一難去ってまた1M?
「えっと、とりあえず記憶はあるよね?」
「あ、うん!私は日本生まれの藤宮 緋華李で、貴女は大っ親友の木下 藍華さん!」
「親友の情報いる?」
「いるいる!大事だよ!」
「まぁいいけど。そしてここは、異世界の大草原と」
目の前に広がるのは、現代の日本には絶対に存在しないであろう、広すぎる草原。ふと風を感じ、南であろう方角を見つめる。微かに、潮風を感じる。
「そうだね。あのさ、私達、殺されちゃったよね」
「・・・そうだな」
「あの時、あの場に居た人達を助けようと」
「いい」
私は緋華李が喋っている途中だが、バッサリと遮った。
「あれは私の考えが甘かった。そのせいで、こんな事に巻き込んだ、ごめん」
深深と頭を下げる。これは私の純粋な本心だ。
私の独断で親友を殺してしまった。私は、大バカ野郎だ。自分の失態は認めなければならない。
「そんな事ないっ!旅は道連れ世は情け、でしょ?なにより、"セリヌンティウス"と"メロス"だもん!」
「!・・・そうだな」
あの2人に例えてるのには理由がある。
私達が出会ったのは、丁度中学1年で、授業でこの作品を見て
《こんな風になれたらいいね》
という話をしてから、よく例えているのだ。懐かしく感じるが、そんなに経っていないのが不思議だ。
「これからどうしようね、って見て見て!あそこ!」
「急にどうした?」
「あそこ!山の間からひょっこり何か見える!」
ひょっこり?山の間から?なんの事か分からないまま、緋華李が指差す方角を見る。
「あぁ!あそこか!」
遙か遠くに白い角のような物が見える。おそらくあれの事を言っているのだろう。
あそこまで大きい建造物、そして角のようなものが上にある。となるとお城とかだろうか。
今、私たちは圧倒的に情報が足りていない。情報収集は必須だが、
「あそこには行かない」
「え!?何で!?異世界来て危ない橋渡りたくないよ!?」
「よく考えろ、あれが敵対勢力とかに征服されてるとか、言語が通じないとか、不測の事態になった時大変な事になる」
「確かに」
「そこで!ある作戦を考えた」
「なになに?」
「ズバリ、海に行く」
「海?何でまた」
「海っていうのは外国との交通の主要拠点。つまり、街がある可能性が高い」
「確かに、港町とかありそう」
「そう、それにもし港町があれば、色んな人が居るから、得られる情報も多いはず」
「なるほどね、賛成!」
私は先程潮風を感じた方角を見つめる。行ったところに町がある可能性は、正直言って五分五分くらいだ。賭けに出るのには間違いないが、それは黙って居た方が良さそうだ。友を不安にさせるのは、私も本意ではない。
「善は急げだな、行こう。その道中で食べれる物が見つかるといいけど」
「周りにも気をつけながらね、了解!」
あれから少し歩くと、少し入り組んだ林に入った。暗くなってきたせいか、不穏な雰囲気になっている。それも、私の心理的な要因で、何かの前触れでないといいが。
「もう少しだといいけど」
「街道とか無いのかなぁ?」
「私達がズレてるのか、もうそもそも無いのか。それを考えるのはまた今度だよ」
「藍華は冷静だねぇ」
緋華李は感心したように言う。
「無駄に頭を使ったら早くお腹が空いちゃうってだけ」
「そういう所を言ってるだけどなぁ。というか今思いついた事言っていい?」
「どうぞ」
「転生って言ったら、普通赤ちゃんからスタートしてない?」
「確かに」
それもそうだな。転生というぐらいだから、もっと違う外見で、そもそも人間じゃない場合もある。なのに私たちはそのままの姿で転生を果たしている。異世界転移なら分かるが、百パー殺されてるからな、私たちは。
「まぁその真相も、進んで行けば分かるんじゃないかな」
「だね!今は無知だもん!」
「無知って言葉使うと、緋華李でも頭良く聞こえる」
「失礼な!私そこそこ頭良いんだよ!?」
適当に聞き流していると、ふとおかしなものを見た。そして、藍華は自分の目に入ったものを見逃さなかった。
「待って」
「ん?どうしたの?」
「かなりマズイ事になったかもしれない」
あの木の影から出てきてるのは、もしかして!
