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子狐は光り物がお好き?

 ――翌日。


 昨日、僕は夕食を食べてから疲労と満腹感にウトウトしてしまい、早々に自分の部屋へ退散して泥のように眠ってしまった。


 窓からの日差しに目覚めた僕は一度伸びをして、空腹を満たすために酒場に降りた。


「あ! シンジさん。お目覚めですか?」


「おはよう、です」


 ミリアと昨日から一行に加わった涼が挨拶をしてくれた。


「随分と遅いの~。もう昼前じゃぞ?」


「え!?」


 楓の指摘からすると、僕は随分とのんびり寝ていたようだ。

 とりあえず、僕は待たせたみんなに「ごめんね」と一言謝る。


「いえ、その……よかったです!」


「じつは姫もさっき起きたばかりじゃしな!」


 楓のチクりにミリアが、「だから大丈夫ですよ」と微笑んでくれた。

 ミリアも慣れない迷宮(ダンジョン)探査で疲れていたみたいだ。


「これからギルドへ報酬をとりにいくのです?」


「そういえばそうだったね。昼に行くって約束したから、そろそろ顔を出しに行こうか」


 涼に言われるまですっかり忘れてたよ。


 もう昼時に近いので僕は朝食は諦めて、全員でギルドに向かった。



 ――カランカランッ


 そしてギルドに入ってみると、この時間帯は早朝よりも随分と冒険者の数が多い事に気がついた。

 思ったよりもマイペースな生活をしている人が多いようだ。


 僕は益体もないことを考えつつ、受付のミーオさんに話しかけた。


「こんにちは。報酬を受け取りに来ました」


「おお、シンジ君! 昨日は良く眠れたかニャ?」


「はい! でもそのせいで、ついさっき起きばかりです」


 と僕は、「アハハ」と苦笑いを浮かべる。


「まぁ、流石に昨日のは荷が重かったんだニャ。――それで依頼の報酬だけど、金貨120枚でどうかニャ?」


 金貨120枚! 

 僕が教会で旅立つ時に貰った金額よりも多いよ!


 隣のミリアも唖然(あぜん)としていた。

 楓と涼は「金貨じゃと!?」と金銭的な価値より、金貨そのものに興味を示していた。


 金貨なんて地球ではアンティーク扱いだもんね。


「あと、昨日の活躍を評価して二人はランクDに昇格ニャ! 飛び級は特例中の特例だぞ~☆。おめでとうだニャ~~!!」


 僕は若干きゃっぴるん気味なミーオさんを見て、「※彼は男性です」と心の中で呟いておく。


 ミーオさんの声が他の冒険者にも聞こえてしまったようで、僕らは拍手と激励地味た祝福の言葉を頂いた。


「ついでにギルドカードを見てみるニャ」


 僕とミリアはカードを懐から取り出す。



【シンジ・ヒサダ】


 冒険者ギルドランク:D

 商業ギルドランク:-

 会員番号: 1081-22-1201

 初回登録:アウル教国 ローナ



 ――いつの間にかカードに新しい項目が刻まれていた。


 元は会員番号しか記載されてなかったのに、名前やらランクやらが増えている。


 商業ギルドとかあったのか!

 あと、ここは「アウル教国」って名前だったんだね。

 今更ながら知ったよ。


「Dランクに上がったことで、ギルドは君たちの身分を保証するニャ! ステータスカードがあるから無駄に思えるかもしれないけど、ランク次第では国から立入を禁止されている区域にも入れたりと重宝する……ことがあるかもニャ!」


 ミーオさんは、最後に歯切れが悪くなりつつも説明をしてくれた。


 まぁ、立入禁止されている時点で、とても危険な場所なんだろうしね。

 ギルドカードはどちらかというと資格証明書のような側面が強いらしい。


 僕は理解できたとミーオに頷いてみせた。


「ところで、報酬の分配はどうするニャ?」


 ……あ、そうか! 

 とはいえ、素直に山分けで良いと思う。


 僕は、四人で金貨30枚づつでいいかと皆に尋ねる。

 ミリアは一度は頷くも狼狽(うろた)えだし、


「うぅ……全額が私のものではないとしても、金貨90枚は……」


 と、大金を受取ることに(ひる)んだようだった。


「でも、みんなで戦ったから成果だからね。山分けが普通なのかとは思うよ」


 僕なりに活躍ベースでなら楓の取り分が多いほうがいいのかな? とか考えたり、そうするとあまり手出しができなかったミリアは受け取りづらくなるんじゃ……とか色々と頭を悩ませたものの、後腐れのない山分けが一番かと思った。


 断じて考える事を放棄したわけじゃない、よ?


