抵抗軍
「…」
「あらら、またですか?」
「また…か」
隣合った騎士達が、ポロッと口に出した"また"という言葉。こうやって王都が攻められる事は二度以上あるのだろう。
「西の辺境、マギナダイ辺りだな」
「開戦距離到達までおおよそ十分から十五分かと!」
レジスト、抵抗の名が付く軍だ。つまるところ、王への反逆者と言ったところだろう。常々思っていたが、この女王敵を作るのが趣味なのだろうか。そうでもなければ、こんなに反発する人々も居ないだろうに。
「フェイルノート、ロンギヌス。鎮圧に向かえ、止むを得ぬなら多少の犠牲は出して構わん」
「かしこまりました」
「王の意向のままに」
柔和な声と堅い声。相反する音色は、どこか悲哀を含んでいた。二人は私たちの横を通り過ぎ後ろの大扉から出ていくと、女王は私たちへ向き直して言う。
「見ての通りこれから立て込みそうなのでな、お帰り願おう。下げろ」
そういうと、先程まで待機していた兵士がこちらへ来て、あっという間に私達を外へ追い出した。
「あっという間って、この事を言うんだな」
「何なのあの態度!失礼しちゃう!」
「そう怒るなよ緋華李、怒ってたってなんも始まらないだろ」
「そうは言ってもさー!」
「…モルガン」
「ん?どうした?レオン」
「ううん、何でもないよ。それより、これからどうする?一度ウリハラへ戻る?」
「いや、実は寄りたい所があるんだ。構わないか?」
「別にいいけど、どこ行くの?」
「ちょっと確認に、ね」
「って、なんで今まさに戦場になりそうな所に立ってるのよ!」
私が確認したかった場所、もとい団体とは、さっきナイティルに来ているという抵抗軍だ。円卓の騎士の敵対勢力となる抵抗軍、それがどんな奴らなのか知りたくて、わざわざ二人を連れてきたのである。
「情報収集は大事だってどこのアニメも言うだろ?特に推理もの」
「異世界とフィクションを混同すんな!」
「ふぃくしょん?」
「レオンさんは気にしなくて良いですから」
「おっ、噂すれば接敵しそうだな」
荒野の遥か彼方に相対する二軍。ピリピリとした空気が遠くにいる私達にまで伝わってきそうだ。
《ウム、我も行くとするか》
はい?行くってどこに。
《何を呆けておる、無論、あの両軍の間に決まっている》
はぁ!?何言ってるんだよ!フォーさんいくら本体がここに無いからって、調子に乗りすぎじゃないか?
《誰が調子に乗っておる。精神状態の我は万人から見えぬ、所謂透明化が可能なのだ》
へぇー、つまり又聞きできると。
《それと、無属性魔法 間者の悦楽によって、お前達も話が聞けるぞ》
…因みに名付け親だれ。
《何を気にしているのか知らぬが、名付けは我だぞ》
特に気にする素振りもなく、堂々と言う梟に私は呆れ半分の顔をしてしまう。
《爺はちょぉっと天然入ってるからな。"森"の賢者だけに》
はいはいつまんないこと言ってんなよ。フォーさん、頼んでも良い?
《承知した》
今日は頭から出てきて私の頭を踏み台にすると、軍勢が睨み合っている戦場へ飛んで行った。あの梟いつか焼き鳥にしてやる。
「フォーさんのおかげで、私達も話を聞けるようになったから、ここでまったりしてよっか」
「えぇ!?あの梟ちゃんってそんな事出来るの!?」
「流石は森の賢者、その手の細工はお茶の子さいさいというわけか」
二人が感心しているのは構わないが、あの賢者が褒められるのはなぁ、気に食わないな。
《嫉妬か?》
若者がおじさんに負けて良い気はしない。
《カカッ!あの爺が聞いたらしばらくは自慢してきそうだな》
やだなぁ、言わないでおこ。
《主、着いたぞ。今から声を届ける》
頭に声が響くと、目の前に片耳だけにはめるタイプのイヤホンが出てきた。この時代にイヤホンなんて絶対に無いので、フォーさんが記憶を覗き見したとかそういう理由だろう。やましいことなど無くはないけど、無許可で見るのは、些か人としてどうかと思うのだが。
「これは、なんだ?」
「イヤホン…だよね?」
「イヤホンで合ってるよ。レオンは見た事ないよね、それに穴があるんだけど、その穴を自分の耳に向くようにはめて」
私の説明で一通り理解出来たようで、指示通りにすると、急にビクッと身体を震わせた。
「えっ!?あ、アイカっ!もしかしてこれ、あっちの声が聞こえてる!?」
驚きもそうだが、彼も男子だ。未知のものにワクワクするのも道理というもの。少年のように目をキラキラとさせこちらを見ている。
「そうそう。っと、そろそろ喋るっぽいね」
