異世界の初パーティー
「ミリアちゃん。パーティ組んでも良いって人を連れてきたニャ」
「ほ、本当ですか?! ありがとうございます!」
テーブルに座っていたローブ姿の少女が、こちらに振り返る。
少女は僕と同い年くらいか、少し下くらいだろうか?
肌は色白で、濡羽色の長い髪という形容がよく似合う。
猫男の期待外れ感を覆すほどの、美少女っぷりだ。
そして、巨乳というわけではないけど、それなりにソレがある。
どこ見てんのよ、って話だよね!
でも、しょうがないのだ。
思春期だもの!
きっと、歳を重ねていけば治るに違いない。
「僕はシンジ。今日、冒険者登録した駆け出しだけど、よろしくね!」
「こ、こちらこそ。ミリアといいます」
やや俯き加減で、もじもじと挨拶を返してくれた。
その様子がとても可愛らしい。
「シンジ君が受けた依頼は一角兎の討伐だニャ。完全に初心者向けだけど、それでもいいかニャ?」
「はい、大丈夫です!」
相手も駆け出しって言ってたけど、昨日今日で登録したわけじゃないのかな。
とりあえず、快く了承してくれてよかったよ。
「それじゃあ、行こうか!」
「はいっ!」
ということで、僕らは一角兎が居そうな草原に向かう。
道中、親睦を深めるために僕は雑談を持ちかける。
「ミリアは駆け出しって聞いたけど、いつ登録したの?」
「え、えっと、3ヶ月くらい前に登録しました」
あれ? 駆け出しって言う割には長いのね。
まぁ、新人同士の3ヶ月は大きく感じるだけだけど。
一角兎は僕でも倒せる雑魚だし、ミリアには物足りないんじゃないのかな?
「じゃあ、一角兎の依頼だと、僕に突き合わせてしまった感じになるのかな。ごめんね」
「あ、いえ。私も討伐依頼は、まだ二回位しか行ったことないので大丈夫ですよ」
「そうなんだ。じゃあ、普段は採取とかが中心なんだね」
「はい。あ、あれ? もしかして、私の噂を聞いたことないですか?」
うん? まだ、街に来たばかりだし、何かあっても知らないだろう。
まぁ、これだけ可愛いと目立つし、この街では有名人なのかな?
僕は戸惑い、首を傾げる。
「……パーティ希望は出しているのですが、私のことを嫌がって一緒に行ってくれる人が居ないので、普段は薬草とかの依頼ばかりです……」
なに、どういうこと?!
なんとなく、重い空気になってしまったんだけど!
「私のメインジョブは死霊術師でして、気持ち悪いからと誰も組んでくれないんです」
ほっ。
想像していたより大した内容じゃなかった。
てっきり「やつと組んで、帰ってきた者は居ないんだぜ!」とか死神的な逸話かと思った。
確かネクロマンサーって言うとゲームでは、死体を使って戦うジョブかな?
イメージで言えば、僕も人の事は言えない。
「そうなんだ。別に好きで就いたわけじゃないんだし、気にするような事じゃないのにね」
「そ、そう言ってくれると嬉しいです! ありがとうございます」
「少なくとも、僕は気にしないよ。というか、ミリアのジョブが広まっているのはなんでなの? 僕は登録の時、メインジョブとかは質問されなかったけど」
「えっと、パーティでは何が出来るかが重要で、後衛職の場合はジョブ毎に役割が大きく違うために、メインジョブを聞かれることが多いみたいです」
あー、確かに後衛といっても、神官は回復役、魔道士は遠隔攻撃役と全然別ものだもんな。
前衛は一部の盾や斥候役に秀でたジョブ以外、殆ど近接攻撃役だろう。
「それでみんな、ミリアのジョブを知っている状態なんだ」
「はい……」
とはいえ、ジョブの申告をしたからといって冒険者の間で広がっているというのはおかしい気がする。
きっとミリアの秀でた容姿も相まって、悪い意味で注目を集めたのだろう。
「まぁ、ミリアも言っていた通り、何がパーティで出来るかだよね! 僕はミリアが操るやつと一緒に戦えばいいのかな?」
「あ、いえ。……まだ、私は死霊術師の魔法を使えないんです。すみません。……なので、遠距離から魔力矢を当てて戦おうと思います!」
ありゃ、使えないのか。残念。
ちょっと操るところを見てみたかった。
そもそも、魔法ってどうやって覚えるんだろう?
まぁ、後でそれとなく聞いてみよう。
ちなみに、魔力矢は魔道士系で共通に使える基本攻撃らしい。
「じゃあ、僕は挑発スキルを使えるから盾役をするよ! ミリアには攻撃を頼んだ」
「わかりました!」
◇
作戦通り、僕が釣ってミリアが攻撃することで、特に危なげなく狩りは進む。
始めは攻撃する度に「ごめんなさい」とか呟いていたけれど、今は少し慣れたみたいだ。
(遠くから見れば)愛らしい兎だから、しょうがない。
とはいえ、一角兎も放っておくと、繁殖して群れで街道の人を襲うらしい。
決して、無闇な殺生ではないのだ!
