会長と電話しよう!(壱)
「ふぃー、温まった温まった……」
風呂に入り、すっかり温まった俺はキッチンで天ぷらを揚げているお義母さんの後ろで揚げたてのエビ天をつまんでいた。
「こら、行儀が悪いわよ〜?ご飯まで待ってなさい」
「お義母さんは男子高校生の胃袋を甘く見てるね!こんな美味しい料理を前にして喰らわずにいられるかっての」
「あらあら〜、なかなか嬉しいこといってくれるじゃない?でもダメなものはダメよ?林檎も真似しちゃうわ」
「そうさなー……、ってあれ?林檎は?」
お義母さんが言ってから林檎が居ないことに気付く。いつもなら録画した幼児向けアニメを見てるか、宿題やってるかのどっちかなんだけど。
「林檎なら楓が風呂入ってる間に楓の部屋に入ってったわよ〜?」
「そ?りょーかーい」
そう言って俺は自分の部屋がある二階へ上がる。すると部屋の中から話し声が聞こえる。俺のケータイで動画でもみてるのか?
あれ?でもおかしいぞ?俺、しっかりパスワード掛けてたはず……、
そう、不思議に思いながらゆっくりと林檎にバレないように近ずいて行く。
背後から覗くと、なるほど、LINE電話か。あっちから掛かって来たらロックを解除しなくても応答はできるもんな。
相手は?会長!?一体何を話してるんだ!?
「じぁあ、林檎はコウノトリが運んで来たんじゃないの?」
『ええそうよ、貴女は男女の暑い一晩が生み出した愛の結晶なの』
「アンタ俺の妹に一体何吹き込んでるんだ!?」
「うわっ!にぃに、いたの!?」
『あら?その声は楓君、アンタとは失礼ね。これでも私は会長よ?』
「うるさいです!!俺の妹に変なこと教えるような人は会長じゃありません!!」
『と、言いつつも、敬語を使う楓君────』
うるさいので切ってやった。
「林檎、さっき聞いたことは全部嘘だからな?お前は小さい頃に母さんの所にコウノトリが運んで来たんだ。わかったな?」
「えー?うっそだー!あのお姉ちゃんが言ってたよ?男の人とエッチしたら赤ちゃんが出来るんでしょお?」
ほんっとにあの人は林檎に何を教え込んでんだ。俺は仕方なく机の引き出しから五円玉に紐を括りつけたのを取り出し林檎の目の前へ。
「いいか?この五円玉をよく見るんだ。ほら、眠くなってきたろう?」
「んー、なんない!!」
ダメだったらしい。
「はぁ、まぁコウノトリが運んできたってのは嘘だよ。」
「やっぱりー!!」
「でもね?エッチでも赤ちゃんは生まれないんだよ」
「えー?じゃあ何で産まれるの?」
「チューだよ、チュー。大人になったらチューしたら赤ちゃんが産まれるんだ」
「えー!?本当ぉ!?」
「ほんとほんと!ほら、毎朝、親父と母さんがチューしてるだろ?もしかしたら、もうすぐ林檎に弟か妹ができるかもな」
「えー!?やったぁー!!」
そう言って林檎ははしゃぎ回っている。まぁ結果はともあれ、これで良しだろう。
林檎に生命の神秘はまだ早い。
「ほら、林檎はもう下に降りてな。母さんが美味しい天ぷら作ってるから」
「はーい!」
いい返事をし階段をトトトと降りていく妹を確認し、ため息をつく。
そしてポケットの中でずっと振動しているケータイを取り出し、名前を確認。相手はやっぱり会長だ。
これ、出るまで永遠とかかってくるやつですね。俺にはよく分かってますから。
心の中で涙を流しながら通話ボタンを押す。
聞こえてきたのは
『よくもまあ、これだけの呼び出しを無視してくれたわね?』
ゾッとするほどの会長の声だった。
to be continued→
林檎、君はいつか真実を知る日が来るだろう。
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