「ゲヘェ!ニンゲン!バンメシ!」
RPGでお馴染み、"ゴブリン"!
「晩飯扱いか。どうしたものかな」
「どうしよう、藍華」
不安そうな声で聞いてくる緋華李。それを頭に入れながらも、思考する。ゴブリンとの距離、推定約30m。相手がどのくらいの速度で走れるのか分かんないけど、あんな重そうな武器担いでるんだ。私が"思った以上に"走れることはまず無いだろう。
なら考えれる策は一択!
「走るよ!緋華李!」
「やっぱりそうなのね!」
想定内だったのか、ゴブリン達はすぐさま追いかけて来る。
「マテ!」
「って、えっ!?」
「凄いよ藍華!前世よりめっちゃ走れる!」
これも転生特典みたいなものか?まぁ好都合なのは変わりないけど!転生前よりも高くなった動体視力のおかげもあり、木もスイスイ避けながら走り抜ける。この速度ならアイツらを振り切れるはず、!?
「ヘへェ、ハサミウチ、デキタ!」
「知能は"思った以上"かよ!」
「早々にピンチ到来!本当にやばくないこれ!?」
いっそ戦ってみるか?でも勝てる確率の方が少ない。そんな不確かな確率に縋っていいのか?
どうする?どうすれば!
藍華は脳みそをフル回転させる。この状況を打破する最善策を。だがそんな時間をゴブリンが待ってくれるはずもなく、ジリジリと追い詰められる。すると突然、それは上空から堕ちてきた。
「やっと追い詰めたぞバカども!!」
「え、人!?」
「グハァ!」
「凄い、ゴブリンがあっという間に、、、!」
その男は確かに身長も体格もいいが、驚くべきはその身のこなしだった。ゴブリンを斬っているのだが、風に揺られる木の葉のように流麗な舞だった。少し目元にかかった前髪、七三分けだが後ろから髪が降りてきているので真面目な印象はあまりなく好青年なのが窺える。
「ラスト!」
横一閃。左から右へ、凄まじい速さでゴブリンが斬りつけられた。
「ウハァ!クソ、!ギルドノヤツラガ、イルナンテ、!"キイテナイ"、!」
「・・・死んだ?」
「うっし。終わり・・・って、君達大丈夫だった?俺が間に合って良かった、っ!?」
最後の言葉が言い淀んだかと思うと、何故か私の事を凝視しているのだ。この世界には学校の概念がないのだろうか。もしそうなら、制服を珍しがるのも無理はない。でも緋華李も制服を着ている、そうなると私だけ見られるのがますます分からない。
しかしこの男性。よく見ると目も丁度いい大きさであり、まつ毛も男性にしては長く、目尻が少し下がっているため優しい印象を受ける。顔が整いすぎてる気もするが、これがこの世界の普通なのだろうか。妬いてない、妬いてないし。
「ありがとうございます。貴方のおかげで助かりました」
「本当にありがとうございます!お強いんですね!」
「え、あぁいや!俺がやりたくてやっただけですから、気になさらず!」
照れながらも爽やかに笑う彼。ちゃんと意思疎通もできてる。ふむ、見たとこ今は敵対していなさそうだな。なら、今後もお世話になるかも。そう思い、一つ賭けに出てみる。
「すみませんが、私達道に迷ってしまって。宜しければ、道を案内をして欲しいのですが」
「っ!はい!喜んで!ここから下に真っ直ぐ行けば港町"ウリハラ"が見えてきますので、まずはそこへ行きましょう」
「よろしくお願いします!」
彼女達はまだ気付いていない。
彼が藍華を見つめていた理由を。緋華李ではなく、藍華だけ見つめた理由を。それは。
「(何あの"目"!あの少し鋭いけど相手をしっかり見つめようとする視線!堪んないッッ!!)」
そう、彼は極度のドMなのだ。
「へぇ!"レオン"さんって冒険者なんですね!」
「この地域に限定しているので、名の知れた冒険者という訳じゃないんですけどね」
「それでも凄いじゃないですか。剣捌きも凄かったですし!シュババババッて!」
「い、いや!一端の剣士ですよ!俺なんて全然!」
少し話しただけでも分かる、この人かなりの善人だ。いい人すぎて、詐欺に遭うんじゃないかとこっちが心配するほど、人がいい。
それにしても気になったのは、この地域に限定しているということ。口ぶりからすると、限定する必要は本来ないようだし、私の気にしすぎか?
