とある女子高生の夢
こっから第二条です!
葵が中3の時の過去話です。
「……グスっ……ヒグッ……」
あぁ、またこの夢だ。
少しだけ見覚えのある屋上。
私の目の前では青みがかった黒い髪の少女が泣いている。ただ、いつも見ている髪と違うのは長さが肩の高さまでしかない事だ。
よく見ると顔も少しだけ幼いかもしれない。
私のは不安になり、その子に声をかける。
「大丈夫、大丈夫よ。今にきっとあなたを助けてくれる王子様がやってくるわ」
だが、そんな声は少女の耳に届かないのか、はたまた夢の中だからなのか、ずっと泣き続けている。
私はその子の涙をどうする事も出来ず、ただ突っ立っていることしか出来ない。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせるように、その言葉を繰り返すことしか出来ない。
と、屋上の引き戸が開き、誰か入ってくる。
ええ、私は知ってるわ。あなたの王子様よ。
なおも泣き続ける少女に、まだブカブカの学ランを着た少女より少し小柄な少年は語りかける。
「どうしたの?」
「……ヒグッ…………グスっ…………」
少年に問い掛けられても何も言わない少女。
そんな彼女を不思議そうに見た後、少年はその子の隣に腰掛けた。
そして何も言わずにその子を眺めている。
しばらくして、少女が泣き止んできた頃、少年がようやく声を出す。
「落ち着いた?」
「…………(コク)」
少女は声を出さずに、ただ顔の動きだけで反応を示す。
その反応に満足したのか少年は次の言葉を紡ぐ。
「じゃあさ、何があったのか。話してみてよ」
「…………なんで?……」
そんな少年の言葉に少女は少し警戒したように尋ねる。そんな少女に少年は慌てた様子で、
「えっ、あっ、いや違って、無理にでも話してみて欲しいとかでも、俺が解決するとかでもなくてさ、話すだけで楽になることもあると思うんだ。だから話したくなければ話さなくていいし、話すって言うなら聞くってだけで」
「…………そう」
そんな少年の様子に少女の警戒は幾らか和らいだようだ。
少しづつ口が動き始める。
「……私、実はクラスがもっと良くなればいいのにって思って学級委員長に立候補したの、」
そっから先、少女は堰を切ったように話し出した。内容はクラスの風紀が乱れてきたので、注意をしまくっていたら煙たがられている、というありふれたようなものだったが、少年はただ真剣な眼差しで頷きながら話を聞いてくれていた。
「でね、誰も彼もが今じゃ私を煙たがっているの、ちゃんと風紀を守って欲しいだけなのにね。それとも私が間違っていたの?私が折れて風紀の乱れを受け取れるべきだったの?担任の先生もお前は少し硬すぎるって言ってたし……」
少女はまた、涙を流しながら口早にまくし立てるように問いかけた。
「私が、頑張っても何も変わらないなら……、もう諦めちゃっていいかな?」
少年はしばらく考えると、徐に口を開いた。
「それで満足ならいいんじゃない?」
あまりにも身も蓋もない言い方に少女は目を見開き唖然とする。そんな少女をみて
「別に変な意味で言ったんじゃなくて……、なんて言えばいいか分からないけど、そうやって悩むってことはまだ満足してないんでしょ?」
そうやって笑う少年をみて、尚も少女の顔は晴れなかった。
「満足はしてない、けど無理だよ。私弱いもの、すぐ今日みたいに折れそうになってしまう、と思う」
「あはは、嘘でしょ?君が弱いなんて」
「なんでそう思うの?」
「だって普通は先生に言われた時点で折れるでしょ?でも君は今まで頑張ったわけだし、弱いとは言えないんじゃない?でもね、強すぎても折れやすいと思うんだ」
その言葉に少女は戸惑いを隠せないでいた。
「鋼って金属知ってる?硬く強い金属を柔らかい金属で包んで硬くて靱やかな刃物にするんだ。それと同じで、強いままだと折れやすくなる。だから周りの弱い部分も吸収して、芯は強くでも靱やかな、そんなクラスに君ならできると思うよ、だって人の為に泣くほど悩むことが出来る子なんだもん」
少年は最後にそう締めて、白い歯を見せて楽しそうに笑う。そして、いつの間にか少年の言葉に聞き入っていた少女は何かを決心した顔をしていた。
その様子に安堵し私は少女に語りかける。
「そう、もう大丈夫よ。彼が来たから、彼が手伝ってくれるから。あなたは今から、カリスマ生徒会長と呼ばれるまで成長するのよ。さぁ頑張りなさいな、夏乃葵!あなたはやれば出来る子よ!」
そう言ってだんだん意識が途切れて、いや、覚醒していく。少しずつ薄れていく景色の中で少女は初めてこっちを向いて笑っていた。
ふと、頭を撫でられる感覚で目を開ける。
すると、少年の時の面影を少しだけ残した大好きな後輩の顔が私を見ていた。
「ふふっ、こんな目覚めも悪くないわね、いえ、悪い所の話じゃないわ。毎朝こんなふうに目覚めたいものね」
「ちちち、違うんです!寝てる間に髪の毛触りたかったとかじゃなくて!えっと、ほら!ホコリが着いてたんですよ!会長の頭に!」
そう言って必死に誤魔化す楓君を見て、もっと意地悪したい衝動に駆られるが今日は明日の終業式のスピーチを考えなくちゃいけない。
楓君のことはそれを手伝って貰う時にでもからかうとしよう。
さて、そろそろ仕事しなくては。夢での私に嘘をつかない為に。
私は過去に今を与えてくれた少年と、ノリよく、頼もしい、私を支えてくれる存在を感じながら今日も生徒会長の業務をこなす。
補足
過去の楓は葵が先輩であることを知りません。完全に同級生だと思っています。後に卒業式で葵が壇上に立った時、悶絶しています。
謝罪、
ここのところ更新が止まって居て本当に申し訳ありませんでした。
と、言うのも小説を書ける精神状態になかったことや、新作、書きてーなー、って言う心があったことが原因です。
言い訳するつもりはないですが、どうか今までと同じくこの物語を読んでもらえると嬉しいです。