一花祭
また不定期更新で頑張っていきます。
(宣言するな)
by 鬼桜 天夜
花の國は、普通、四季として分かれている季節が、六季に分かれている。
春夏秋冬、そして、春と夏の間の梅雨。秋と冬の間、乾露。
アイカ達が騎士の國 『オルフェウス』 を旅立った時は、ちょうど冬の最中、冬の寒さが肌を貫いている日々だった。
その頃、國民たちは、冬の寒さに耐えつつ、百年に一度の催し、 『一花祭』 の為に奔走していた。
最も、何年も前から、この 『一花祭』 の準備は行われていた。それほど、この祭りは人々の伝統に刷り込まれているのだ。
『一花祭』 それは、花の國で百年に一度、国宝への祈りを捧げる祭り。
いや、それは畏怖からの行動だったのか。
祭りとは本来、神や偉大なものへと捧げるものだが、その起源を知る者はもうほとんどいない。
この 『一花祭』 の起源が、なんなのかを。
しかしそんなものは、現代を生きる人々にとっては些末なことだ。
『一花祭』 は初日をレウ、二、三、四日目がルトルパ、五、六日目をリーキュウ、そして最終日のラタ=ヴェール。
それぞれに別々のイベントがあり、國を上げての一大イベントとなるのが、『一花祭』 だ。
ともかく、この國がいかに、この祭りを大事にしているか、分かっていただけただろうか。
國の人々がそこまで大切にする国宝とはなんなのか、それは、たった一輪の、美しい花である。
ご察しの通り、ただ美しい、というだけで神聖視されてきたわけじゃない。少し補足も加えておくと、その花は、この数千年、ずっと同じ花が国宝と定められてきた、
同じ種類、ではなく、全く同じ花が。
そう、崇められているのは、この数千年、枯れずに咲き続けている大輪の花だ。
言い伝えもそれまた、世にも奇妙なお話で。
其れ則ち、食べたものに不老不死を与える花、と。
フロウターレに来るまでに一月もかかっていないのに、なんと、私達が首都に着いたのは四月の頭。
ぶっちゃけ言うと、寄り道のしすぎである。
でもまぁ、なんだかんだで、とても厳しくも楽しい日々だったのは認めよう。
そして、フロウターレではマジで運良く、100年に一度の催し、というものが開催されるらしい。
それを聞いた私たちは、ギルドの依頼の受注を一旦やめ、花の國の首都へと赴いた。
街へ近づくにつれ、多くの商人、旅人たちが、みな口を揃えて言うのは 『一花祭』 という単語。どうやら、それがお祭りの名前らしい。
ずうっと歩き詰めで、一行が街についたのは、祭りの一週間前であった。
「これが、首都 シェフィール…」
口に出したのも気付かぬほど、私たちは圧倒されていた。
「すっごーい!!これでお祭り前なの!?規模すっごいね!!」
「オルフェウスにも祝祭はあったけど、ここまで大掛かりなものはないな。
というか、他の國で探しても、ここまでの規模の祭りは中々無いんじゃないか?」
みな、思い思いに感想を言う。
街の門を飾る色鮮やかなアーチや、花壇に植えられた見たこともない花、お店だけでなはなく、軒並ぶ家々に施された様々な色合いの飾り。
見ているだけで楽しくなれるような街並みが、そこに広がっていた。なるほど、ユートピアもかくやの賑わいだ。
だが、一体これだけの祭りを開いて何が目的なのか。
祭りの起源は、豊穣への祈りなどが主だが…だが…
疑問を解消しないと気が済まない質なので、こういう時のありがたぁい助っ人をお呼びする。
ねぇ、フォーさん起きてる?
《午後二時だぞ。寝てるわけがなかろう。いや、あやつは今現在寝ておるがな》
そう言い、いつものポムっという可愛らしい音と共に肩に現れたのは、淡い翡翠の輝きを放つ梟。前の旅で仲間になった、森の賢者、フォーさんだ。
相変わらず不機嫌そうなのは変わらないが、直ぐに出てくれる素直な所がまた可愛いんだよな。
《主、ジャックの怒鳴り声を聞かせてやってもいいんだぞ》
ジョーダン、冗談ですのでおやめください。
それに、フォーさんに用があったらから大丈夫です。
気を取り直して、この世界には、天界に神様がいる、そこまではあってるよな?
