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05リスさん




クマさんとキツネくんが呆然ぼうぜんとしていると……。


「ぷっ。ふふっ、あははははっ!」


 とつぜん、木の上から笑い声がしました。

 見上げれば、そこにいたのはリスさんで、おなかを抱えて大笑い。


「クマさんたち、なんてマヌケな顔をしているんだい。あぁ、おなかが痛い」

「あ、それ、ボクのドングリ!」


 クマさんはリスくんがドングリの入った袋を持っているのに気づいて叫びました。


「すぐにかえせっ。じゃないと、ただじゃおかないぞ!」


 キツネくんはフーッとうなります。

 でも、リスさんは笑うばかり。


「うわーっ、こわい こわい。さて、どうしようかなあ?」


 リスさんはクマさんとキツネくんの顔を見下ろします。


「しょうがない、返そうかな?」


 クマさんの顔がパッと明るくなります。


「……やっぱり、返さないでおこうかな?」


 怒ったキツネくんが「ぐるるっ」とうなります。

 キツネくんをみて、リスさんはにんまり。


「うん、返さない方が楽しそう。ふふふ。ぼくをつかまえたら、返してあげるよ!」


 そう叫ぶと、枝の先からとなりの木の枝へと大きくジャンプ!


「つかまえられるものなら、捕まえてごらんっ!」


 鬼ごっこが始まりました。

 半泣きのクマさんと、怒り狂ったキツネくん。

 二匹はリスさんを追って、あっちの木の下、こっちの木の下と走り回ります。

 リスさんは必死な二匹を見ては笑い転げ、追いつかれると思えば、ぴょーんと別の木の枝へと逃げていきます。

 クマさんたちは、ちっともリスさんを捕まえられそうにありません。

 クマさんは、もう、ムリだ、とへなへなと座り込んでしまいました。


「うぅ、池に落とすドングリがなかったら、お願いごとができないよ。雪の中、新しいドングリなんか見つけられるわけないっ! もうっ、……ダメだぁ」

「ちょっと! わざわざ、雪の中、がんばるんだって決めたんじゃないの? しっかりしなよっ!」

「だって、ドングリがなかったら……」


 あきらめようとするクマさんに、キツネくんは怒ります。


「雪のせいで迷子になっても、根っこ広場が気味が悪くても。怖かったけど、あきらめなかったでしょうっ! 今度はドングリがない。だから、なに? あきらめないで、さがせばいい。最悪、ドングリがなかろうが、他のものを池に投げ込めばいいじゃないかっ!」


 クマさんは、目をパチクリさせました。

 キツネくんがクマさんのことを思って、励ましてくれているのはわかります。

 

(キツネくんは、なんだかんだで優しいなぁ。でも……)

