独白
『僕』の独白。
もしもし?
聞こえているかな。
……応答がないけど、電話が通じてるってことは、多分聞こえているんだよね。そのまま聞いてくれ。
で、なんだっけ? ああ、そうそう。
僕がサークルを抜けるって言ったら、サークルの部長が「あいつのSNSアカウントをブロックしろ」って言ったんだってな? 驚いたよ、もちろんトップの奴がそんなにくだらないことを言うことにもだけど、君が「なあ、俺どうすればいいと思う?」なんて相談してくるから。
君の相談は、つまりこうだろう?
僕と縁を切るべきか、このままでいるべきか。
正直に、結論から言おうか。僕は、君がどっちに転ぼうと知ったことじゃない。君がサークルの先輩に従って僕と縁を切るのも、サークルのメンバーに隠して僕とつながったままでいるのも。決めるのは君なんだ。僕じゃない。自由にすればいい。
最近、創作活動をしていて思うんだ。
今日本にいる十代から二十代前半の人々は、絶対的な正解を何一つとして持っていないんだって。ああ、うぬぼれているわけじゃない。もちろん、僕もまだ正解を持っていない。
絶対的な正解、って言うのは、他者から与えられるものじゃないよ。自分で考えた結果信じることに決めた一つの出来事のことを言うんだ。
僕はね、創作活動って言うのは、「正解がない場所で、自分の心に従った正解をたった一つ作り上げること」じゃないかって思うんだ。
例えば、小説。
小説は無数の言葉でできている。同じ言葉を、別の言い方で何通りも表すことができる。木を表現しようとしても、木、木立、樹木……ほら、既に何パターンも回答方法があるだろう?
この中から、自分の心が正しいと思う正解を選び取るんだ。これこそが本当なんだって思える奴をね。
次に、そうだなぁ、例えば、音楽。
音楽を構成するのは、ドの音から始まって、ド#、レ、レ#、ミ……計十二個の音だ。メロディーって言うのは、これの組み合わせなのさ。
それでね、音楽を作ってみたことがあるんだけど、思うんだ。
メロディーは自由。『音をどんな風に並べてもいい』って言うことは、つまり、『正解がない』って言うことだ。正解がない計算式は、終わらないんだよ。だって、ゴールが無いから。終わりようがないよな。
でも、実際問題、この世には無数の曲が生まれて、無数のジャンルが存在している。つまり、正解にたどり着いた曲があるんだ。
じゃあ、その正解って何なんだろうね。
もうわかっただろう?
作曲者自身が信じた「モノ」。それが正解なんだ。
その正解は他人が用意してくれるものじゃない。
自分が、作ろうとしているものに向き合って、考えに考えて、時には『お金が欲しい』だの、『有名になりたい』だの、いろんな欲望とも向き合って、ようやく見つけるものだ。
だからさ、創作は恥ずかしい。
創作は苦しい。
自分をさらけ出すことに他ならないから。自分の悪いところと向き合って、他人に否定されるとわかっている『正解』を生み出さなければいけないから。
……なんの話をしてたんだっけ……ああ、そうだ、人間関係の話さ。
つまりね、他人に正解を求めちゃいけないんだ。君は僕に相談しようとした。でも、それじゃいけないんだよ。
君はどうしたいんだ? サークルの奴らに疎まれていじめられる可能性があろうと、僕とつながっていたいのか?
今僕が話してた話は、何も創作だけじゃない。君が生きていくうえで全てにおいて役に立つ話だ。覚えておいてよ。
考えるんだ。考えて、どうしたいか、どうなれば正解なのか────正解なんてものが存在しないこの世界で、君が正解を決めるんだ。ちょっとクサイセリフだけど、『君のココロに従うんだ』。
ああ、ごめん。
そろそろ電話を切るよ。
今から小説を書くから。
自分の夢に向かって進みたいからサークルを辞める。これって、そんなに間違ったことなのかい? 僕は、批判されるほど悪いことをしたのかい?
このハテナは質問じゃない。問いかけさ。君自身の答えを見つけてくれ。
それじゃ、またね。
いつか、僕の小説が本屋に並んでいたら、最初の一ページを読んで、そっと棚に戻してほしい。次に見つけた人が買いやすいようにね。
それじゃ、今度こそ。
ふいに考えたことを、ほとんど改稿せず、ありのまま書きました。