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魔を統べる者  作者:
17/18

12話 面倒事

––––––パルチア王国 パーリア大通り––––––


 私は今非常に困っています。テケルさんと二人で宿に帰っている時に告白されたからです。いや、求婚です……

 隣でテケルさんも驚いているようです。


ユア「あの、手を……それに、いきなりそんな……困ります」


 腰に回された手を離してもらい、思考が追いついていないなか絞り出た言葉だった。

 今にして思えば、目の前で告白もとい求婚をされたのは初めての経験で、どう返答していいのか全く分からない。


???「一目惚れだ。お前を見た瞬間に分かったんだ。幸せにする自信もある。だから俺と結婚してくれ」


 いやいや、幸せ不幸せとか関係ないし、しかも出会った瞬間、唐突に告白ってどうなのかな……

 周りにいた通行人もいきなりの告白に興味津津の様子で、野次馬の人垣が辺りに形成されていた。

 人前に出ることにまだ慣れていないユアは、そんな状況が耐えられるはずもなく、さらに混乱していく。

 そんな中テケルは救いの手を差し伸べた。


テケル「名前も素性も全く知らない人に求婚されても困りますぁ。それに相手の意思も尊重せずに一方的過ぎですぁ」


 相手の男はテケルを一瞥すると一瞬眉間に皺を寄せ小さく舌打ちをした。


哉太「俺の名前は濱田哉太(はまだかなた)だ。歳は16歳、エールリヒ帝国から派遣されている。証拠はこれだ」


 哉太は胸ポケットから小さな紙を取り出し、渡す。

 その紙は日本でいうパスポートの様なもので、当人の身分を国が保証するというものだ。これが発行されるのは国の重要人物か国益になると認められた者ぐらいであり、所有しているだけでも顕要な位に付いていると分かるのであった。



ユア「エールリヒ帝国臣民であることを証明する–––」


 たわいもない証明文が続いていたが、ある文言が目に留まり、ユアを驚倒させた。


『職業:帝國軍総司令部付外交特使官 勇者 濱田哉太』


 この最後の勇者という文言だ。

 人の常識から逸脱した程の力を持ち、一人だけでも壮絶な力を有している勇者は普通、国から厚く歓迎され、最大戦力として国内で暮らすというのが常識だ。

 まだ15歳のユアでも勇者が今目の前にいる、それが特異なことだと理解できた。

 私に話しかけたのには何か裏があるんじゃ……


 勇者という単語に驚きを隠せなかったユアが、勇者様から求婚されて感激をしているものと勘違いをした哉太は更に続けた。


哉太「陶酔するのも仕方のない事だ。1000年ぶりの勇者だからな。その隣にいるしらけた奴より俺の方が豪儀で良いだろ? 俺の元に来たらずっと可愛がってやるから、さぁ来い」


 哉太は頗る付くぐらい踏ん反り返り、その表情は比倫を絶する程優越に満ちていた。


 う〜ん、確かに身長もそこそこ高いぐらいあって、目がつり気味で強面な感じだけど、小顔でイケメンの部類に入るだろうけど……


ユア「ごめんなさい、私に勇者様の妻が務まるとも思いません。他をあたってください」


 相手は仮にも勇者であり、世界最大の国家と言われているエールリヒ帝国の官職付きの人物なので無碍にに扱えない。

 ユアは温容に接した。

 もしカナタがもう少し謙虚で濃やかならば私の心も揺さぶられたかもしれないけど、印象が悪すぎる。それにテケルさんのことを悪く言った事も許せ無い。


ユア「テケルさん、行きましょう」


 待てと哉太が咎めるが、ユアはこれ以上大勢の人の前にいるのは勘弁と、人垣の間隙を縫ってそそくさと立ち去った。

 残ったのは茫然と立つ哉太と振られたと勘違いした野次馬の慰めと、独り身のものの歓呼だった。



 ユアとテケルはこれ以上面倒事は御免とスピードを上げて歩く。

 時間は既に夜も更けてきた頃であったがパーリアの大通りは王都だけあり活気に満ち溢れていた。

 そんな大通りの一角に聳えるのが今回王国政府から提供された宿だ。

 王都の大通りに面しているというのに相当な広さを有し、建物も木造2階建ての豪華な造りとなっており、中庭は枯山水のようになっている。付近は石造りの建物ばかりという事で、景観的にも浮いてそうだが、何故か浮いた感じが全くない。流石は王都屈指の宿と言えるだろう。


