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買い物と初めての戦い

 教会のアーチからは並木道が続く。

 その先を眺めてみると、遠くに背の高い壁と大きい門が見えた。

 どうやら、教会は街の端から中央を抜けて、一直線上に結ばれた位置にあるようだ。


 僕は、素直に見えている道を進むことにした。

 並木道を抜けると風景が住宅街へ、そして露店が開かれた通りへと移り変わる。


 すれ違う人々が僕の方をちらちらと見てくるが、そこは異世界。

 一瞬、日本人の黒髪と瞳は目立つのだろうと考えがよぎったが、すぐに思い直した。


 「意外に黒髪も多いな~」

 

 僕の容姿は、特段珍しいものではなかった。

 色は黒。茶・金髪と幅広く、顔も堀が深い人から様々だ。

 異世界でもフツメンのままとはなんとも、と思いつつ苦笑い。


 つまり、注目を集めているのは学生服の方だろう。

 修学旅行中に転移してしまったのでしょうがない。


 とりあえず、衣服屋を探して散策開始。


 やはり、世界が違う。

 沢山の露店が出ている、という事実だけでも物珍しい。


 日本じゃお店を構えて売り買いするのが普通だもんね。


 「うぇっ、蝙蝠(こうもり)……!」 


 僕は、目に飛び込んできた物体に、思わず声を上げてしまった。


 そこには大型の蝙蝠が吊るされていた。

 腹部が切り裂かれ、干乾びて目の部分が窪んでおり、舌がべろんっと出ていた。

 

 ――ひぇ、これは流石に直視できない。


 僕の失礼な態度に、店番をしていたおばさんに睨まれてしまった。

 僕は一言謝り、そそくさとその場を離れる。

 そのままグロい系は視界に入れないようにしつつ、歩きながら商品を眺めた。


 最初はゲテモノ商品にギョッとしたものの、回復薬や魔法のスクロールらしき品物を見てからはワクワクの方が勝っていた。


 ふわふわと浮く小石なんて、なんともファンタジーな売り物だと思う。

 何に使うのかは、全くわからないけれど。


 暫く進むと広場と合流し、再び進行方向に通りが続く。

 そこからは雰囲気ががらっと変わり、構えのお店が並ぶ商店街が見えてきた。

 その中に服のイラストが書かれた看板を見つけたので、僕は服を買うためにお店に入った。


「いらっしゃいませ!」


 恰幅の良い中年の店員が、挨拶をしてくれた。

 おじさんは流行りなのか、貴族風の服装にちょびひげだった。

 僕のセンス的には、どちらかと言うとコメディアンに見えてしまう。


「お客様!! 随分、珍しいお召し物ですね。外国の方でしょうか?」


「はい、ついさっきこの街に着いた所なのですが、どうも服のせいで目立ってしまいまして」


 うん、紛れもない事実だ。

 外国(にほん)から着いたばかりだしね。


「ええ、でしょうと思います。如何でしょうか? こちらの服など……」


 店員が薦めてきたのは、他の展示品と比べていかにも高そうな服だった。


 ……外国から来たボンボンに勘違いされたかな?


「えーっと、もっと街で目立たないような服を……あ、そこに飾っているものを下さい」


「……そうですか。では、こちらは上下で銀貨2枚と銅貨5枚になります。結構な安物ですが、よろしいので?」


 僕はゲームなら「布の服」とでも命名されそうな、地味な衣服を頼んだ。

 これなら直ぐにでも、街に溶け込んでいけるだろう。


「ええ、構いません。そちらでお願いします」


 僕は金貨1枚を店員に渡した。

 ちなみに、教会を出る時に旅の資金として、金貨100枚を手渡されている。


「では、お釣りになります」


 店員に渡されたお釣りを確認した。


 銀貨 … 7枚

 銅貨 … 5枚


 だった。ということは、


 銅貨10枚 = 銀貨1枚

 銀貨10枚 = 金貨1枚

 

 ってことかな?


