表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

02キツネくん




 コマドリさんがいなくなってしまうと、もりはしんとしずまりかえりました。

 さっきまでの にぎやかさが まるでウソのようです。


「……よし。とにかく、ドングリ池に出発しゅっぱつだ」


 さびしさを ごまかすように、クマさんはこえしていいました。


「まずは、っこ広場ひろばこうかな」


 そうって、一歩いっぽゆきうえにふみだします。

 すると、木々きぎあいだからこえこえてきました。


「はぁ……。おバカすぎて、てらんないよ」


 クマさんがこえがしたほうをると、かげから、黄色きいろいしっぽがゆらり。

 キツネくんがひょっこり出てきました。

 キツネくんはクマさんとコマドリさんの やりとりを、木のかげから見ていたようです。


「あんな、ほんとかどうかも分からない話のために、この雪のつもった森を、川の反対側はんたいがわまであるいていくの? クマさんは、雪がふる冬のあいだはいつもているのに?」


 キツネくんはしんじられない、とばかりにくびよこにふり、ためいきをつきました。


「しかも、寝起ねおきでおなかが すいているだろうに、ごはんもべずにいくのかい?」

(そういえば、おなかがすいたなぁ)

「きゅー、ぐるる」


 キツネくんの質問しつもんに、クマさんのおなかがこたえます。


「ここからドングリ池まで、とっても、とおいよ? お弁当べんとうたずに行くのかい?」

(たしかに、お弁当がないとたいへんそうだ)

「ぎゅー、ぐぐるるる」


 こんども、クマさんのおなかが いちはやく、答えます。

 キツネくんはムッとしたかおで、クマさんのおなかをにらみます。

 クマさんは、ずかしそうに手でおなかをかくしました。


「……とにかく、クマさんが冬のあいだにドングリ池に行くなんてあぶないよ。どうしても行きたいなら、春にコマドリさんと行けばいいじゃないか」


(なるほど、キツネくんの言うことはもっともだ)


 クマさんは、納得し、うなずきます。


「……うん。キツネくんが、きっと、ただしいね」


 そう言って、くるりと洞窟どうくつなかはいります。

 そして、春に目覚めざめたら食べるためにいてあったドングリを半分はんぶんほど、ふくろに入れてそとに出ました。

 キツネくんはまだ、そこにいて、出てきたクマさんに目をまるくしています。


「なんだい? 行かないことに したんじゃないのかい?」

「……」


 クマさんはふくろかかえ、下をき、だまりこんでしまいました。


「おーい、聞こえてるんだろう?」


 キツネくんは返事へんじがないことにしびれを切らして聞きました。


(怖いから、返事へんじをしたくないなあ)


 クマさんは、ぐずぐずとなやみます。


(キツネくんの考えと、反対のことを言ったらおこるかなあ? ボクの考えたことなんて、一生懸命いっしょうけんめいはなしても、バカにされちゃうんじゃないかなあ?)


「クマさんっ! おーいっ!」


 キツネくんはクマさんに返事をしてもらおうと、一生懸命いっしょうけんめい、ぴょこぴょこねて、さけんでいます。


(うわあっ! キツネくん、怒ってる! どうしようっ!)


 クマさんは、怒っているように見えるキツネくんに、あわあわ、おろおろ。たすけをもとめて、まわりをキョロキョロ見回みまわしますが、見えるのは雪におおわれた木々ばかり。


(どうしよう、どうしようっ!?)


 クマさんは、どうしても うまく気持ちを言えそうにありません。


「ご、ごめんなさいっ!」


 クマさんは、ウサギさんもおどろくような早さでびょーんと 森の中へかけだします。

 そして、あっという間に森のおくへと行ってしまいました。

 のこされたキツネくんはぽかーん、とクマさんの姿すがたが消えていったほうを見つめています。

 そして、しばらくすると、不満ふまんそうにつぶやきました。


「ほんとうに、クマさんはおバカさんだなあ。怖がりだから、一人で森の反対側はんたいがわまでいくなんて、ムリに決まってるのに。他の道は雪のせいで通れないから、遠回とおまわりもできないんだぞ?」


 キツネくんはぶつぶつとクマさんに文句もんくをつけながら、同じ場所ばしょをぐるぐると回っています。

 そのせいで、足元の雪はまあるく、へこんでしまいました。

 すると、風がひゅーっとふいて、雪が舞い上がり、キラキラ光りました。


――しんぱいだ しんぱいだ


「しんぱいなんか してないぞ」


 キツネくんは言い返します。


――大丈夫だいじょうぶかなぁ? 大丈夫かなぁ?


 たいへんな目にあうクマさんを想像そうぞうして、キツネくんはむっ、とかおをしかめます。


「……クマさんが大丈夫じゃなかろうが、ぼくには関係かんけいないぞっ!」


 キツネくんは叫びます。

 すると、また、風がピュウピュウとふきました。


――しんぱいだ しんぱいだ

――大丈夫かなぁ? 大丈夫かなぁ?


 キツネくんはむむむっ、と顔をしかめてすわんでしまいました。

 そして、突然とつぜん、叫びます。


「あーっ、もうっ!」


 うしあしでガシガシとあたまをかいたかと思うと、さっと立ち上がり、クマさんが走っていった方向ほうこうを見つめます。


「なんだって、こんな面倒めんどうなことを……」


 キツネくんはぷるぷるっ、と頭をふると、クマさんを追って走り出しました。


――くすくす くすくす


 白い光が風と舞って、楽しそうに笑っています。

 考え込んでいたキツネくんは、自分がだれと話していたのか、とうとう気づきませんでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