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04根っこ広場

ルビをふる余裕がなくなりました




ぼく、なんだってこんなことをしてるんだろう……」


 キツネくんはゆううつそうにためいきをつきました。

 となりを歩くクマさんは ちらり とキツネくんをましたが、だまっています。


「『要領ようりょうよく、スマートに』とは、とても言えないな。無様ぶざますぎて、わらえないよ」


 キツネくんは不機嫌ふきげんそうに、ぶつぶつと文句もんくを言っています。

 クマさんは居心地いごこちわるそうに、そわそわ。

 すると、

「ぐーっ」

と、クマさんのおなかがなりました。


「……あぁ、そういえば、クマさんはおなかがすいていたんだっけ。根っこ広場についたら、お昼にしようか」


 キツネくんの言葉にクマさんはパッと笑顔になり、うなずきます。

 足取りも軽く 道を進みますが、それも根っこ広場が見えてくるまで。


 いつもと様子の違う広場に、だんだんと足取りが重くなり、広場に着いたころには、キツネくんの後ろから、ビクビクと広場のようすをのぞいていました。


 根っこ広場は、たくさんの木々にぐるりと囲まれて、クマさんがねっころがれるくらい、大きな、大きな岩がゴロゴロところがっています。

 その上には木の根っこがウネウネと伸びて、ちょうど、森の動物達が集まれるくらいの広さとなっていました。


 何か事件があったら、みんなで話し合うためにあつまったり。

 みんながふらりと立ち寄って、おしゃべりをしたり。

 そうやって、森のみんながあつまれる、ひろい、ひろい広場です。


 クマさんも、春や夏にはよくくる、よく知った場所です。

 でも、クマさんはキツネくんの後ろから、おどおどとまわりを見るばかり。

 クマさんの知っている広場は春は柔らかな日差しがさしこみ、明るい緑の若葉がしげって、花も咲いて、みんながあつまり、にぎやかです。

 夏は強い日差しを木々がさえぎって、みんなが涼みにやってきて、のんびり過ごすのに最適です。

 秋は、葉っぱがだいだいあか色鮮いろあざやかで、みんなが冬じたくのために、忙しそうに行き来します。


 でも、今は。

 空は、どんより曇り空。

 森はすべてが雪におおわれて、真っ白で。

 冷たい風がピュウピュウ吹き付ける以外は、しんと静まりかえり。

 まるで、空気までがこおりついたようです。


「なんだか、不気味だね。薄暗くて、風は痛いぐらい冷たくて。誰も、いないみたいだよ……」

「冬は、みんな家にとじこもるからね。いつものことだよ」


 キツネくんはなれているのか、前足で雪をかくと、そこに座ります。

 クマさんも、キツネくんのマネをして、おそるおそる、となりに座ります。


 クマさんは袋から出したドングリをもぐもぐと食べはじめます。

 キツネくんも食べるかな? と差し出したものの、断られてしまったので、それも、ぱくり。

 ドングリを食べつつ、キョロキョロと周りを見回しました。


「そういえば、ここでウソをつくと、根っこに捕まるんじゃなかったっけ?」


 クマさんはウワサを思いだし、こわごわと 雪の下からのぞく黒い根っこを見つめました。


(突然、根っこがにょろにょろと動きはじめて、足にからみついてきたらどうしよう)


 クマさんは考えます。


(下にある根っこが全部、にょろにょろと動きはじめたら……)


