エンドロールは今何処?
感想、評価、お待ちしてます。
俺がこの世界に転生してから、どれだけの時間が経っただろうか。
前世の記憶なんかかなり薄れちまっているが、それでも元の世界とは全然違うということを覚えている。
たしか前世でこんな感じの恋愛ゲームがあったんだ。故に、この世界が元の世界と違うことに気づいた。
それからは大変だった。いくつかある死亡フラグ。及びバッドエンドを回避し、ヒロインの悲劇をどうにか防いで敵を打ちのめし、真のハッピーエンドにするだけの、とても楽しいお仕事が始まったのだ。
この世界特有の退魔術を必死に学び、襲い来る敵を退け、ヒロインのピンチや心の傷を適切に取り除くために時間管理をした。
特に時間管理がきつかった。管理と言っても元々の展開をあまり覚えてないので、雑巾を絞るように脳ミソ捻って微かなヒント一発勝負で正解ルートに進む必要があったのだ。
だがその甲斐もあって何とか最後に帳尻合わせができた……と、思う。
その代わりに原作には確か無かったハーレムルートみたいになったときは、乾いた笑いが漏れたが。
……どう考えても退魔術と、それが必要になった原因の『幻魔種』とかいう連中が悪い。どこのどいつだこんな設定考えたやつは。単純な恋愛ものにしとけば、フラグ管理はもっと楽だったんじゃねえのか。
だがしかし、俺はやり遂げた。オレの求めたエンディングシーンまでたどり着くことが出来たのだ。
とある教会。そこで行われているのは、紛れもなく結婚式。
「新郎、『春樹』よ。汝は常に妻を愛し、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かつときまで、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
『神父』が普段の様子からは考えられないほど、まじめに誓いの言葉を述べる。
年齢、本名不詳。何の宗教の神父なのかさえ不明な男に式を任せると聞いたときはどういった趣旨の冗談かと思ったが、案外まともで安心した。
彼の神父、好きな食べ物は肉と豆腐とアルコール。趣味は登山とシュノーケリングとスカイダイビング。特技は銃の分解整備。煙草とハードロックを好み、改造バイクで街を駆ける……。などというクソの役にも立たない情報ばかりで、肝心なことは何一つ分かってないからな。
たまにゲーセンで格闘ゲームをしている姿が目撃されている。盛大に煽りながらプレーして対戦相手をキレさせた挙句、腹パンで物理的に沈める戦法を得意としているらしい。
そんな神父がちゃんとした姿を見せていることで、俺の一つ年下の『修道女』なんか感動して泣いてる。
八年ほど前に幼い修道女連れてこの町にやってきたときは何事かと思ったが、今やすっかり馴染んでしまった。
よく無駄に神父に説教をしている様子が見られるが、重ねて言うけど無駄である。
「新婦、『桜』よ。汝は常に夫を愛し、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かつときまで、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
藤白桜。主人公宅の隣の家に住む少女。
幼いころから家族ぐるみの付き合いがあり、ガキの頃は『桜姉』なんて呼び方をしていたこともあった。
優しく、美しい少女であると同時に、癒しの力を司る退魔士でもある。
そして、この物語のメインヒロインと呼ばれる存在だ。
成長と共に主人公の事を男性として意識するようになるのだが、主人公は幼馴染からの好意に気付かない……というよくあるやつだである。
他のヒロインと違い物語スタート時点から主人公の事を好いているので、他のヒロインを攻略した場合は必然身を引くことになるのだ。
内心悲しみを感じながら、それをおくびにも出さずに主人公を祝福する様から、ファンから人気だったキャラクターである。
俺もこのキャラが好きだった。
いや、この言い方は正しくない。
この世界に来て、この人を好きになったのだ。
だから、俺はこのエンディングを目指した。
掛け値なく、これまでの人生をかけて。
故に今俺の胸中には、言葉にならない感動が満ちている。
……ぶっちゃけ解決してない問題がある。というか生み出してしまった気がするが、そこに関しては考えないことにしよう。
ほら、結婚式の真っ最中なわけだしね?
