【第4話】いまさら。
体育館へ移動中、私たちは体育館へと繋がっている渡り廊下で足が止まっていた。
どうやら体育館の狭い入口で上履きを体育館履きに履き替えるため、移動がスムーズにいかずに渋滞しているらしい。
そしてこの時間は私にとって、隣に並ぶ谷崎くんにさっきのことを謝るのと、お礼を言うチャンスだったけれど、
少し今更なことなのでタイミングが見つからず、なかなか話しかけられずにいた。
(後になればなるほど言いにくくなる…けど、最初の一言が出ない…。)
でも、こんなチャンスは今しかないかもしれないじゃん。そう自分に言い聞かせた。
「…谷崎くん!あの、さっき」
私が名前を呼び、谷崎くんが振り向いたそのとき。
…列が動き始めた。
「…ごめん、また後でにするや!」
なんてタイミングだ…と思いながらもそう言うと、
「?うん」
と、谷崎くんは不思議そうな顔をして言った。
入口で体育館履きに履き替え、中に入る。
窓の黒いカーテンは閉まっていて、中は奥のステージ側の照明がついているだけで薄暗い。
そして、入学式では用意されていたパイプ椅子は、今回用意されていなかった。
(また言えなかった…)
内心気にしながらも、指定された位置に、今度は少し周りを促して、スカートなので気にしながら、カラフルな灰色のラインが引かれた床に座った。
学級委員の2人が並んで先頭なのが、要らない制度だと今は思った。
3時間目は、長すぎる校長先生の話と、副校長の話、理事長の話、それぞれの学年主任が、これからの過ごし方などを、これも長々と話して終わった。
ずっと床に座っていたため、腰が痛くなったのと、周りの人がどんな状態なのかを見たかったので、腰を回しつつ周りを見渡すと、頭が下がっている人が沢山いて、つまらないと思っていたのは私だけじゃなかった、と少し安心した。
チラッと隣に座る谷崎くんを見ると、こちらも頭が下がっていて、目を閉じていていた。
(…まつげ、長いな)
こんなにまじまじと谷崎くんの顔を見たのは初めてで、クラスの女子が少し話していたのを耳にしたのを思い出したが、確かに整った顔立ちをしている。
くせっ毛で少しふわふわした真っ黒な髪は、思わず触りたくなる。…もちろん触らないけれど。
その時、まじまじと見られて視線を感じたのか、 谷崎くんが重そうな瞼を持ち上げた。
「あっ」
目が合ってしまって、やってしまった。という顔をした私を見て、
「俺の顔になんかついてる?」
と、なんだかテレビで聞いたことのある返しをした谷崎くんに、
「いや、ごめん、なにも」
と、目を逸らしてまたぎこちない返しをすると、これから部活動紹介を始めます、という司会の先生の声がしたので、
なんだよ、気になるじゃん、と言った顔で少しムッとした谷崎くんを横目に見ながら、私はステージ側に向き直した。
その頃の私の頭の中では、またお礼を言うのと謝ることができなかったけど、なんだかもう言わなくていいかな、心の中で沢山言っておこう…。という、諦めの、逃げの答えに辿り着いてしまっていた。
※この作品はフィクションであり、素人が書いているため、色覚異常の特性を完全に反映できている訳ではありませんので、大目に見てやってください。ご理解の程よろしくお願いします。