冒険者は人々を守るためにも、時として非情にならなければいけないのだよ!
あ、またレベルが上がった。
「結構、倒したね。昨日は一人で狩っていたんだけど、やっぱり二人で戦うと安定するね」
「はい! 私一人じゃ、こんなに倒せません。凄いです! シンジさん」
喜ぶミリアの姿を見て、ほっこりする。
―― ガサッ
僕らが一息入れていると、不意に一角兎が飛び出してきた。
「うわっ、びっくりした。……ついでにコイツもやっちゃおうか!」
「はい!」
先程までと同じ流れで僕が挑発で釣り、盾役を務める。
「えい! えい!」
ミリアが可愛い掛け声と共に魔力矢を放つ。
「えい! えい! えいっ!」
……ん? なんかしぶとい。
さっきはミリアが2発も攻撃を当てれば直ぐに倒れたのに、今は5発当ててもぴんぴんしている。
そして、近寄ってから「ハァハァ」して動かなかった兎が攻撃に移る。
ブウンッと音を立てて角を横薙ぎにしてきた。
「ひぇっ!」
おう……、思わず情けない声が出てしまった……。
ミリアに聞こえてないよね!?
ブウン! ブウンッ!
何コイツ、激しい!
今まで何度か攻撃されたけど、こいつの風切り音はなんか違う!
「シンジさんっ! 大丈夫ですか?!」
ミリアも先程までとの違いを感じたのか、心配してくれた。
「だ、大丈夫だよ。ミリアは攻撃を続けて!」
僕も男だ。
かっこ悪い所は見せたくない。
そういえば昨日、新しいスキルを覚えたんだった。
防御か回避のスキルだろうし、今が使い時だ!
『心眼』発動。
――おっ。これは凄い!
動く半透明の兎が視界に映る。
この幻影の動きが、これから実行される攻撃の予知になるようだ。
心眼の効果を利用して角攻撃を避け、僕も攻撃に切り替える。
「……グェッ……」
ようやく、一角兎が倒れてくれた。
「この子は、なんだか強かったですね。怪我はないです?」
「うん、大丈夫。気にしてくれて、ありがとう」
討伐報酬の角を取るために、動かなくなった兎に僕らは近づく。
バサァッ
「きゃぁっ!」
突然の音にミリアが驚いて、尻もちを付く。
あ! 異世界でもパンツは白のようです!
いや、それどころじゃない!
突然、倒したはずの一角兎が起き上がり、飛び立ったのだ。
耳が翼のように大きく広がり、羽ばたいて空へ逃げてしまった。
二人で飛び去る一角兎を呆然とみつめる。
「……一角兎ってウサギだよね?」
「あ! もしかして、一角兎鷺かもしれません!」
「へ?!」
「すごく珍しい鳥で、普段は一角兎に擬態して群れに潜んでいるそうです。危険を察知すると一目散に逃げるので、滅多に見ることは出来ないそうですが」
鷺とかダジャレか!
段違いに強かったし、フィールドボスみたいな感じなのだろうか。
驚きのあまり尻もちをついたままのミリアに、手を貸して起こそうとする。
動揺のせいか、折角の綺麗な髪が乱れてしまっていた。
――ん?
違和感を覚えてミリアを観察すると、ある有名な種族の特徴を見つけた。
ミリアの耳は長く尖っており、ひと目で普通のそれとは違うと分かった。
さっきまでは、耳に髪がかかっていて気が付けなかったのだ。
「エルフ?」
「あ、そうです。エルフは初めてですか? ……といっても、私はクォータエルフなのですが」
へぇ、クォータエルフか!
ハーフエルフはよく小説に出てくるけど、クォータというのも存在するんだね。
まぁ、ハーフエルフの子供はクォータだから当たり前か。
「初めて見たよ。じゃあ、純粋なエルフはまた少し違うのかな」
「うーん。でも、私は母方のおじいちゃんが人間ですが、父は純粋なエルフですので、殆ど純血のエルフと見た目は同じだと思いますよ?
髪の色はおじいちゃん譲りですけど」
「それはもうエルフでいいね!」
「ふふ、そうですね」
ミリアは微笑み、耳が楽しそうにぴこぴこと動く。
感情と耳の動きが連動しているみたいだ。
なに、これ分かりやすい!
「まぁ、もうそろそろ夕暮れ時だし、帰ろうか」
「そうですね!」
「そうだ。折角パーティを組んだし、今日は一緒に夕飯とかどうかな?」
「はい、ぜひ。お腹もぺこぺこですー」
すかさず、夕飯の約束を取り付ける。
ミリアともパーティを通して少しは仲良くなれたと思うし、異世界の友達もどんどん作っていきたい。