【プロローグ】
4月5日。
今日は、高校の入学式だった。
私の目から見える空は灰色で全体的にくすんでいて、今にも雨が降りそうだ。
「友達、できるかなぁ…」
初めてのホームルームを終え、帰り道に疲れ切って溜め息をついた私の頭を、母は優しく撫でてくれた。
「大丈夫よ、色羽なら皆とすぐ仲良くなれるわ。お天道様は見守ってるからね。」
そう言って母は、いい天気…雲一つない青い空だわ、と小さな声で呟きながら、今日の空を眩しそうに眺めた。
「そうだね…。うん、私、頑張るよ。」
そう言って、母と同じように眩しそうな顔をして空を見上げてみたけれど、私の目に映るのはやはりくすんだ灰色の空で、また溜め息をついた。
私、大木色羽は、人と話すことが苦手だ。もちろん家族となら話せる。
けど、他の人とは、…怖くて上手く話せない。
その上自己紹介で言えるような特技も趣味も無く、容姿も平々凡々な目立たない人種で、勉強が少しできるだけのいわゆる〝陰キャラ〟というポジションである私には一つだけ、特徴があるのだ。
それは、「色覚異常」という、生まれながらの特性を持っている所。
色覚異常は、正常と言われる多くの人とは色が異なって見える・感じる状態のことで、色覚異常にも様々な種類がある。
私の場合は本当に稀なケースである、先天性の「一色覚」という特性で、正常な色覚を持つ人が言う〝モノクロ〟に全てが見えてしまう。過去にはこの特性は「全色盲」と呼ばれていた。
そしてこれは血液型が一生変わらないのと同じく、一生変わらない、治らない特性だ。
なので私の見る世界には、白・灰色・黒と呼ばれている色しか存在していない。生まれてからずっとだ。
だから私には、母が言っていた〝雲一つない青い空〟も灰色にしか見えない。
赤とか青とか言われている色相や、鮮やかさを表すと言われる彩度はあまり分からない。
唯一辛うじて分かるのは、明るさを表す明度だけ。
私は自分から他人にはなるべく、この特性があるとは言わないようにしてきた。
先生には言うけれど、友達には言わなかった。
だって、自分のせいで周りの人達の会話から〝色〟が消えたとしたら、私が、それがどんな色なのかを想像する機会も無くなってしまうと思ったから。
幼い時は、色の違いが分かりにくくても友達とは仲良く喋っていたし、図工の時間も先生がどの色を使うかを教えてくれたので、なんとかなっていた。
けれど中学に入ってから、美術の授業で本格的に絵の具を混ぜて調色したり、体育祭では赤白帽ではなく5色のハチマキで組分けしたり、周りに〝色〟が増えてきた。
…思えばその頃から、私はクラスメイトと、周りの人達と話すのが怖くなったのだと思う。
友達できるかな、とは言ったけど、本当は自分が作るのが怖いだけ。人と話すのが怖いだけ。
他の人は分かる〝色〟が分からないのが怖いだけだ。
でも考えを変えると、今日からは、今までの私を全く知らない人しかいない学校で。
だから、どんな私にもこれからなれるんだ。
「……よし!」
私は一つの大きな決断をして、前へ進む為に陽の当たる明るい灰色の道へ、一歩を大きく踏み出した。
※この作品はフィクションであり、素人が書いているため、色覚異常の特性を完全に反映できている訳ではありませんので、大目に見てやってください。ご理解の程よろしくお願いします。