地球が終わった日
僕はそらを見上げた
信じられない。このそらがあと一日で割れて無くなるなんて。
地球を常々監視していた宇宙人が地球上の全ての生命を滅ぼすと発表したのは今日だった。
「人類は増えすぎた。他の生命体をコントロール出来ると思いあがった。地球全体の生命の調和を失わせた。このバランスの乱れはもはや修正不可能である」
「よって明日隕石を落下させる。ただし正しいものが一人でも人類にいたら滅ぼすのをやめる」
とのことであった。正直まったくピンとこなかった。宇宙人は地球人のスポークスマンを使って発表した。
我が国の総理大臣もこの報道を事実と認めた。どうやら政府関係者は宇宙人と前々からコンタクトをとっていたらしい。
その宇宙人とのコミュニケーションが破綻したからこのような事態になったとのことだ。
「暴動に注意してください!ご自分の身をご自分で守れるような行動をとってください!」アナウンサーが繰り返し言っていた。
「明日滅びるのに自分の身を守ってもなぁ…」
しかし、隕石で滅びる前に暴徒に殺害されるのは確かに困る。
電気もガスも止まってない。まったく実感がない。
僕は外に出て空を見上げた。真っ青な青空。そらには大きな月が浮かんでいた。
とても穏やかでいつもと変わらない朝だった。とうてい明日滅びるとは思えない朝だった。
「死ぬ前になにが出来るか……会いたい人はいるか……なにも思い浮かばない。」
するとスマートフォンにメッセージが入った。
会いたい。今から会える?
とのメッセージだった。僕の初恋のひとだった。僕はこの人に初めて恋をして告白したが振られた。
諦めきれずに連絡先だけは残しておいた。
未だに恋慕の感情が残っているのは認める。メッセージが来たとき心が少し揺れた。
どうしたの?
と返した。
怖い。不安なの。会いたい。
どこにいるの?
家 来てくれる?
僕は悩んだ。外には暴徒がいる可能性があり、襲われる可能性がある。しかし、では何もせずにこのまま隕石に滅ぼされるのを待つのも何か違う。
行くよ。今から車で行く
待ってる。ありがとう。
僕はため息をついた。なにか期待している訳じゃない。ただ、なにもしないよりかはマシなように思えた。
車を走らせて考えていた。宇宙人の言っていた正しいものとはなんだろうか。
人類は他の生物と調和をしないと言っていた。調和が正しいのだろうか…しかし、宇宙人の言ってる調和と僕らが思ってる調和とは意味合いが違うような
道路は意外なことに静まり返っていた。
「暴徒が怖いのかな……みんなどうしてるんだろ……」
少なからず略奪行為も見られた。店のガラスは割られ中に入られていた。
不良のグループが群れをなして歩いていた。
パトカーが大声でスピーカーで叫んでいた
「多くの通報が入っています。自分の身を自分で守れるような行動をとってください!」
警察もほとんど機能してないみたいだった。
僕は彼女の家についた。
インターフォンを押す。
「だれ?」
「僕だけど」
僕はインターフォンのカメラに顔を見せる。
「あなただけ?本当?」
僕は周りを振り返って誰も居ないよ。というそぶりをして笑った。
ドアが開いた。
不安そうに彼女が出てきた。
「早く入って」
僕は促されるままに入った。
「誰もついてきてない?」
「大丈夫。後ろは確認しながらここに来た、でどうしたの?」
彼女は僕にいきなり抱きついてきた。髪の甘い香りが広がった。
「怖い」身体は小刻みに震えていた。
「頼れるのはあなたしかいなくって」
心が締め付けられるようだった。
頼られて嬉しい反面、なぜ今なのだろうか、との思いがあった。
僕は抱きしめ返した。
「最後のとき誰かと一緒にいたかった。ごめんなさいワガママ言って。」
僕は「大丈夫だよ……」と言った。
僕と彼女はソファーでテレビを見ていた。