「では、指輪の交換を」
神父から指輪を受け取り、それを新婦の左手薬指にはめる。同様の動作を、今度は逆の立場から。
俺は、薬指を見てみた。
「誓いのキスを」
神父の言葉に、慌てて顔を上げる。いや、別に慌てる必要はなかったか。
一瞬、途轍もなく悔しそうな顔をした我が幼馴染が視界に入ったが、もちろんスルー。
あのシスコンはどうしたものか……。そんなに姉ちゃん取られたくねえのかよ。そろそろ縁を切るべきだろうか。
いやでも、あいつとはこれから家族になるのか。家族になるのか? どうなんだ?
姉が嫁になるということはコチラの家族に組み込まれるということで、俺とあいつが兄弟になるとは限らない?
いやいや、元の家族の縁が切れるわけではないか。では、親戚?
どうでもいいな、それより結婚式だ。
そういえば。
誓いのキスは、恥ずかしいからおでこにしてほしいと桜さんが言っていた。
照れているのに、どこか嬉しそうにしていたのを覚えている。
ヴェールを持ち上げた時に見えたその顔は、あの時の物にそっくりだった。
幼馴染の舌打ちも無視。あいつ神聖な場で何してんだ……。あっ、美里おばさんに殴られた。
そんな外野の様子に関係なく神父は式を進める。
「皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれた このお二人を神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう。
宇宙万物の造り主である父よ、今日結婚の誓いをかわした二人の上に、満ちあふれる祝福を注いでください。
二人が愛に生き、健全な家庭を造りますように。
喜びにつけ悲しみにつけ信頼と感謝を忘れず、あなたに支えられて仕事に励み、困難にあっては慰めを見いだすことができますように。
また多くの友に恵まれ、結婚がもたらす恵みによって成長し、実り豊かな生活を送ることができますように。
───Amen」
会場中の祈りがささげられる。
皆に祝福された結婚式が、そこにあった。
……嘘だ。
ヒロインレースから脱落した方々が呪詛を漏らしている。
『合法ロリ』(俺が勝手にそう呼んでいる)にいたっては、ガチで退魔術使ってる。おいバカやめろ!
逆に『金髪お嬢様』は完璧な笑顔を披露している。怖い。逆に怖い。
ハハッ。
胃が痛くなってきたぜ。
おいこの後披露宴あるんだぞ?
絶対ろくなことにならない(白目)
☆
古来よりこの世には人ならざる者が存在した。
それを狩る者たちも存在した。
前者は『幻魔』だの『幻魔種』だの『妖霊』だの色んな言い方をされる連中で、後者は『退魔士』だの『陰陽術士』だの『エクソシスト』だのこれまた色んな言い方をされてる俺たちのことだ。
現代ではあまりおおっぴらには知られていない俺たちは、夜な夜な人に仇名す化け物を秘密裏に狩り、政府から報酬をいただくことで生活している。
昔と比べて怪異どもの力は基本的に弱体化しているので、危機と呼べるほどの事態はそう起きない。それ故、未成年がアルバイト感覚で幻魔狩りをすることもよくあった。
────しかし数年前、世界の危機と呼べるほどの事件が起きる。
『ゲームの本編』に該当するストーリーだ。
幻魔種の異常発生。行方不明者の発生、増加。『古代種』、……『第一世代幻魔種』と呼ばれる存在の顕現。それらを裏で操る黒幕の存在。
退魔士の家系に生まれた主人公は事件に立ち向かう。
仲間を集め、真相を探り、時に争いながらも前に進む。
そしてついに、事件を解決に導いた……。というのが本編の大まかな流れだ。
言葉にすると簡単だが、これがマジで難しい。
ノーマルエンドは比較的簡単だが、トゥルーエンドにたどり着くのは至難の業なのである。
選択肢から正しいものを選ぶなんて甘いもんじゃない。正しい選択肢を出すために情報を集める必要があるのだ。
自らが情報を集めるだけでなく仲間を正しく使ってヒントを得なければならなかったり、条件を満たしながら戦闘に勝利しなければならなかったり。
それが出来なければ、黒幕を暴くことは不可能である。
しかもこのゲーム、意味不明なことにトゥルーエンドがハッピーエンドではないのだ。
攻略を進めていくと辿り着く最終局面、とある選択肢が出る。
A,ピンチに陥ったヒロインを助けに行く。
B,ラスボスを倒しにいく。
ヒロインを助けに行くと黒幕に逃げられ、数年後に今回を上回る規模の事件が起こるらしい。
一方ラスボスの方に行くと、ヒロインは意識不明の重体になる。
なんだその設定クソじゃねぇかと思うかもしれないが、これは一応ましな方なのだ。
エピローグの部分で後日談が語られるが、Bの方でヒロインは目を覚ますし、Aでは犠牲を出しながらも事件を解決するらしい。
ちなみにノーマルエンドだと、数年後に訳も分からず世界が滅ぶ。それだけはやめて。
こうしてトゥルーエンドに納得がいかなかった俺は、物語期間である一年間、血反吐吐きながら這いずり回ることになったのである。
俺に与えられたのは『あらゆる退魔術を使える才能』というチート風の力。多分。
そんなのいいからセーブ&ロードを寄越せオラぁ!冒険の書的な物だよッ……!!
