挨拶。
会長室の前で立ち止まり、深呼吸をする。
緊張で手が震えてるのが分かる。
意を決してノックをすると、中から声が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
「あら!秋原君、待ってたわ。事情はある程度、察しているわ。ま、座ってちょうだい」
俺は会長に言われた通りにソファーに腰を下ろす。目の前には俺が来ることを読んでいたかのように、暖かいハーブティーが用意されていた。
「ハーブティー、好きだったわよね?」
「はい、特に会長の入れてくれたのは何故か凄く落ち着くんですよ」
「もう、そんなお世辞を言ったって後で食べようと思ってたプリン位しか出ないわよ?」
「お世辞なんかじゃないですって」
なんか親戚のおばちゃんみたいなノリで冷蔵庫からプリンを取り出す会長。今日は妙に浮かれてるなー。ま、可愛いからいいんだけど。
まぁ、そんな感じで程よく緊張も解けて来たので俺は話を切り出すことにした。
「会長、投票で俺、生徒会を辞めることになりました。会長に勧誘されて入ったのにこの様な形で辞めることになってしまい、すみませんでした。俺が、ダメなばっかりに会長の顔に泥を塗るようなことになってしまいました」
「秋原君、顔を上げて?貴方は本当によく働いてくれたと思っているわ。貴方の役職はクレームや相談の対応だったわよね?あの仕事は誰にでも出来ることじゃないわ?柔らかい物腰と冷静な判断力で色んな問題を解決していく貴方はとっても素敵だったわ。だから、ね?もっと自分に自信をもっていいのよ」
そう言って会長は俺に微笑んでくれる。
「あ、ありがとうございます……」
「あら?照れてるの?照れた秋原君も可愛いわ」
「照れてなんか……なんか……ないですよ」
「んふふ、明らかに照れてるじゃない」
「しょうがないじゃないですか。俺、褒められるのあんまり慣れてないんです」
会長はもう一度「可愛いわね」と言うとハーブティーをすする。
今の俺の顔、真っ赤なんだろーな。
照れる俺と、やけに上機嫌な会長、二人っきりの会長室はゆっくりとした時間が流れて行く。
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しばらく談笑し、あらかた話題も無くなってきはじめた頃、会長が少し決心した様子で話だす。
「さて、そろそろ本題に入ろうと思うのだけれど。秋原君、貴方、もう部活とか決めたの?」
よく、入学したての新学期とかに耳にするセリフだが、今は十月、もう入学して半年以上が過ぎてる。じゃあ何で会長はこんな事を言い出したのか。それはこの学校の校則にある。
『坂の上高校 校則 第三条第二項、生徒は皆、部活動又は委員会に入部、入会すべし。』
何とも古い校則だと思ったが、校則である以上従わなければいけないのは、これまた事実な訳で。
「やっべ、すっかり忘れてました」
今までは生徒会に入っていたので良かったのだが、解任された今、何かしらの部活か委員会に入らなければならない。っていうか委員会は後期になったばっかりだから無理だろう。
じゃあ部活か?まず運動系はある程度しか出来ないから……、文化系だろうか。
「んーむむむむむ、」
「かなり悩んでるわね。」
「そりゃ悩みますよ。ほとんど平均位はできるんですけど、どれが自分に合ってるのかと……」
「そんな秋原君に耳よりな情報があるのだけれど、聞く?」
「聞きます!」
「驚くほど即答ね。嬉しいわ」
そう言って会長はイタズラっ子のような顔になる。何か企んでいるのだろうか。
「まぁまずこれを見てちょうだい」
会長が取り出したのは一枚のプリント。
うちの委員会の構成図だ。
1番上にデカデカと書かれているのは生徒会長、そしてその下に生徒会、その他委員会がズラズラと書いてある。
「と、まぁこんな感じで学校を回しているわね」
「こうして見ると全生徒の上に立つ会長って凄いですね」
「それだけプレッシャーもあるわよ?」
「そりゃそうでしょうけど……、」
でも、このプリントがどうかしたんだろうか。
一見、入学当初に配られた資料と何ら変わらないような気もする。
「それで、このプリントがどうかしたんですか?」
「このプリント自体には何もないわ。ちょっと待ってて……、」
そう言って会長はプリントに何やら書き込み、見せてくる。
んー、なになに?
会長は、生徒会の下に矢印を書き足し、生徒会長補佐の文字を丁寧に書く。
そしてデカデカとまるで囲み、直属♡と文字を入れる。
「新しく生徒会長補佐って役職作ったわ」
「アハハ、冗談でしょ……。なんです?生徒会長補佐って」
「冗談なもんですか!役職は名前の通りよ。私の補佐、主に仕事を手伝ってもらったりするわ。これが通るまでに二ヶ月かかったの。今日、ようやく許可が降りたところだわ」
「二ヶ月って言うと、会長になって少したったぐらいですか」
「そうね。その時から渡辺君はうるさかったもの」
ん?なんでここで渡辺の名前がでて来るんだ?
「なんで渡辺先輩が、これに関係あるんですか?」
「あまり話たくは無いのだけれど、彼はずっと貴方を追い出そうと躍起になってたわ。それで急いで補佐を作ったの。まぁ、二ヶ月もかかってしまったのだけれど、最後まで秋原君の為に頑張れたわ」
「俺の為に……?」
「そうよ?全部あなたの為にやったわ。だって私には、秋原君が必要だもの。」
どうしよう……、めちゃくちゃ嬉しい。
ここまで人に必要とされたのは初めてだ。
「さあ、秋原君。私の右腕として、共に活動して行かないかしら?」
最後に会長はそう言って俺へ右手を差し出した。
「もし、君が私と働いてくれるのなら、この手を取ってくれると嬉しいわ」
「最後に一つ、聞きます。本当に俺でいいんですか?」
「何度でも言うわ。貴方じゃないと嫌よ。私は秋原君とやっていきたいの。それに、もし秋原君に補佐の仕事を断られたら二ヶ月の努力が水の泡だわ?」
「その言い方は卑怯でしょう?」
「だってこう言ったら断れないでしょう?」
そう言って会長は俺の目を見つめてくる。
その目は俺が会長の手を握ることを確信しているようだった。
「……、これからもよろしくお願いします」
そっと会長の右手を握る。
およそ、五千人の頂点に立つその人の手は、とても小さく、普通の女の子の手だった。
なんで、会長は楓の活動内容を知ってたんでしょうね。それはまたどっかでやるとして。
どーもMomijiです。
何と、この作品、日刊ランキング乗っちゃんたんですよ。びっくりです。
昨日投稿したばっかなんですけど!?みたいななんじです。
ま、それはそれとして、これからも皆さんに楽しんで頂けるような話を書こうと思っているので、ブクマや、ポイントをよろしくお願いいたします!じゃーね!!バイバイ(ヾ(´・ω・`)