腐敗の香り
改めて、読者の皆様、読んでくれてありがとうございます!
(これが言いたかっただけです)
by鬼桜天夜
「着いた!」
「は、速すぎでしょ、俺風魔法使わなきゃ追いつかなかったんだけど」
「ごめんって」
あれからフォーさんの力のお陰で私と緋華李が1番初めに居た草原に送ってもらい、そこから走ってきたのだが、なんだこの空気は?
どんよりして、前に来た活気はなく、重い。
「なぁレオン、おかしくないか?」
「本当だ、嫌な空気がする。早めに2人と合流しよう」
「ここが原因、だけど」
「デルバルドさんの酒場、だよな」
前の賑わいもない、どういう事だ?
「行ってみよう」
「なっ、何だ、これ!?」
開口一番、私は叫んでいた。いつ見ても硝子のコップに金色の明かりが注がれていて、騒がしいテーブルはちゃぶ台返しされ、賑やかさは喧騒へと変貌を遂げていた。
「何だこれ!待ち合わせはここなのに、!?なんっで、アイツらっ、!」
戸惑いつつも当たりを見回して、ふとレオンの顔を見ると、心做しか顔色が悪い。
「あそこの人、知り合い?」
レオンの見ている先には、3、いや4人か。いかにも不良ですと言わんばかりの金髪が居て、おそらくそいつがリーダー格なのだろう。面倒くさいな、早いとこ抜け出して、
「ッ!行こうッッ!!」
「えぇ!?いやちょっレオン!」
顔色が悪いと思ったら急に険しくなってたが、なにかトラウマでもあるのか?
《主、思考を巡らしている暇は無いように見えるが》
「そうだった、ありがとフォーさん!」
「お嬢さん達、いい度胸してるな。俺らにぶつかって来るとはよ」
「貴方達が、ぶつかって、来たのに、言いがかり、良くない」
「そうよ!だいたい肩がぶつかった程度でうるさいんですけど!」
「ホォ?お前ら楯突くか?この俺に?」
二人に立ち塞がる男が、青筋を立てて怒り始める。
「"円卓の騎士候補"が落ちぶれたな!」
酒場の中心で口論をしていた不良チームと緋華李とアリアの2人の間に、血相を変えたレオンが風魔法を使い庇うように割り込む。
「あぁ?あぁ、その声はよく覚えてるぜ?レオン!」
円卓の騎士候補という耳慣れない言葉に疑問を抱きつつも、藍華も後を追う。
「あ、レオンさん!藍華も!」
「候補だったのはお前もだろ?何だ?コイツらには"あの秘密"は言ってないんだな?だからそうやって仲良しこよし出来るんだよなぁ!?」
「っ!!」
レオンもその円卓の騎士候補だったのが今の発言で分かるが、だった?それに秘密ってなんの事だ??
「そこら辺にしろ!!」
レオンと金髪の間に流れ出る異様な空気。今にも剣を抜きそうな空気に周りが気圧されていると、デルバルドが声を上げる。
「!?」
「チッ、じゃあな。"風葉のレオン"様?」
藍華の隣を通り過ぎる時、一瞬、あの銀色の目がこちらを向いたのは気のせいだろうか。
「捨て台詞カッコよ・・・」
「変なとこ空気読まなくていいから」
おふざけもさておき、色々整理したいな。この騒動が、何かの前触れじゃなきゃいいが。
「おらテメェら!荒らされた分は片してから酒飲めよ!」
そして数分後、デルバルドさんが指揮を執り、店内の片付けを進める中、私たちは店内のまだ荒らされていないスペースで休憩していた。先程まで私達も手伝っていたのだが、デルバルドさんと他のお客さんの心遣いで、休憩させてもらっている。
「とりあえず、合流できて良かった」
「8日ぶりだね、藍華!会いたかったよー!」
「え?8日?」
行き帰りで最高で3日ぐらいのはず。森に居たのが1日もかかってないのに。
まさか、
《主、アトラスは時間の流れが外界より遅いのだ》
「なるほどね、道理で。ならますます迷惑をかけた。すまないレオン」
「気にしないで。待ち時間の潰し方は心得てるんだ」
「てか何その子!?梟だ!」
《こやつが貴様の無二の友か…阿呆そうだな》
「めっちゃ失礼!」
「アトラスの、長、初め、まして」
《貴様、占星術師にしては幼いな。まぁ、肉体の年齢など、さしたる基準でもないか》
「挨拶が出来て何より・・・レオン、大丈夫?」
さっきの金髪さん。かなり重要な事を知ってたっぽいし、気になるな。でもそれよりも、レオンの事が気になる。
「っ・・・」
「ねぇ藍華、今はそっとしておいた方が」
「レオンッ!」
