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異世界転生は友と共に!  作者: 鬼桜天夜
第1章 『騎士の國 オルフェウス』
15/22

私たちだからこそ

前にここに立った時は、ただその美しさに圧倒されているだけだったが、今は違う。

腰にある剣にそっと触れた。これも、今日はなんだか重く感じる。

私たちの役割はヘイト役。囮ってわけだ。

真正面で暴れて、可能な限り敵を集めて蹴散らす。ある程度敵兵が減ってきたら、一直線に玉座の間へ駆け抜ける。フォーさんには上空から戦況を見てもらい、状況によって本部隊の動きを決めるつもりだ。

ていうか!なんで私に指揮権があるの!?

他の人じゃダメなわけ!?という文句も心の中で吐きつつ、やるとなったら頑張るけども。


開始の合図は閃光弾を同時に三つ上げる手筈になっている。

さぁ、予定だと今だが…


「閃光弾、発射します!」

本隊からは赤の閃光弾が高らかに打ち上げられる。

その数秒後、右翼、左翼と光が空へと昇っていく。


「右翼、左翼からの合図確認!アイカさん、指示を!」


「えっと、うん。指示なんてものはありません。ただ、生きて、勝ちましょう!」


「「おおおお!!!」」

ちょっとかっこ悪い感じになってしまったが、みんなの士気が上がったなら、結果オーライだ。うん、誰も気にしてない。


《だっっっっせ》


《主よ、今のはちょっと…》


「締まらないなぁ」


「うるせぇ」

全員から結局言われてるし!

私に非があるにしても温情が無さすぎる。顔から湯気が出そうだ。まぁ、これぐらいの緊張感の方が丁度いいか。


「さぁ、派手にかき乱すとしようか!」







竪琴の調子が今日は良い。

女王も放任主義が過ぎる。死守せよ、それのみとは。

…それが信頼であればよかったのですが。

私の後ろに控えるのは、円卓には列を成さなかった数百の兵。これに対し、あちらはその半分ほど。兵力の差など一目瞭然。しかし、この胸を震わすものはなんだ?


胸に手を当てても、心臓の音は届かない。ただ、鎧の冷たさと、虚しさだけがある。


正門に本来いるはずのガラティン卿はおらず、女王の間の前に行くよう、アロンダイト卿からの言伝だ。

言った本人はというと、 呪いにより湖を長く離れられない体になっているので、言うだけ言って去っていった。

ガラティン卿はまた怒るのかと傍観していたが、一言。


「承知した」

そう言って玉座へ歩いていった。背中で語るとはよく言ったもの。アロンダイト卿が何を伝えたかったのか、私は真意を測りかねるが、彼にはとても重いものの様に聞こえたのだろう。




そんな一部始終を見ちゃったら、手を抜こうにも、抜けないじゃない…








「さすっがにさぁ!!数多すぎじゃねっっ!!?」


「弱音吐く暇あったら手動かして!次!右から五人!!」

思いっきり暴言を叫んだ後、波のように押し寄せる騎士達を薙ぎ払う。細剣でそんなことすればぽっきり折れるので、鎧の隙間を一突きして次に移る、これの繰り返しだ。

緋華李の補助魔法"炎毒螺旋"を、攻撃した後にすぐにかけてもらう。これがほんとに便利!

私の剣に纏わせた魔法が、剣をつたって相手の体内に入る。すると動けないレベルの毒が体の中で暴れ回って、最終的に相手は気絶。死人も出ないし効率的!うん!発想が鬼!


人を殺さなければいい。これだけは間違いない、はずだけど。

敵の剣をかわして一突きし、周りの景色が、ふと目に映った。こちら側の死者も、意識を失った敵を見ても、何故体がこんなにも動く?

私はもう、人として大事なものを、失ったのだろうか。


「藍華っっ!!」

呼びかけが耳に届くや否や反射的に後ろに飛び退いたが、どうやら正解だったらしい。


「我が矢は音の刃。そう易々とかわされては、円卓の顔が立ちませんね」


「そう言いながら、それに手ぇかけるのやめてくれる?」

緋華李が指差す先には、竪琴の形をした弓を手に持つファイルノートがいた。だがひと目見てわかる。かつてないほど殺気立って、私を殺す気だ。


表情を見て、怖気(おぞけ)がした。

微笑んでいたのだ。

人を殺すという奴が、本人を目の前にして何故笑顔でいられる?経験の差、格の違い。呼び方は多くあれど、言えることは、そう。

生きてきた世界が違う。


でも、負けていい理由ではない。

私は真っ直ぐ見つめ返す。お前に遅れをとるようでは、この先も勝てない。そう宣言するように。


「これで会うのは三度。お互い、もう言い遺す事はないでしょう?」

その言葉を鼻で笑い、一つかまをかけてみる。


「どうしたんだよ?前の戦闘じゃお喋りだったくせに。なに?今更そっちは余裕がないってか?」


「…余裕がない。そう、ですね。後がない、という意味では、同じかも知れません」


「…そうだとしても、私たちが勝つ」


「無論、ここで手を抜かれても興醒めです。今回こそは、殺しますよ」

弦に手をかけたのを見ると、後ろも振り返らないで駆け出す。

私が剣を取り出すのと同時に、相手のオーラが一瞬で黒くなった。

前と戦った時に途中からなったバフか!

