表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/21

異世界放浪の始まり

 中学校の修学旅行中、乗っていたバスは崖崩れにあった。

 突然の浮遊感にもうダメかと思った次の瞬間、目が眩む光に世界がホワイトアウトした――。



 ――――

 ――



「……ん、ここは……?」


 僕達は気が付くと教会のような場所にいた。

 ただ、僕が知る教会よりも遥かに広く、主祭壇(しゅさいだん)部分は30人以上が余裕で座り込めるほどの空間が存在している。



 ――そう、おなじみの展開、異世界召喚である。


 すると、袖から若い女性神官と兵士数人が登場。


 軽い自己紹介の後に女性神官は、「この世界では魔王が~」「どうぞ勇者様、私達にお力を~」とか、お決まりのセリフを並べた。


 一方的な展開に、生徒達は期待や不安を口々に叫ぶ。


「マジで!? 正直、こういうのワクワクするんだけど」


「いやいや、テンプレ過ぎじゃない? というか、元の世界に帰れるの!?」


 生徒の困惑を受け、担任の小山田先生が代表して女性神官に訊く。


「ああ、間違いなく帰れるかどうが一番重要だな。神官の方、そこの所はどうなっているのでしょうか?」


 が、慌てた様子の女性神官。


「……えぇっと、か、過去に魔王と戦った勇者様のお一人がお見えにならなくなった事がありまして、その際にこちらへ残られた勇者様が、『アイツはログアウトしたんだ……』と証言されておりました。”ろぐあうと”なる儀式で送還できるそうです!」


 ちょ、それ、本当にログアウトしたの?!

 死んだことの隠語じゃないよね?!!


「いや! それ死んだんでしょ!」


 あ、やっぱりツッコミが入った。

 まぁ、クラスのつっこみ役である坂口は黙ってないよね。


 とはいえ、場の雰囲気に殺気立ったものはない。

 だって、崖崩れでのあの浮遊感だ。

 普通だったら死んでいる。

 仮に地球に帰れたとして、ペッシャンコなのは間違いない。


 皆、それを承知しているからか、次第に状況を前向きに捉えていこうというムードになっていった。



 ◇



 その後、僕らは女性神官から説明を受けた。


 この世界にはメインジョブというものがあり、現地の人達は儀式を通じてジョブを神から与えられる。

 その儀式で定着させたジョブは、一度でも決まってしまうと変更が不可能だ。

 何とも不便な気もするけど、メインジョブによって魔法や専用のスキルが使えたりと恩恵も凄い。


 異世界への被転移者――勇者である僕達は、ほぼ強制的にジョブ判定の儀式を行うことになった。


 まずは担任の小山田先生からだ。

 先生は40歳くらいの中年だが、(たくま)しい体躯で顔もなかなかに渋い。

 そのため、女子生徒から絶大な人気を得ている。


 今更だけど、僕の名前は久田真司だ。

 ごくごく平凡で、フツメンな男子生徒です。


「それでは、ゲンタ・オヤマダ様のジョブ判定を行います」


 主祭壇に進み出た小山田先生の額に、女性神官は(てのひら)(かざ)す。

 僕たちは、その様子を床に座りながら眺める。

 すると、女性の手が仄かに光り始めた。


「ゲンタ・オヤマダ様のジョブは…、勇者です! 素晴らしいです!!」


 まさかのおっさん主人公の誕生だ。

 女性神官も乙女チックにまつ毛をパチパチさせて先生を見つめている。

 あざとい可愛い、羨ましい。


 既に勇者として召喚されているのに、ジョブの勇者ってなんだよ、と心の中でツッコむ。

 周囲を見渡したら、他の生徒達も苦笑いだ。

 

 ジョブの判定後はステータスプレートというカードが発行され、身分を提示する際に使う。

 以降はステータス表示という自己分析魔法で、いつでも確認できるとのこと。


 早々に目玉ジョブが出てしまったために、生徒達は投げ遣りになりつつもジョブ判定は進む。

 他にジョブには、竜騎士・魔道士・神官などいかにもらしいものから、鍛冶師や調理師といった生産系もちらほらと見受けられる。



 ――しかし、心なしかイケメン、可愛い子ほど良い感じのジョブになってるな~。


 クラス一番の美少女、前田優花なんて聖女らしい。

 髪はウェーブがかかっていて、可愛らしくも優しい笑顔は男子達を虜にしてきた。

 あの見た目で彼女から回復を受けたらイチコロだろう。

 とてもイメージ通りのジョブだと思う。うん。


 ちなみに、ツッコミを入れてた坂口は槍術士だ。

 いろいろとつっつくの得意だもんね。



 ◇



 そして、ついに僕の番が来てしまった。

 というよりも、色々考えていたら残りは僕だけだった。

 僕は覚悟を決めて祭壇へ進み出る。


「それでは、シンジ・ヒサダ様のジョブ判定を行います」


 平凡フツメンの僕じゃあ(ろく)なジョブじゃないだろう。

 微妙なジョブでアニメみたいに活躍できないなら、自由な異世界ライフを満喫したい。



  ――などと、死んだはずなのに贅沢なことを考えていたせいか、


「シンジ・ヒサダ様のジョブは…、えっと………む、無職……です」


 はぇえ? 無職?

