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異世界転生は友と共に!  作者: 鬼桜天夜
第1章 『騎士の國 オルフェウス』
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アトラスの森

「急に森が見えたね」

翌日、藍華の目の前には、なんの前触れもなくとてつもなく大きな森林が現れた。


「なんでも、何百年もこの姿を保ち続けてるらしい」

ここに森の賢者が居るのか、随分と深そうな森だな。早めに帰って来れるといいけど。あまり緋華李を待たせるのも可哀そうだ。


《汝ら人の子よ、何故この聖域に足を踏み入れる》

少年位の少し高い声が頭に直接響いて来た。テレパシー的なものか?耳元で聞いてる感覚がするのに、実際の耳からは自然の音しか聞こえてこない。


「森の賢者様ですか!彼女は」


《不要だ》

聞いたのに不要っておいおい。ほらちょっとレオンがシュンとなってるからぁ!


《汝よ、答えを知りたければ、その剣を持ち、来るがいい。汝の眼は、何を映すか、試させてもらおう》


「これ、私1人で行く説出てない?」


《言っておくが、そこな旅人は来てはならぬぞ》


「本当だ、ダメみたいだね」

いくら休憩時間に稽古していたとはいえ、何が起こるか分からない場所で"大丈夫"って胸張って言えるレベルには達していない。そんな状態で、未知の領域に行くなんて。



「アイカ」


「大丈夫」

弱いな、私は。

こんな月並みな言葉で心が揺れるなんて、真っ直ぐな眼差しに気圧されそうなんて、誰かにこう言って欲しかったなんて。思わず出そうになる言葉をぐっと飲みこんで答えた。


「・・・誰に向かって言ってんだよ。こんな試練、1時間で終わらせて帰ってくる」


「そっか、なら、俺はここで待ってるよ」

痩せ我慢とも思われるその行動。だがそんな事は誰もが承知している。だからこそ、藍華は己を奮い立たせた。



「じゃあ、行ってくるわ」


「気長に待ってるよ」

軽く上げた腕は宙を舞い、下げた掌には確かな絆を掴んだ気がした。







「暗っ、もう夕暮れ時だもんな」

まずいな、さっき狼が居るのも確認したし、他にも強そうな奴が居てもおかしくはない。早めに森の賢者とやらに会いたいところだ。

ふらふらと歩いていると、どこからか草木を掻き分ける音が聞こえると思ったその矢先、何かが飛び込んで来た。

その何かは牙をむき出し、周りを素早く囲んだ。その何かは狼だった。銀色の毛並みをした、気高い狼。


「フラグ回収のスピードおかしいだろ!」

囲まれてる、5、6匹は居るな。どのくらい強いかなんて考えてる暇は無いか。

鞘から剣を抜く音。アニメではよく聞く音だけど、今は、心臓の音を速めるのには充分だ。

鉄製の剣、長すぎず短すぎず、私の手にはまだ馴染まない。腰は低く、剣は水平に保ち体はフラットにする。左手は剣に添えて、大丈夫、頭はクリアだ。


狼と藍華の間に風が吹く。開戦の合図のゴング代わりに。

来た!

一斉に飛びかかって来るけど、よく見れば全然避けれる。藍華は前転して、飛びかかって来る狼の下をすり抜ける。






焚き火の音がよく聞こえる。それは聞き慣れない音なのに、精神統一には向いているのは分かる。心が、研ぎ澄まされていく感覚がする。あの時にもう、私の心は決まっている。自分のために、友達のために、剣を持って戦う。

「で、私はどうやって稽古すればいいの?」


「アイカは身体的な能力で言えば、恐らく俺と遜色ないと思う。でも、パワー押しにはまだ勝てない。なら、君の"速さ"を活かそう」


「私の速さ?」


「じゃん!」

そういいだされたものは、剣、でもレオンのより少し細めで軽そう。確か細剣とか言ったっけ。


「君の速さを活かすには小振りな剣が良いかと思って」


「剣を複数持ってるの?」


「戦う手段は多い方がいいからね。これは君が使ってくれ」


「いいのか?貰って」


「良いよ、君の役に立てるなら」


「あっさりしてるなぁ、でも、ありがとう。大切にする」

装飾は少なめ、よく手入れされてるのが素人目にも分かる。銀色の刀身が月光を反射して、きれい。

手に馴染まない、でも、これから世話になるんだ。

これが、誰かを殺す武器。誰かの夢を潰す武器。これを携えて、人々は死地へ赴くのか。辛いな、でもそうも言ってられないのが現実。誰かを守る為に、誰かを救う為に誰かを殺す。

