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神倉の秘術聖鏡(みくらのスペクルム)  作者: 夜明導燈 (よあけどうとう)
入れ替わり鏡編
3/25

第三話 コンビニ事件

 最寄り駅の和光市に着く。外は段々と暗くなってきた。冷え込みも増し、吐く息も白い。


 改札を出て、しばらく歩くと、いつもお世話になっているコンビニが見えてきた。サービス残業をして、ほぼ毎日が終電だった遼太郎にとって、スーパーが開いていることは奇跡に近い。駅に着いた頃には、当然だがシャッターが下りている。高いとわかっていても、コンビニで飯を買う他なかった。今日はスーパーで食品が買えそうだが、遼太郎は日頃の感謝を込めてコンビニを選択する。


「ほんと、いつもお世話になってます!」


 と、自然に声が出ていた。ついでに、お辞儀をする。

 自動ドア越しに出てくる人が不思議そうに遼太郎を眺めている。


 店の中に入って籠を手に取る。夕食の総菜と朝食のパンを少々詰める。


「今日はこれくらいにしないと。タイムセールを見計らって明日スーパーに行くか」


 ふうと、ため息をついてレジに並ぶ。

 前に並んでいた女子高生二人組が楽しげに会話をしていた。盗み聞きをするつもりはなかったが、遼太郎は何故なのか『占い』というワードが気になって耳を傾ける。


「ねぇ、この占いサイト超当たるって話、知ってる?」


 女子高生がスマホをもう一人に差し出す。


「占い? 私そういうの興味ないわー。統計学っしょ?」

 

 もう一人は差し出された手を払う。


「はぁ……、これだから結菜ゆなは。三組の例の彼と上手くいきたいとか思わないの?」

「そういうのは運じゃなくて、当たって砕けろよ!」


 結菜は拳に力を入れてガッツポーズをする。全然応援できないガッツだ。


「砕けてどうすんのよ」

「号泣してやんよ」

「振られるの前提じゃん、それ~」

 

 自己肯定感の低い子だと、遼太郎は素直な感想を抱く。一方で、現実派で努力派な彼女の姿勢に自分を重ね、親近感も感じた。


「だってさ~、幼馴染みとは言え、私じゃ釣り合わないよ、この間も告られていたみたいだし」

 

 結菜は寂しそうに髪を弄りだす。


「そうかな? お似合いだと思うけどなぁ、結菜と彼」

「――はぁ? マジで言ってんの?」


 一瞬、間があった。恥ずかしかったのか、結菜の顔が赤に染まる。


「うん」

「だってアイツ、私と違って頭良いし、運動もできるし、器用だし。それに比べて私は、地味で、アイツほど頭はよくないし、ドジばっかりだし」

「そこが、結菜の魅力じゃないの?」


 結菜の友人はよく見ているなと、遼太郎は友人の観察力に感心する。


「う~ん、そうなのかな? 兎に角、大逆転ホームランを打てるバットでもない限り、私の恋は厳しいってことよ」

「ふーん。そうなんだ。でもこの占いが、結菜の言う大逆転バットになるかもよ」


 結菜の友人は、バットを構える仕草をする。


「えっ⁉ みおはこれで何か起きたの?」


 何だか胡散臭い話になってきたと、遼太郎は一抹の不安を感じる。


「実は~私ね。このサイトに書かれていること意識していたらさ」

「うん」

「高嶺の花で、一生手が届かないなぁ~と思っていたあの彼から直接連絡先聞かれて、今結構良い感じなんだー」


 澪は万遍の笑みを浮かべる。


「えっ、ちょっと何それ⁉ あの彼でしょ? バスケ部の先輩の!」

「そうそう」


 本当だろうか。澪は幻覚でも見せられているのではないだろうかと、遼太郎は心配そうに話を聞き続ける。


「あのー、やっぱり詳しくその話聞きたいなぁー、なんて思ってたりして」


 結菜も疑う様子がない。欲望に目がくらんだのか。それとも、それだけ澪を信用しているということなのか。遼太郎はとても不安そうに二人を見つめる。


「あれ~? そういうの興味ないんじゃなかったっけ?」

「うっ、それは、あれよ! ちょっとした出来心って奴?」


 結菜は照れ隠しながら、返答する。


「ふぅ~ん、そうなんだ~、へぇ~」


 澪は容赦なく、ジト目で結菜を見る。


「もう! 私だって逆転したいのよ!」

「逆転しなくても上手く行くと思うけどね~。まぁ、占ってみればいいじゃん」


 澪のおっしゃる通りですと、遼太郎は突っ込みたくなる。ただ、占いには手を出さなくていいとも思った。


「えっ、それって? 教えてくれるの?」

「仕方ないなぁ。結菜の頼みなら教えてあげよっかな」

 