「ありがとうございました! またのご利用をお待ちしております!」


 他にも大きい巾着袋みたいな革のバッグが売っていたので、追加で購入した。

 僕はさっきまで着ていた制服を、革のバッグに入れる。





「さぁ、次はどうしようかなぁ」


 まぁ、順当に行って次は武器を手に入れることだろう。 

 僕はステータスウィンドウを開く。



【シンジ・ヒサダ】


 メインジョブ:浪人

 LV:1

 HP:46

 MP:24

 STR:12

 VIT:8

 AGI:14

 INT:10

 SAN:7


 スキル:

 刀術<Lv1>、槍術<Lv1>、弓術<Lv1>、挑発<Lv->


 魔法:

 メニュー操作、自動翻訳



 メニュー操作と自動翻訳はそのままかな。

 ステータス表示は、メニュー操作に含まれると教会で説明を受けた。

 魔法が使えないのは残念だけど、刀・槍・弓と複数の武器を使えるのは嬉しい。

 

 挑発……はなんだろう?

 MMOとかのゲームだと、敵を引き付けるスキルだった。

 心の中で『挑発』と呟いてみる。

 すると、ポップアップウィンドウが表示された。


 > 対象が存在しません。


 おおっ! ちゃんとできない場合の通知をしてくれるのか。

 これもメニュー操作に含まれるのかな?

 挑発はそれっぽい相手の居る時に試してみよう。


 逸れちゃったけど、改めて武器屋を探すことにした。

 と、言っても、既に見えている。

 あの剣のイラストが描かれた看板のお店がきっとそうだろう。

 店先に甲冑が飾ってあるし。


 近づくと、石造りの建物の奥からカンカンッと音が響いた。

 覗いてみるとボコボコにへこんだ兜を、金槌で叩いているのが見えた。


「らっしゃい!」


 筋肉隆々のスキンヘッドなおっちゃんが、さっきまで握っていた金槌をその場に置き、カウンターまで出てきた。

 如何にも鍛冶屋の店員らしい。


 さて、どの武器にしたものか。

 お店を見回す。

 壁にはバスタードソードやグレートソードと呼ばれる剣類や、盾が展示されている。

 売られているのは、木の板に立て掛けられている方だろう。

 

 ざっと見たところでは刀はない。

 おっちゃんに聞いてみたけど「あぁ? ハタナ?」といった感じで伝わらなかった。


 そうすると消去法で槍か弓だけど……。

 弓は初心者には難しそうだし、矢は消耗品だ。

 今は出費を抑えていきたいので除外かな。


 ということで、槍がある場所を見に行った。


 安めの槍は大きい樽の中へ無造作につっこまれていた。

 それぞれ柄の部分に値札が付いていて、銀貨1枚から金貨数十枚と幅広い。


 しかも値段の高い槍ほど、見た目以上に重く感じる。

 良い武器は高いステータスを要求されるのだろう。


 使えそうな中で一番安いのは木の槍だ。

 先が適当に尖っているのでギリギリ槍? って感じ。

 僕でも作れそう。


 残りは先端部分が鉄製の槍で、値段は銀貨3枚。

 こちらを買うことにした。


「毎度あり!」


 ついでに今後のことも質問。


「おじさん。この鉄の槍で倒せそうな相手って、一番近い場所にはどこに居いますか?」

 

 ステータス要求の予想があっていれば、使う武器(イコール)強さになるはずだ。

 この質問の仕方で、丁度いい相手を見繕ってくれるはず。


「あぁ? そんなもんでいいなら、街の外に行けばいくらでもいんだろ。ここいら一帯のやばい奴は、騎士様が片付けちまっているからな。雑魚魔獣しか残ってないぜ」


 雑魚とはいえ、町の外に出ればナチュラルに魔獣が居ることに驚くけど。

 しかし、雑魚ばっかりとは、如何にも”はじまりの街”って感じだね。


「教えてくれて有難うございます!」


「おお! 良いよ! 坊主、冒険者ごっこでもすんのか? 程々にしておけよ!」


 完全に子供扱いである。

 いや、子供なのだけど。

 あ、でも、この世界では15歳で成人だと、神官の人が言っていたかな。


「これでも15歳なので、成人しているんですよ?」


 ちょっぴり悔しかったので、言い返してしまった。


「マジか!? タメなの?!! 見えねぇ!」


 え!?