嫌な世の中だな、本当に。


「アイカ・・・」


「お願い、教えて。覚悟はもう、出来てる」




「ふッッ!」

斬るより突いて攻撃し、手数で勝負するのが定石。

それにいくら敵とはいえ狼だからな、動物保護は大事だ。狼は一吠え、犬のように情けない声を上げると1体2体と、森の中へ後に続いて帰っていく。

すまん狼くん。



「一体だけだから大丈夫だと思うけど」

あっ、また独り言言っちゃった。一人になると、つい出ちゃう。

にしても、狼って1回反撃すると逃げるって話聞いといて良かった。軽く深夜を回ってる。早く森の賢者に会わないと。


《その思考は不要だ。来訪者》


「・・・どこに居るか、当ててあげようか?」

少し厨二病拗らせてた時、かっこいい言葉とか調べてた時期が私にもあった。今まで黒歴史だったけど、初めてそのことに感謝する日になるかも。


「上から見下ろして、こちらを見てる"梟"さん?あんただろ、森の賢者とやらは」

藍華はしっかりと梟、もとい森の賢者を捉えた。夜深くの木々の中に居たのは、黄緑色の瞳をこちらへ向けた、通常より一回り大きい梟。

《ホゥ、そこそこ頭は回るようだな》

口癖ホゥかよ、もうちょい捻ればいいのに。





「梟さん、私のお願い事は分かります?」


《魔法の使用についてだろう?》

ほんとに分かるんだ。半信半疑だったが、これで立証された。これなら、私のお願いごとのヒント程度ならもらえるかもしれない。


「どうしたら、私は魔法を使えるようになるの?」


《何かを得るには、何かを対価として差し出さねばならぬ》


「つまり、私の何かを差し出せと?」


《汝に興味がある。我の問に(こたえ)よ。答によっては、汝に力を》

何が正解とかあるのかな。ない方が答えやすくて助かるけど、地理問題とか出されたら終わりだし。


《案ずるな、汝よ、心の声を聞け。其の声に従って問に答よ》


「よし、良いよ」

なにいってんだこいつ、とか思ってない。決して。




《汝に問おう。殺める事は罪か否か》

賢者に相応しい哲学的な問いだな。でもその答えを、私は知っている。


「私の国の法でなら"してはいけない"だろうな。でも、生きてく為には殺すのは"しなければならない"ことだ。だから答えは決まってる。ずばり、時と場合による」


《汝、やはり変わっているな。世の人間共は、してはならぬ、と口をそろえて言う》


「あぁ、当たり前だろ?じゃなきゃこんな世界で生きてけないっての」

梟さんの言う通りだ。そしてこの答えが不謹慎で、気味が悪い、ありえない答えだろうというのも承知の上だ。だが実際そうだ、食物連鎖は殺し殺され、人間も含まれる。

家畜は殺して良いのに同族はダメだなんて、そういう"観点"から言えば同じだと私は思う。


でも日本の法、というよりあの世界の法じゃあ禁止だからね"郷に入っては郷に従え"だ。ルールには割と従うタイプだし、好き好んで殺しなんてするものじゃない。


「ほら、答えたけど。お気に召した?」


《ならもう1つ、汝に問おう。人とは浅ましい生き物だ、ならば生きる価値など無い。汝はそう思うか否か》


「あのさ、さっきから哲学みたいな事聞くのなんで?」


《言っただろう、汝を試すと》



人の生きる価値、ねぇ。こういう問いを聞くと、ひどく懐かしい気持ちになる。私の答えは昔から変わらない。

「人間は、梟さんが言った通りクズだ。でもそれはそれで良いと思う。だってそれは、人間が不変であり、いくらでも変われる証明だから」

矛盾しているのは承知の上だ。大事なのは、根っこが真っ直ぐかってだけ。


《ホゥ、辻褄が合っていないが、自覚はあるのか?》


「辻褄が合ってない?馬鹿言うなよ、この世の中矛盾だらけだ。だから私はどちらも有り得ると言ったんだ」


《ホゥ》

それだけ?頑張って答えたら返事がホゥって。


《良いだろう、貴様を、我が主と認めよう》


「・・・えなんでそうなるの?」


《貴様には魔法とは違う力が備わっている》


「無視かよ」

まぁいいや、よくないけど。それにしても、魔法とは違う?なんだ?固有スキル的なやつか?


