら、王都の人達が困るというわけか」


「そんな重大な依頼をされるだなんて、レオンさんやっぱり凄いんですね」


「やめてくださいよ、少し恥ずかしいですから」


「お喋りを弾ませるのは大いに賛成だが、残念なことに、ここで複数の分かれ道と来た」

少し進むと、綺麗に二手に分かれた道が出てきた。


「私、達も、二手に、分かれる?」


「それが良いだろうね。取り敢えずヒカリさんとアリアちゃんは分かれよう」


「はーいっ!私藍華とペアが良いです!」


「却下」


「即答!?」


「私も、妥当な、判断だと、思うな」


「アリアちゃんは、こう見えて攻防どちらも可能だからね。いくら戦えるといっても、アイカは日が浅いからな」


「面目ないけど」


「むーっ。まぁそっか!藍華はまだまだザコって事だね」


「おーおー余計なこと言う口はどれだぁ?」

ニマニマしながら(じゃ)れる藍華は、どこか陰りがあるように見えた。


「邪魔するのは気が引けるが、行きますよヒカリさん」


「ぎゃー!首根っこ引っ張るなぁー!あっ2人とも、後でねー!」

レオンが緋華李を引きずって、右の道へ進むのを眺め、見えなくなった後、取り残された彼女達は、左の道へ進んだ。だが藍華とレオンは、真ん中の壁から異様な気配を察知していたのを、見逃しはしなかった。




「私は、占星魔法を、使うけれど、占星術とは、また、違うもの」


「違うもの?」


「星を読む。その点は、一緒。でも違うのが、星を占うのではなく、星を具現化する点」


「星を具現化?」


「本当に、簡単に説明しちゃうと、十二星座は、分かるよね」


「あぁ」


「それになぞらえた星の能力を扱うの。でもそれだけじゃ、分からないよね」


「まぁな。なにせレオンが言った通り日が浅いんだ、ここの魔法もまだ1度くらいしか見たことないしな」


「うん、なら丁度いいかもね」


「ならお手並み拝見と行こうか」

それが皮切りの合図だったのか、奥から複数の走ってくる音が聞こえた。


「エンカウントまでおおよそ10秒。先手必勝か?」


「もちろんよ、!」

1歩前に出ると、両手を前に広げると音の主が出てきた。それはいつぞやに(まみ)えた緑色の体を持った彼らだった。


「ゴブリン、か」

私達の姿を視認すると、立ち止まったかと思ったらそれは一瞬の事で


「シンニュウシャダッ!ケチラセッ!アノカタノオオセノママニ!」

総数20体余り。彼らは1歩踏み出したが、そこからはまるで聖域だったかのようにたじろぐゴブリン達。


「あなた達の攻撃が届くことは、絶対に無い!占星魔法《ケイローンの矢》!」

おぉ、と藍華が感嘆の声をあげると、ゴブリンの頭上に魔法陣が出現する。皆が上を向いた刹那、魔法の矢がゴブリン達を上から貫く。断末魔や逃げようとする足音が辺りに響いた。


「星を具現化。なんとなくだが、意味が分かった気がするよ」


「魔法の詠唱も、初めて、見た?」


「そうだな。私の権能(スキル)は詠唱が必要ないから」


「ふふっ、見るの、楽しみだな」


「それにしても少し逃がしたな、良かったの?」


「問題、ないと思う。あっちには、もう、私たちの場所は、特定されてる、から」


「それもそうか」


「ヒカリさんたち、無事かな?」


「根気は強いんだ、心配要らないさ。それに、私の師匠(ともだち)も着いてるしな」






「ちょっとちょっと!この人たち前に見たゴブリンじゃん!?」


「幸い、軽武装の奴らだけだし、ここは直線です。ヒカリさん、俺の後ろから離れないで下さい」


「(わぁこれ胸きゅんシーンじゃん!でもなぁ、レオンさんはあっちとだし。うん。それに、私だって、)」

レオンからは彼女の顔は見えていないが、彼は風魔法の使い手。緋華李の風が変わったのを、見逃さなかった。


「私だって、守られるだけは嫌です」


「…分かりました。ならサポート、頼みます」


「もっちのろんですとも!」

愛用の剣を握り直し、剣先を下にする。体勢を低くした姿勢を、その流れるような動きを美しいと思ってしまった。そして、はっと思った時にはもう始まっていた。タイミングは同時だった。

しかし、ゴブリン達が走り出した時には、彼はもう懐に入っていた。単純な風魔法の拡散(バースト)と自身の瞬発力のみで、数十メートルの距離を縮めて見せたのだ。


「丁度いい。高みの見物をしている野郎への見せしめとしよう」

彼は人並みには人格者だ。しかし何故か魔物などを前にすると、こうも殺気立つのか。その真意は分からない。だが、彼女は確信した。彼の殺気は、彼ら自身に向けられているものではないと。