《あぁ。ホゥ、なるほどな。さては、何故この世界に宗教や信仰がないのか。それが聞きたいのだな》
ご明察。
転生したての時ははそこまで余裕無かったけど、気になって。
《街を物見がてら、説明してやろう。
天界に神の姿を拝してから、人類は聖典なるものを作った。その聖典には、444柱の神々がきっちり全ての名前が載ってある。それもご丁寧に、どのような神で、何を司るのか。
主の世界の、八百万の神々、なんて大きな枠組みではなく、な。
ここからは、聖典には載らぬ話だ。
主の記憶を除いてから知ったが、この世界の聖典には、戒律も、物語もない。
つまり、神の姿を拝した。この言葉に、恐らく偽りがないから故だろう。そしてまた、新たな疑問が生じる。
もし、先程の話を仮定すると、神々をいつ見たのか。そしてその出来事が、なぜ世界史にないのか。
これ以上は憶測になろう。満足か?》
…なるほどね。うん、ありがとう。
《用があればまた呼ぶといい。我は少しの休眠に入る》
サンキュ。綺麗な街並みも、少しは堪能しとけよ?
《忠告痛み入る。あやつにも伝えておこう》
そう言うと、フォーさんの気配が消えた。
「藍華。あそこ!おっきな広場がある!いこ!」
脳内で軽い会話を終えると、街の中心まで来ていたようだ。
少しぼーっとしてる間に、動いてないと死んでしまう緋華李が、誰に許可を得る間もなく走っていく。
「は?え、ちょ、好奇心の塊やめて!?」
「ははは。とか言って、アイカも興味ある癖に」
後ろで呑気そうにレオンが言う。
こいつ他人事みたいに言ってるが、この先一緒に旅をする以上、これに振り回されるというのがどれだけ大変か分かっていないな。
「興味がない、と言えば嘘になるけど、あまりはしゃがれてもね」
頭を抱えながら言う。
「そういうノリは嫌い?」
立ち止まる私を他所に、前を歩きだすレオン。全く、ずるいことを聞く。
「いや、かなり好き」
やっぱり未知に胸を躍らせるのは、どうしようもない、私たちの性なのだ。
街の中心には大きな噴水があり 花びらが揺蕩う噴水は、息をのむ美しさだ。
しかし、花びらがあるのは分かるが、花束も浮かんでいるのはなんでなんだ?
花束は紐にまかれ、他の多彩な色合いと違って、色が統一されている。なにか意味があるのだろうか。
「噴水に花びらいっぱい…
ん?あれ…」
このまま放っておいたらいずれ何かやらかして厄介ごとを持ち込んで来るに違いない。それだけは避けねば。
「ちょっと緋華李、いい加減に…」
「ねぇ、あのポスター、 『一花祭』 のだよね?