 ねぇ? 無職ってジョブなの??

 困惑しつつも僕は尋ねる。


「む、無職ってどういうことでしょうか?」


「え、ええっと、そうですね……適正のあるジョブが存在しないと言いますか……えっと……」


 ガチで無職とかあるのか……。


「ぷははっ。真司っ、無職とかないわぁ~。面白すぎるだろ!」


「真司、地味だからな! 顔も普通だし納得!」


 おい! 誰だ。

 顔が普通とか言ったやつ!

 坂口か……あの野郎っ。

 全然納得できないから!


「く、詳しくはステータス表示でご確認を……」


 あまり長引かせたくないのか、それ以上続けず女性神官が(うつむ)く。


「……ぷくくッ……」


 ……女性神官の肩、震えてない?

 まさか笑ってないよね?!


 しょうがない、ステータス表示ってどうやるんだろう。

 『ステータス表示』とか、心の中で呟けば良いのかな?

 おっ、目の前にゲームのシステムウィンドウのようなものが表示された。



 ――ん?


【シンジ・ヒサダ】


 メインジョブ:浪人

 LV:1

 HP:46

 MP:24

 STR:12


(以下、略)


 メインジョブ……浪人?

 受験とかのアレのこと??


 はて、どういうことだろうと思ったが、ウィンドウの下の方にヒントがあった。


 スキル:

 刀術<Lv1>、槍術<Lv1>、弓術<Lv1>、挑発<Lv->



 ――もしかして、侍とか武士の浪人かな……。


 ジョブ判定のときに"自由な異世界ライフを満喫したい"なんて思ったから、バチが当たったのだろうか。


「こちらがヒサダ様のステータスプレートになります」


 先程まで俯いていた女性神官だが、平常心を取り戻したのかステータスプレートを渡してくれた。


【シンジ・ヒサダ】


 メインジョブ:無職

 LV:1

 性別:男

 賞罰:なし



 見るとそちらでは、メインジョブが"無職"だった。


 ステータスプレートはステータス表示の簡易版のようで、パラメータが無い代わりに、"賞罰"という欄がある。

 書かれている文字は見たことのない物だけど、異世界召喚の翻訳機能が働いているようで普通に読めた。


 多分だけど……。

 これは誤訳ってやつじゃないかな?


 ステータスプレートは、他者に見せる用途のために異世界語で刻まれており、その際に細かいニュアンスを表現できず、"無職"と記載されてしまっているのだろう。

 翻訳機能も完璧ではないということだ。


「……強引にお呼びしてしまった手前、食客として当国で安全を保証することもできますが……どういたしますか? 可能な限り、ヒサダ様のご希望が叶うように尽力いたします」


 流石に役立たずは即時ポイッはないらしい。

 とはいえ折角、異世界に来たのだから、この地を見て回りたい。


 既に事態を理解した上で黙っているのは良くないが、無職であることを前面に押し出して交渉してみようと思う。

 この翻訳の不具合を利用しない手はない。


「いえ、無職でみんなと一緒に貢献できないなら、この世界を見て回りたいのですが……」


「え? ええ!! それは良いことです! この世界はとても素晴らしいところですよ!」


 女神神官や一緒に待機していた兵士達が、ほっとしてみせた。


 もしかして、厄介払いできたとか思ってない!?


「それでは、幾ばくか旅の資金をお渡ししますので奥の方にどうぞ」


 え? もう?

 展開が早くないです?!


 ……まぁ、お金をくれるなら文句はないか。

 文字通り、現金な僕だった。



 ◇



 ――と、そんなこんなで、あっという間に玄関前のアーチまで送り出されてしまった。


 ちなみに、バスの運ちゃんは大賢者だ。

 僕らの物語は中年達がキーパソンらしい。


 勿論、小山田先生は僕が一人で旅に出る事を止めたが、僕自身の意向であることでしぶしぶ認めてくれた。

 女性神官からも各街の教会に通達して、僕が頼れるようにしてくれるとの一言があったのも大きい。


 別れ際に小山田先生は、「お前が助けを呼べば、何時でもどこでも駆けつけるからな!勇者に不可能はない!!」などと満更でもない様子。

 勇者にはテレポートの魔法でもあるのだろうか。


 クラスメイト達は、「ずるい」だの「ニート王になってこいよ!」だのケラケラ笑っていたが。


 ニートと無職は違うんだからね!?

 本当は浪人だしね!


 とりあえず、僕の『異世界ライフ』がここから始まったのだった。


初めて小説を書いてみました!

とりあえず、やってみるの精神で続けていきたいと思います


不慣れなため、ちょっとづつの更新になりますが、

気が向たら読んでいただければ幸いです。


◆(2019/2/2 追記)

誤字脱字等の修正

一部、表現の仕方を変更


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