「ねぇねぇレオンさん!ウリハラってどんな場所何ですか?」
「ウリハラはこの國1番の港町です。俺もウリハラ出身でして、良いところです」
「そうなんですね!色々分かるといいね、藍華!」
「え?あ、うん、そうだな」
あの剣捌き、そしてゴブリン。アイツらが普段から居るってことは、常に戦闘があるのは容易に想像できる。スローライフを送るより、鍛えてこの世界を生き抜く術を先に身につけた方が良いだろう。
「そういえば、御二方はどこから来られたんですか?」
「え、」
「えーとっ、それはぁ」
言い淀む私たちを不思議そうに見つめるレオン。そりゃそうだ、普通なら出身どこですか?なんてありきたりな質問、答えられて当然だ。本音をグッと我慢し、なんとか間を持たせる。
「すいません、出自は明かせないんです。ですが、途方に暮れていたのは事実です。貴方と会えたのは本当に幸運でした」
出自は明かせない。でもそれだけだと不審がられるから好印象は残す。我ながらいい判断だと思う、が。
「そっそんな幸運だなんて!それはこちらもです、ってそれだと俺が、そんな、!」
想像以上に効果的面、だったのだろうか。それにしては、恋する乙女みたいになってるけど。
「あ、あそこに見えるのがウリハラですか?」
「え、えぇはい!あれがこの國オルフェウス1番の港町ウリハラです!」
目覚めた草原より潮風を感じられる。心地よい風だ。一目見て分かる、辺境の小さな港町ではないのが初めて来た私にも分かるほど、大きな港町である証が伝わってくる。
「すっごーい!めっちゃ賑わってる!」
町へ入ると、賑わいがより肌で感じられた。道行く人々、老若男女が笑い合い、生きている。異世界だからと身構えていたが、こういう風景を見るとほんの少しだけ、肩の緊張がほぐれた。
「あまりはしゃぎ過ぎないでね、緋華李」
「(あぁ、あの慈しみの目!あの目で踏みにじられたいッッ!!)」
「!あの人、耳が生えてる」
「見るのは初めてですか?あれは"獣人族"ですよ。主にビーストテイマーを生業としているのが多いですね」
この世界は意外とベタなRPG設定が多いようだ。エルフなどもいたりするのだろうか。個人的には、見てみたい気持ちはある。美人設定の多い種族だしね。
「レオンさん、他にも色々お聞きしてもいいですか?」
「はい!喜んで!」
花が舞っているのは幻覚なのだろうか。イケメンというのはおそろしく、ただ笑っただけでも様になってしまう生き物なのだろう。うん、割り切らないと私の心が砕け散りそう。
「話をするなら腰を落ち着ける場所へ行きましょう!良い店を知ってるんです、着いてきてください」
「着いてく?」
さりげなく藍華に尋ねる緋華李。
「警戒は怠らずにな」
緋華李の問いにほんの少しの警戒心をチラつかせて、私は答えた。
酒場"デルバルド"?もしかして酒屋に入るつもりか?
