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神倉の秘術聖鏡(みくらのスペクルム)  作者: 夜明導燈 (よあけどうとう)
入れ替わり鏡編
11/25

第十一話 秘密の術と頼れるメイド

 

 何とか難を乗り切れた。ほんとソフィアには感謝してもしきれない。

 話が終わり、鏡人の美和が部屋を出ていくと、ソフィアが縄を解いてくれた。

 

 すぐに鏡人からのレクチャーが始まり、小一時間で簡単な動きをマスターした。

 が、特別処置も申請する流れになったので、あまり意味はなかった。


 遼太郎はやっと解放される。


「ようやく自由だ~」

「本当に申し訳ありませんですの。異常事態を察知してしまうと、手が出てしまう癖というか、訓練をしておりまして。ご主人様でないとわかった途端に手が……」


 遼太郎は首を横に振る。


「大丈夫。もう良いんだよ」

「ありがとうございますの。お詫びと言っては何ですが、せめて身の回りのお世話をさせてくださいまし」

「ありがとう。ソフィアさん」


 ソフィアはニコッと微笑む。


「そういえば、どうすれば外に出られるんだ? 家中を駆け回ったけど、一向に出ることができなくて……」

「それもその筈ですの。なんと言いましても、この術は特別ですもの」


 この屋敷はセキュリティが相当高くなっているようだ。それもそのはずだ。『入れ替わり』や『匿い』がバレたら消滅なのだから。やはり何かの術が施されていたのだろうと、遼太郎は推測する。


「鏡界でも現実でも、言葉には精霊が宿っておりますの。この精霊もランクが上がると、『聖』の霊と書く聖霊に代わりますの」

「その『聖霊』になるとどうなるんだ?」


 遼太郎がソフィアに疑問を投げる。


「力が強大になりますの。ご主人様のお屋敷にある各部屋の扉には、この『言霊』が施されておりますの」


 どおりで出られない訳だと、遼太郎は納得。恐らく鏡人が言っていた『還り霊』も『言霊』による精霊の力を示していたのだろうと遼太郎は推測する。


「で、どうすれば開くんだい? えっと、ソフィアさん」

「もっと気楽に、遼太郎様。ソフィアでよろしいですわ」

「あっ、えっと、ソ、ソフィア。どうすれば良い?」


 不慣れな感じにクスッと笑うと、ソフィアは少し自慢げに種明かしを始める。


「説明しますわ!」

「出た、このお約束ワード!」


 遼太郎は突っ込みを入れずにはいられない。


「この扉には『合わせ鏡』の言霊がかかっておりますの。開けても、開けても、永遠にたどり着けない術ですわ。下手をすると、空間を渡り過ぎて、閉じ込められることもありますの」

「最強の防犯だね。まるで迷路だ」

「でも、解除は簡単ですわ。解除アンロック! と叫ぶだけですわ。説明終わりですの!」

「えっ⁉ それだけ?」


 あっけない説明と術に遼太郎は拍子抜けする。


「それだけですわ。解除の条件は術者によって変わりますが、今回の場合は『常に術者との間に何らかの関係を持っている』ですわ。これを満たせば開きますの! ほら」


 ソフィアが扉を開けると、扉の先はクローゼットから寝室に変わっていた。


「なるほど……関係性か」


 遼太郎は腕組をして考えを巡らせる。


「近親者なら解除できるとかなのか? 例えば、血のつながりとか?」

「血のつながりは、確かに条件を満たしていますわ」


 ソフィアが指を立て、補足する。


「ですが、近親者だけですと、範囲が曖昧で広く、『常に』という条件にも当てはまりませんですの」

「なるほど。例えば、同じキーホルダーみたいなものをお互い身に着けているという状況ならば、『関係性』をクリアできるのかな?」


 ソフィアは遼太郎に向けてサムアップする。


「その通りですわ! 流石、ご主人様の現実者だけあって冴えておりますの!」

「マスターのマスターって、なんだか良くわからないなぁ」


 遼太郎は照れて、頭を掻く。


「ただし」


 と、透かさずソフィアは指を振って続ける。


「解除者も言霊の精霊を宿す必要がありますの。条件だけでもダメですわ。というより、精霊のランクが上がりますと、条件を無視して影響を与えることもできますの」

「で、どうすればその精霊は宿せるの?」


 遼太郎は首を傾げる。


「祈りですわ!」

「祈り?」


 ソフィアは手を合わせ、目を瞑って語る。


「強く深く清く、精霊が集まってくることをイメージしてから言霊を唱えますの」

「よぉっし! やってみるか!」

「試しますの? ではこれを」


 ソフィアは扉を閉め、ポケットに手を突っ込み、中からビー玉を取り出すと、手の平の上で転がす。


「これは?」

「術者はご主人様ですの。ご主人様の所持品と共通するもの、『関係性』がこれですわ」


 遼太郎はそのビー玉を左手で受け取り、ループしまくっていた大通路の風景を思い出す。そして、何げなく扉の前で中腰になると、手を広げた右手を後方へと回す。手のひらをくるっと反転させ、扉に向かって素早く押し出し、右手を突き出す。