 おっちゃん、タメなの??!

 思わず目を見開く。


 まさか……、こんなにも早く邂逅出来るとは。


 ――これが、


「ドワーフ?」


「馬鹿野郎ッ! 俺は人間(ヒューム)だ!! わあってる、俺は老け顔だ! 自分でも認めてるって」


 思わず声に出してしまったようだ。

 しかし、おっちゃんは人間の特殊個体だったらしい。


「冗談だって! また来るよ! おっちゃん!!」


「おい! だから、タメだかんな!」


 怒鳴るおっちゃんを背に歩き出すのだった。



 ◇

 


 一旦、露店通りに戻り、食料と回復薬、革の胸当てが安く売られていたので購入した。


 ひとまず諸々手に入ったので、街の外に出てみようと思う。


 広場からは、さっき進んだ方向に対して左右にも通りがある。

 右手の方へ進めば、次の街へ続く街道に出れるらしい。

 そうして、僕は街を出て、街道を進んだ。


 舗装された道を挟むように林が茂る。

 流石にコンクリートの舗装路というわけではないけど、それなりに行き来があるようで、道になる部分は何度も踏みしだかれて雑草が生えておらず、地面が剥き出しになっていた。


 おっちゃん(アダ名)曰く、この街道には兎の魔物が飛び出してくるらしい。

 教えて貰ったのは、一角兎という魔物。

 その名の通り、頭部に鋭利な角を持つ白い毛の兎だ。

 弱い魔物らしく子供でも倒せるが、角の当たり場所が悪ければ危険なので気を付けろと注意された。


 まぁ、目にでも刺されば失明だもんね。


 街道は直線的に伸びていて、目視でも隣町が確認できる。


 そんなに離れてなさそうだから、あの街を目指して歩こうかな。

 その内、兎も出てくるかもしれないし。



 ◇



 暫く歩いていたが、ここまでは全く遭遇しなかった。

 段々と街道を挟むようにあった林同士の間隔が広がり、草原が見えてくる。

 すると、膝下くらいまでの雑草の中に白い物体が動くのが見えた。


「あれが一角兎か」


 おっちゃんが言う通り、一本の角にもふもふの毛。

 見た感じでは、肩から手先くらいまでの大きさだろうか。

 兎にしてはデカい。


 危ないと思ったら直ぐに逃げよう。そうしよう。

 

 若干ビビリつつも、さっき失敗した『挑発』スキルを使ってみようと考えた。

 有効な距離を測るために、離れた所から試みる。


 > 対象が遠すぎます。


 相変わらず親切仕様だな。

 僕は、苦笑いしつつも兎との距離を縮めていく。


 およそ10mくらいだろうか?

 先程までとは打って変わって兎がこちらの方を振り向き、すごい勢いでピョンピョン近づいてくる。

 その様子から効果が出たのだと直ぐにわかった。



 ――は、迫力あるな。


 大型の兎の野生を感じさせる力強い跳躍に、びびる僕。

 

 本当に子供でも倒せるの?

 少々、疑問に思ったがもう遅い。


 ドスンドスンという音が次第に大きくなる。


 初戦から逃げてしまおうかと悩んでいると、一角兎は目の前で止まった。

 恐らく僕の槍を警戒したのだろう。

 ギリギリ穂先が届かないくらいの所でこちらの様子を窺っている。


 暫く睨み合いが続くが、僕は覚悟を決めて一歩を踏み出し、槍を兎に突き出した。


「……ギィッ!」


 お、思いの外あっさりと刺さってしまった……。

 初めての攻撃だし、正直当たらないだろうと予想していたんだけど。


 心の奥では覚悟が足りなかったため、不意に手へ伝わる嫌な感触に全身がゾワゾワした。


 ……そういえば、目の前に来たときには「ハァハァ」してたもんな。


 多分、そこも含めて『挑発』スキルの効果なのだろう。

 ゲームの挑発効果は、敵対心を煽り、自分に攻撃を釘付けにする。


 ゲームではそれだけだった。

 現実で敵対心を煽れば、我を忘れるほど僕に対して憎しみを抱き、今みたいに興奮状態になるんだと思う。


 今回は遠方から使うことでスタミナ切れを狙えたが、短距離から挑発を使えば、途端に相手が攻撃を開始する。

 大技を持っている敵の場合は、注意して使う必要がありそうだ。


「……グェッ……」


 考察している間に出血のせいか、兎が断末魔をあげて力尽きた。


 > ジョブ「槍術士」を取得しました。

 