 想像した光景に、ぞわぞわとして、必死に腕をこすります。


「そんなの、ただのウワサだよ。だいいち、クマさんは僕にウソをつくつもりなのかい?」

「え? ウソなんか、つかないよっ!」

「じゃぁ、大丈夫でしょ」


 キツネくんはあっさりとした返事で話を終わらせてしまいました。


「たしかに、そうかも知れないけれど……」


 キツネくんの言うことは正しいのでしょう。

 でも、キツネくんの言葉では、クマさんの不安は消えてくれません。

 暗い顔でクマさんはドングリをパクリと口に入れ、もぐもぐ、ごっくん と飲み込みます。

 そんなクマさんの足元で にょろり と何かが動きました。

 そして、スルスルとクマさんの足をのぼっていきます。


「うわーっ!!!」


 クマさんは悲鳴を上げて飛び上がりました。

 そして、しっかりと目をつむり、叫びます。


「キツネくん、あ、足が根っこにつかまった! たすけてっ!」

「わっ!」


 おどろいたキツネくんのしっぽがぶわり、とふくらみます。


「とつぜん、叫ばないでくれよ。ビックリしたじゃないか」


 キツネくんはムスッとした顔でクマさんをにらみました。

 そんなキツネくんにクマさんは半泣きでうったえます。


「だ、だって、足が根っこに捕まったんだ」

「そんなわけないだろ」


 キツネくんは落ち着いた様子でクマさんの足元を確かめました。

 すると、そこには――若葉のような、明るい緑色のヘビさんが一匹。


 「むにゃむにゃ……。わたしも、どんぐり、たべるよぅ……」


 あたたかいクマさんの足にまきついているヘビさんは、まぶたが今にもくっつきそう。

 クマさんとおなじく、冬眠中にもかかわらず起きてきたようで、とても、ねむそうです。


「ドングリをのみこむと、からだの中をコロコロころがっていくのが……、ふわぁ……スキなんだ……」


 あくびをしつつも言い切ると、ヘビさんはあーん、と口を開けて、待っています。


「寝てても、ドングリという言葉に反応して起きてくるなんて……。ヘビさんは食いしん坊さんなんだねぇ」


 クマさんは、すごいなぁ、と感心しています。

 一方、キツネくんは不機嫌そう。


「冬のわずかなご飯をくれだなんて、ずうずうしいんじゃない?」


 そう言って、ヘビさんをにらみます。


「えぇ……、くれないのー?」


 ヘビさんはしょんぼり。

 クマさんは二人のあいだでおろおろ。


「え、ボクは、その、えーっと……」


 クマさんが袋の中を見れば、ドングリはあとわずか。


「……いっこでよければ、どうぞっ!」

「わぁ、うれしー。ありがとー」


 差し出した瞬間、ぱくりっ。

 ヘビさんはとっても幸せそう。


「あぁ、しあわせ。クマさん、ありが――ふぁあ」


 ヘビさんは我慢がまんしきれずに、大きなあくび。細い舌がチロチロとうごきます。


「……ドングリも食べたし、もう、寝ちゃおう。クマさん、キツネくん、おやすみなさーい」


 ヘビさんは、クマさんの足を伝ってスルスルと降りていくと、木の根っこの下、雪のない岩の隙間へと消えていきました。


「はぁー、びっくりした。本当に根っこが動いたのかとおもったよ」

「……」


 だまっているキツネくんに気がついて、クマさんはキツネくんの顔をまじまじと見つめました。

 キツネくんは眉間にシワをよせ、ムスッとしています。


「……キツネくん、おこってる?」


 おそるおそる尋ねるクマさんに、キツネくんは聞きました。


「クマさん、なんでヘビさんにドングリをあげたんだい?」

「なんでって、……食べたそうだったから? それに、食べられないってなったとたん、落ち込んじゃって、かわいそうだったし……」


 クマさんの答えを聞くと、キツネくんは怒り始めました。


「なんて、お人好しなんだっ! 冬眠中に起きてしまったから、いつもより、ごはんがいっぱい必要なのに。なんだって、そんな理由であげちゃうんだっ!」

「ご、ごめん。で、でも、お人好しって、優しいってことだろう? 優しいのはいいことじゃないか」

「はぁ? お人好しっていうのはねぇ、だまされて、バカにされて、わらわれて。ひどい目にあって、ようやく、そのことに気づいて、みじめさに泣くことになるんだ! 僕はぜったいに、ゴメンだよっ!」


 キツネくんはくわっと、鬼のような顔をしてさけびます。


「ご、ごめんなさい……」


 おどろいたクマさんは、おもわず、あやまってしまいます。


「べつに、あやまらせたかったわけじゃ……」


 キツネくんは気まずそうに視線をクマさんからそらし――ぎょっとして、目を見開きました。


「クマさんっ! ドングリはどこだい?!」

「え? ここにある……あれ?」


 クマさんはさっきまでもっていた袋がないことに気づき、キョロキョロ。

 そして、真っ青になりました。


「ドングリが、ない?」


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