 暫くするとミリアは、「帳簿をつけないといけませんね……」と踏ん切りをつけてくれた。


 なんという几帳面さ!

 まぁ、お金の事で仲間が争うのを見たくない。

 僕はミリアの真面目さを頼ることにした。


 皆で話し合った内容をミーオさんに伝える。


「では、ミリアが金貨90枚、僕が金貨30枚でお願いします。お金はそのままギルドの金庫に入れてしまって下さい」


「あ! 私は大金貨一枚と金貨10枚を現金で頂けますか?」


 と、ミリアが言った。

 楓と涼が口うるさく金貨を手元に欲しいとミリアに訴えていたためだ。


 ちなみに大金貨は金貨の一つ上で、10枚分の価値がある。

 商人達などが大きめな取引に使うための貨幣らしい。


 ミリアから金貨を渡された二人は「ふわあっ」と感動と驚きが混じったような声を出していた。


 ……しかし、ミリアさん。

 果たして大金貨は一枚で良かったのでしょうか?


「――これで、依頼完了の手続きは終わりだニャ!」


「「ありがとうございました!」」


 僕たちはミーオさんにお礼をしてギルドの出口へと向かう。


 早々にどっちが大金貨を持つかの争いを始める幼女二人。

 ミリアが「しまった!」と顔に出すが既に手遅れだった。



 ◇



 ――その頃、ギルド長室では。


「それでガキどもはどうだった?」


 ソファに腰掛けたミーオは、アルガに声を掛けられて報告する。


「本人たちは報酬とランクアップに喜んでましたニャ。他の冒険者も彼らの評価に対して不満は感じていなかったようですニャ」


「まぁ、特例の2ランクアップとはいえ”D”だからな。その場にいた奴らを刺激するようなランクでもない」


「これがCやBランクだったら嫉妬した冒険者が抗議してくるからニャ。彼らが駆け出しのFランクで良かったニャ」


 本来はB級のオウガを討伐したのだから、シンジ達をBランクに上げるのが正当な評価だ。

 しかし、ギルド側は4ランクアップさせた結果、他の冒険者達が反感を懐き、特例依頼をシンジ達に出したギルド側の過失へ目を向けられる事を懸念していた。


 "ギルドは不用意に新人を死地へ向かわせた失態を誤魔化すために、シンジたちのランクを上げた"と――


 そのため、オルガはシンジ達と他の冒険者の双方から不満を出させない落とし所の判断が必要だと考え、昨日はその場で決めずに一度シンジ達を帰したのだ。

 結論は、"異例の2ランクアップ押し"と多めの報酬で誤魔化すことになった。


(まぁ、ぼくはシンジ君たちが変に目をつけられたりしなければいいかニャ)


 ミーオは、冒険者同士の(いさか)いにシンジ達が巻き込まれる事を気にしていた。

 担当した冒険者の安全を守るのも受付の仕事である。


 そうでなくとも、ミーオは自分が(あいだ)を取り持った二人のパーティを気に入っていたのだ。


「本人たちは喜んでいたし、良かったんじゃないかニャ。それにDランクといっても、次の昇格付近までポイントは割り当てられているニャ」


「まぁ、この件は暫く様子見だ。しかし、今回は久しぶりに運がなかったな」


 ミーオは「運」で終わらせてしまうギルド長に心の中で溜息をついた。


(最初は、初の迷宮(ダンジョン)探査には丁度いい仕事だと思ったんだけど、失敗だったニャ)


 ミーオは、特務依頼はダンジョン探索の経験者を含むパーティに依頼を出すべきだったと後悔していた。


 ギルド長はデスクから立ち上がり、窓から街を眺める。


「しかし、シンジといったか? ……奴らのパーティは不自然だ」


「へ?」


 ミーオは戸惑う()()を見せるが、内心では「間違いないニャ」と心で呟く。


 ミリアは最近まで禄に魔法が使えなかった。

 一緒に居るシンジは何の変哲さも感じないられない普通の少年だ。

 しかも、噂ではジョブが無職らしい。


 いつの間にか増えた獣人の二人はまだ子供だ。

 到底戦力には数えられないだろう。


 どこから見てもオウガなど倒せるパーティではないのだ。


「――面白い。少し背景を調べてやる」


 ミーオは男の言葉と裏腹な無表情さに胸がざわつくのだった。



 ◇



 報酬を受け取ってからの数日間、僕たちは冒険者らしく依頼をこなして過ごしていた。


 その間に挑戦した依頼の内容は様々で、アウルローの大広間より先の地下へ探査に向かったり、森で繁殖したグリーンリザードという背中に木々が寄生する1.5メートル程の蜥蜴(トカゲ)を掃討したりと色々だった。


