03迷子のクマさん
「ああ、つかれた……」
全速力で走ったクマさんは、はぁはぁと、息も切れ切れ。あつくて たまりません。
ぐったりとして、座り込みました。
体の下の雪がひんやりとして、気持ちいいぐらいです。
しばらく、そうして休んでいましたが、ふと、顔を上げてあたりを見回し、ぎょっとしました。
あたりは雪におおわれ、一面まっしろ。
ここがどこなのか、ちっともわかりません。
「ど、どうしよう」
クマさんは、おろおろと、まわりを見回します。
けれども、目印になるものは雪のせいで見つかりません。
いつもであれば、誰かが出歩いていることもあるけれど、鳥さんの歌声すら聞こえません。
みんな、寒さから身を守るため、そっと息を潜め、家の中でじっとしているようです。
迷子で、ひとりで、寒くって。
心細くなったクマさんは、ぶるりと体をふるわせました。
「さ、さむいなぁ。さびしいなぁ。こわいなぁ」
(もう、帰ってしまおうか)
「じゃぁ、もう、帰りなよっ!」
クマさんは、びっくりして ふり返りました。
そこには、ぜぇぜぇと息をきらしたキツネくんがいました。
どうやら、全力で追いかけてきたようです。
キツネくんの姿に、クマさんはほっとしました。自然と表情も明るくなります。
もうひとりじゃない、と安心して、ニコニコと話しかけました。
「キツネくん、どうしてここにいるんだい?」
笑顔のクマさんを、キツネくんはきっ、とにらみつけました。
「どうして? そんなの、僕が知りたいよ!」
イライラしたキツネくんは、前足でザッザッと雪をかきました。
「クマさんがあのまま洞窟に戻れば、僕だってこんな ところに いないさ。クマさんこそ、どうして、今、雪のつもった森に出てきてしまったんだい?」
プリプリと不満そうなキツネくんに、クマさんはそわそわ。
ためらいがちに、ぽつりと言いました。
「たしかに、春のほうが楽に行けるのかもしれないけど……」
クマさんはだまりこみ、キツネくんはぐっとガマンして、続きを待ちます。
すると、ようやく、意を決したようにクマさんは言いました。
「でも、きっと、今じゃなきゃダメなんだ」
キツネくんはまだ、ガマンをしてだまっています。クマさんは、続けます。
「コマドリさんと話して、勇気が出たんだ。春にはきっと、いつものボクにもどっちゃう。そうしたら、ドングリ池だって、願いをかなえてくれないと思うんだ」
キツネくんはぶすっとした顔で聞いています。
「だから、だから……」
クマさんはうるうるとした目で、キツネくんを見つめます。
泣き出しそうなクマさんに、キツネくんはしかめっ面。
「はあ~」
キツネくんは、ふかい、ふかい、ため息をつきました。
「ぜんっぜん、意味がわからないよ。ぜんぶ、クマさんの想像じゃないか」
クマさんは、しょんぼりとして地面を見つめました。キツネくんに、クマさんの気持ちをわかってもらえないのが、悲しくてたまりません。
「……でも、そうしなきゃ、クマさんが納得できないなら、やってみればいいんじゃないの?」
クマさんはびっくりして顔をあげました。目をまんまるにして、キツネくんを見つめます。
「僕とちがう考えだって、べつに良いじゃないか。どっちが正しいかなんて、やってみなくちゃ分からない」
そうだろ? とキツネくんはクマさんを見て小首をかしげました。
「……ボクの思ったとおりに、してもいいの?」
クマさんは信じられなくて、おそるおそる たずねました。
すると、キツネくんはまた、しかめっ面。
「いま、そう言ったじゃないか。なにを聞いていたのさ」
「え? いや、そうなんだけど……」
とても信じられなくて、とは言えなくて、クマさんはおたおたしてしまいます。
「まぁ、僕だったら、そんなムダの多いことはしないけどね。クマさんがムダばかりで、大変な目にあうことをしたいなら、かってにすればいいさ」
クマさんが言葉をみつけられないでいると、キツネくんはさっさと歩きはじめました。
クマさんは、あわてて声をかけます。
「キ、キツネくんっ! もう、帰っちゃうの?!」
「はぁ?」
キツネくんが不機嫌そうにふり返り、低い声で返事をします。
「こっちは、根っこ広場に続く道なんだけど……?」
「え? あ、じゃぁ、方向が一緒だねっ! 」
クマさんの顔が、パッと明るくなりました。
逆に、キツネくんの顔は暗く、不機嫌そうにゆがみます。
ぐるり、とまわりを見渡せば、雪におおわれた森は、まるで別世界。
「……きみ、もう、道もわかってないんだ?」
「え、うん。ちょうど、迷子になったところだったから、キツネくんが来てくれて助かったよ」
クマさんは嬉しそうにニコニコとして、答えます。
「……はぁ」
キツネくんは文句を言おうとして口を開きましたが、ため息をついただけで、そのままスタスタと あるきはじめました。
「あ、まってーっ!」
クマさんはその後を小走りで追いかけます。
そのさらに後ろを、白い光がこっそりととついていきました。