余裕がない。どうやらその言葉は本当だったらしい。あんなthe・奥の手を最初から使ってくるのがいい例だ。

前はボコボコにされたけど、今回は緋華李がいる。負けられないし、負ける気がしない。

かかったとばかりにフェイルノートが弦を弾く。もちろんその狙いは、後ろにいる緋華李だろう。私が緋華李を気にしている事など、相手はとっくに分かってる。

だから、逆にそれを利用させてもらった!


「なっ…!?私の矢を、弾いた!?」


「ナイス!!」

流石の判断力。

即座にその場を離れようとするが。

藍華は剣を鞘に戻し、もう一つの武器を手に取る。


権能(スキル) 《絶裂の一振り(アブソリュート・テア)》!!」

私の振るった刀が服を引き裂いてフェイルノートの肌をかすった。


「これは…!あの刀が…魔力を吸って…うっ」

彼女の傷は浅いはずだが、足元から崩れるように膝をついた。

立ちあがろうと力を込めるが、そこまでには至らない。


「チェックメイト」

フェイルノートの額に刀を突きつける。


「どうして、彼女に私の矢が届かなかったのですか」


「あなたの矢を乱す単純な風魔法をぶつけただけ。まぁその魔法も、私が作ったものじゃないけどさ。でも、藍華の読みが当たったからこそ、この作戦が活きたってわけ」


「…迂闊でした。そういえば、そちらには名高き賢者が居ましたね。なるほど…運命とは、やはり残酷です」


「運命?」


「なんでもありませんよ。さぁ、首を刎ねるなら一思いにやってください」


「いや、するわけないじゃん」


「…なんですって?」


「やるなら緋華李がやれよ」


「やだよ!?私人殺しの趣味なんて無いし!それに、女王様のところに急ぐのが先でしょ?立ち止まってる時間なんて無いもん」


「よく分かってんじゃん」

改めてフェイルノートと向かい合う。倒したって実感は湧かないけど、そんな事を確認している余裕はない。


「そういうことだ。要はお前に構ってる暇はないって事。これからどうなるかは、ここの人たちに任せるよ。行くよ!緋華李!」


「あっ、うん!」

そう言い、若人達は私の横を通り過ぎていく。

ここで倒れるなど騎士の名折れ。自分の命を捨てて弾けば、今からなら矢の届く射程範囲内だ。だけど、もう弾く気にはならなかった。


このフェイルノートでは、彼女達を止めるのに役不足であるのを、とっくのとうに彼は理解していたのか。だから私ではなく、彼に頼んだ。

この白い世界の中で、あの二人がとても鮮やかに見えるのは、きっと錯覚ではない。

項垂れた視線の先にあるのは、私が思い出と呼べるものを手にしてから、ずっとそばを離れなかったもの。何も考えず、ただ指でそれを鳴らす。

その音が、いつもとは違う、不思議な軽さだったのを、私は生涯、忘れないだろう。









美しい装飾の階段を目もくれず走り抜ける。

誰も居ない廊下に、二人の足音だけが響いていた。もう夜の暗さは薄まり始めて、私たちの姿を静かに照らし出す。


「というか!階段長すぎ!!!」


「藍華ぁー!おぶってくれても良いんだよー!!」


「誰がやるか!!」

そんな荘厳さなどつゆ知らず。文句もたらたら言いながら、藍華達は女王の間へ続く最後の階段を駆け上がっていた。


「はぁ、はぁ、はぁぁ!やぁっと!登り…藍華?」


「下がって」


「…うん」

白亜のこのお城にも引けを取らない純白の鎧を着て、彼は立ち塞がった。


「フェイルノートの気配が弱くなったかと疑いもしたが、まさか本当だったか。アロンダイトの勘とやらも、今回ばかりは馬鹿にできないな。

自己紹介は不要だと思うが、もう一度名乗ろうか。

我が名はガラティン!!

太陽の写し身、玉座の最後の護り手!

例え夜闇に阻まれようとも、その輝きは一片の曇りも無いと知れ!!」


「肩書きも、実績も、何一つとして私は持っていないけど。ガラティンさん。退いてください。恩人に喧嘩売るほど、私は落ちぶれていない」


「俺が恩人?お前に何かした覚えはないが」


「え。いや、道案内してもらったじゃないですか」

後ろで緋華李がうわあ、とかなんとか言ってるが、気にしたら負けと見た。


「ふっ、はは!はははははっ!!面白いな!!そう慕われては殺す気概も失せるというもの!」


「なら帰ってくれますか?」


「すると思うか?」


「いえ全く。行くよ緋華李!!」


「急に話終わったね!?でも準備オッケー!最初っからぶっ飛ばすよ!」

その言葉を合図と受け取り、藍華は地面を蹴り出していた。相手は地面に突き立てていた剣を抜き、仁王立ちで構える。

さすがは最後の砦を自称するだけあるか。かかってこい、そう挑発されているようだった。


《主!其方の友の言う通り、出し惜しみなどしたら死ぬのは主だぞ!》

ご忠告どうも!

