【第6話】友達。
「髪、ボサボサだけどいいの?」
背後から突然声がしたので、驚きのあまり私は頭を抱えたままの状態で、5秒ぐらい、石のように固まってしまった。
そして5病後、私はようやく口を開いた。
「........い、つから、いた、でずか....?」
まるで日本語を勉強し始めたばかりの外国人みたいにカタコトな日本語で聞くと、
「いつからって....一人で頭抱えて『運動部は無理』とか言ってたあたりかな」
うわ、超恥ずかしい。
とりあえず話を変えたい、そう考えていると、素直な疑問が頭の中に浮かんできた。
「谷崎くん、何でまだ学校に?何か忘れ物とか?」
普通に、素直に思ったことを聞いただけだった。
だって、他のクラスメイトはすぐに教室から出て行ったし、多分谷崎くんも一度は教室から出て行ったと思う。
だって、一応、私は教室に誰もいなくなったのを確認してから独り言を言っていたのだから。
だから、谷崎くんはきっと何が用事とか、忘れ物を思い出して戻って来たのだろうな、と、そう考えたのだ。
すると谷崎くんは、んー、と、腕を組んで何が考えるような素振りをして、
「いや、大木さんが新入生歓迎会の前に、神妙な顔で何か言いかけてから『また後で!』って言ってたなぁって思って」
と言った。
「えっ」
まさか、それの続きを聞くためだけに戻ってきたのだろうか。
私が勝手に、今更だしもういいか、と自己完結してしまったことを、谷崎くんは実は気にしてくれていたのだ。
「何か、気になって戻ってきた。何言おうとしてたの?」
「あー、あれは....。」
わざわざ放課後に教室に戻ってくる程、気にしてくれていたのだから、これは言う以外の選択肢は無いな、と思った。
なので私は順を追って、ゆっくりと話し始めた。
「.......整列の時、私、みんなを並ばせようとしたんだけど、私、指示なんて出したこと、めったに無くて。それで怖くなっちゃって、声が出なくて、どうしよう、私が先生に任されたのに、早くしなきゃ。って、どうしよう、って考えれば考える程、声が出なくなって、息が苦しくなって......」
何も言わずに、谷崎くんは聞いていた。
相槌もなかったけれど、真っ直ぐに私を見つめるその深い灰色の瞳で、真剣に聞いてくれていることが分かる。
「........そんなときに、谷崎くんがみんなに声をかけてくれたの。あの時は、本当に助かりました。ありがとう。あと、その後もほとんど何も出来なくてごめんなさい。」
そう言いながら私は頭を下げ、そして頭を上げて、真っ直ぐ谷崎くんの瞳を見た。
「それだけ?って思ったかもしれないけど、これが私がさっき谷崎くんに言おうとしてたことです。」
私が話し終えたのを待って、谷崎くんは口を開いた。
「あー...。いや、そんな、お礼言われるようなことはしてないし、一応、俺も学級委員になったんだからさ。それっぽいことやらなきゃなーって思ってたし...なんか上手く言えないけど、とりあえず、一人で何でもこなそうと思うなよ。.....クラスメイトなんだし、学級委員だし..........友達だし!」
そう言って、谷崎くんは少し照れ臭そうに笑った。
「........友.....達......?」
私、迷惑かけて、助けてもらってばっかりだけど、
もう友達になれたのかな。こんな私が友達でいいのかな。
私は嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちが混ざって、微妙な表情をしていた。
その時、
私の頭に、ぽん、と、大きな手のひらが触れた。
「何考えてそんな顔してるのかわかんないけど、俺にとっては、誰が何と言おうが、もう友達だから。いい?わかった?」
手を頭に乗せたまま、私の顔を覗き込んで、まるで小さい子に言い聞かせるように、優しい声で、谷崎くんは言った。
それがなんだか可笑しくて、さっきまで私がグダグダと考えていたことが、どうでもよく思えてきて。
「...はい。」
少し緩んだ口角のまま、その深い灰色の瞳を見つめ、
新しい『友達』に返事をした。
※この作品はフィクションであり、素人が書いているため、色覚異常の特性を完全に反映できている訳ではありません。ご理解の程よろしくお願いします。