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異世界転生は友と共に!  作者: 鬼桜天夜
第1章 『騎士の國 オルフェウス』
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円卓の騎士 アロンダイト

「戻ったぞ」


「ありがと、一時的とはいえ追い払ってくれて助かったよー」

湖の妖精も、今回はきちんと私にお礼を言ってくれた。あの黒い妖精、いや、今は体内に居る居候と言った方がいいか、そいつは、


《誰が居候だ!お前の許可取ってちゃんと対価も支払ってんだろうが!》

帰るところ無いんだったら一緒だろ。


《ングッ、言い返せねぇ》


《貴様が悪いのぉ》


《アトラスの爺は黙ってろよ!》


《貴様に言われたくないわ、居候》


《あ"ぁ"!?》

私の脳内で言い争うな、全部頭に響くんだよ。体が一瞬硬直したので何事かと思うと、人狼(リュカオン)の人達が闇の中から現れた。一人の人狼(リュカオン)が跪くと、波のように後ろにも波紋していった。初めて会った時のような狂気を感じない、霧も薄くなっているし、通常に戻ったという事だろう。

私はてっきり姿が変わるのかと思ったら、単純に戦闘能力が上がるとかそれだけなのか?


《お前の為に補足をすると、人狼(リュカオン)は目の色で判断出来るぞ。三種類あり、黄色の目は狼、今のような青色は狼と人狼が半分ずつ、そしてお前が遭遇した時の赤色は戦闘態勢を取っている。青色の状態でも、あの長ならお前より強いだろうな》

なるほど、説明ありがとう。ちょこちょこ教えてくれるの助かる。


《俺のことも頼れよー》

その時が来ればな。


「ヴィヴィ様、ただいま戻りました。通常の警護一部隊、別の二部隊を森の警護に当たらせています」

腹に一撃を入れた人狼(リュカオン)が報告をする。


「そうしてくれると助かるよ、活発なのは夜だけだし朝になったらめいいっぱい休憩させてあげて」


「はっ!承知しました、失礼します!それと、不法者」

彼は立ち上がると、顔色を変えずに言った。


「確かに私が悪いけども、そこまで言わなくたって…」


「此度の助太刀、人狼(リュカオン)の長、そしてウィル・ガルーとして感謝する。同胞とまではいかないが、またこちらへ来た時はもてなす程度はしよう。」

こちらに獣の手が差し出される。友好関係を築こうとまでは言っていないだろうが、敵意を向けられる事はもう無いようだ。夕方に出会った時は最初腹パンして来たのに、もう握手を交わそうとしている。

それがどうにもおかしくて、つい笑みがこぼれてしまう。この笑みを、彼はどう取ったかは知らないけれど、深く考えていないと良いな。


「こちらこそ」

堅く、固い決意をもった握手をする。


「さて、そろそろ私は帰るよ」


「朝までここまで休んでいったら?貴方の仲間も、森の外で野宿しているようだし」


「…なら、お言葉に甘えて、この森で休ませてもらうよ」

そして数分後、私は草むらに背中を預けている。瞼を閉じてゴロゴロしていると、意外と寝心地がいいことに気づく。前世だと無音の世界というのはなかったので、新鮮な気分だ。他の人が見たら死体かと勘違いするような姿勢で眠る。私は先程から気になっていた事を聞いてみようと考えた。

フォーさん、一つ思った事言ってもいい?


《何だ?》

この世界の人、姓名どっちもあるんだね。


《そりゃそうだろー。人間なら割合的には苗字あるやつの方が多いんじゃねぇか?》


《ジャックの言う通りだ。我の記憶では、日本のような国もこの世界にはあったと思うぞ》

そっか、それは夢が広がるな。そういえば聞くタイミングが無かったが、リリスは魔法を変化させていたが、あれは私でも出来るのか?


《無論可能だ。言っただろう、魔法は創るものだと。故に、強化させるのは道理であろう》


《俺やアトラスの爺、もしくは他の奴らの権能(スキル)も、もっちろん進化するぞー》

思ったんだけど、権能(スキル)を持つ条件って何だ?