 通知は数秒間表示されたあと、役目を果たしたと言わんばかりに消えてしまった。


 ……え? ジョブ取得??

 今のは見間違えた、のかな?

 通知のポップアップは、割と直ぐに消えちゃうんだよね。

 確認のしようがないなぁ。

 ゲームだったら『ジョブ一覧』とかで確認できるのに。


 すると、目の前にウィンドウがブゥンッと表示された。



【習得ジョブ】


 浪人、槍術士



 むぅ?!

 ジョブの一覧も見れるのか!

 やっぱり、見間違いじゃなかった。

 兎を倒した時に通知されたから、何か開放条件でも達成したのかな?


 もしかしてと思い、ステータス表示をする。



【シンジ・ヒサダ】


 メインジョブ:浪人

 LV:1

 HP:46

 MP:24


(以下、略)



 てっきり、レベルが上がって覚えたのかと思ったけど、違ったみたいだ。

 とすると、槍で攻撃する、もしくは槍で倒す、かなぁ。

 まぁ、でもメインジョブって変更できないんだよね。


 教会でジョブ判定された時に、メインジョブは変更が出来ないと教えられたのを思い出した。


「知っているゲームだとメインジョブの他に、セカンドジョブとか『補助ジョブ』があって、自分なりのキャラを育成できたんだけど……」


 と独りごちた瞬間、ステータスウィンドウの「LV」項目がするっと一段下へ移動する――



【シンジ・ヒサダ】


 メインジョブ:浪人

 補助ジョブ:未設定

 LV:1

 HP:46

 MP:24


(以下、略)



「えっ?!」


 流石に追加された理由は検討もつかない。

 槍術士の開放条件は、なんとなく予想がつくけど……。


 2ジョブ以上を開放していることだろうか?

 それとも、独り言でぼやいた『補助ジョブ』のワードだったのだろうか?

 

 まぁいいか、これも追々かな。

 使えるものは何でも使おう。


 ステータスウィンドウの補助ジョブの項目を触ってみる。

 すると、予想通りジョブの一覧ウィンドウが開く。

 その中から、槍術士をタップすると補助ジョブを設定できた。



【シンジ・ヒサダ】


 メインジョブ:浪人

 補助ジョブ:槍術士

 LV:1

 HP:89(+43)

 MP:39(+15)

 STR:22(+10)

 VIT:16(+8)

 AGI:20(+6)

 INT:14(+4)

 SAN:11(+4)


 スキル:

 刀術<Lv1>、槍術<Lv1>、弓術<Lv1>、挑発<Lv->


 魔法:

 メニュー操作、自動翻訳



 おお!

 ステータスの部分がめちゃめちゃ伸びてる!


 流石に槍術<Lv1>が重複して並んだりはしないようだ。

 このまま補助ジョブ補正がレベルアップと共に伸び続けるかは分からない。

 けれど、現時点ではステータス値が軒並みに2倍とは、破格の補正だ。


 早速、補正の効果が身体にどれだけ影響を与えているのかを確認したい。

 再び、遠くに居る一角兎に挑発をいれた。

 先程と同様に、動きが目前で鈍くなった所を槍で貫く。


「……グェッ……」


 今度は出血を待たずに即死だった。

 

 これがSTR値が倍になった効果かな。

 心なしか鉄の槍も軽く感じるし。

 これなら挑発でどんどん釣って、さくさく狩れる。



◆(2019/2/3 追記)

誤字脱字等の修正

一部、表現の仕方を変更

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