「空中戦は俺の十八番でね」

ふわりと空中に跳ぶと、それは風にどこまでも吹かれる枯葉のように軽やかだった。高さはそこそこある坑道を天井スレスレで跳び、照らされる彼は、


「(っと、見蕩れてる場合じゃなかった!今は四大属性しか使えないけど、風の速さにこれを足せば!)」


「水魔法《水蛇(みづち)の水刃》!」

空中の滞空時間もさすがと言うべきか、ゆっくりと落ちていく彼の刀身に水蛇が纏う。彼女"も"今は支援魔法と言ってもバリエーションが少ない。しかし、彼の技を強化するには、十分過ぎた。


「風魔法《春風 乱れざくら》」

ゴブリン達の剣がギリギリ届かないところまで落ちると、体を捻らせる。彼は剣士だが、汎用性のあるその魔法を上手く使い空中でも戦える方法を編み出した。

空中で体を捻るのは至難の業だったが、それでも彼はこの魔法を、この技を完成させたかった。体の捻りを最大まで行うと、その反動で剣を振る。回転しながら剣は振るわれ、刃から風刃と水刃が打ち出される。水刃は直線に、風刃は三方向に。水と風、双方が似た能力を持つため相反すること無く敵を切り刻む。斬撃はゴブリンを容赦なく斬り刻み、レオンが着地した時には、ゴブリン達はことごとく蹂躙されていた。

ゴブリンの赤い鮮血に塗れた男は、顔に付いた血を拭う姿にどこか恐怖を感じさせる。


「あ、あの、レオンさん」


「ん。あっすいません。ヒカリさんの配慮が足りませんでしたね」


「ううん、大丈夫です。一々腰抜けてたら迷惑ですから」


「貴女がそういうなら、分かりました。少し嫌な予感がします。走れますか」


「だいっじょうぶです!行きましょう!」

ヒカリは立ち上がる。膝をついても、立ち上がり、前へ。一時別れた友を思いながら、新たな友と。




「ここは・・・!」


「アイカ、さん。多分」


「まずいな。私だけで勝てるかどうか」

あれから数十分。アリアの占星魔法《金毛羊の翔け出し》で魔力の反応が強い場所へ走ってきたのだ。可愛い金毛羊に導かれるまま、着いていくとそこには一際オーラを放つ部屋の前に来たのだ。扉の大きさ的に他の休憩所より少し中は広めのようだが、一見、何も変わったところはないように見える。だがなんだ、この背筋の寒気は。全身の鳥肌が収まらない。右手が、震えるのが分かる。


《怖気付いたか》

頭の中に、フォーさんの声が聞こえる。

当たり前だろ、こちとら戦闘経験がまるでないんだからな。


「アイカさん」


「分かってる。やばくなったら逃げろ、誰も怨みはしないさ」

だが、ここで回れ右をして逃がしてくれるほど、甘い相手ではなさそうだ。せっかくここまで生き延びたのに、異世界生活もここまでか。藍華は腰に手を置き、洞窟の天井を仰ぎ深呼吸をする。

ここは逃げるべきか?それとも二人が来るまで時間を稼ぐか?私は天井を見ながら考える。時間稼ぎが効く相手なら良いが、そうじゃない場合が厄介すぎる。


《我が思う最善手は、今は避ける事だ、などと言う必要もないか。》

だよなぁ。とはいえ、最善手を取りたいのは山々だが、この元凶がウリハラまで来ないとも限らない。叩けるなら叩きたいが、


「行こう」

静かに。しかし厳格な雰囲気を持ちながら言った。本当、この子には驚かされる。


《我も主にまだ死なれては困るのでな。出来うる限りの手伝いはしよう》

死なれて良いなら放っとくのかよ。心の中でツッコんで、また深く息を吸い、吐く。緊張し過ぎると吐き気を催すが、いっその事吐いてしまった方がマシなのでは?と考える。息をするのを忘れてしまわないよう、注意しよう。

扉を開けると、そこは別の部屋よりは大きいが、広さ以外は他の休憩所と変わりはなかった。中は何も変わりはないが、目の前には一人、男達が働いていたであろう坑道には似つかわしくない女性が立っていた。


「ふふっ、やぁっと御来客が。待ちくたびれちゃったっ」

久しぶりに再会した友達と顔を合わせたように、声を弾ませながら喋る女性。魔女のように見えるローブを着て、フードを目深に被る目の前の人物。

だが、その陽気な声とは裏腹に、手に持ったそれが警戒心をMAXまで引き上げる。


「そう構えないでよ。貴方たちも、これ、食べる?」

これ、と言われた血に染まった腕は、筋骨隆々の男の手だった。どうやら、ここの働き手の一人のようだ。

今まで余裕が無くて見れなかった周囲を見回すと、悲惨なものだった。壁の端に寄せられた死体達は、十人は優に超えるだろう。その死体のどれもが驚愕の表情を浮かべている。今分かった、依頼内容が明確じゃなかったのはこいつが原因だ。隠蔽工作もお手の物、そしてあの覇気。あぁ、本当に笑いが止まらない。


「この死体はあなたがやったんですか?」


「えぇそうよ。私が殺った。だって、邪魔なんだもの」


「それだけで、殺したと言うの?」


「人を殺すのに理由がいて?殺戮なんてそんなものよ。お姐さん?」


「!?」

お姐さん?アリアはどこからどう見ても、幼い子供にしか見えないだろう。それを、何故お姐さんと言ったんだ?


