いらない家族
更新が遅い中(私のせいですが)、読んでくださる方々がいる事が、なによりも励みになっています!
最近、戦闘シーンで悩んでおり、前回は短くなっています。すいません…
by鬼桜天夜
「これは…」
「レオンじゃないか。一歩遅かったじゃ…あぁ、それが理由か」
「それで友達を危険な目に合わせてたら、意味ないですよ。にしても、円卓の騎士最強である貴方が、夜とはいえ手酷くやられましたね、さすがだ」
「俺を労うのか、友人を褒めるのかどっちかにしろ」
そう笑いながら呟く彼は、両腕が血塗れになっていて見るに堪えない姿で壁にもたれていた。
「どこまでやったんですか?」
「縛呪解放まで使って負けたさ。昼間だったら絶対に負けてないが、まぁ、良いガッツだったと思うぜ。宣言通り、友人を守り切ったしな」
「…ガラティンさんがそこまで褒めますか。はは、妬けちゃうな」
「気持ち悪りぃ」
「本気なんですけどね」
もう一度アイカとヒカリを見て、確信する。彼女らの成長スピードは常人のものとは比べられないほど早い。
「俺も、負けてられないな…」
「…俺はもう動けん。それに、女王の間の前でこんな大騒ぎしたんだ、じきに首が飛ぶ。負けた俺が言うのも無責任な話だが、後は頼んだ」
そう言うと、事切れたように意識を手放した。
「ほんっと、無責任な話ですよ」
彼から離れ、数歩歩いた先に、彼女たちが転がっていた。どちらも意識はないらしく、息はある。
遠目からは確認していたが、いざこう見ると容体だけでなんとなく想像がつく。
アイカは外傷が酷く、特に火傷だ。どれも魔法で治るし、後に残りそうなものでもない。なにより、現在進行形で治っていっている。
次にヒカリさんだが、こちらは体力の消耗がアイカより激しいようだ。魔法の乱用が招いたものに違いないだろう。だが、こちらも時間があれば完治するものだ。
宣言通り、守り抜いた、か。きっと、納得してないんだろうなぁ。
でも、それは同じだよ、アイカ。俺だって、最後のいいとこだけ掻っ攫うだけの、泥棒だしね。
あぁ、でも。君はやり遂げたんだ。
「なら、俺も。俺にだって出来るはず」
言うは易し。後はやるだけだ。
アイカの額の傷口を手持ちの布で縛る。これで止血と菌が入るのは防げるはずだ。
立ち上がる膝は、もう震えていない。
空は夜明け前と言ったところだ。その明かりが、やけに寂しく見える。外の騒ぎもいよいよ最初より罵声が響き渡り、これ以上はただの混戦と成り果てかけていた。
躊躇ってる時間は無い、な。
大扉は何千倍もの大きさに見えるが、威圧感に負けてる場合じゃないぞ!俺!
力を込めると、ゆっくりとだが開かれていく。この扉は女王の意思が反映されているものだから、あいつの中で俺は脅威になる敵認定されてない。
苛立ちもあれど、かえって好都合だ。
城下町の喧騒など全く聞こえてこないここは、女王の心そのもののように思えた。
「…反乱軍の強者が来るかと思えば、よもや貴様か。言葉を交えるのも忌々しい、憎々しい、腹立たしい。
それに、ふむ。他の騎士どもも劣勢か。だが、そうだな。
私が玉座に座って以来の窮地だと認めよう。
そして、私はここから一歩も動かぬ」
「舐めてるのか?」
「貴様如きに本気になったなどと、死んでも死にきれないからな。安心しろ、最期くらい慈悲を持って殺してやろう」
「思ってもないこと言うなよ。勝つのは…俺だ!!」
新しい剣を抜く。前から使っていたかのような馴染みようだ。それを見て一層嫌悪感を滲ませるモルガン。
俺がどの部隊にも配置されず、単独行動をしていた理由はこれだ。
キャメロットに古くから伝わる聖剣伝説。その真偽を確かめに行っていたのだ。
「ああああ!聖剣!!それをこちらへ向けるな…!!反吐が出る!」
「お前を倒す為なら何だってするさ。ここで死んででも!!」
金色の線がモルガン目掛けて一直線に向かっていく。しかし阻まれるのも当然か。
空間から突如現れた無数の闇に、八方を塞がれて思わず立ち止まった。牽制なのか知らないが、俺がその程度で止まると思うな!