大きく日本語で荒々しく書かれた看板は自己主張がとても激しい。おのずと店主のことも知れてくるものだ。イエスタンな雰囲気漂う場所なのに、これが意外と居心地がいい。しかし日本語で見れるなんて、親切設計もいい所だな。もしかしたら、本当は別の言葉で書いてあって、自動翻訳されてるみたいになってるかもしれないけど、有難いから、難しいことは気にしない。
「親父さん、今日も繁盛してる?」
店内は外の賑わいにも負けず劣らず、活気に溢れていた。日は沈みきってはいないにも関わらず、多くの大人がお酒を楽しく飲んでいる。席がまばらに置いてあり、その雑然さがまた心地よい。
カウンターへ一直線に行くと、大男にレオンは挨拶をする。
「おいこらレオン!この俺の店が繁盛しない日なんて来ねぇよ!」
第一印象はとにかく厳つい人。眼帯してて、褐色肌で、海賊のイメージが強い。多分この人がお店の店主さんかな。
「あぁ2人とも。そこに座ってください」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「わぁ!凄いね、まだ夕方なのにいっぱい人が居る!」
こいつの能天気さは天下一品だな。緋華李の明るさには助けられる事も少なからずあるが、度が過ぎている気がする。まぁ、そこのフォローが、私の役割とも言えるか。
「すまないな、うちの緋華李が」
「気にしてないよ、元気なのはいい事じゃないですか」
あれから数分してカウンター席に座って話を静かに聞いているんだけど。
「おっ!なんだぁレオン!女を2人も連れてらぁ!」
「違うよ!この人たちはゴブリン退治の時に会って、ってギルドに報告がまだだ!」
見るからにやばいという顔をして立ち上がった。
「早く行ってこい、飯はあとからでもいいだろ!」
「ごめんなさい2人とも!直ぐに戻って来ますから!この人、店主のデルバルドって人なんだけど、見かけによらず良い人だから!」
「説明が雑すぎんだろ!ちっ、あいつ行きやがった」
デルバルドさん、良い人って言ってたけど、見た目からはあんまり想像できないんだよな。レオンさんと話してるところを見ると、面倒見も良さそうな人だというのは分かる。
「こんにちは、"アイカ"と言います。そしてこちらは友達の"ヒカリ"です」
「え、あっこんにちは!ヒカリです!よろしくお願いします!」
この世界の人達は、おそらくカタカナ表記で苗字は無いはず。なら、郷に入っては郷に従え。言葉通り、この世界のルールに従うとしよう。
「そうかい、よろしくな、嬢ちゃん達。んで、どうなのよ、アイツとは」
レオンさんの事だよな?
あっもしや恋愛関係にあるのかどうか聞いてるのか。
「残念ながら、デルバルドさんが思ってるような関係ではありませんよ」
素直な気持ちを述べる。よくよく考えると、道案内してされての関係ってだけだしね。イケメンなのは認めるけど、一目惚れしたわけでもないし。
「そうかい!いやぁアイツも大変だなぁ!」
恋愛関係じゃないのに大変?どういう事?うーん、と藍華が唸っていると、横から緋華李が面白そうな顔で言う。
「藍華!頑張ってね!」
「何を?」
急な緋華李の応援に戸惑う藍華であった。
「すいません!お待たせしました!って、なんですこの空気」
「レオンさん、頑張ってくださいね!」
「レオン、頑張れよ!」
と、二人は同時に言うと、レオンの顔がみるみる赤に染まっていった。赤、というよりピンクかな。
「なっ!?余計なお世話です!だいたいあなた方ねぇ!」
二人にワーワーと怒っているレオンと、笑っているデルバルドさんと緋華李。もしかして着いていけてないの、私だけ?
彼女はちょっぴり、自分の理解力に真剣に悩んだとか、悩んでないとか。