「解除‼」


 すると、空間が動き出すような地響きが起きる。カチッという鍵が合わさったような音が鳴って止まると、自動で扉が開く。まるで魔法使いになった気分だ。


「この扉の先はさっきまで寝室だったのに、大通路になってる」


 驚く遼太郎の傍らで、ソフィアは遼太郎の仕草や反応に対して、


「そんな、解除する為にそのモーションはいるのかしら? フフッ、遼太郎様は、もしや中二病というやつですの?」


 と、ソフィアは笑いを隠し切れずにいた。


 遼太郎は恥ずかしくなり、顔を真っ赤にする。


「い、いや、その。やってみたくなって……ははは」

「構いませんが、程々にしておいた方が身のためだと思いますわ」


 遼太郎の頭から湯気が出る。


「まぁ、初めての事ですから。私も最初は目をキラキラさせて似たような感じでしたわ。でも、野外で悪目立ちして、ご主人様に怒られ、超絶恥ずかしくなって止めましたの。慣れれば普通なことですので、遼太郎様もあまり悪目立ちしないように」


 ソフィアは遼太郎の頭を撫でる。


「普通の事なんですね」

「そうですわ。現実でも使っていますわよ?」

「そうなの?」

「例えば、『いただきます』ですわ」


 それも言霊なのかと、遼太郎は新たな気づきを得る。


「新しい息吹を『頂く』意と、沢山の方々の尽力や環境が整わなければ得られないといった大いなる『感謝』の意との、両方が込められておりますの。それを忘れないために『いただきます』なのですわ!」

「な、なるほど……。考えたこともなかった」

「それを意識するだけでエネルギーが沸き上がる、それが『言霊』の力なのですわ」

「へぇ~。他にもそういった力はあるの?」


 遼太郎は興味を持ち、ソフィアに質問する。


「精霊が宿る力はこの他にもありますわよ。ご主人様と入れ替わった鏡のように特殊な物も含めますと、もっと沢山になりますわ。鏡界では総称して、秘術と呼称しておりますの」

「秘術かぁ。秘密の術ってこと?」

「『秘められた』の方が正しい解釈ですわ。存在しているのに、気づかないだけですので」

「俺みたいにね」

「遼太郎様は鈍感過ぎですわ」


 ソフィアは遼太郎にチョップする。


「あいったー」


 遼太郎は頭を抱える。


「申し訳ありませんですの。つい」


 ソフィアはてへぺろをする。


「加減してくれ」


 遼太郎は涙目で訴える。


「気を付けますわ」


 と自省して、ソフィアは話を続けようとする。


「気を取り直しまして。その中でも力は二つに分類され、魔力と真力があるのですが……聞いておりますの?」


 遼太郎は少し眠くなってきた。が、我慢する。


「お、俺は大丈夫だよ、ソフィア。続けて」

「そうですの? では手短に」


 コホンと、ソフィアは咳払いをする。


「鏡界で精霊が宿る力は全四種で、音霊おとだま言霊ことだま数霊かずだま色霊いろだまですわ。まずは言霊を覚えますの! 普段使われている言葉の真意を見つけ、その意を祈ることが基本ですの。それだけはしっかり覚えておいてくださいまし」

「お、おう。わかったよ」


 ソフィアの心に火がついてしまったのか、秘術講座は一時間ぐらい続いた。

 話自体は面白いものの、分からないことが多過ぎて、途中から遼太郎は眠くなる。


 先程のように時々ソフィアが、


「話を聞いておりますの?」


 と突っ込んできて、その度に遼太郎は誤魔化した。


 何となくわかったことは、祈りの内容によって力が変化すること、秘術のタイプによって、できることが違うこと、秘術の最高格に当たるものが、神宝とされる神器に込められた力であることぐらいだ。後は覚えていない。


「今日はもう遅いのでこの辺に致しますわ。少し長く話してしまったようで。またゆっくりお話致しますわね」

「あ、ありがとう。今日は疲れたし、もう寝ようかな?」

「畏まりましたわ。では、私はこれでお暇致しますわ。おやすみなさいませ、遼太郎様」

「ああ、おやすみ」


 ソフィアは目の前の扉に対して、指を鳴らす。すると、先ほどの轟音が鳴り、自然と扉が開いた。


「これか。さっきソフィアが言っていた、音霊と言霊の合わせ(わざ)


 ソフィアが見たかと言わんばかりに、ドヤ顔で両手を腰に当て、仁王立ちする。


「術者のレベルが上がれば言葉を発さなくても、音霊に祈りを乗せるだけで発動できますの!」


 そのままソフィアは扉の奥へと入っていく。バタンと扉が閉まる。

 

 遼太郎はソフィアが準備してくれたという寝室に向かうために言霊を試してみる。というか、やらないと寝室にはたどり着けない。大通路になる前に見せてもらった寝室を思い出す。イメージが固まり、強く願う。