一斉に襲いかかる魔法を瞬時に斬り払う。
モルガンの使う闇の魔法とは相対的なこの聖剣は、淡い光を放ち魔を寄せ付けない。玉座までの短い道が、途方もなく長く感じる。これまでの経験、出会い、道のりを鮮明に思い出す。
「私がっ!!聖剣程度に遅れを取るはずは!!」
広範囲魔法の影響でボロボロになった床を飛び越え、後数歩で届くというところで、目を見開いた。
モルガンが無造作に見せてきたのは、先程まで廊下で倒れていたアイカだった。襟首を掴まれ、その顔は上からじゃ確認できない。
足元の血溜まりが痛々しく、切先が鈍りそうだ。
真っ青な空に太陽の輪郭がすべて顔を出した頃、玉座の赤色を明るく照らしている。
「言っただろ。お前を倒す為なら、何だってするって」
「くっ…!!」
モルガンは膝をつき、斬り落とした左腕が床に落ちる。
左手で掴んでいたアイカはやはりというべきか、主人を失い人形に戻っていた。そういう小細工の準備が抜かり無いところは、昔から変わらないな。
聖剣の放つ力が強すぎるのか、俺自身の風魔法が掻き消されてしまう。
「最期だ。慈悲をかける気はないが、遺言は聞いてやる」
「…」
「なんか言ったらどうだ?」
「貴様のような…貴様のような愚弟に、情けをかけられるつもりはない…」
「…そうか。やっぱり、そうだったのか。俺の、唯一血の繋がった」
「黙れ!!!」
「貴様が…貴様さえ居なければ…!私が正統な王として、この國を治められたのに…。忌々しい、忌々しい…」
「そう思いたいならそう思いながら死んでいけ。だけど俺は…お前の事は思い出せないし、騙されたし、今もくっっそ恨んでるけど、姉さんが居たってだけで、少し救われてもいるんだ」
「…レオ」
「…ごめんな」
玉座ごとモルガンの胸を一刺し。最期まで持っていた杖が呆気なく床へと倒れる。
「ね、ねぇさん!待ってよ!」
「早く行くぞ、レオ」
「…あぁ、もう。朝日で前が見えないな」
姉だったそれに落ちる水が何であるかなんて、自分でも分かってた。でも、それを自覚してしまえば、膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
キュインキュイン、と何やら慌ただしいサイレンが部屋に鳴り響く。
まさかあいつ!この期に及んで死んでも最後の抵抗か!?
『No.99。条件を満たしたため、誓約に基づき、発動します。
続いて、緊急シークエンスの条件もアンロックします。緊急シークエンス…アンロック完了しました。条件を満たしている事を確認…同時並行で緊急シークエンスを稼働させます』
機械的な声が室内で響き渡る。
女性のような声は、モルガンをどこか彷彿とさせる。
「はぁ!?」
『No.99。第一工程…危険性、汚染度、音声チェック、全システムオールクリア。システム、稼働します。暗転します』
《このようなものを残すのも一興かと思ったが、やはり止めるべきか?
まぁ良い、今そこでこれを聞いている時、我は絶命しているはずだ。誰かは知らんが、その一点にのみ、評価に値する。
王とは後へ託すもの。我はそんなものに興味は無いが、我にしかできぬこと故、声にて記そう。
巨悪とは深淵に潜み、現世を嘲笑うものたちのこと。だが、深淵は魔界の限りではない。
眼を鍛えよ。真実を見抜け。殺された私の言葉では、いまいち説得力に欠けるがな。
…我が城の最深部へ行け。そこで見た事は他言無用にしろ。あれを見てどうするか、それが王からの勝者へ贈る戦利品だ。
…話したいことはあらかた話した。ゆけ、我を殺した者よ。我が屍を越えて、世界を存分に開拓するがいい》
「…悪名に恥じない意地の悪さ、だな」
『No.99。第二工程…準備完了しました。固有名、レオン。権限の一部譲渡を許可…完了しました。
固有名、レオン。生体認証による地下室への入室が可能となりました。並びに、その他の権限も解除。詳細は地下室で閲覧可能となります』
地下室、と聞き慣れない単語やら、急に色々な情報が詰め込まれる。
『No.99。最終工程…緊急シークエンスと連携…受諾しました。
こちらの音声は、固有名、レオンへ…貴方に向けた音声です。暗転します』
《もしもの奇跡。有り得ざる天命が働いた時の為に、これを遺す。我が唯一の汚点。一度追放した筈が、再び私の元へと舞い戻った小さな獅子。
私の、弟。
あの時お前を追放した事を、私は後悔していない。
私の野望のためだけに、お前を排除した。國全員の記憶の改竄をし、私ですら、お前と顔を合わせたあの日まで、忘れていた。
姉らしい事など何一つとしてしてないが、一つ、お節介を焼いてやろう。
地下の惨劇。我が國に永く続く過ち。いや、我が一族と言うべきか。
とにかく、お前がこの先、諸外国、果ては別の領域に足を踏み入れるならば、奴らに気をつける事だ。白装束の奴らはどこにでも潜んでいる。それも古くから。新興の魔王どもなぞ可愛いものだ。
奴らは闇に潜み、弱みに漬け込む。正体も、目的も知らぬ。ただ言えるのは、邪悪とは奴らのことを指すのだろう。
…私から言える事はもう無い。貴様は嫌いだ。生涯、好きになる事はないだろう。
ですが、性懲りも無く、これまでの事を思い出しても尚、私を姉として想うのならば。忘れないように。全てを糧にして、前に進みなさい。
それが姉としてかける、唯一の言葉です》
「…なんだよ。最後の最後に……うっ、うぅぁぁあああ!!」
その日、終戦を告げるように、男の泣き叫ぶ声がキャメロット中に聞こえたと言う。




