テスト勉強(弐)
「ついに来たわ!!楓君のお家よ!!」
「ハイハイ、近所迷惑なんで静かにしてくださいね」
そう言いながら家の中へ入る。
昨日は大人数だった為、リビングで勉強したが、今日は二人だけなので俺の部屋ですることにした。
「私、男の子の部屋に入ったの初めてだわ。少しだけドキドキするの」
俺の部屋に入ると、少しだけ緊張した様子で会長は言った。
いつものクールビューティはどこに行ったんだろうか。まぁ、最も最近クールな会長が出てくることの方が少ないが。
それだけ俺の前でリラックスできてるってことでいいのか?
そんなことを考えながら茶菓子を取りにキッチンへ向かう。
部屋に戻ると、会長が入口にお尻を向けて何かしていた。いや、何をしているのか一瞬でわかったが。
「会長?ベッドの下なんて探しても変な本やDVDは出て来ませんよ?っていうか当然のように家探ししないで下さいよ」
たまに林檎が俺の部屋で寝ることもあるので、本やDVDなど形に残るものは置かないようにしてるのだ。女兄弟がいると長期の禁欲だって必要なスキルとなってくる。
「あら?私はただ楓君の上に立つものとして楓君の性癖を知っておきたかっただけよ?」
「まぁ、無駄ですよ?俺、そういうの余り興味ないんで……!」
「ふーん?じゃあパソコンに入っていたこの、『コスプレ大全集』ってフォルダは?」
「さぁーせんでしたぁ!!」
どうやら会長には嘘は通用しないらしい。
と、一人で考察していたのが悪かった。
「まぁ、くっ殺ものや触手ものまであるわ!えっ、これこんな風に?うわぁ……」
「会長ぉ!?普通フォルダ開きませんよね!?なんで再生してるんですか!?」
再生ボタンを押した会長を押しのけ、急いでシャットダウンする。
まったく、油断も隙もありゃしない。
結局勉強会が始まったのは帰りついてからしばらくした後はだった。
カリカリと二人がシャーペンを動かす音だけが部屋に響く。
時計は六時半、勉強会を始めて二時間半は超えている。あんなに騒がしかった会長も今は世界地理の教科書を開き、ノートとにらめっこしている。流石、学年トップクラスの成績だけはある。集中力が凄い。
部屋をノックしてだいぶ前に帰ってきていた林檎が入ってくる。
「にぃに、勉強おつかれ!葵お姉ちゃんも頑張ってるね!」
「あら、林檎。こんばんはね」
そう言ってはにかむ林檎。超キュートだ。お兄ちゃんもうダメかもしんな───────、ん?葵お姉ちゃん?林檎??
「葵お姉ちゃん!ママが今日ご飯食べて行かないか?って言ってるよー」
「あら、それはありがたいわ。じゃあお言葉に甘えさせて頂こうかしら?」
「やったぁ!葵お姉ちゃんとご飯だ!!」
「ちょっと待って下さい?二人って知り合いだったんですか?」
「ええ、楓君の携帯に電話掛けたらたまに林檎が出るのよ。それで仲良くなったわ」
「うん!葵お姉ちゃんが色々なこと教えてくれるの!」
俺は慌ててスマホの電話履歴を見返す。
すると、俺の知らない時間の電話が何件、いや十何件あった。
「林檎には素質があるわ!!私が色々教えて上げてるの!ん?どうしたのそんな怖い顔して?」
「うちの林檎に何教えたんですか……?」
俺の質問に林檎が答える。
「えーっとね!男の子を落とす?テクニックとか、おっぱいを大きくする方法とか!」
「ほんっとに何教えこんでるんですかね……?」
「や、違うの!この子素質があるって言ったじゃない!だからね?そんなに怖い顔しないで?お願い!あっ!こめかみが、いたっ!痛いじゃない!グリグリしないで!こめかみグリグリしないでよぉー!!!!!」
結局、会長へのお仕置きは母さんが入ってくるまで続いたのだった。