「あらあらあら。ふふっ、それはまた。まぁ構わないわ、私にとってはどうでもいい事だもの」


「あなたを、止める!」


「今のあなたには、荒唐無稽な気がするのだけれど。ならいいわ、お仲間さんが来る前に片付けて仕舞いましょう」

やはり私達の位置はバレていたか!鞘から剣を抜く。仲間が来る前に殺すと言ったけど、せめてそれまでは持ちこたえなければ。だが、どうしても腑に落ちない。

何故ここまでの実力者でありながら、先に仕掛けて来なかった?私達があの狭い一本道で奇襲されたら、悔しいが一人は死んでいたはず。でもそうしなかった。今考えて分かる問題かどうか分からないが、頭の内に留めておこう。


「私が前に出る。しつこいがヤバくなったら回れ右して」


「分かった」

その声を聞いた直後、目の前の敵に向かって走り出す。相手は全てにおいて私より上位互換。勝てる勝算は一切ないが、それでも、背中向けて刺されるよりかはマシだ。相手との間合いに入ったにも関わらず、あちらは動く気配が全くない。余程舐められてるようだ、まぁそれが正しいのだが。

心臓目掛けて一突き。当然と言うべきか、軽く体を右に曲げ躱された。更にそこから追い討ちで右一閃。だがそれも後ろに躱される。


「ふふっ、スロぉーリースロぉーリー」


「腹立つ言い方だな!」

言い合いながらも、藍華は細剣を振るうがかすりもしない。藍華はかなりのスピードで動いているにも関わらず、相手は汗一つ出ない。そして、今まで静かだった彼女が動く。


「やっと、出来た!」

その言葉が合図だった。ローブの女性の足元に魔法陣が出現する。


「《アストライアーの審判》」

足元の魔法陣の中心が天秤の形になると、ローブの女性は動きをピタリと止める。


「ふぅん?中々上手い魔法ね」


「余裕そうですね」


「うぅん、余裕というか、感心しているのよ?いくら本気を出していないとはいえ、よく連携していると思うわ」


「抜け出せるなら、してみなさいよ」


「ふふっ、ふふふふっ」

妖艶に、不気味に笑ったと思うと、一瞬でアリアの魔法が弾け飛んだ。何か魔法を使ったようには見えなかったが、とりあえずまたピンチに戻ったことには変わり無さそうだ。そしてフードを脱ぎ、その顔が顕になった。


「魔王の配下《六芒星(ヘキサグラム)》が一角、リリス!よぉく覚えておいてね?貴方たちが最期に聞く言葉かもしれないから」

魔王?六芒星(ヘキサグラム)?わけが分からない。フォーさん、何か知ってる?


《何故あやつがここにいるかは知らぬが、間違いないな。魔界の話しは省くぞ、その魔界には魔王がいる。いる、と言っても見た者は誰もいないがな。おそらくその配下だろう》

そんな簡単に済ませて良い話!?


《情報が少なくてな。我もそこまでしか分からん。しかしこのような辺鄙な場所に、魔王の配下が居るとは、おかしな話だな》

ひとまずは後回し。今はリリスとやらを止める事に集中するよ。


《せいぜい足掻け足掻け》

応援する人のセリフじゃないな。フォーさん本当に味方なのかたまに疑問になる。


「アリア、もう一度行くよ!」


「了解しました!」


「やれるものならやってみなさい」

そう言うと自分の手首を切り、血が滴り落ちる。驚いてたじろぐと、リリスは詠唱を始めた。


「鮮血魔法《処刑女の鞭打ち》」

血が形を変え固形物になると、言葉通り鞭へと変化した。フォーさん、あれ原理分かる?


《急に頼ってきたな、暇だったし構わんが。あれは血の量でムチの長さが変わる、しかし手首を切った程度なのと、主が出血をしていないから通常の長さなのだろう》

他には分かる?


《ここからは憶測になるが、鮮血というぐらいなのだから、腐った血、長く時間が経過したものは扱えぬはずだ》

戦場じゃ最強に近しいってことか。幸いなのは私たちの血まで操れないこと。もし体内の血も可能なら、反撃すら不可能だった。


「さぁ、ここからは処刑の時間。楽しみましょ」

舌なめずりをすると、目でギリギリ追える速さで距離を詰めてきた。鞭にどの程度の殺傷能力があるのか予想がつきにくい、それが一層私の体を縛り付ける。



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