「っ!」
視線が交わった時、彼の瞳孔が開いていたのがよく分かった。
人は驚いた時目が点になるとよく言われるが、本当にそうだと痛感した。
「昔何があったかとか、今何考えてるのか知らないけど、大事なのはこれからなんじゃないの!」
「・・・うん、そうだね、アイカの言う通りだ」
「あれ、あの二人あんなに仲良かったっけ」
「いい、事だと、思う、よ」
野次がうるさいが無視だ無視。
「とりあえず話し合いだな、アリア時間大丈夫?」
「大丈夫、だよ」
「よし、ならば作戦会議だー!」
緋華李の言う通り、こっから仕切り直しだ。あんなに険悪な感じだったけど、周りの人はそれに少なからず面食らっているように見えた。あの口喧嘩
「まずさっきの人、誰」
「あいつは、"エリア"。俺と同じ"元"円卓の騎士候補。仲は良かったよ、それなりには」
「えぇっ?凄いギスギスしてたよね?」
「昔からそういう奴さ。でも、あれから変わってしまった」
「その円卓の騎士候補っていうのと、なにか関係してるのか?」
「円卓の騎士候補。王都ナイティルを守護する円卓の騎士。誰か1人が抜けたら、その穴を埋めるために2人、円卓の騎士候補ができる」
「そんな制度が…」
「そして俺とエリアが候補になったんだ。でも…俺は、あの城から逃げ出した」
「逃げ出した?」
レオンがその事を口にした時、目を伏せたのを見えた。余程辛い思い出なのだろう。
「っ、」
「あ、言いたくないなら別にいいよ!」
緋華李も空気を読んだのか、フォローを入れる。
「ありがとう」
「よし、レオンの事は一旦保留だ。作戦会議の方をしよう」
「そうだった!藍華、そっちは上手くいったの?」
《主、貴様あれは言わなくて良い事なのか》
あぁ、まだ言わなくていいだろう。
「フォーさん、もとい森の賢者が仲間になった」
今更と言われればそうだが、紹介だけでも済ませておいた方がいいと考えた。
「そうだ、フォーさんってやっぱり普通の梟じゃないんだよね?」
「まぁ、そうだな」
「へぇ〜?」
「…そのうち教える」
「分かった!」
眼力と圧が、我が友ながら恐ろしいな。思わず背筋に来た。
「そういえば、魔法の件はどうなったの?」
《それは我から説明しよう。結論でいえば、魔法は使えぬ。しかし、別の権能を引き出した。これから旅をしていき、己を鍛えれば、魔法が開花するかもしれぬがな》
「そうなんだ!良かったね!」
「あぁ」
「役に立てて、良かった」
「アリアの助言があったからだ。ありがとう」
『それじゃあ緋華李達の事も教えてよ。2人のことだ、新しいものを得ているんだろ?』
「当然!私から説明していい、アリアちゃん」
「うん」
「実はね、私魔法使えるようになったんだ!」
冷たい風が、酒場に流れ込んで来た。
「それは、そうだろうな」
「反応が薄い!それでね、なんとなんの属性でも使えるんだ!えっへん!」
「それは凄いな」
このリドルムでも、全属性を行使できる人はそう多くはない。
しかし彼女には大きな問題があった。それは
「でもね、"補助系魔法"しか使えないんだよね」
ん?藍華は自分の耳を疑った。
「この世界ではよくある話ですよ。1属性だけしか使えないという事は皆そうですが、ある種の魔法しか使えない。そういう事例も少なくはありません」
なるほど。デルバルドさんから貰ったリンゴジュースを飲みながら考える。アトラスまでの短い旅の時に聞いたが、魔法を持っていても、そもそも魔力の量や魔法の素質が無ければ、扱う事もままならないとか。
だからこの大きな港町に来て、魔法を使って仕事をする人を第一に見かけなかったのは、そういう事があるからだろう。
『要は緋華李は、全属性の魔法が使えるけどサポートにしか回れない、そういう事でしょ?』
「なぁんか嫌味に聞こえるなぁ。そういう藍華だって、レオンさんみたいに戦えないじゃん」
「それは」
レオンの声を遮るように、ニヤッという効果音が着きそうな不敵な笑みを浮かべる藍華。
「ふっ、それは昔の私の事かな?」
「なっ、まさか!」
『私はこの身体能力を活かして、剣術を多少学んだんだよ』
「ずっずるくない!?」
「だから、腰に、レオンさんの、細剣、あるんだね」
「そういう事だ。もし戦うとなったらお前は後衛だな、緋華李」
