ま、魔王な余が、ど、どど、童貞な訳ないんだが!? ※童貞
イラストイメージ企画参加作品。
台詞のみで構成した実験的習作です。
果たして台詞だけで情景は描写できるのか?
「魔王陛下、此度の隣国との戦争、我が方の圧倒的勝利でしたな。これも御身のお力ゆえ、爺も嬉しゅうございます」
「ははは、煽てるな宰相。余が直々に出陣したのだぞ、万に一つも敗北はありえん。勝利は必然と心得よ」
「ほほほほほ、実に立派になられましたな…………それで坊ちゃん、実際のところは」
「もう2度とやんない。マジ怖い。戦争ってあんなに殺気立ったオッサン犇いてんの? 馬鹿じゃないの? 皆痛いの嫌いでしょ、話し合いでどうにかすれば良いじゃんマジで」
「相変わらずヘタレですなー。開戦の角笛が鳴るや否や敵軍を超広範囲魔術で完全制圧し、『無為な流血は無用! 敵軍丸ごと生け捕りにせよ! 断じて殺すな、身代金が転がっていると考えろ!』などと啖呵を切られたと将軍から聞いた時はお強くなられたと爺は感動したのですが」
「それが出来るようになっただけで大進歩じゃん! 余、インドア系だよ!? 趣味は金魚の世話とガーデニングと読書な引きこもりだよ!?!!?」
「魔王としてどうなんですかのぅ、それ」
「書類の決算はやってるし、マジックアイテムで各省庁の業務効率化したから余はサボってて良いの!」
「全く、ではその世界最大最強の魔力と魔術は何の為に日々鍛錬しておられるのです?」
「余は! 死にたく! ないの!!! ……爺にこれ言うの余がまだ100歳の頃から数えて36万4752回目だし!」
「そういえば陛下もあんなに小さかったのに大きくなられて……」
「毎日言ってるよねそれ。1000年もあれば余だって成長しますー。というか300年位で成長しててそこから変わってないですー。……はぁ、で、爺。じゃれ合いはともかく、余の元に宰相直々に来たということは、重要案件があるのだろう? 勿体ぶらず早う申せ」
「そう言いつつも乗ってくださる陛下はお優しいですなぁ。……さて、本題ですが、隣国との戦争、そもそもの発端は把握しておられますかな? 陛下は軍議にはこの爺めを名代に出されておりますが」
「議事録は目を通している。確か、騎士姫と名高い第一王女が辺境視察に向かった隙に、功を焦った第2王子が軍を率いて我が国を奇襲、それに即応するべく余が戦場に引っ張り出された……だったか。あの国はどうなってるんだ全く」
「どうも、現王の体調が悪いようですな。確かそろそろ67歳でしたか」
「子供ではないか……と、そうだった、人間は100年で寿命だったか。老いというのはよくわからんが……」
「陛下は純粋な魔族ですからなぁ。爺は最近腰が……」
「嘘をつくな、ノーム族は老人の姿にはなるが老化はせんだろうが。……で、隣国との戦争の話だったか。背景の再確認をしたのはなんの為だ?」
「えー、御身の圧倒的な御力で大勝利を遂げた我が軍は、数万の人質により隣国から身代金を大量に回収、国庫、貴族の資産共にかなりの打撃を与えました。当主や次期当主をたっぷり捕らえましたので、金を毟るのは容易でした」
「話が見えんな。儲かったなら良いのだろう?」
「いやなに、少々儲け過ぎましてな。隣国が滅びかねません。それは少々国策上宜しくないということで、先方との和平交渉を行い、此方が得た金銭を返却する形となりました」
「そんな面倒な事をせずとも併合すれば……いや、種族の差が余計に面倒というわけだな、爺」
「そう。人間族の受け皿が無い状態ではお互い不幸ですからな。ただ、金をただ返すというわけにもいきませんので。やらかした第2王子の首と、第1王女の降嫁で手を打ち、まだ子供の第3皇子を即位させて属国に……その際に結納金という名目で資金返却を」
「なるほど。で、誰が第1王女を娶るのだ。将軍か?」
「いえ、陛下です」
「そうか。…………いや、そうかではないな。誠か爺」
「ええ。釣り合い的に。陛下もいい加減お妃が必要でしょうし」
「要らぬ! というより純血の魔族は魔力と瘴気から産まれると知っておろうが! 正気か爺!?」
「正気ですとも。逆に陛下も大多数の魔族は純粋魔族と他種族の雑種であるとご存知でしょうに。生殖が可能ならば問題はないですな」
「ありまくる! 騎士姫と言うからにはまだ若いのであろう!?」
「若いかどうかは種族によって評価が分かれそうですが、28と聞いておりますな」
「あ! か! ちゃ! ん!?!?!!? 余は幼児性愛者ではないぞ!?」
「陛下、人間ですので、大人です」
「ならば逆に余がジジイではないか! 余は……確か……」
「今年で1653歳ですな、大きくなられて……」
「年の差が酷い! 無理があるであろう!? そうだ、騎士姫とやらも嫌がっておるだろう、そうに違いない!」