「現在多くの場所で暴動が確認されています。国民の皆様はご自分の身を守れる行動をとってください。」
「インターネット上で多くのデマが流れています。各自デマには注意してくださるようお願いします」
「はい」
彼女はコーヒーを入れてくれた。
「ありがとう」僕は答えた。
「怖いニュースばかり」彼女はテレビを消した。そしてコーヒーを飲んで僕にもたれかかってきた。
「怖くないの?」僕に聞いてきた。
「怖いというか……実感がない感じ。逆にみんな怖がられて凄いな……みたいな、現実を受け止められてないというか……」僕は言った。
「本当みたいだよ」
彼女はスマホの画面を開いた。
ネットニュースだった。
そこには
政府が国民の地球脱出を計画中。月面をテラフォーミングする予定
「一部の国民だけ逃げられるんだって」
「そうなんだやっぱお偉方かな?」
「国民全員を乗せるのは無理だから無作為に選んで伝えるみたい。政府関係者とか有力者関係なしに」
「ま、それは……」
多分嘘だと思うけどね。
と言いかけたが言わなかった。
為政者や有力者が自分たちの席を確保しないなどありえない。無作為と言う名の作為なのだろうきっと
「私達には関係ないか。無作為の抽選って言ってもそれこそ天文学的確率だもんね。」
恐らくそれよりもっと低いだろう
「ねぇずっと家にいるのは嫌。公園にピクニックにいかない?お弁当私作る!」
と言い出した。
「あの海の見える公園」
初めてデートをした公園だった。デートと言っても付き合ってないのだから二人で遊んだ公園か
僕は彼女との会話を盛り上げられずに残念なデートをしてしまった。結果振られた。
「危なくない?」僕は言った。
「危ないときはあなたが守って。大丈夫。今から公園に行きたがる物好きは私達ぐらいよ」彼女は微笑んだ。
一緒にお弁当を作ってピクニックの準備をした。
僕は車を運転させて海の見える公園の駐車場に車を停めた。
「全然人居ないね」
彼女の予想通りガラガラだった。
僕たちは公園の見晴らしのいい場所にレジャーシートを広げてそこに座った。
「ホントに綺麗……もうすぐ地球が滅びるなんて信じられない……」彼女が言った。
僕は黙ってみていた。輝く海が見えた。
「宇宙人の冗談だったりして」
僕はそう言ったら二人して笑った。
「宇宙船に乗れる人は本当にラッキーな人ね」
彼女はそう言った。
「ラッキーなのかな?逆にアンラッキーかもよ多くの人を見捨てて月に行くなんて幸福とは言えないかも」僕は言った。
彼女は笑った「みんなそんな考え方の人ばかりだといいのにね」
二人してお弁当を食べた。
「隕石がぶつかる時ってどんな感じなのかな?」
「多分一瞬だよ。一瞬で蒸発するみたいに全部溶けてなくなる」
「その時はギュッて抱きしめていてね」彼女は僕の顔を見つめた。
僕たちはキスをした。彼女の唇は震えていた。
二人抱きしめ合った。口づけは甘かった。
しかし、心の中で満たされない思いがあった。
なんだろう……この満たされない感覚は……
僕は不思議に思った。
「あの月みたいに永遠に存在し続けられたらいいのに……」彼女は言った。
僕は月を眺めた。
「そうだね。本当に……」と僕は言った。
スマートフォンのアラームが鳴った。
「ごめん。誰からかな?」
メッセージや通話の着信音じゃない。初めて聞く音だ。
僕はチラリとスマートフォンを見ると
通知があった。
メッセージは
「緊急!必ずお読みください。防衛省」
と書かれていた
「あなたは政府が無作為に選んだ1000名の国民保護の対象となりました。あなたは宇宙船による月への移住者として選ばれました。明日軍の基地までお越しください。
なお同伴者1名まで宇宙船に同伴していただくことが出来ます」
とのことだった。
「えっ?!」僕は素っ頓狂な声をあげた。
彼女は「どうしたの?」と答えた。