そう、それが私の一番疑問だった。魔法は先天的なものなのは分かった。だが私が持てる様な権能(スキル)はどうすれば手に入れる事が出来るのか。特定の条件があるものなのか。それが知りたかった。


《曖昧なのでな、一概には言えんが、例えば我の能力は元々我に備わっているものだが、それは権能(スキル)扱いとなっておる》


《俺も権能(スキル)持ちだけど、先天的と後天的両方持ちだからな。後天的な方は闘っていくにうちに勝手に手に入れたって感じだしな》

二人はさして気にしていない様子だった。私が焦り過ぎているのか、それとも彼らが気にしなさ過ぎるのか。それは重要な事では無いが、私をムッとした感情にさせるには十分な答えだった。

なら、二人とも分からない、という事でいいんだな。


《お前が強くなれば、そのうち分かる事だろう》


《今は寝ようぜ。ふわぁぁぁ、俺もう寝まーす》

こちらの話はどこ吹く風で、頭の中で各々動いている。動いていても何も感じないからいいが、どうも適当にあしらわれた気がする。『はぁ』と現実でため息が出てしまったので、余計に自分の心労が分かった。私も寝ようと寝返りを打ち、フードを深く被る。危険が絶対に無いと言い切れはしないが、それでも、ここまでずっと絡みついていたものが緩くなった気がする。眠りに落ちていく。肩の力みは少なくとも無くなっていた。




「もう行くよ、お世話になりました」


「今度は歓迎したげるよん」


「時間があったら手合わせしよう」


「その時はお手柔らかにして欲しいものだ」

普通、とは少し違うが、仲間なら、友達ならばするであろう会話。別れも再会も、初めましても、全部新鮮に感じる、それぐらいこの旅は、私にとって新たな世界を拓いているということなのだろう。


「また会おう、いつか、また」

強い意志が込められているのは明白だった。だからこそ、彼らはそれに答えてくれた。


「あぁ、また」


「バイバーイ!」

背を向けて歩き出す、再会を願いながら。彼女の顔は、晴れやかだった。その背中を見つめていた彼らは、最初は爽やかな表情をしていたが、次第に険しくなってくと、彼が口を開いた。


「此度の件、どう見ますか」


「どうも何も、彼女の差し金と見て間違いないでしょう。それに彼女の残り香、間違いなく魔の気配があるわ」


「あの女のものではなく、ですか?」


「えぇ、別の組織も動いていると見て間違いないと思う。波乱の展開の幕開けって感じね」

声色には様々な思いが含まれていた。微小の焦りと、不安が、その声にはあった。





森を指示された方角へ向かって歩いていく。昨日とは違い、陽の光が葉の間から入って来ている。昨夜のような霧もなく、道も教えて貰い憂いもない。憂いは全くないとは言えない、あれから一日経っているのが気にかかる。森を出た後の行動を一切知れていないから気になるな、なるべく早く合流できるといいが。私の足は自然と速く動いていた。

真っ直ぐ行けと言われたが、こんなに森が深いと同じ方角へ進んでいるか不安になる。そのお陰で周りをよく観察していた、それが幸いし、本当に小さな変化に気づけた。

私は急ブレーキをかけ、辺りを見回す。朝もそこまで早くないので朝靄もなく、よく見回せるが特段変化はない。神経質な方だとは思うが、それにしたって何かが変わっている。形容するのは難しい、人狼(リュカオン)達や湖の妖精とは違う雰囲気。魔物と退治した時とは違う、むしろ清らかというか・・・


「この森に人、なるほど、貴方が件の御方(レディ)ですね」

木々から出てきたのは、茶色の艶やかな毛並みの馬に乗った、全身を鎧に包まれた騎士。青と銀のコントラストの見栄えはいかにも騎士らしく、輝いている。金のラインも、より甲冑の姿を際立たせている。

だがそれよりも、本能が察知したのは別の場所だった。腰に携えた華やかな装飾がされた剣。レオンのよりかは大振りだが、大剣とまでは言えない位の大きさ。華やかだが必要最低限に抑えていて、この武器の強さがよく分かる。刀もそうだが、ただ腰に着けるだけの武器は見かけだけで耐久度も切れ味もそこそこというのが多い。だがこの剣は違った。剣の装飾は強さを飾っていた。使い手だけでなく、剣自体にも何かしらあるのだろう。

白馬の王子様さながらに登場した騎士は、こんな状況下でなければ王子様が自らお迎えに来るシーンだっただろう。童話に出てくるような白馬ではなく、普通のかわいい馬だが。騎士は馬から降りると、こちらへ近づいてきた。