「書簡曰く『愚弟が率いるとはいえ、万軍を打ち破る益荒男。しかも皆生かして捕らえる優しい御心の持ち主とあれば、夫として不足はありません。私よりも強く優しい殿方にお会いできるまではこの身は清くあろうと勤めて居りましたが……魔王殿になら……♡』とのこと。よかったですな」
「ちくしょうめ! ……そうだ、騎士姫と言うからにはムキムキモリモリの筋肉女であろう!? 細めの美男子の余には釣り合わんのではないか……!?」
「大量の魔力で身体強化をするタイプの剣士で、華奢な美貌から王国の黒真珠と名高いそうですぞ」
「逃げ場無しか!」
「無しですな。諦めて美女と結婚してくだされ」
「……ぐ、いや、国是であれば致し方無し。政略結婚と割り切って後宮に置いて後は無視しよう」
「ご心配なく。陛下のお部屋は既に夫婦の居室に改装中……む、ちょうど今終わったようですな。ベッドも大きな物を用意いたしましたぞ」
「余の引きこもりパラダイスに何してくれてんの!? ちくしょう、こうしてはおれん、余は部屋に戻る!」
「ほっほっほ、お気をつけて」
* * * * * *
「ぐっ、遅かったか……! 本当に改装が済んでおるではないか……! 化粧机が余の部屋にあるのは違和感が凄い! あとなんか女の子の匂いする! 侍従長の奴、妙な香でも焚いたか? この分だと本気で寝室も改装してあるな、一応確認しておかねば……!」
「ふふふ、お待ちしておりました……♡」
「あ、すいません間違えました」
「ふぅ、余としたことがドアを間違えてしま……っておらぬな。今、下着姿にリボンで目隠しと拘束をされた美女が見えたが。……爺に脅かされて幻覚でも見たか? うむ、念の為もう一度……」
「ふふふ、お待ちしておりました……♡」
「あ、ごめんなさい、ごゆっくり」
「幻覚じゃ!!! なかった!!!!! ええい、侍従長、侍従長はおるか! 余の寝所になんぞおるではないか!?」
「侍従長、ここに。……なんぞおる、と申されましても宰相様から聞いておられませんか? お妃様です。陛下、ご結婚おめでとうございます。初夜、楽しんでくださいねッ♡」
「ば、ババァ貴様ーッ!?!?!!? 百万歩譲って妃だとして、なぜ下着姿で縛られて余のベッドにおるか! 貴様の仕業だなこのサキュバスめ!」
「ふふふ、こんなグラマラスなレディにババァとは酷いですわ陛下」
「やかましい、貴様齢3万は越えておるだろうが! 余の乳母もしておったと爺から聞いておるぞ!」
「あらぁ、ママだなんてそんな、照れちゃいます♡ 坊や、久しぶりにママのおっぱい飲みたいんでちゅか?」
「ッ! ~ッッ!!!!! ……! 落ち着け、落ち着け余、侍従長のペースに乗ってはならぬ……。……ふぅ。で、なぜ隣国の第1王女があんなザマになっておる。敗戦国の姫とはいえ、余に嫁いで来るのであれば貴様の仕えるべき相手。斯様な狼藉を受ける謂れは無かろう。申し開きがあるか?」
「お妃様は処女らしく、百戦錬磨の私が初夜についてご相談を賜りまして。そこで『魔王陛下が拘束された貴女に背後から近寄って『ふっ、可愛い子だ』と言いながら背後から優しく肩を抱くシチュエーションとか良くないですか?』と提案させていただいたら、ノリノリであられたので」
「馬鹿野郎! いや野郎ではないが、バカ! サキュバカ! なに吹き込んでんの!? 相手は28歳の赤ちゃんだぞ! 情操教育に悪いわ!」
「陛下、人間は100年で……」
「そうであったな、それはそれとしてバカ! というかそんなシチュエーション余には無理であろうが! インドア系引きこもりぞ! 宰相と侍従長以外の者と喋るだけでも精一杯! 無理!」
「陛下、そんな童貞みたいな」
「ばっ、おま、バカッ、お前、あれだ、あれだ! ま、魔王な余が、ど、どど、童貞な訳ないんだが!?」
「うふふ♡」
「やめよ! 哀れみの目が辛い! ああくそッ、ともかく一度話だ話! 侍従長、爺を呼んでこい! 余は姫をどうにかする!」
「はーい、ではごゆっくり♡」
「違う! ああもう! 余の平穏な引きこもり生活、帰ってきてくれ……!!!」
「あの、魔王殿」
「あ、今解いてるんでちょっと動かないでくれます……?」
「すみません、ちょっと、そこ、くすぐったくて、ハァンッ♡♡♡」
「カメェェェッー!!?!?!!?」
「……魔王殿、あの、その……」
「………何ですか。……あ、解けた」
「あ、そこを引っ張るとその、胸当てが……ぁっ♡♡♡」
「ギャアアアム!?!?!!?」
「あの、魔王殿」
「……何ですか。……くそっ、これどうやって戻すんだ。ああ、このフックか」
「付かぬ事をお伺いしますが、その、清い身で在られるのでしょうか……?」
「ま、魔王な余が、ど、どど、童貞な訳ないんだが!? ……ああくそまた胸当てが、ああ姫こっち向くのは今はマズ……!」
「魔王殿、私、貴殿の初めてを……!」
「ちょっと、姫!? 騎士姫殿!?!?!!? ウボァーッ!?!?!!?」
〜Happy END〜