「政府から……」僕は言うと
彼女はチラリと僕のスマートフォンの画面を見た。
「え?えええええ?」
彼女は僕の両手を手に取りながらスマートフォンに顔を近づけて驚いた。
そしてボソリとこう言った。
「これで死ななくてすむ……」
僕は彼女の提案で彼女の家に泊めてもらうことにした。彼女はベッドで寝ていいと言ったが僕は断りソファーに横になった。
僕は窓から夜空を見ていた。空には月が浮かんでいた。
「これで良かったんだろうか」僕はつぶやいた。
明日宇宙船にのって逃げられる。しかも同伴者を1名連れて、本当にラッキーだと思う。しかし、なぜだろう……
「同伴者誰にするかなぁ……」僕は思った。
政府からのメッセージを彼女が知ったとき、
別に彼女はなにも言わなかった。
連れて行ってとも。
「おめでとう!良かったね!」喜んでくれた。だが……
宇宙船で逃げられるのは正直嬉しい。嬉しいが、なぜか彼女みたいに素直に喜べなかった。正直微妙な感じすらあった。
「なんでだろう……」僕はつぶやいた。
なぜ素直に喜べないのか。
多分僕は自分が死ぬものだと思っていた。だけど死ななくてもいいと分かった。少なくともすぐには。だから調子が狂うのか……
しかも、他の誰か一人を助けることも出来る。
凄い幸運だ。狂喜するくらい幸福なハズだ。
だけどなぜか満たされなかった。死にたいわけじゃない、生きたいんだけど……分からない自分の心が……
僕は眠った。
朝起きると彼女が朝食を作ってくれていた。
僕は朝食を食べた。そしてニュースをつけた。
「政府は宇宙船に乗せて地球を飛び立つ国民を無作為に選択しスマートフォンおよび携帯電話にメッセージを伝えたとのことです。」
総理大臣がテレビに映っていた
「えー国民の皆様方には大変申し訳なく思っております。人類という種を残すために非情な決断をせざるを得ませんでした」
「なにとぞ国民の皆様方にはご理解のほどと、地球を離れる彼らのために祈りを捧げていただきたいと思います」
インタビュアーから質問があった。
「総理、一部の政府関係者や有力者を優先して宇宙船に乗せているとの噂が流れていますが、それについてはどうですか?」
「そのようなことは決してありえません!断言しておきます!」
地球が滅びるのだからなんとでも言えるな。責任なんて取らなくて良いんだから。僕は思った。
「ねぇ!一緒に宇宙船に乗る人誰か決めた?」聞いてきた。
「いや、まだ決めてない……」僕はモゴモゴと食べながら返事した。
「今日の今日なのにまだ決めてないの?呆れた。」
なんだか焦ったように彼女は言った。
「ありがとう。美味しかったよ。」
「どういたしまして」
僕は軍の基地に行くために家の玄関に向かった。
「行くよ。」
「そっか……じゃあね……」彼女は小さくバイバイと手を振った。
僕は少しの間思い悩んだ。
そして
彼女の方を振り返り
「一緒に行こう」と言った。
彼女は「え?えええ?本当?」と驚いた。
僕はうん。と笑ってうなずいた。
彼女は僕に抱きついてきた。「ありがとう!ありがとう!大好き!」
僕は微笑んだ。
これで良かったんだ。そう考えた。
基地へいく道すがら多くの人とすれ違った。皆基地へ向かっているみたいだった。
「これはマズイな……」僕は言った。
宇宙船による脱出の内容が漏れているみたいだった。
「これ」
彼女はスマートフォンを取り出して僕に見せた。
そこには集合先の基地の名前や集合時間、なんと当選者の名前まで載っていた。
「かなりヤバいわよ、これ。当選者って分かったら殺されるかも」
「バレないようにしないとな……」
僕は言った。
殺されるのはいやだ。
「車止められそうになっても絶対止めちゃダメよ!」と彼女は言った。
僕はうなずいた
僕たちは基地についた。
