プロローグ
「・・・マジか」
今、この現状を表すのに私の知識ではこの言葉が1番適してると思う。
何故かって?実際、有り得ない事が起きてるからだ。友達と目当ての物を買いに、近場のお店に入ったらまさかの強盗とばったり、まるで漫画のような展開に。そしてまさかの私達が人質という最悪の状況。強盗犯は銃を持ってる。という事は、私と友達、もしくはもっと多くの人を殺す可能性がある。
つまり、"死"が擦り寄ってる訳だ。
自分で言うのもなんだが、私は、かなりの変わり者だ。挙動不審になるとかいつでもアヒャヒャヒャと笑うとかそういう類ではなく、変わり者。それがしっくりくる。だからというか、いつか死ぬっていうことも、心の片隅にはあった。だけど私はただの一般人で戦争に身を置いてるわけじゃない。当たり前だけど、"怖い"。予兆がないなら、こんな気持ちにもなっていないと思うけれど。
「・・・」
私は一緒に人質になってしまった友達を横目に見る。あからさまにビクビクとしていて、これが普通の反応なのだろうが、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。元はと言えば私が買い物に行こうと言ったせいだ。それが余計に、胸を締め付ける。そんな事を考えてると、強盗犯と目が合ってしまう。
「おい!てめぇ何みてやがんだ!」
「・・・何も、ないです・・・」
迂闊に手は出せない、か。
だが彼女が変人と呼ばれる所以が、駆り立てる。
良く考えれば強盗犯は一人。押さえつけるくらい私だけでできるのではないか?正常な思考回路を保ってる内にやっちゃった方が良いのでは?
今、私の事は抵抗出来ない都合のいい人質としか思ってない。一矢報いれば多少の時間稼ぎはできるはず。あとは警察に任せるとしよう。無責任なのも分かってる、でも、やらずにはいられない。可能性が、そこにあるのなら。
それじゃあ行くぞ。3、2、1・・・
「ふっ!!」
「ぬぁ!?」
一瞬揺らいだ隙をついて、右手にある拳銃を手で弾こうとする。
「・・・え」
銃声が鳴り響く。
体がスローモーションで倒れていく。自分の体に強い衝撃が走る。それすらも、鈍く感じた。床に血が広がる。
「ヒッ!?おっ俺は殺してな、、、!!」
脳がようやく理解した、彼はもう一丁拳銃を持っていたのだ。迂闊だった。そう考える思考も、だんだんと薄らいでいく。他の人が殺される心配が一瞬よぎったが、そんなことはないようだ。遠くから走る足音が近づいてくる。きっと警察が来る時にはもう私はダメなんだろうな。
「!藍華っ!」
「うっ動くんじゃねぇ!!!」
またも銃声が鳴り響いた。そのターゲットは、私ではなく、友達だった。
「ゲホッ!!」
血が飛ぶ。赤い絵の具を付けた筆を、無造作に振ったように。その筆が、誰かの命を散らすとも知らずに。
「!!!ぁっ、ぃっ!」
なんで、なんで動いたんだよ!
自分だけが犠牲になれば良いと思っていたが、友達は私は助ける為に動いてしまった。その点では、私もあの子も似たもの同士だろう。悪い意味でも良い意味でも。
悔やむ時間すら、私には残されていない。私の片目は血に浸っているが、もう片方の目で上を見る。友達が銃の風圧と弾に吹き飛ばされていく。体が地面にあたる音がもう一度鼓膜に響く。涙が目に溜まっている、流れることは、無い。
そろそろホントにやばくなってきたなぁ。指先の感覚も、徐々に無くなっていく。緋華李の奴、最期に、いつもこんな無愛想な私にも、喋ってくれて、遊んでくれてありがとうって、伝えてないなぁ。
もう一度、仲良く、遊びたい、な。
そう微睡みながら、私は血溜まりの中に沈み込んでいった。
「ねぇ、起きてって、藍華!」
聞き慣れた友達の声のモーニングコール。朝は二度とこないはずなのに、空にある陽は高く昇っている。眩しい。上半身を起こすと、目の前には一面の緑、緑、緑。
「え?いや、え?」
「うん、私も最初そう思った」
上からニコニコ顔で覗き込んでくる友達。その顔をもう一度見れるのは喜ばしいが、罪悪感が胸から離れない。でも、今は。
「思ってる事は一緒だよね?」
「答え合わせしとく?」
「せーのっ!」
胸に抱く思いは、違うけど。彼女達は息を合わせ。
「私達!転生してる!!」