「我が名はオルフェウス円卓の騎士ロンギヌス!この白亜の城に何故攻め入る!抵抗軍の筆頭騎士よ!」
「我が名は抵抗軍筆頭騎士渡邉 千鳥。それはこちらの言い分だ、円卓の騎士」
「…これは一体なんの真似ですか。ここ最近、抵抗軍の活動が活発化している。貴殿の入れ知恵でしょう。チドリ殿」
「僕は正義とシュヴァリエさんへ命を捧げる身。シュヴァリエさんの悩みの種を殖やしているのはそっちだ、円卓の騎士。それに、モルガンの最近の統治は目に余る」
「…つまりなんと言いたいと」
「看過できないって言ってんだよ、ロンギヌス」
「我が女王の命は貴方がたの鎮圧。犠牲を出さぬ方が、両軍の為にもなりましょう、ここは一度引いてください。それに、どちらに犠牲者の天秤が傾くかなど、明白です」
「あぁ?そんな理屈タラタラ述べに来たんじゃないんだよ。今すぐ女王に会わせろ、こっちは押し通る気で来たんだ。そっちがどうなのかは知らない、ただ、王の間へ行く」
「十文字槍…こちらへ向けるか」
「はっ。そっちだって構えてるくせに。いいぜ、大将どうしの決闘と洒落込もうか」
「なんか思った以上にバチバチしてるな」
「いやいやいや!?何呑気に構えちゃってるの!決闘って、多分どっちか死ぬまで決着つかないでしょ!?止めなきゃ!」
「確かにまずいな…渡邉千鳥、間違いなく抵抗軍一の強さを持つ戦士だ」
「知ってるのか?」
「一対一で戦り合ったことは無いけど、彼の槍裁きは凄まじかった。それに、あの十文字槍"六文"も隣国の名工が造った槍。円卓の騎士と張り合える人なのは確かだよ」
渡邉…どう考えたって日本人の苗字だ。隣国の名工、もしかして。
「隣国って、どんな所?」
「そっか、知らないよね。三つある隣国の内の一つ、シャン・ド・フィオーリ。刀鍛冶の技術が高いのも特徴だけど、もう一つ、その国には凄い特徴があるんだ」
「それは?」
「自分の目で見た方が良いと思うな。俺も風の噂でしか聞いたことないから、この一件が一段落したら行ってみたいと思ってる」
どうやら日本では無いみたいだな、似た国ではあるみたいだけど。
「ちょいちょいちょーいっ!未来の話も良いけど、いま!あの衝突をどう阻止するかが重大なの!」
「ごめんって。緋華李にここまで言われたら仕方ない、レオン、お前は間に割り込む勇気ある?」
「君が行くならどこまでも。ただ、仲裁なら作戦を立てなきゃ話にならないよ。例えば、どちらかに着く…とか」
彼は真剣な口調で言う。
「反逆者となるか、王都の犬となるか・・・か」
「藍華言い方…」
「現実なんてそんなものだろ。それに、普通に仲裁に入ったんじゃ板挟みになって、こっちが潰されるだけだしな」
「ん〜それはそうかもしれないけどさー」
「俺から一つ、提案していいか」
レオンが神妙な面持ちで言うので、私もついつい畏まってしまう。
「…なに?」
「抵抗軍側へつこう」
「いや、何言ってるんですか!?レオンさん!だってそれって、あなたの友達を、裏切る事ですよ!?」
「・・・友と女王を止める為か?」
「うん、渡邉が言っていることは、事実正しいんだよ。抵抗軍へつく事によって、王都の軍より規模は小さいとはいえ、勝ち目はあるはず」
「…私は構わないよ」
「藍華も何言ってんの!?」
「王都の様子はおかしいと思ってたんだ。それに、國っていうのは、いつだって革命を必要としているものだろ?」
腰に手を当て笑みを浮かべると、私の友は長いため息をつくと、こう言った。
「レオンさんにはお世話になってるし、何より、私も王都の人達が幸せに生活している様には見えなかったからね。分かった、こーさん」
《話はまとまったか?》
ジャックか。話はまとまったけど、お前が気になるのは予想外だな。
《気にはかけてたぜ?一応。それより、爺さんがいい加減早くしろだってさ》
うぇ、マジか了解。
「そうと決まれば速く行こう」
待ってましたと言わんばかりに、レオンが前へ出ると、魔法を発動した。
「俺の風魔法で一気にあの場所まで飛ばす。準備は良いかなんて聞かないよ!」
私と緋華李の手を取ると、右足を後ろへ下げ、腰を低く構えた。
「嘘ですよね!?というか驚き過ぎて疲れたんですけど!!」
「これは私も待ったを掛けたいんだが!」
「時間は待ってくれないっよっ!!」
顔面に強風が当たる。髪の毛が何本か抜けてもおかしくはなかったが、髪がなびいているのを感じたのでひとまずは良かった。数秒もしたら私達はロンギヌス、渡邉の間に割っていっていた。だがタイミングが悪かったのか二人とも槍を前に出していて、私達に驚いているマヌケ顔を晒していた。この國にカメラがあるなら、今すぐ持ってきて欲しいほどに。