「貴方はアイカ様、で、合っていますね?」

騎士の國、王都からの使者、とかか?それなら逆に有難いタイミングだ、だがもし違うなら、なぜ知っている。最悪の結末(シナリオ)をシミュレーションするが、それは意味を成さなかった。


「我らが女王より、話は聞き及んでおります。それより前にレディ・ヒカリとレオンが、主にヒカリ様ですが、御方(レディ)の事を慌てながら説明して下さいましたよ。良き友をお持ちですね、妬けてしまいます」

顔は(かぶと)によって見えないが、声は笑っていた。どうやら堅物な人では無さそうだ。それにしても、女王、ヒカリとレオン。女王の事が話に出るなら信用してもいいかも、

そして二人はこの人と出会っている、それならここに居ないのも納得だ。探してくれと頼んだのか、それなら待ってくれていい気もするけど。


《拗ねておるのか》


《不貞腐れちゃってー、かーわいー》

黙ってなさい脳内組!というか人の思考を覗くな!

騎士さんから見たら平然としているが、このような会話をしているだなんて思ってもいないのだろうな。


「二人は無事なんですか?」


「えぇ、レオンは王都までの道を知っていますからね。それに彼の強さは本物です、ここまでの旅で、貴方も存じ上げているでしょう」

私はえっ、と声を出しそうになった。その代わり、きっと目を丸くしていただろう。レオンは王都では都を追放された人間の筈だ、口ぶりからしてそんな人を認めている、いや、認めている以上だと言っているようだった。彼はレオンと旧知の中、とかだろうか。


「はい、私の友達は強いですよ。騎士様、友達の事を教えてくれてありがとうございます」


「いえ、騎士として、それ以前に人として当然ですよ」


「あの、宜しければ名前を教えてくれませんか」


「いけませんね。私とした事が、すっかり忘れていました」

言い終わると、片手を胸に手を当てて一礼する。


「私は円卓の騎士 "アロンダイト"。湖の警護を女王より仰せつかり、森と都を繋ぐ者です」

アロンダイト…!それに円卓の騎士だって!?


「え、円卓の騎士だったんですか!?」

私は思わず口から声が漏れ出てしまった。

円卓の騎士御本人に会えた事もそうだが、名前がアロンダイトだと言うことだ。アロンダイトと言ったら名だたる聖剣の一つ、その名を自分の名前では無いとしても冠するとは…円卓の騎士とはよく言ったものだ。

でもアロンダイトの所持者は、物語だとランスロットだった筈だ。物語でも重要な人物として描かれて、ってその話じゃない!


《誰に言ってんだお前》

整理してんの!情報量が多いから。


「円卓の騎士と会うのは初めてでしたか。あぁ、だからといって畏まらずとも良いですよ。私はそういう空気はあまり好きではないですし、レオンの友にそのような態度はかえって失礼ですしね」


『ありがとうございます。あの、一つ聞いてもいいですか』


「はい、構いませんよ」


「レオンは、円卓の騎士候補だったと聞きました。だから、知り合いなんですか?」

この人なら、何故レオンが王都から追放されたのか。女王から邪険以上の扱いを受けている理由を知っていると思ったのだ。その予想は的中したのか、顔は冑によって伺えないが驚きの声が掠れて出てきていた。


「なるほど、そこまで…」

アロンダイトは顎に手を当て、時間を置くと私に話しかけた。


「アイカ様、いいえアイカ。レオンの友ならば、一つ話さなければなりません」

アロンダイトはおもむろに兜を外した。その顔は険しく、悲しい顔をしていた。瞳も髪も、湖の騎士の名に相応しい深い青。深海のような青色は、今の悲しげな表情と合っていると思ってしまった。


「我ら円卓の騎士は、その理由(わけ)を知りません。ですが、私はこう思うのです。レオンと女王には、因縁という言葉では語れない関係だと」


「因縁では、語れない?」


「女王の御前でこんなことを言えば撥ねられてしまいますが、私はそう思っています。事実、女王に不信感が募っているのは(みな)が薄々感ずいているのです」


「レオンを追放したから、女王への疑念が浮かび上がっていると」

アロンダイトは目を伏せ、手に握っている兜を握りしめる。ミシミシという音を立てているので、兜が粉々に砕け散るんじゃないかと思うほどだった。目を開けると、こちらをさっきと同じく悲しい、しかし決意を含んだ目をこちらへ向けた。


