【第3話】自分の情けなさ。
その後も少し騒がしくはなりながらも無事に委員会決めは終了し、2時間目が終わった。
「じゃあ、3,4時限目は体育館で新入生歓迎会と部活動紹介だから、放送の指示に従って移動してー」
『はーい』
生徒達が素直に返事をしたのを聞いて、先生は満足そうな笑みを浮かべながら、教室右側、廊下側の前から4番目の席に座る私に、近づいてきた。
「多分放送で、各クラス出席番号順2列に並んで順番に移動っていう指示が出ると思うから、学級委員を先頭に並ばせて、移動させてくれるか?」
少し心配そうな顔をしながら先生は聞いてきたけれど、そんなこと言われたらやるしかない。
「はい、分かりました。」
頑張ります、という気持ちも込めて、2回頷きながら言った。
「すまん、ありがとうな!」
そう言って、黒い表紙の出席簿を左腕に抱えた先生は、少し急いで教室の前のドアからから出て行った。
(早速、重大な任務を与えられてしまった....。)
たかがクラスメイトを出席番号順に並ばせるだけ。たかが。
簡単なことだ、と自分に言い聞かせれば言い聞かせる程、難しいことに思えてしまう。
黒板に書かれた『学級委員 女...大木色羽』の文字に、いつの間にか白ではないチョークで大きく丸が付けられていた。
(あの丸は、何色のチョークで書かれてるんだろう)
そんな、私にとっての素朴な疑問を抱いても、その答えをクラスメイトに聞く勇気は私にはまだない。
そう、さっきは勢いというか、無意識で手を挙げてしまって、他にやりたいと言う人がいなかったから学級委員になってしまったけど、本当に私で良かったのだろうか。と考えてしまう。
だって、何度も言う様に、私には黒、白、灰色しか色が分からず、きっと体育祭とか、文化祭、その他にもいろいろな行事、授業でみんなの足を引っ張るのだろうな、と思ってしまうのだ。
「はぁ...」
まだ先の行事のことで、早くもため息が零れた。
((キーンコーンカーンコーン))
3時間目始業のチャイムが鳴り、
『えー、次の時間は、体育館で新入生歓迎会を行いますので、各クラス出席番号順2列に並び、3年生から順に移動してください。繰り返します、次の........』
確かにそう放送は流れたけれど、年配の男の先生の声で、モゴモゴと少し聞き取りにくかったのもあり、私のクラスの人達はほとんど聞いていなかった。
(早く出席番号順にみんなを並ばせないと...)
声をかけなければいけないのは分かっているのだけれど、どれだけ口を開いても、喉の奥に言葉がつまって、声になってくれない。
(なんで、どうして。)
みんなに声をかけるだけ。ただそれだけ。
でも、まだ出会ってから2日の人達に、いくら学級委員だからといって指示を出したら、
「なんだアイツ、偉そうにしやがって。」
「仕方ねぇよ、だってアイツ、俺らとは住んでる世界が違うんだもん」
とか言われてしまうのではないか。という、恐怖の未来が私の脳裏を過ぎる。
いやいや、流石にそこまでネガティブなにならなくてもいいじゃん。
そう思われても仕方がない。
でも私は中学の三年間、自慢じゃないけれど、先生以外の人と会話をほとんど交わしていない。
クラスメイトに指示を出すことなんて、小学校の給食当番以来である。
だから、そうだやっぱり、こんな私が学級委員になんてなるべきじゃなかったんだ....。
『みんなと仲良くなりたい』
そのためにこんな重要な役職になんて、就くべきじゃなかった。
(うわ、なんでだろ、よくわかんないけどちょっと泣きそう....)
私が自分の情けなさに思わず泣きそうになっていたその時、
「みんなー、さっき放送で、出席番号順2列で並んで指示出たら移動開始って言ってたから廊下に並んでくださーい。.....って、大木さんが言ってるよ。」
その声は、特別大きい訳ではないけれど、不思議とみんなの耳に、私の耳に届いた。
そして私のクラスメイト達は、重い腰を持ち上げて、ようやく動きはじめた。
また、助けられてしまった。
そう思いながら、一番に廊下に出ていく谷崎くんの背中を、無意識に私は見ていた。
…助けられてしまった、は私の思い込みかもしれないだろう。
けれど、同じ学級委員として、何も出来なかったのは事実だ。だから、
何も出来なくてごめんね、ありがとう。と、言いたかったのに、
二人並んで列の先頭を歩いている時にさえ、まだ喉の奥で何かがつまって声が出なくて、
結局私は何も言えなかった。
※この作品はフィクションであり、素人が書いているため、色覚異常の特性を完全に反映できている訳ではありませんので、大目に見てやって下さい。ご理解の程よろしくお願いします。