02キツネくん
コマドリさんがいなくなってしまうと、森はしんと静まり返りました。
さっきまでの にぎやかさが まるでウソのようです。
「……よし。とにかく、ドングリ池に出発だ」
さびしさを ごまかすように、クマさんは声に出していいました。
「まずは、根っこ広場に行こうかな」
そう言って、一歩、雪の上にふみだします。
すると、木々の間から声が聞こえてきました。
「はぁ……。おバカすぎて、見てらんないよ」
クマさんが声がしたほうを見ると、木の影から、黄色いしっぽがゆらり。
キツネくんがひょっこり出てきました。
キツネくんはクマさんとコマドリさんの やりとりを、木のかげから見ていたようです。
「あんな、ほんとかどうかも分からない話のために、この雪のつもった森を、川の反対側まで歩いていくの? クマさんは、雪がふる冬のあいだはいつも寝ているのに?」
キツネくんは信じられない、とばかりに首を横にふり、ため息をつきました。
「しかも、寝起きでおなかが すいているだろうに、ごはんも食べずにいくのかい?」
(そういえば、おなかがすいたなぁ)
「きゅー、ぐるる」
キツネくんの質問に、クマさんのおなかが答えます。
「ここからドングリ池まで、とっても、遠いよ? お弁当も持たずに行くのかい?」
(たしかに、お弁当がないとたいへんそうだ)
「ぎゅー、ぐぐるるる」
こんども、クマさんのおなかが いち早く、答えます。
キツネくんはムッとした顔で、クマさんのおなかをにらみます。
クマさんは、恥ずかしそうに手でおなかをかくしました。
「……とにかく、クマさんが冬のあいだにドングリ池に行くなんて危ないよ。どうしても行きたいなら、春にコマドリさんと行けばいいじゃないか」
(なるほど、キツネくんの言うことはもっともだ)
クマさんは、納得し、うなずきます。
「……うん。キツネくんが、きっと、正しいね」
そう言って、くるりと洞窟の中に入ります。
そして、春に目覚めたら食べるために置いてあったドングリを半分ほど、袋に入れて外に出ました。
キツネくんはまだ、そこにいて、出てきたクマさんに目を丸くしています。
「なんだい? 行かないことに したんじゃないのかい?」
「……」
クマさんは袋を抱え、下を向き、だまりこんでしまいました。
「おーい、聞こえてるんだろう?」
キツネくんは返事がないことにしびれを切らして聞きました。
(怖いから、返事をしたくないなあ)
クマさんは、ぐずぐずと悩みます。
(キツネくんの考えと、反対のことを言ったら怒るかなあ? ボクの考えたことなんて、一生懸命はなしても、バカにされちゃうんじゃないかなあ?)
「クマさんっ! おーいっ!」
キツネくんはクマさんに返事をしてもらおうと、一生懸命、ぴょこぴょこ跳ねて、叫んでいます。
(うわあっ! キツネくん、怒ってる! どうしようっ!)
クマさんは、怒っているように見えるキツネくんに、あわあわ、おろおろ。たすけをもとめて、まわりをキョロキョロ見回しますが、見えるのは雪におおわれた木々ばかり。
(どうしよう、どうしようっ!?)
クマさんは、どうしても うまく気持ちを言えそうにありません。
「ご、ごめんなさいっ!」
クマさんは、ウサギさんも驚くような早さでびょーんと 森の中へかけだします。
そして、あっという間に森の奥へと行ってしまいました。
残されたキツネくんはぽかーん、とクマさんの姿が消えていった方を見つめています。
そして、しばらくすると、不満そうにつぶやきました。
「ほんとうに、クマさんはおバカさんだなあ。怖がりだから、一人で森の反対側までいくなんて、ムリに決まってるのに。他の道は雪のせいで通れないから、遠回りもできないんだぞ?」
キツネくんはぶつぶつとクマさんに文句をつけながら、同じ場所をぐるぐると回っています。
そのせいで、足元の雪はまあるく、へこんでしまいました。
すると、風がひゅーっとふいて、雪が舞い上がり、キラキラ光りました。
――しんぱいだ しんぱいだ
「しんぱいなんか してないぞ」
キツネくんは言い返します。
――大丈夫かなぁ? 大丈夫かなぁ?
たいへんな目にあうクマさんを想像して、キツネくんはむっ、と顔をしかめます。
「……クマさんが大丈夫じゃなかろうが、僕には関係ないぞっ!」
キツネくんは叫びます。
すると、また、風がピュウピュウとふきました。
――しんぱいだ しんぱいだ
――大丈夫かなぁ? 大丈夫かなぁ?
キツネくんはむむむっ、と顔をしかめて座り込んでしまいました。
そして、突然、叫びます。
「あーっ、もうっ!」
後ろ足でガシガシと頭をかいたかと思うと、さっと立ち上がり、クマさんが走っていった方向を見つめます。
「なんだって、こんな面倒なことを……」
キツネくんはぷるぷるっ、と頭をふると、クマさんを追って走り出しました。
――くすくす くすくす
白い光が風と舞って、楽しそうに笑っています。
考え込んでいたキツネくんは、自分が誰と話していたのか、とうとう気づきませんでした。