 そして、連日の活動でだいぶ資金に余裕ができたため、僕らは装備を新調していた。


 僕は鉄の槍から鋼の槍に買い替えて、楓は近距離戦闘用に鉤爪の付いた手甲を装備していた。

 涼とミリアの後衛二人は魔法補助のために亜麻(リネン)で織られた外套(がいとう)を羽織っている。


「姫と涼は色違いか。よく似合っておるよ」


「ふふ、ありがとう。でも、カエデちゃんともお揃いでしょ?」


 女の子三人組は先に上げた装備以外にデザインがお揃いの服を着ていた。

 というのも、楓が和風な前合わせの上衣(うわぎ)を見つけて、自分たちの(おもむき)に合っているからとミリアに強請(ねだ)ったのだ。

 今は各々がそれに合わせて好みのスカートなどを穿()いていた。


 ……いや、()()同じデザインだった、が正解かな?

 だいぶ、幼女二人に魔改造されたようだった。


 ミリアは短めのスカートに、上衣(うわぎ)は非対称のモノトーンで、袖の部分を涼に切り取られてノースリーブのようになっていた。

 また、幼女二人がどこから見つけてきたのやら、サイハイブーツを履かされている。


「ち、ちょっと。これはまだ、恥ずかしい、かな?」


「姫様。ダメ、です! その外套を肩で着崩すのがいいのです!」


 ミリアが頬を染め、純白の外套でノースリーブを隠そうとするのを涼に止められる。


 ……正直、僕は目のやり場に困っていた。


 もし彼女の服で一番のチャームポイントはどこかと訊かれて――心の内を(さら)け出し本音を言えるのならば――間違いなく"コレ"だ! と自信を持って言い切れるところがある。


 そう、それは……。



 ――ヨコ乳です。


 ゆったりとした袖付けから(こぼ)れる白くふんわりしたそれには、途方もない(視覚的な)重力が存在していた。

 それを見れば嫌でもミリアの形の良さが分かってしまう。


 そして、僕は思わずあの空間に手を突っ込みたくなるような衝動に――っって! それはダメ。ゼッタイ!!


 ……あれには人を狂わせる効果があるようだ。


 僕は頬を赤らめながらも、魔性の領域から目線を切り替えるために涼の衣服を見た。


異世界(こちら)の服もなかなかオシャレ、です」


 満足そうに頷く涼の衣服は、ミリアより丈が同じか少し長いくらいのスカートだが、青を基調に襟元から伸びるラインには黄色といった明るい色彩が使われている。

 また、所々に雪の結晶のような刺繍(ししゅう)が小さく施されていた。


 こちらは可愛らしいデザインだね。


 服のセンスは楓と涼によるところが大きい。

 異世界の衣類は質素なデザインが多いのだが、それっぽくコーディネートしてしまう二人は一体何者なのだろうか。

 それに対して、僕は――


「シンジは、中途半端に奇っ怪じゃの。ぷははっ!」


「……もう、突っ込まないでよ。今の僕が変だってことは自覚があるんだよ?」


 笑い声を上げた楓の装備は、淡い赤をベースに更に濃い赤が強調色として使われている。

 ミリアや涼との大きな違いは、ショートパンツを着用していることと、殴りやすいように太めのタスキで袖をまくり、背中に仁王襷(におうだすき)のような結びを作っていることだ。