しかしそれは痛いところを突いていた。

絶裂の一振り(アブソリュート・テア)》もそう乱発出来るものじゃない。それに、私のよく分からない直感が告げていた。

魔力をゼロにしても、彼には勝てない。



真正面からまずはフルスピードで突く。仮面で顔は見えないが、表情一つ変えずにそれをかわした。あの時の剣裁きを見てわかっていたはずなのに、対峙して、やっぱり思う。

他の騎士たちとは明らかに一線を画す強さ!私の最高速度が真正面からとはいえ、掠りもしないなんて!

フェイルノートの時のように騙し討ちで勝てないのは最初から分かってた。だからこそ、緋華李と一緒に戦うんだろ!

続けて攻撃を違う位置に加えるが、全て剣で弾かれる。


「お前のは試してるだけだ。勝つ気が微塵も感じられない」

胴体を狙った攻撃を大きく弾き返され、体の重心を後ろへ倒された。私より全然大きい剣を振り回しているのに、目で追うことすらままならない。

後ろへ数歩よろけたのを見逃さず、今度は私の胴体へ間髪入れず二撃目が続く。


「土魔法《岩砕硬壁(がんさいこうへき)》!」

地面からどこからともなく藍華とガラティンの間に壁がせり上がる。だがそれも気休めにしかならず、壁が壊されるまま、藍華も吹き飛ばされた。

目が回ったと言う以前に、力強くやられたせいか、かなり体が痛い。膝をついている状態で頭がぐわんぐわんするんだから、これ私まともにやり合えるか?


「岩すら砕く壁ってね!藍華、平気!?」


「肋骨逝ったかもだけど、まだ、大丈夫」

でも、私に退路なんて元々無くて。剣が握れなくなろうとも、立ち上がるしか私には無い。

そう思ったら自然と空元気でも気合いは出てくるもので、細剣を杖に立ち上がる。


「大丈夫。絶対、勝つ」

誰に言うでもない。誰かに聞こえる様に言ったものでもない。ただの決意表明。でも、今の私を奮い立たせるには充分だ。


さらに深く、強く、地面を踏み込んで走る。

もう、あれこれ考え込むのはやめ。


今はただ、こいつに勝つことだけに専念しろ!


「できんじゃん」

不敵な笑みではなく、それこそ、楽しんでさえいるような笑顔で剣を構えた。

藍華の振るった剣は難なく払い落とされるが、その勢いを活かしすぐさま横薙ぎに振り払う。やはり速さではガラティンの方が勝るか、これも弾かれた。

何度も何度も、純白の回廊を鉄と鉄が火花を上げながら踊る。激しさは打ち合う回数を重ねるごとに速さを上げていく様だった。

腕が千切れそうだ。足に鈍痛が来る。長い廊下を上に、横に、駆け巡って行く。こちらが攻めるのを上手く受け流され続け、時々カウンターで痛いところを突かれる。

私が走った後ろに血が滴り、右側の視界は赤く染まって気色悪い。緋華李の身体強化(バフ)支援魔法(サポート)だってある。なのにこの差は何?



「はぁ、はぁ、はぁ…ままならない、もんだな、全く」


「ここまで粘られるとは思わなかったぞ。その拙い剣技で我が太陽の輝きを器用に拒む。だが、それもここまでだ。ここからは本気でいくぞ」

は?!今まで舐めプされてたって訳!?てか拙いってなんだよ!!こちとらちょっと前までピチピチのJKだったんだぞ!

冗談じゃないぞ。緋華李だって体力なんてもう残ってない。


「一か八か…ジャック!!」


《良いぜ大博打だ!!死ぬ気で行きな!!!》


「誉を持って、この一撃で沈めてやろう。

縛呪解放(マレシオ・アンロック) 《ひでりの蔓延(ドラウト・アラウンド)》」

構えた剣からとんでもない圧と熱。内心苦笑いものだが、気持ちで押し負ける方がよっぽど悔しいし腹立つ。


権能(スキル) 《絶裂の一振り(アブソリュート・テア)》!!!」

真正面から小細工なしでの一閃がぶつかり合う。

魔力を打ち消す力の効果か、ここまであの熱の余波が来ることは無いが、少しでも後ろへ引けば緋華李も危ない。

権能(スキル)の同時使用の練習しとけば良かったって、今更ちょっと後悔してる。



…こりゃダメだな。単純な力の差が、ここまであるなんて。

頭がやられてきてるのか、目も霞んできた。



そうやって負けていいの?


また 友達を守れないの?


他の人の期待を裏切るの?




嫌だ。

負けたくない。

守ってみせる。

答えてみせる!


だって!だって!!私はあの時、誓ったんだ!!!


「絶対に!!倒す!!!!」

挫けかけていた足を最後の力を振り絞ってもう一歩踏み出す。もう手の感覚も無いけど、前へ。前へ踏み込む。

最後に見えた景色は、静かに、穏やかな瞳で笑う少年が白と一緒に消えていった。









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