「いや……、さすがに、ドングリ以外のものを投げ込むのはダメな気がするんだけど……」

「今の話、気にするのはそこなのっ?!」

「ぷふっ。はははははっ!」


 キツネくんはイライラと、地面を前足でたたきます。


「あぁっ、もうっ! ドングリ池の気分次第だと言ったのはクマさんじゃないかっ! リスさんも、君のせいで もめてるんだから、笑うんじゃないっ!」


 キツネくんは木の上に向かって叫ぶと、今度はクマさんをにらみつけました。


「クマさんもだよ。なにかに挑戦しようとすれば、問題がおこるのはあたりまえっ! 大事なのは問題がおこることじゃない。問題を、どう解決するかでしょっ!」

「う、うん……」

「問題が起こる度にあきらめてたら、なんにもできやしないじゃないかっ!」

「そ、そうかな?」


 クマさんはキツネくんの勢いにおされ、なんとなく、うなずきます。

 そんな木の上では、笑いすぎたリスさんが、ヨロヨロと立ち上がって……。


――つるり


 足元をすべらせたリスさんは枝から落ちて――。

 下の枝をはしっ、とつかまえたものの、手がすべり――。

 さらに下の枝に着地――したものの、枝が揺れて振り落とされ――。

 ぽすり、と雪の上に落ちました。


 静まり返った森の中、リスさんがおそるおそる顔をあげると、そこにはニンマリと笑ったキツネくんが――。

 あわててリスさんは逃げようとしますが、「させるかっ!」と声をあげたキツネくんの前足につかまえられてしまいます。


「僕はお弁当がなかったから、ちょうどいい。君をおやつにいただこう」


 したなめずりするキツネくんにリスさんはさお


「や、ちょっと待って……」

「君を一口で飲み込めば、今までのイライラがウソみたいに、スッキリしそうだ」

「ごめんって! ちょっとしたイタズラ心だったんだ! ちゃんとドングリは返すつもりだったんだよおっ!!!」

「そういう問題じゃないだろうっ!」


 カンカンになって怒ったキツネくんは、本当にリスさんを食べてしまいそうで、クマさんはこまってしまい、リスさんとキツネくんをおろおろと見つめるばかり。

 とうとうリスさんは泣き出しました。


「うぅ……、もう、しませんから ゆるしてください。おわびに、秋に集めたドングリもさしあげます」


 手の下でめそめそと泣き続けるリスさんを見ているうちに、キツネくんはだんだん困ったような顔になっていきます。

 それに、どこか、そわそわしたようすで、居心地も悪そうです。


「はぁ……。もう、いいよ。ドングリも別にいらないし」


 そう言って、リスさんから手をどけます。


「もう二度と、こんなことをするんじゃないぞ」


 キツネくんがため息混じりにそう言うと、あっという間にリスさんは駆け出します。

 そして、距離きょりをとった瞬間しゅんかん、振り返ってさけびました。


「だーれが、約束なんかするもんかっ! あんなの、ウソにきまってるじゃん。ドングリだって、誰かにあげるなんて、冗談じょうだんじゃないよ。信じて、ぼくを逃しちゃうなんて、キツネくんはお人好しだねっ!」

「なっ! だれがお人好しだっ! 取り消しなよっ!」

「やーい、お人好し、お人好しっ!」


 リスくんはそうやってキツネくんをはやしたてると、また走り出しました。

 でも、その直前、すこし、おかしなことがおこっていました。

 クマさんたちを追っていたキラキラした光。

 それが、根っこ広場の根っこにまとわりつくようにして、輝いて――やがて、根っこがウネウネとうごきはじめ、そして……。


 今、リスさんが前を通り過ぎようとした瞬間、先っぽがリスさんに向かってのびて――。


「うわあーっ!!!」


 リスさんの悲鳴におどろいて、キツネくんとクマさんは走り出します。

 そして、リスさんの姿を見て、目をまんまるにしました。


  白い光をまとってキラキラした根っこがリスさんに絡みつき、捕まえていたのです。


「う、ウワサは本当だったんだ……」


 クマさんは真っ青になって、ブルブル震えながらキツネくんの後ろで体をまるめます。

 キツネくんの体の大きさは、クマさんの半分もないので、隠れたりなんてできないのですが……。

 その時、リスさんはキツネくんと目が合いました。


(あぁ、おわった)


 リスさんはがっくりとうなだれて、キツネくんに食べられてしまうのを待ちました。

 でも、待てども待てども、その瞬間はやってきません。


「はぁーーー……」


 かわりに、キツネくんの深い、深いためいきが。

 リスさんが不思議に思って、おそるおそる顔をあげると。


「……なんで、僕が、こんなことをっ」


 キツネくんが眉間に深い深いシワを刻んで、ブツブツと文句をいいながら、根っこをリスさんから引きはがし始めました。

 前足で根っこを押さえ、口でリスさんにからみついているところをひっぱります。

 リスさんがおどろいて固まっているあいだに、根っこはどんどん引きはがされ、あっという間に自由になりました。


「な、なんで……」


 リスさんはビックリしています。

 キツネくんはムスッとして、黙っています。


「な、なんだよ。どういうつもりだよっ!」

「……あぁ、もう、めんどくさい」


――ぱくり


 キツネくんはリスさんをくわえると、頭をふって、ぽーん、とリスさんを放り投げました。

 リスさんはコロコロと転がって、目を回し、ぽかんとしていましたが、ハッと気がつくと、大急ぎで走って逃げていきました。


「……なに?」


 キツネくんは、となりでニコニコしているクマさんに問いかけます。


「え? キツネくんは優しいなぁ、と思って」


 キツネくんは顔をしかめました。


「それは、遠まわしにお人好しだと言ってるの?」

「え? ちがうよっ!」


 クマさんはオロオロします。


「ちがわないさっ! 『要領よくスマートに』が僕の信条しんじょうなのに、もうっ!」


 キツネくんはプンプンと怒りながら、ドングリの入った袋を拾い上げ、クマさんに渡します。


「はい。もう、なくさないでねっ!」


 そう言って、さっさと歩きはじめます。

 クマさんは困ったように微笑ほほえんで、あとを追いかけました。

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