「よしっ! ここだ! 解除‼」


 轟音が収まり、開錠音が聞こえると、勢いよくドアを開ける。

 鏡人の美和がバスタオル姿で髪を乾かしている。


「な、なっ……」


 遼太郎は突然の事で呆然とする。鏡人の美和と目が合い、顔を真っ赤にする。


「ん? なんでお前いるんだ?」


 予想外に、鏡人の美和は冷静な反応。


「俺も何故だかさっぱり……」


 あははと笑って誤魔化す遼太郎。


「ははん。さては現実の美和の事を考えて解除しただろ? 言霊の祈りに雑念が入ると良く起きるんだが。それにしても、おめでたいやつだな」


 鏡人の美和は顎に手を当て、遼太郎の感情を読み解く。


「ち、違うんだ、美和。決して疾しいことは。美和と一緒にいたいなとか、会いたいなって、ふと思っただけで……」


 鏡人の美和はジト目で遼太郎を見つめる。


「ほう? 遼太郎、誤魔化しても無駄だよ? わざわざ風呂上がりのタイミングでドアを開けてくる時点で、お前は疾しいことを想像していたってことだ。この変態っ! 消えろっ!」


 遼太郎は両手を前に突き出して、必死に疾しい想像を否定する。


「誤解だ! 確かに美和のことを想像したかもしれないが、開けたらここに繋がったんだ! 不可抗力だ!」

「不可抗力? 言霊には偶然などないわ。思ったままの所に波調が合い、扉がつながる。それが言霊だ! 白々しい! 彼女だからって、何でも許される訳じゃないんだぞ!」

「どうかされましたか? 美和様」


 ソフィアが隣の扉から出てきた。


 遼太郎と鏡人の美和、ソフィアの三人は顔を見合わせる。

 状況を理解したソフィアはワナワナと込み上げた怒りを拳に込める。


「さっきぶりですね、遼太郎様。まさか、言霊を少し覚えたからと言って、この様なことに使うとは。失望致しましたわ……。ご覚悟は宜しくて?」

「ご、誤解だ、ソフィア。それに、何でまだ鏡人の美和がいるんだ? 帰ったのでは?」

「お屋敷へ招集した時点で、既に夜遅い時間でしたので、私から本日はご宿泊なされたらと提案したのですわ。お風呂も寝室も私が手配をして、厳重な言霊をかけておいたのですが……。余程、遼太郎様は美和様の裸が見たかったようで。破廉恥ですこと。言い残すことはございませんわね?」


 遼太郎は汗が止まらない。遼太郎の目が泳いだのをソフィアは見逃さなかった。言霊を練り始める。


「心悪しき不届き者に、我、鉄槌を下す‼ 激怒着火炎拳ムカチャッカファイヤーナックル‼」


 ソフィアの拳が炎に包まれ、右手の筋肉量が急激に増す。目に留まらぬ素早さで遼太郎の正面まで近寄ると、腹部に目掛けてアッパーを繰り出す。ドスッという鈍い音と共に、遼太郎の身体は宙に浮く。

 痛みで熱いのか、燃えていて熱いのか、わからないが兎に角、熱い。一撃後、直ぐに衝撃波が遼太郎を襲い、天井に激突。瞬く間に遼太郎は気を失い、落下した。



 気が付くと周りは朝になっていて、遼太郎は寝室で横になっていた。お腹には包帯が巻かれてあった。不思議と痛みはない。


「あら、おはようございます、遼太郎様。今日は二月二十二日で、にゃんにゃんにゃんの日ですわ。良く眠れましたかニャン?」


 冗談めかしてソフィアがニッコリと笑っている。

 ソフィアの顔を見るなり、昨夜の事件が思い出された遼太郎は顔を青くして、ベッドの隅へ後ずさりする。


「そんなに怖がらなくてもよいではありませんの」


 ソフィアの笑顔が却って恐怖を引き立てる。


「み、鏡人の美和は?」

「美和様は先ほど帰られましたわ」


 話題を反らそうとしたが、失敗。


「まだ警戒なさっているのかしら。お腹の治療をしたのは私ですのに」


 ソフィアがムスッとふてくされる。


「昨日は、その……」

「仕方ありませんわ。過ぎたことを責める趣味は私にはないものでして。美和様なら今頃ボコボコにされていますわよ」

「ううっ……想像できる」


 遼太郎の言葉に思わず二人は顔を見合わせ、吹き出して笑う。

 笑ったおかげか、遼太郎は少し楽になった。


 ふとソフィアが手を差し伸ばす。


「手癖は悪いですが、私は遼太郎様を全身全霊でお助け致しますわ。清く正しくも導きますの。信じて頂けますかしら」


 遼太郎は熱い握手を交わす。


「勿論! ソフィア、頼りにしているよ。鉄槌もどーんとこい! 宜しく!」

「ソフィアにお任せくださいまし!」



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