反撃の狼煙を上げて
シュヴァリエの乱入とアリアの助けが入ったおかげで、円卓の騎士の猛攻から辛くも逃げられた私たちだが。
今は谷間にある抵抗軍のアジトにお世話になっている。王都へ行くのは簡単だが、攻めてくる連中にとっては風向きや地理的な面で自然の要塞となっていた。
「でも、均衡状態がいつ崩れるか分からないんだよね」
周りに人が居るわけでもないのに、口が勝手に言葉を発していた。抵抗軍は確かに脅威となり得る戦力を持っているのは間違いない。
だが、それも一般の兵士に対してだ。あの円卓の騎士にとってみれば、有象無象でしかない。あの二人が見せた最後の攻撃。あれは常軌を逸していた。
「勝てるのかなぁ…」
「祭りの時だっていうのに、こんな暗がりで辛気臭いこと言ってる人がいるな?」
「レオン」
「うっわ、めっちゃ良い景色。王都もこっからならよく見える」
ノンアルビールが入ったコップを二つ持ってきて、片方をこちらへ手渡される。私は苦笑いでそれを拒否させてもらう。
緋華李がそれを飲んで、とんでもない酔っ払いに豹変したのを見て一気に冷めてしまった。ノンアルコールだから酔うはずがないんだけど、どうもあいつは酔いやすいらしく、思いっきりから酔いしていた。あんなダルダルからみ酒をしてしまう、などという醜態は晒せない。
それを気に留める様子もなく、レオンは私の隣に座り込んだ。
「レオンが抜けたらすぐバレちゃうんじゃないのか?」
「今日の主役はシュヴァリエさんだから大丈夫。あの人あれで何百歳っていうんだから、びっくりだよね」
「時を止められるって、どんな感覚なんだろうな」
「…知りたくもない」
「これから貴方がた三人に話すことは、この國の邪悪であり、救いです。どうか、民には話さないよう、お願い致します」
こう切り出されたからには、話せるわけもない。
隠遁生活が始まって少しした頃、シュヴァリエさんから、私、緋華李、そしてレオンが、シュヴァリエさんの住む離れに集められていた。もう夜はとっくに更けきって、12時をすぎた頃だった。
「分かりました。絶対に他の人には話しません」
「私もです」
「俺も、他言無用にすると誓います」
「…ありがとうございます」
そうして、ぽつぽつと語られた驚愕の真実。
「円卓の騎士に選ばれた者は、とある秘術によって名前を刻まれます。それにより、女王とのつながりがより強固になる。名前は携えた剣とのつながりを深めるためその剣の名前が与えられるのです。かくいう私も、この剣から名を頂きましたが」
「話が逸れましたね。女王、剣とのつながりが深まるだけなら、ただの王からの祝福で済まされるでしょう。しかし、この術には何物にも代えられぬ代償が伴います。
不老となり、今までの記憶をすべて消されるのです。
私も、騎士となったあの日から前のことは一切覚えていない。それから知ったのです。数十年前に一般兵士を夫に持つ妻子が国境付近の村にいたことを。隣国との戦争に巻き込まれ、村ごと焼き払われました。私の妻だった方なのかは分かりません。
しかしそれを除いたとしても、王命により、私はこう言われたのです。
”あの村を焼き払い、敵を殲滅せよ”
他の円卓の騎士はどう思ったのかは図りかねますが、さも当たり前かのように赴き、任務を遂行する姿を見て、私は、逃げ出していました。
それからは、皆様の知っている通りです。抵抗軍を細々と創り上げ、かつての王に剣を向けています」
「…だから、か。彼らの身の上話を一回たりとも聞いたことがないのは、そういうことだったのか」
「なん、で…。そんなの、絶対許可なんてとってないじゃないですか!!」
「緋華李、やめろ」
「え?」
「私たちが同情したってその事実だけは変えられない。シュヴァリエさん…話してくださってありがとうございます」
あぁ、ようやく、言葉にできる機会を与えられた。
「私は、今までずっと迷ってた。流れで抵抗軍について、このままの気持ちで良いのかなって。
でも、今の話を聞いて決心が固まりました。