「藍華が前線に出るのは凄い嫌だけど、まぁその分私がサポートすれば良いんだもんね!任せてよ!」
「それじゃあ今日一晩はゆっくり休んで、明日の朝からギルドに行きましょう」
「それが1番か、またデルバルドさんにお世話になってしまうとは」
「んな小せぇ気にすんなよ!」
「わっ、デルバルドさんいつの間に」
「乗りかかった船は、使えるだけ使っとけって話だ。当分はここが拠点になるなら、俺と交流して損はないぜ?」
「自分で言うか?」
ボソッと小声でレオンが言うと、
「なぁんか言ったかぁレオン!」
「なっ!頭ぐりぐりしないでください!」
年の差はかなりあるが、それでも父と息子のようなやり取りを微笑ましく見る傍ら、藍華は少し考えていた。確かに2人とも戦う術を得たが、死ぬ可能性があるのには変わりない。
密かに彼女は、もう二度と傷つけさせないと、友を護ると決意するのであった。
「よし!今日は解散!さぁ藍華もう寝よ〜って、どうしたの?」
「なんでもない。明日に備えて早く寝るぞ」
「ん?うん、そうだね」
翌日、ギルドの位置を2人は知らないため、レオンが迎えに来てくれるとの事なので、2人は酒場の前で待っていると、
「あぁ、おはようございます。遅かったですか?」
「いや、集合5分前だ。おはようレオン」
「おはようございます!レオンさん!あそうだ昨日少し思ったんだけど、藍華とレオンさんいつの間に敬語を抜く仲になったの」
「同じ釜の飯を食べれば少しは仲良くもなるだろ?」
「そ、そうですよ!それにヒカリさんも言ってくれれば敬語くらい!」
「へぇー?いいよぉ?私は」
「も、もうヒカリさん!揶揄わないで下さい!」
何故緋華李がレオンを揶揄うのかよく分からない。仲良くなった相手に敬称を無くすのは普通ではないのだろうか。
そんな疑問を抱きつつも、一行はギルドがある場所へと向かう。
「デルバルドさんの酒場に負けず劣らずの人の往来だね」
「そうだな」
「ここが、國に2つあるギルドのうち1つ。ウリハラのギルドです。治安は中々良い方だと思いますよ」
酒場デルバルドもかなりの大きさだったが、このギルドもそこそこに大きい。見たところ、宿屋も兼ねているようだ。
ギルドに多少の興味を持って、もっと言うとワクワクしながら入ってみると、そこは、
「なぁ、緋華李」
「うん、なんとなく、言いたいこと分かるかも」
2人は同じような顔をしながら、同時に叫ぶ。
「大き過ぎない!?」
中はファンタジー小説などで見るよりはるかに賑わっており、飲食ができるテーブルまである始末。周りを見渡すと、冒険に行くでは無いであろう人たちもチラホラと混じっている。
「そこまで驚くほどですかね?まぁナイティルよりは敷地もありますからね。規模はそこそこでしょうか」
「なぁレオン。これだけの規模のものはやはり少ないのか?」
「そうだな。他の国のところにも何度か行くことはあったけど、ここまで大きくはないかな」
「他国にも支部みたいな形であるのか」
「まぁ無い国もあるみたいだけどね」
レオンと藍華が話している中、緋華李はというと、
「すいません!ギルドの受付したいんですけど!」
コミュ力の高い緋華李は、もう受付のお姉さんに話しかけていた。
受付にいる人は三十路辺りの年代に見えるが、薄く化粧をしていて、若く見える。スピネルに例えるのが相応しい紅く宝石のような瞳に、それと同じ色のような綺麗な赤の髪。大人のお姉さんのようにも見えるが、何故か背筋が凍るような、じっと視線を向けられているのは、気のせいなのだろうか。
「あら、ギルド加入希望者ね?こんなに元気な子が入ってくれるのは嬉しいけれど、レオン?あなたのとこの子でしょう?」
「おはようございます、メルティさん」
「挨拶できる人は好きよ、レオン。そこのキレイな藍色の瞳をしたあなたも、この白銀の瞳の子のお連れかしら?」
「初めまして、メルティ、さん、でいいんですよね?私はアイカと言います、そっちにいるのがヒカリです」
「えぇ、メルティよ。アイカとヒカリね、よろしく。ギルドの加入希望と聞いたのだけれど、間違いないわね?」
「はい。それで、ギルドに加入するにはどうすればいいんですか?」
「詳しい説明を省くと、1つ課題を出させて貰って、それに合格すると、晴れて団員になれるってところよ」