「1000人だった筈だけど……」明らかにその何倍、何十倍もの人間が基地の周りを取り囲んでいた。
「これじゃ入れない」僕はつぶやいた。
「本当邪魔ね」苛立ちながら彼女は言った。
するとスマートフォンが鳴った。
防衛省より場所をB基地に変更するとのことだった。
「場所変わったって」
僕たちは車を引き返した。新しい集合場所は比較的人が集まってなかった。
僕たちは基地の入り口についた。
兵士たちが厳重警戒している様子だった
車を近くに停めて基地内に入った
「スマートフォンの中身を見せていただいてよろしいでしょうか」兵士たちは言った。
僕はスマートフォンを渡すとなにやら端子から読み取っているみたいだった。
「身分証明書をお願いします。お連れの方も」僕たちは身分証明書を見せた。
それらを確認するとゲートの中に入れてくれた。
宇宙船はまだ見えなかった。
僕たちは兵士たちの指定した屋内の場所で待った。
「ねぇいつ来るのかな。怖い」彼女は言った。
窓から見ると柵の向こう側に多くの人が集まっていた。
どこから情報を聞きつけたんだろう
「立ち去ってください!ここは軍の基地です!大変危険です!」兵士たちがアナウンスするが一向に立ち去らなかった。
「大変危険です!下がってください!」兵士たちは大声で叫んでいた。
「突破してくるかも知れないな」僕は言った。
僕はふと青空を見上げた。変わらず美しかった。あともう少しでこの青空は見えなくなるのかと思うと切なくなった。
「申し訳ありません。お聞きください」
恐らく軍隊の上官だろう人が集まった人に言った。
「すいません。集まって頂いたのですが皆様が最初に集まっていただく予定だった基地で想定以上の人間が宇宙船に乗り込んだようです」
群衆からどよめきと悲鳴と罵声があがる。
「どういうことだ!私達は選ばれたんじゃないのか?」
とある男性が大声をあげた。
「それが前の基地で多くの人がフェンスを乗り越え無許可で乗り込んでしまいまして、今現在その多くの人を乗せてここに向かっています」
群衆はざわめいた。えーー?との声が起きる。
「それでどうするんだ!」
「私達は宇宙船に乗れるんだろうな」
「それが大変申し訳ないんですが……今乗ってる方を無理矢理追い出すのも難しく……そこで皆様にお願いなのですが、ここで辞退して頂く人はいらっしゃらないでしょうか?」
口々に起きる怒声。悲鳴。
「何言ってんだ俺たちは選ばれたんだぞ。政府が約束したじゃないか!」
「そいつらは無許可で乗ったんだろう!兵士たちはなにをしているんだ!」
「それがフェンスを破って多くの人が押し寄せて、国民に銃を向けるのも難しく、多くの人が無許可で乗り込んだ時点で宇宙船が緊急発進したのです……」
「ですからこの中で他の方に権利を譲ってもいいとおっしゃる方がいれば……」
「そんなのいるわけないだろ!お前らの失態だろ!なんとかしろ!」と誰かが叫んだ。
「なぜ侵入した奴らを射殺しなかったんだ!」
僕は驚いてその人の方を見た。
「それは……数が多く……またそのような指示も無かったものですから……」
群衆から呆れたような声が聞こえる。
ある一人の男性が兵士に向かって
「その銃を渡せ!その宇宙船がここに来たら無許可で乗り込んでいる奴を銃で言うことを聞かせる!お前らはもう頼りにならない!」
男は兵士から無理矢理銃を奪おうとしたが止められた。
「俺たちは生きる権利と義務がある!生きなきゃいけないんだ!俺たちは選ばれたんだぞ!そいつらとは違う!」
誰かが言った。
「戦おう!」
歓声が起こった。
「そうだ!戦おう!選ばれてない奴らを追い出そう!銃で武装して言うことを聞かない奴は殺すべきだ!」
またも歓声が起きた。
そうやってやり取りしていると、外から怒声が聞こえた。地鳴りのような音。多くの人がフェンスを破ってなだれ込んだようだった。