 澪は一度引っ込めていたスマホを再度取り出して見せる。


「ありがとうー、澪~」

「えっとねぇ、『未来のひとかけら』って言う名前のサイトなんだけど、添付して送るね」

 

 SNSを起動して、澪はサイトを張り付け、送信する。


「うん! あっ、これね。帰りに見てみよーっと」


 始めは結菜の意見に賛同していた。占いなんて、気休めだと以前の自分なら言っていただろう。

でも、今は違う。遼太郎は気休めでもなんでも構わないから、無意識的に自分を擁護してくれる拠り所を求めていた。新たな仕事が見つかりますの一声が聞きたかった。故に興味を持ったのだろうと、遼太郎は客観的に自分の思考を振り返る。


 それと、占いにしては妙に変な感覚がある。書かれていた通りにやっていたら上手くいくなんて、そんな馬鹿な話があるのか。怪しすぎる。一種の催眠術か何かだったら、犯罪だ。


 変な正義感が生じると気が済むまで追いかけたくなる遼太郎は、帰って調べてみようと、占いサイトの名前を携帯のメモに入力する。


 レジ待ちは、彼女達の話を聞いているうちに直ぐ回ってきた。


「お次でお待ちの方、どうぞ~」


 御馴染みのセリフを聴いて、女子高生達が会計しているレジの隣へと足を進める。

 出口に近い方のレジに辿り着くと、目を疑う光景が現れる。思わず、二度見する。

 見たことのある顔。馴染みのある顔だ。というより、いつも見ているような……。



 思わずぞっとする。鳥肌が立つ。

 目の前に背は低く若いが、自分と全く同じ容姿の店員がいるではないか。


 鏡を見ているようだ。同じ天然パーマの癖毛。きりっとして濃い眉。シュッと引き締まった顔立ちと鼻。福がいつ来るのか疑いたくなる小さな福耳。アルパカのようなモフモフ感のある髪質。この質感だけは真似できないと思っていた。紛れもなく、遼太郎がレジに立っている。


「……」

「……」


 お互い無言。ここだけ時間が止まったかのようだ。

 何だこれは。何なんだ、これは。どういうことだ。

 今日一日、色々とイレギュラーが多過ぎて、遼太郎はパニックを起こす。

 ぶわっと汗が噴き出た。心拍数が高まる。ホラーとかオカルトとか、マジ勘弁。

 遼太郎は直視できず、思わず下を向く。


 ただでさえ、心落ち着かない状態なのに、ドッペルゲンガーはドッキリでも流石にやり過ぎではないだろうか。余りの出来事で頭痛が痛い。とうとう日本語もおかしくなり始める。いや、頭がおかしくなり始めたのかもしれない。


 一瞬だけ、様子を見る。 向こうも、驚いた顔をしていた。が、彼も視線を合わせないように反らして会計を始めた。


 とりあえず落ち着こうと、遼太郎も静かに深呼吸してみる。

 よくあることだ。取り乱している場合じゃない。この世には同じ顔をした者が三人は存在すると、どこかで聞いた事もある。もしかしたら、双子とか、弟がいて、どこか知らないところで生活していたとか。なんていうこともあるかもしれない。きっとそうに違いない。そこまで気に留める必要はないだろう。そう、遼太郎は自分に言い聞かす。


 目線を合わさないように辺りを見回していたら、確信できる情報が入ってくる。

 店員のネームプレートの名字が『銀鏡』で『幻中』と違うということだ。

 凄い名前だ。『ぎんきょう』と読むのだろうか。何はともあれ、思い過ごしのようだ……。


「に、二千五百円になります」


 彼も動揺している。そりゃ、驚いて当然だ。

 お金を払い、袋とおつりを受け取ると、遼太郎は目を合わさず、無言のまま店を飛び出た。



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