一芸特化型が多い我が『鉄』家でなぜこんな子が……と皆不思議がったが、俺は知らん。
別に神様とか天使とかに会った記憶はないので、チートをもらったとかいうわけではない。
あとこの力、別にチートでも何でもない。
むしろ原作キャラ連中の方がチートである(白目)
☆
半ばやけくそ気味に讃美歌を歌い終え、残すは新郎新婦の退場のみだ。
腕を組み、幸せそうに笑う二人に盛大な拍手が送られる。
ふと目が合った兄貴がこちらに笑いかけてきたので、俺も拍手をしながら応じた。
原作主人公とメインヒロイン。なにより実の兄と、義姉になる人の晴れ舞台だ。
祝福しない理由がない。
いろいろと苦労させられたが、それでもこの光景を見れたんだ。
俺は満足している。
結婚式も終わり、参列者たちが退場し始めた。
さてと、俺も行くかな。
桜さんの家族、藤白一家の皆さんも既にいない。
……白目向いて気絶している俺の幼馴染を残して。
当身で黙らされたのは見ていたが、まさかそのまま置いていくとは……。
えっ、どうすんの。まさかこれ俺の担当?
置いてくかどうかマジで迷ったが、しょうがないので持っていくことにする。
力の抜けた人型の物体は大変持ちにくく、何度か安定させようとしたが無理だった。諦めて肩を組むようにして引きずる。肩が抜けても知らん。
教会からはほとんど人がいなくなり、残っているのは同じように気絶させられた合法ロリを運ぼうとする『関西弁?巫女』のみ。ふと、目が合った。
お互い苦笑しながら会釈する。
なんかお互い大変やね……、みたいな。
あの人も多少ショックだろうに、それでもああやって誰かの面倒を見てるんだ。
俺も、もうひと踏ん張りすっかな。
☆
────俺は、この世界に転生した。
物語の始まりは11歳。最終決戦に挑んだのは12の時。
全力を尽くし、駆け抜けてきた。
そして今日、1つの結末を見たのだ。
手に入れたのは、ハッピーエンドと義理の姉、同性の幼馴染とそこそこ優れた退魔術。
四歳離れた兄がハーレム作り始めたのと同い年、いくつもの活躍から俺には立場と責任が与えられることになった。
何らかの事情で若い能力者が表れたら、俺が面倒見ろってさ。
今の季節は春。桜舞う空に思う。
苦節15年。未だ俺には彼女無し。
ハハッ。
で、いつになったらエンドロール流れるの?
鉄 雪斗 15歳(原作時11~12歳)
ゲームの世界に転生した少年。前世での死因は不明。ただ、雪が降っていたことだけは覚えている。原作主人公の弟として生まれ、物語に介入。最終決戦時には主人公(兄)をヒロイン(桜)の救助に行かせ、一人ラスボスの足止めをした。
『あらゆる退魔術を使える才能』とはチートでは無く、主人公(弟)の精神、知能の発達が早かったというだけのこと。常人より長く修行できた結果であり、何も特別ではないことは本人だけが知っている。弱点は最高出力の低さ。
鉄 春樹 19歳(原作時15~16歳)
ゲームにおける主人公。典型的な熱血漢。
赤髪の爽やかイケメンであり、鉄家の次期当主である。ヒロインの桜とは同じ年の同じ日に生まれた。
必殺技は超出力封印パンチ。
弱点は持ち技の少なさ(そもそも出力が大きすぎるので、攻撃的な技を使うと周囲に被害が出る)。
しかし、これこそが鉄クオリティである。