 他にも蹴りから足を保護するために脚絆(きゃはん)を装備している。


「まだ弓を使ったことがないからね。もしかしたら、弓術士(アーチャー)のジョブを取れるかもしれないと思ってさ」


 そういう僕の見た目は軽装のままで、黒のリネンシャツの上に鋼に変更した胸当てを装備し、ガントレットとレギンスを防具に加えていた。


 ただし、今日はジョブの習得を試すために手には槍を握り、背中に短弓(ショートボウ)と矢筒を背負っている。

 僕の過剰に武器を持ち運ぶ(さま)は周囲に違和感を与えている。


 僕らはそんな小話をしながら森の中を進んだ。


 今日は、いつもの宿屋から出された依頼で、”フォレストガウル”という森に生息する野牛の討伐依頼を受けているのだ。

 酒場で出すシチューの材料に使うらしい。


「む! 獣の臭いじゃな。もう少し進んだ先に何かおるようじゃ」


 楓が察知した方へ進むと、頭の両方に巻気味の太い角の生えた牛が草をもしゃもしゃと食べているのが見えた。

 あの角に重量を乗せた突進は相当な貫通力になりそうだ。


初撃(ファーストアタック)はやらせてね。僕が回り込むから、矢を放ったら攻撃を開始して」


 仲間に作戦を伝えると、僕は左手の岩陰へ音を立てないように移動する。



 ――さぁ、弓術士(アーチャー)を習得できるかな。


 僕は短弓を引き絞りつつ、狙いを定めた。

 初心者なりに、「ここだ!」と思ったタイミングで矢を放った。


 グサァッ。


「ブモォオォッ!!」


 見事、命中!


 ……しかし、習得しない。

 トドメじゃないとじゃないとダメなパターンかな?


 僕が考えている間に、涼が逃げられないように『氷縛結界』で敵を拘束した。


「楓! 悪いけど、死なない程度に弱らせてくれる!?」


 その声を聞いた楓が頷いてみせた――と思った瞬間に、彼女の姿がボフンッと消える。


「ブモォォ……ゴフッ!!……カッ……」


 悲鳴を上げたフォレストガウルを見ると、喉に三本の溝が刻まれており、そこから大量の血が吹き出していた。

 どうやら楓が鉤爪で切り裂いたらしい。


 僕は初めて楓の新装備を見たときは、「素手で殴ったほうがいいんじゃないの?」と疑問に思っていたけれど、鉤爪をここまで器用に使いこなすとは予想外だった。


 喉元だけを狙ったのは肉を大きく傷つけないようにし、かつ僕のお願いを満たすためだろう。


 僕は楓の力量に改めて驚いていた。


「――シンジ、何をぼさっとしておるのだ! このままではヤツは力尽きるぞ!」


 はっ!

 見惚(みと)れている場合じゃなかった。


 僕は再び短弓を引き絞りトドメを狙う。


 グサァッ。


「コッ……」


 喉をやられた野牛は断末魔すら上げれずに、空気の抜けるような音を漏らして崩れ落ちた。


 > ジョブ「弓術士」を取得しました。

 > スキル「潜伏(ハイディング)」を習得しました。

 > スキル「罠感知」を習得しました。

 > スキル「罠破壊」を習得しました。

 > スキル「知覚延長」を習得しました。


 おお……槍術士と同じ物理攻撃役(アタッカー)とは思えない程のスキル量だ。

 さすが、斥候(スカウト)系のジョブだね。


「覚えれたよ。みんな、協力してありがとう!」


「して、どのような事が出来るようになったのじゃ?」


「んー。基本的には常時発動型みたいだけど……これとか? 『潜伏』!」


 名前通りの効果なら、気配を隠すスキルだろう。


「おぉ! ”全く無い”とはいかんが、間違いなく気配が薄れたのじゃ」


「ええ、わたしには殆ど気配を捉えられない、です」


 感知に優れた楓と涼が各々の評価を教えてくれた。

 二人のお墨付きなら効果を期待できそうだね。


 ミリアは「相変わらず、あっさりですね……」と、僕の特性に慣れつつあった。


「……でも、この子はどうやって運ぶつもりなのです?」


 涼が疑問を投げかけ、その目を僕から離さない。

 周りを見れば楓と、申し訳なさそうにミリアが僕の方を見つめていた。


 ですよね~!

 まぁ、力仕事は男の仕事だよ。

 特に異論も御座いません。


 僕はガウルの両足を適当に倒した丸太に括り付けて、喉元を下に向けて肩に担ぐ。

 搬送と血抜きを兼ねるためだ。

 僕のSTR(筋力)値が上がっているお陰か、見た目よりも遥かに軽く感じた。


「シンジさん。いつの間ににそんな力を……凄いです!」


 ミリアに褒められて僕も満更ではない。

 僕は補助ジョブを槍術士に変えて、更にSTRを引き上げる。


「依頼は一体の納入で完了だし、帰ろうか!」


 あっさりではあるが、最近はこれが当たり前の流れになってきている。


 そうして、僕らはギルドへ――僕が担いでいる丸太に幼女二人が乗っかり「らくちん、です」だの言われつつも――ガウルを持ち帰ったのだった。

※2019/02/23

スカートの長さを調整

・ミリアをブーツに合わせて短めに変更

・涼をミリアとの相対的な表現に変更


インデントが無かったため追加


※2019/03/02

習得スキルに『罠破壊』のスキルを追加

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