私はこちら側につきます。友達が困ってるのなら役に立ちたい、それはシュヴァリエさんも同じです。國の詳しい事情とか、ややこしい事は分かりませんけど、貴方の助けになりたい」
「(そうか…そっかぁ…!)」
「…レオンさん、顔、赤くありません?」
「きっ、気のせいですっ!はいっ!!」
顔を覆っていた片手をどけて、ぎこちなくあたふたしていた。緋華李の言う通り、頬を赤らめて何かを噛みしめるように下を向いている。
「不謹慎だけど、シュヴァリエさんには感謝してる。ほら、目標は口に出してこそ、だろ?あやふやなまま、なんだかんだでここまで来ちゃったけど、やるべき事が明確になった感じ。すっきりしてるんだ」
渓谷のその先を見つめながら藍華は思う。
その横顔を横目に、男が口を開きかけ、また閉じた。
酒が喉を通る感覚が、妙に今日は気持ちがいい。
彼女はこれを特別に用意したノンアルだと思っているのだろう。それは間違いで、普通に大人たちが飲んでいるお酒だ。わざわざこっちを持ってきたのは、正直分からない。でも、彼女が俺のコップを拒んだのを安堵した自分がいたことに、驚いた。
困惑、友、独占欲、承認欲求。
自分の醜さがどうしようもなく嫌になる。救いのない現実から逃げ出したくなる。
でも、でも。
こんな俺を友だちだって、背中を押してくれる人がいるのに、俺が弱気になってどうする!
ねぇ、アイカ。
やっぱり俺は、君の信頼に足る程の殊勝な男ではない。
だからこそ。
ただ、君の助けになりたい。
「一週間後には全てが決まっているって思うと、不思議だよな。実感湧かない」
「それは同感。俺もここまで大きな戦に参加したことはないからね」
「ねぇ、気になったんだけど、シュヴァリエさんさ、結構悠長に構えてる気がする。見張りの兵も最低限しか居ないし、村の中がぴりぴりしてる感じもない」
「そのことか。だって、女王は絶対に攻めてこないから」
「…理由は?」
「王として恥ずべき行為、というか。王の威厳の前に反逆者ごとき敵ではない、というか。ともかく、俺らは気にすべき価値もない反乱因子ってわけ」
「言葉で言われると腹立つな」
「奇遇だね、自分で言っててムカついてきた」
「「ふっ、あははは!!」」
「あー、あっはは!いやぁ笑った笑った!」
お腹をさすって、草原に背中を預ける。なんとも夜風が心地いい。
頬が緩みっぱなしのまま、瞼を閉じる。頭を空っぽにしてだらけるなんて、いつぶりだろうか。
「…良かった」
髪をなびかせて、夜景をバックに、静かに彼は微笑んだ。その顔には私への気遣いが見て取れた。
「…そんなに気ぃ遣わせてた?」
「俺が勝手に気にしてただけだよ」
「そう」
それ以上は特に聞かず、しばらくして私がお別れを告げて密会は終わった。
その近くに人影があったことも知らずに。
「改めて作戦を確認するぞ。今からここを発って三日後に作戦目標地点に到達予定だ。
本部隊はそのまま目標地点で待機。残りの二部隊は二日以内に別の目標地点に到達しろ。その日の午前二時に夜襲をかける。本部隊には、アイカ、ヒカリの二人に派手に暴れてもらう。右翼に俺とシュヴァリエさん。左翼にアリアとレオンを配置する。
俺たちは王都の奴等を殺すために行くんじゃない。俺たちの信念のために戦争を起こすんだ。
恐れるのなら、今すぐ立ち止まれ。誰もその背中は追わぬ。
もし我らとこの國を変える意思があるのなら、剣を取れ!!今こそ!この國に真なる平和を!!」
多くの人々が雄叫びを上げる。それは山へと轟き、こだました。
それは私の胸を昂らせるには十分すぎる効果を持っていた。こうやって、人は大義名分のために立ち上がるのか。
「藍華、緊張してる?」
「声震わせながら言うやつの説得力は、やっぱり違うなぁ」
「ちょっ!?それは言わない流れでしょ!」
「そんな流れは知りません」
「まったく、折角人が緊張をほぐしてあげようかなって思ったのに」
「緋華李」
「ん?」
「絶対生き残るぞ」
「…もちろん!そんでもって勝つ!でしょ?」
「あぁ」
個人的にレオンが好きだからか、登場シーンがどうしても増えてしまいます。
by 鬼桜 天夜