「その勝負、待った!!」
空中で剣を抜き放ち、槍が交差する一点を斬る。狙い通り、槍はずれ、二人の立ち位置が変わる。
「誰だっ」
「王の間へ来た客人…!」
二人は同時に言い、同タイミングで私達も地上に立つ。
私は隣を見やる。その顔は風で見えなかった。
「ロンギヌス卿、ここは引いて下さい」
「戯言を吐くな、レオン。言葉で分からないのならば、この槍を振るうのみ。お前も女王に仕えた身、なら分かるだろう」
「知っています。知っているからこそ、俺は貴方達に剣を向ける」
彼は愛剣を友に向ける。それにどの位の覚悟が必要なのか、今の私は、まだ知らない。
「…フェイルノート」
「あら、なにかご用ですか?」
金髪の女性は、未だ遠くを見つめていた。
「多少の荒事は私と女王陛下が認める。割り込んだ反逆者共も含めて捕虜にします」
その言葉を聞くと、ゆっくりとロンギヌスの方を向き、そして私たちの方を向いた。
「ごめんなさい、レオンとレオンのお友達さん。貴方たちの武運を祈っているわ」
そうおかしなことを言うと、手に持っていた琴を弾いた。その音は美しく、荒野に吹く潤いをもたらす風。この荒野が、緑の草原に戻ったように感じた。でも、本能が危険信号を発している。
「…緋華李危ない!!」
「私!?」
隣に居た緋華李の前が、妖しく紫色に光ったのを見逃すはずは無かった。剣で弾くと二擊三擊と、計六回ほどの攻撃を受ける。
「音の振動?振動を刃にしているとか?」
「惜しいわね、でも、答えを教えてあげるほど私は優しくないの」
続けざまに攻撃が浴びせられるが、矛先が私に向いてるのでまだ安心というものだ。気を抜いたら、一瞬で真っ二つになりそうだけど。
「お前ら一体…」
「味方ってだけ分かってもらえれば良いですよ」
「さっき死にかけてたのに余裕!?」
「レオンさん、私は藍華を信頼しているんですよ」
「護られてる側がイキるな!」
私が攻撃を捌き続けている間に雑談とか、どんな教育受けてるんだ。
「渡邉さんで合ってますね!緋華李のこと頼みます!レオンはロンギヌスの阻止を頼む!」
「りょーかい」
レオンが軽く了承する一方、肝心の渡邉さんは、
「なんで僕がこの女を守らないといけないんだ!それに、お前ら決闘に割り込むなど礼儀を知らなすぎる!」
などとワーキャー言っているが、ご生憎こちらは手が離せない。緋華李にアイコンタクトを取ると、分かったのか、説得をしてくれているようだった。
これで思う存分戦いに専念できるというもの。
でもあくまで相手を撤退させるだけで、致命傷を与える訳では無い。相手は殺すつもりでも。
「俺は貴方と戦いたくない、それは分かってくれますね?」
「それはこちらも同じだ、だが引く訳にも行かない」
二人は着実に距離を詰める、確実に、カウントダウンは進んでいく。
「やることは一緒ですよ、理由や思想が違うだけで」
彼は手に取る。固く、固く握り締めて。
「違いない」
彼も構える。矛先をレオンに向けて。
「そこを引いてもらおうか!!」
彼らは同時に言い放った。そして地面を蹴る。
風邪魔の拡散もあり、レオンが数秒の差で敵の懐に入る。
だが相手も想定内なのか、下段からの攻撃に対し、槍の柄で上から抑えつける様に、槍を振り下ろしてくる。
両者とも分かりきっているからか、フルパワーではなかった。もうその目は、次へと進んでいた。
「流石というところですか。でも、俺にも、負けられない意地があるんですよっ!!!」
下段からの攻撃を中断し、槍を受け流す形をとると、見事に攻撃は地面へと道を逸らされた。そしてすぐ様跳ぶと、今度はレオンが上から剣を振り下ろす。
しかし、当然と言うべきか、攻撃を真っ向から受け止め弾き返した。
レオンは反動を利用し距離をとる。
彼らの戦い方は、ほぼ正反対に近い。どんな状況でも見極め、順応して攻めるレオン。
相手の搦め手も、全て防御して反撃を行う、不動の守りから反撃を決めるロンギヌス。
「言ったでしょう。もう、私は後には引けないと!!!」
そんな円卓の騎士ロンギヌスが激昂する姿に、背後の騎士達は、驚きが隠せない様子だった。
「らしくないですね。いつも凜然としている貴方が、そうも心を乱すなんて」
「きっとレオン、貴方には分からないですよ。翼を持つ、貴方には」
「翼…?何を言って…」
「言葉は無用!!」
彼はそう言い、先程とは比較にならないスピードで猛攻を仕掛けて来た。