「なにしてる!兵士!撃て!銃で撃ち殺せ!」誰かが叫ぶと
群衆は悲鳴をあげ、口々に「撃て!」「殺せ!」「助けて!」「早く撃って!」と叫びだした。
僕はその様子を恐怖しながら見ていた。
群衆は僕たちがいる建物になだれ込んだ。
口々に怒声をあげている。
「自分たちだけ生き残りたいのか卑怯者め!」
「お願い!私達も乗せて!」
「自分たちだけ逃げるな!」
建物内は一触即発な状況だった。誰もが我先に乗りたがった。
僕は彼女をチラリと見た。身体がプルプルと震えていた。
僕はなだれ込んだ群衆の方に向かった。二人の子連れの母親がいた。
僕は全てが嫌になった。全てが。
僕は……
僕はその母親に向かって言った。
「宇宙船に乗る権利をお譲りします」
え?!母親は驚いた様子で言った。
「いいんですか?」
「はい!」
「いいんですよね?」僕は兵士に訪ねた。
「はい……」兵士は悩んだ様子で言った。
「ではこの子二人に……」
母親は子供二人を指差した。
僕は彼女をチラリと見た。
彼女も分かってくれると思っていた。
彼女の顔は青ざめていた。
僕は満足してそこから出ていこうとすると彼女は言った。
「あなた一体何やってるのよ」
「え?」
「なぜ見ず知らずの子供に自分の権利渡してるの。信じられない」
「でも、可哀想だったし」
「なにが可哀想なのよ。なんのためにあなたに声をかけたと思ってるの?」
「え?……」
「他の人なんてどうでも良いじゃない。その子はあなたになにをしてくれたの。その子になにか恩があるの?」
「いや、でも」
「いや、でも。ね。なにも答えられないじゃない。なにも得られない自己犠牲じゃない。ただの偽善じゃない。良いことをしたふりをして良い気持ちになってるだけじゃない!」
「違う!僕は……分からないけど……違う気がするんだ」
「全ての生命は自らを優先して生かそうとする本能があるのよ。その本能に従うのが善なのよ!それが正しいのよ!それに反するのはただの綺麗事よ!」
すると先に集まっていた群衆から
「そうだ!」「そうだ!」との怒号があがった。
勢いづいた彼女は
「あなたが死にたいのは勝手だけど私達を巻き込まないでちょうだい!」
群衆が呼応したように叫びだした。
「そうだ!」「そうだ!」「偽善者!」「ルールを破った奴を殺せ!」
「侵入者を殺せ!」
僕はめまいがした。
「あなたがそこまで言うなら」
彼女は言った。
そして子供の母親に向かって言った。
「この子のうちどっちか一人を選びなさい!私は生きなきゃいけないの!あなた達ルールを破って入ってきたじゃない!」
「私達には宇宙船に乗る権利があるの!」
僕の方を見て言った。
「あなたは乗らなくて良いじゃない!生きる意志がないんだから!私は生きたいの!さぁどっちの子供がいいか選びなさい!」
母親は泣き出した。
「この子を……お願いします」
年下の子供の方を指した。
彼女はその子を取り上げ奥の方に消えていった。
消えていく途中軽蔑するように僕を見た。
母親はワッと泣き出した。残った子供に「ごめんね……ごめんね……」と謝っていた。
僕は外に出ることにした。外には多くの群衆が集まっていた。僕はやっとのことで基地の外に出た。
すると、今までいた基地内の建物の方角から銃声が連続して聞こえた。
逃げ惑う群衆。そして怒号。悲鳴。すべてが狂っていた。
僕は車に乗り込んだ。ここから逃げ出したかった。
僕は茫然自失となりながら彼女の言葉を思い出した。
「自分を守る本能に従うのが善なのよ!それが正しいのよ!」
彼女が正しいならきっとこの地球は壊れないだろう。なぜなら宇宙人は正しいものがいるならば滅ぼさないと言ってくれたからだ。
僕は自嘲気味に笑った。
彼女言ってることに反論出来なかった。彼女の勢いに勝てなかった。
ただ僕は思う。そこまでして生きたいのか?