一週間後にあるんだね。そっから一週間かけてやるんだ。
藍華!私このお祭り参加したい!」
子どもが「あれ欲しい!」って言ってる面倒くささをちょっぴり理解した。
あれは子どもがやるからかわいいのであって、この女子高生がやってもなぁ。
「もう、とりあえず大人しくしてよ。
で?このお祭りに参加したいから滞在期間を延ばしたいと?」
当初の予定では、生活用品と食料、それと観光が終わったら、もうこの國を出ていくつもりだったが、この顔を見るに、それは無理そうだな。
「だってよレオン。 『一花祭』 に参加したいそうだけど」
「俺は構わないよ。確かに、もう生きてる間にこのお祭りに参加できる保証はないし、賛成」
「だってさ。良かったな」
「わーい!!」
両手を上げて大喜びする緋華李。
まぁ、緋華李がここまで喜んでくれるのなら、まぁいっか。
「一週間後まで各自で動く?見たいものが一人一人違うだろうし」
「そうだね。というか、宿取れるかな?この人数だと、一苦労しそうだね」
そういえばそうだった。
街の外で野宿も無くはないが、せっかくならちゃんとした屋根のあるところで寝泊まりしたいところ。
しかし、今はお祭りムード。宿争奪戦は苛烈を極めるだろう。
二人で頭を悩ましていると、全く頭から失念していた緋華李が老齢の女性を連れてやってきた。
「二人ともー-!このおばあちゃんが、事情説明してくれたら一週間泊めてくれるってー!」
遠くの二人の後方には、とぼとぼ逃げ帰るように背を向けて帰って行く男の人たち。
そして笑顔のおばあさん。
なるほど、舌戦に負けたか、あるいは陽のオーラにやられたか。
「どうやら、杞憂はすぐ去ったようだね?」
「胃を痛めるだけだからやめて欲しい…」
あれから、存外時間が経つのは早かった。
お土産をそういくつも買い込めるわけじゃないし、お金だって無限にあるわけじゃないから、ウィンドウショッピングだけになってしまったのはとても惜しい。
花屋で売られるものも、見たことも聞いたこともないものばかりで、目を引くものばかりだ。
桜の花と似たような、ピンク色の小ぶりな花も見つけられたのは嬉しかった。
それから日が過ぎるのも瞬きで、お祭り前夜となった。
花の國の人たちは節度ある人々で、祭り前のどんちゃん騒ぎぐらいあると思っていたが、みな日を跨ぐ頃には街も眠りについた。
私はイベント事は適度に楽しむタイプだが、前の日から待ち遠しくて寝れない、なんてことはなかった、のだが。
寝付けなくて、何度も寝ようとするが、眠気が来る気配は全くない。
今は四月。薄着の寝巻きにいつものローブで事足りるだろう。
家を出ると、やはりというか、街は異様なほど静かだった。
私が歩く足音一つすら、大きく聞こえる。
「月灯りの花々も、風情があるな」
夜になると、また違った、妖艶さがある。
花を美しいと思うのは、花を咲かせて目立ち、虫に花粉を運んでもらうための戦略なだけで、人間の勝手な解釈でしかない。
だがそれを考えるのは野暮というもの。
美しいと思うものを素直に美しいと思えるのは、案外できないことだしね。
花の美しさに魅入られたか、単に寝付けないのが仇となったか、夜という熱に浮かされ、裏路地にふと目が行く。
目が行った時点で、私の負けは確定していた。
確固たる足取りで、未知なる領域へと行く。
「裏に入ると、人気のなさがまた」
時計がないから分からないが、体感的に、かれこれ十五分ぐらい歩いただろうか。
表の通りですら人っ子一人いないのに、裏はさらに不気味な雰囲気が漂っていた。
フォーさんに話し相手になってもらおうかとも考えていたが、呼びかけても反応がない。もう眠ってしまっているのだろう。
さすがにそこを起こすのは忍びなく思い、旅の思い出を肴に練り歩いていた。
油断はなかった。驕りもない。
ただ、そこに強者がいただけだった。
「なぁ、オネーサン」
「っ!??だ」
「しー。夜中に大声はいかんでしょ。
別に今ここで殺そうって腹じゃないから安心してくれ」
ここじゃなかったら殺すのかよ、そう思ったが背後を取られてる以上、下手に動けない。
口を手で押さえられ、肩を組まれている。
やろうと思えばすぐ逃げられる。
だが、こいつはそれを誘ったうえでやってる。ひとえに、自分の方が強いという自負から。
腹立たしいことに、それは事実なのだろう。
声とガタイからして、たぶん成人男性。殺しが目的ではなさそうだけど。
心臓が変な跳ね方をしてしまいそうだ。
男の声は。始終楽しそうだった。
「故郷に久しぶりに帰ってきてみれば、お前アレだろ?リリス相手に奮戦したって女。そして夜中とはいえ、ガラティン相手に勝利をもぎ取った剣士。
ははっ、いいね、そそる」
耳元で囁かれたこの言葉が、いかに私の恐怖を駆り立てたのかは、実際にこの状況に立ち会った人でなければ分からないと思う。
「おっと。いっけね、つい気が緩むといけねぇ」
「用がないなら、帰らせて、もらいたいんですけど」
もう解かれた口の拘束は緩く、逃げ道を作られてるのが余計怖い。
声が震える。
あぁくっそ、いったいなんなんだ!