《貴様にはその名を知らせてやろう。1つ言うが、使い様によって、その力は天をも揺るがす。それを知る覚悟は、あるか》


「考える必要も無いな、私は友達の為に命張る覚悟は出来てんだよ」







《貴様の力の名は"契約"》

森の賢者は翼を羽ばたかせて、降下しながら答えた。


「契約ぅ?」

契約って言ったら、口約束のワンランク上って認識だけど、多分そういうことじゃないんだろうな。


《能力は単純だ、対象と契約を交わし、対象の能力を得るというものだ》


「ふーん、使い様によっては、確かに強いな」


《詳しい事は後に話す、今はどんなものなのか実践すべきだ》

実践?まさか。


《今から我と契約を行う》


「やっぱりそうなのね!」

話の流れ的にもしやと思っていたけど、なんでそうなる!


「なんで梟さんと契約するのよ?」


《貴様、我の事を侮っているな。我が力は森の賢者の名に通ずる力》


「というと?」


《簡単に言うと、"触れた植物を半径1km以内なら操作可能"とする力である》

半径1km!?しかも触れた植物なら操作可能って、強い…のか?


「それ、植物がなければ使えないという事の裏返しだろ?」


《阿呆が、頭を捻ればいくらでも汎用が可能となる》

右手からギリギリと拳が唸っているが、梟はそれを無視して話を進める。


「言葉どうりにするのはもんの凄く癪だけど、仕方ない。契約、やってみよう」


《ふっ、まぁよい、まずは我に触れろ》


「え、怒らないでよ?」


《貴様、その言の葉後悔するぞ》


「ごめんごめん、これでいい?」

森の賢者の体は見た目以上にモフモフで、肌触りがとても心地が良かった。ぬいぐるみに引けを取らないぐらい。


《契約には"絶対に守らなければならぬ三ヶ条"がある。細かく分けるともう少しあるが、今はそれだけで良いだろう。》

1つ、契約には対象との合意が必要

2つ、契約には相応の対価を示せ

3つ、契約時にはこう唱えよ









契約(コントラクト)

彼女の髪色と同じ、藍色の光に2人は包まれ、その光が契約完了の証だが、彼女は言われる前に詠唱を唱えた。


《これで我との契約は完了だ。時に貴様、何故詠唱が分かった》


「何でだろうな?」


《おい》


「いや本当だって!私自身こう、何となく言わなきゃって気持ちになったんだ、ほんと、それだけ」


《(本来、そのような事あり得ぬはず。力を持つが故に、分かったというのか?)》


「これで契約は出来たんだよな?特に変化は感じないけど」


権能(スキル)が体に順応するには時間がかかる。我の権能(スキル)は、ざっと五分ほどだな。」


「なるほど。そういえば、対価がどうとか話してたけど、私は何を失ったの?」


《我のような者は対価は必要無い。だが精霊や神等の類は対価が要る》

そんなの居るの?なるべく戦わない様にしようと心に決めた藍華だった。


「よし、なら行くぞ"フォーさん"」


《おい!なんだその珍妙な名は!》


「え?だって森の賢者って長いし、中々にネーミングセンスあると思わない?」

ホーさんにしようとも思ったけど、それだと捻りが無いから、森ってフォレストだし、そこから取ってフォーさん!

中々センスがある、と自慢げに語る藍華。


《まぁ良い、だが1つ言っておくが、我は着いて行かぬぞ》


「力は貸してくれるのに着いては来てくれないのかよ」


《仕方がない。策が無い訳では無い、我が良いと言うまで目をつぶれ》

何をするのかよく分からないまま、藍華は瞳を閉じる。







《終わったぞ》

?特に変わった事は・・・



ポムッと不思議な音が肩からするのでそちらを見てみる。


《うむ、存外上手くいくものだな》


「わっ!?何これちっさ!」

なんと、フォーさんが肩にとても小さくなって乗っているのだ。

しかし先程の姿より少し透明で翠色をしている。


「これでどうするの?」


《我は旅には着いて行かぬが、その思念体となって貴様の脳を伝い外界へ顕現出来るのだ》


「つまり、この状態でなら旅に一緒に行けるって事?」


《その解釈で間違いないぞ》

これも賢者の力なのだろうか。この世界便利すぎるぞ。


「多分5分経ったけど、1度使ってみていい?」


《構わぬが、貴様連れが居た筈だが》

連れ?ってレオン!!


「そうだったっ!速くって行かなくて大丈夫なんだっけ。じゃあ本体のフォーさんまたね!」

忙しなく駆け出す少女。それを首を回しながら昔にふける森の賢者。脳裏に映るのは、同じような背丈の少年だった。


《来訪者、か。いつぞやの勇者は、何処(いずこ)に居るのやら》






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