なぜだろう。そこまで自らの生命に固執する意味が分からなかった。
僕は高台についた。街を見下ろせる高台だった。
「ここで世界の終わりを見るか……」
小鳥が鳴いていた。蝶々がヒラヒラと飛んでいた。風が穏やかに吹いていた。雲が乱れながら形を変えて空に浮かんでいた
僕はそらを眺めた
「もうこのそらを見ることが出来なくなるのか……」
この青く美しい空、隕石が衝突したらどうなるだろうか?全ての生物は消え去り大気圏も消滅し、昼間でも星が見えるようになるだろうか
僕は思った。
そして、そらを見ながら思った。
そうだ
このそらは一つの物語だったのだと
朝太陽が起き出し、夕方には沈み夜になるように
全ての存在は滅びないといけない運命だったのだと思った。
今日が人類の落日の日だと、そう思った。
月が出ていた。美しい月だった。
全部変化して滅びていく。それをこの、そらが教えてくれているんだと
僕は思った。そして夕焼けが美しいように人類最後の時は、実は本当は美しいのだと
そう考えた
僕は涙を流していた
そして
一瞬、光に包まれた
光の中に僕はいた
どうやら隕石によって痛みもなく一瞬で死んだようだった。
「そっか正しい人は誰もいなかったんだな」僕は笑った。
恐らく月に行く宇宙船もこの分ではダメだっただろう。
光の中目の前に存在が見えた。いや正しくはテレパシーのようなものが僕を襲った。
「あなたは正しさに近い人だった」
テレパシーはそう告げた。
宇宙人か……僕はそう思った、
「どうすれば人類は間違わなかったと思う?どうすれば人類は他の生命と調和出来たと思う?」そう聞かれた
僕は答えた
「きっと人類は争い合う本能をもっていると思う」
「ただそれでも何か、ヒントがあれば、何か大事なものを知れるヒントがあれば、例えばそらに」
「そらを見たとき人はそこに一つのストーリーを見たら争いはなくなるのでは?一日ごとに、そらは変化して生まれては死んでを繰り返している。月以外は……」
「人間も同じように誕生と死を繰り返している。人類という種もやがて死に絶える。そしてそれはきっと喜びなんだ」と
「もっと多くの天体の変化を見れば全ての生命は死ぬのだと分かるのではないか?」
と答えた。どんなに間違った考えをしても、そらを見ればヒントあるのなら大きく間違えることはないだろう。そう思った。
宇宙人はうなずいたみたいだった。
やがて意識が消えていき、僕は完全に消滅した。
宇宙人は言った。
「この男の魂の欠片と細胞の欠片をあの彼らが月と呼んでいた惑星に送り届けよう。何億年、何十億年したらまた生命体が生まれるだろう。」
「あの星は一日の朝と夜の周期が早く、また頭上に常に大きく輝く月もない。月は満ち欠けを繰り返しそして沈んでは登るだろう」
「天体の全てのものが変化していくと知るだろう。そしていつかこの滅んで荒野になった星を見て気づくだろう」
あの星はかつての自分たちの母星だったと
自らの罪に気付かず滅んでしまった残骸だと
気づくだろう
魂と細胞の欠片は宇宙を漂い、そしていつかたどり着くだろう
彼らが、かつてこう呼んでいた
あの
月へ−−