「いやいや、用ならあるとも。
時に聞くが、不老不死の花、というものを聞いたことがあるか?」
「…ない」
「簡単に言っちまうと、この國の至宝が、不老不死の花、と呼ばれているんだ。
接種することによって、文字通り老いず、死ななくなる。でたらめな話だろ?俺もそう思う。真偽はともかく、この國にとってだぁいじなものなんだよ。
俺の情報だが、不老不死の花を盗もうとしてるやつがいる」
何をたらたらと、そう思ってたら、まさかの爆弾投下に、一瞬脳が追いつかなかった。
伝説でしかないが、それでも、この異世界なら真実であってもおかしくない。
「あんな花一輪盗んでやることと言ったら、一つしかないだろ?
そう、不老不死になるんだろうな。
だが、それはなんとしてでも死守しなけりゃなんねぇ。で、残念なことに、俺には人手というものが圧倒的に足りてない。信用できる協力者が必要なんだよ。
んで、お前に白羽の矢が立ったってわけ。OK?」
「私があなたを売る可能性は考えないの?」
「売ってもいいけど、俺の方が強いしな。
それに、今回は殺戮が目的じゃなく、花を取り返すことと、犯人のしっぽを掴むことだ。なんだ?この國全員を人質に取った方が頑張れるってんなら、喜んでそうするが」
この言葉に嘘偽りはない。
この男ならできる。そう私に確信させるほどの覇気を、こいつは持っていた。だが、今の言葉には、不可思議な点が一つある。
「…いや、それはやめて。
それより、花を取り返すって、どういう事?既に盗まれていると捉えていいの?」
そう、花を取り返す、という事は花が盗まれた、という前提が無ければあり得ない。
でも、流石にそんなことが有り得るのか?國の、いや、世界の危機だぞ。
訝しむ私の顔など、あちらからも見えていない筈なのに、それを嘲笑うような声が頭に響く。
「はは。なんだ、強大な存在の前に怯えながらも、その洞察力と平静さ。ますます気に入った。
お前はいい戦士になれるだろうな」
「それはどうも」
「俺の計画を聞きたいなら、イエスの返事をするんだな。そうしたら話そう」
答えはしないのね、用心深いことだ。
「今?」
「まさか。明日の 『一花祭』 のレウ。その時、人混みに紛れて聞くとしよう。
もちろん、お前のお仲間に助けを求めるのもNGな。なるべく人は少ない方が、俺としては有難いんだ」
「たった二人ですけど」
「そう寂しい事を言うなよ。
俺にとっては、お前を試す意味合いもあるんだ。
まぁ、それもこれも、色よい返事を聞けたら、だけどな」
「分かった。明日には決める。それで?あなたの名前は?」
それだけ聞くと、肩を組まれたままの私にも分かるほど、体を硬直させた。
「そうか、まだ名乗ってなかったか。
そうだな…剣聖、そう呼んでくれ」
「グラディウス」
フォーさんなら、何か心当たりがあっただろうか。少なくとも、今まで旅をしてきて、どこかで聞いたことのある名前じゃない。
「仲間内でのコードネームみたいなものだ。
さて、挨拶も終わったところで、俺はそろそろお暇するかな。じゃあな、また明日」
絡まれていた腕が解かれ、一瞬にして気配が消える。
後ろをすぐ振り返るが、街の中に影が溶け込んでいるだけだった。
神出鬼没で強さもピカイチ。こりゃほんとに強敵だな。
『一花祭』 は午後三時から始まるそうだ。
それまでに決めておかないとな。
脳内組に相談するのはノーカンだろう、朝になったらまた頭を整理して考えよう。
「ったく、どうするかな」
冷汗を手で拭いながら、声が漏れる。
見上げた月夜は、まだ美しかった。