「これ以上は私からは何も、ですが忘れないで欲しい。貴方を友と認めたレオンの決意を、どうか頭の隅に置いておいて下さい」


「決意…そうですね。分かりませんけど、知っています。でも、何でアロンダイトさんは、そこまで親切にして下さるんですか?」


「レオンとは円卓の騎士内なら二番目に仲が良かったですからね、友のよしみですよ」

初めて彼は笑った。友の名が出てきたからだろうか、友の有朋(とも)と出会えたからか。その笑顔は、混じり気のない無邪気なものだった。でもそこにあるのは、抑制のある微笑だった。その微笑だけで、あぁ、この人はそこまで人を想えるのかと感嘆せざるを得なかった。

彼は背を向けて歩き出すと、こちらを向いて言った。


「さぁ、行きましょう。持ち場を離れていては女王に怒られてしまいますが、今回は出血大サービスです」

振り向いて控えめに左目をウィンクすると、また歩き出して兜を被った。友達を慮り、堅苦しいだけでなく私のような何の地位も持たない庶民にも優しくできる人、かぁ。


《惚けておるんじゃないぞ》

いやそういうのじゃなくてさ、ホント単純だけど、いい人だなって。


《お前と出会ってまだ少ししかしてないけど、そういう事言うタイプなのな》

あまり言わないのは事実だが、そこまで意外そうに言わなくても。ただ、女王の印象が悪いから円卓の騎士の印象も悪かったが、そうじゃない人もちゃんと居るんだなと思っただけさ。


《…そうか》


《爺、なんか思う事でもあるのか》


《何も無い》


《あっそ》

痴話喧嘩なら私の居ない場所でやってくれ。

私は小走りでアロンダイトさんの隣へ行くと、上を見ながら並走する。


「案内、お願いします」


「えぇ、任されました」




あれから森を抜け、少し平原を歩くと小高い丘が出てきた。歩いて、と言っても私はアロンダイトの馬に、一緒に乗せて貰っているが。丘はどこから風が吹いているのか、爽やかな西風が届く。そして眼前に見えたのは、白亜の城。城自体が要塞で、都は砦という情報が直ぐに私の頭が理解した。戦の為に作られた造形美、だけどその目的さえも美しく見える。白亜の壁は、穢れは一切寄せ付けず、誇り高くそびえ立っている。私のような建築のいろはを知らなくても、圧倒させられる城。そんな私を見て、何を思ったのか笑いだしたのだ。私は『そんなおかしな顔をしていました?』と聞くと、「えぇ、とても」と笑いながら答えた。


「彼らは先に着いている筈です、先を急ぎましょう」


「はいっ」

私は後ろで揺られながら、流れていく景色を目に焼き付けた。





「お疲れ様でした、体調が優れないなどは…」


「何ともないですよ、お気遣いありがとうございます」

門前まで来ると、改めて壁の大きさに驚かされる。塀を登ろうものなら、数十分はかかってしまう。これなら回り込んで潜り込んでる間に、巡回兵に見つかってアウト。正面もこちらからは中は見にくいが、中からは見やすい構造になっているんだろう。籠城戦は城の人だけでなく都の人を巻き込むから、被害が大きくなるのが懸念点だな。


「ここまで乗せてもらってありがとうございました。アロンダイトさんは妖精の森へ戻るんですか?」


「そうですね、同僚に見つかっては叱責されてしまいますから。それと…」


「それと?」


「できればさん付けを、その、無くしていただきたいのです」


「えっと、理由を聞いても?」


「円卓の騎士は敬われ、今日この日まで来ました。様付けや友からの呼び捨てなどは馴染みがあるのですが、さんと呼ばれるのは、慣れなくて、ですね・・・」

兜があってどんな顔をしているのかは全然見えないが、頭が左右へちょっと揺れていて、目線もそれに合わせて動いていると思うと、どうにも可笑しくて笑ってしまった。お茶目なのが見え隠れしていたが、まさかこれ程とは思っておらず、それがまた可笑しい。


「そこまで笑わなくてもいいでしょう」

私が笑っていると、彼はどうにも面子が立たないのを気にしているようだった。騎士だろうと人間なのだから、お茶目なのも親しみやすくて私はいいと思うが、彼はそうは思わなかったらしい。





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