ユア「うわ〜、凄い。こんな所に泊まるとなんだかワクワクしますね」


 ユアが今まで泊まっていた宿はというと、大通りから外れた一般的な宿であった。良くも悪くも普通の宿といった所であった。


テケル「まったくですぁ。あっしもこんな豪華絢爛な宿初めてですぁ」


 二人は暫し宿の前で目を丸くする。


ユア「それじゃあ入りましょうか」


 宿に入ると色鮮やかな着物を身につけた女将が出迎える。

 洗練された丁寧な叩頭と美妙に着付けられた着物に目を奪われるユア。


ユア「綺麗……」


 ついそんな言葉が漏れてしまう。

 ユアの様な若人では決して醸し出せない雰囲気や風格、これが人生経験というものなのかと心の中で呟く。


バーヤ「本日は当宿をご利用頂きありがとうございます、恐れ入りますが御予約などはございますか?」


ユア「はい、ユアで予約がされているはずです」


バーヤ「ご確認いたしますのであちらの椅子で少々お待ちください。履物はここでお脱ぎください。脱いだ靴はここの鍵付きの靴入れにお願いします」


 そういうと女将は立ち上がり確認をしに行く。

 女将はみた所60前後ぐらいだがその動きに老いは一切感じられない。


 二人は靴を脱ぎ、言われた通りに靴入れに仕舞い、鍵をかけ、ゆったりとした椅子に座る。

 内装もやっぱりすごく綺麗。彫刻も細かいし、凝ってるなぁ。調度品も良いものばかり。流石だなぁ。

 ユアは椅子に座り辺りを隈無く見る。


 数分程待っていると女将が確認を終え戻ってくる。


バーヤ「御予約の確認が取れました。それではお部屋へご案内いたします。前の宿のお荷物は既にお部屋へ搬入されていますが、何かお荷物はございますか?」


 前の宿の荷物を運んでくれるというサービスは助かった。なんだかんだ長旅だった為、なかなかの量の荷物があったので自力で運ぶのは大変だったからだ。


ユア「いえ、特に荷物はありません」

バーヤ「分かりました。それでは私について来てください。お部屋は月の間となっております」


 廊下から望める中庭の優雅さは堪らない。


バーヤ「お部屋はこちらとなっております。お風呂に関しましては部屋にもございますが、当館オススメの大浴場が別館1階にございますので是非ご利用ください。いつでもご利用頂けます。御夕食は如何致しましょう?」


 もう時間も時間だし、お昼から何も食べてないからお願いしよう。


ユア「お風呂の前に頂きます」

バーヤ「では、すぐにお持ちいたします。御用がございましたら玄関に設置してあるベルをお鳴らしください。それでは、御夕飯の支度をしてまいります」


 月の間の間取りは居間が一部屋、寝室が二部屋、檜風呂、水洗トイレ付きだ。

 トイレが個室にあるだけでもそこそこいい宿となるのに、トイレが水洗に加えて風呂まであるというのは王国最高峰の宿ということが伺える。

 寝室が二部屋あるのは主人用の部屋と従者用の部屋との二つがあるからだ。普通は宿に宿泊する際、従者というものは従者用のボロい部屋か最悪厩舎、倉庫などという場合もザラである。しかしこの宿のような所に泊まるという人物は超がつくほどの人物であることが多く、その従者となるとそこらの貧乏貴族よりも権力的に強いということが多く、その様な人物をボロ部屋などに泊めておけるわけなく、同じ部屋だが寝室を変えるということになっているのである。

 非常に面倒な柵ではあるが、主人と従者が同じ環境で寝るということは許されない。



ユア「想像以上の料理ですね」


 眼前に広がる豪華料理の数々に目が点になるユア。


テケル「あっしがこんな料理頂いてもいいんですぁ?」

ユア「今回は王国政府が用意したことなので大丈夫だと思います」


 爵位返還によって実質職を失った人に対して最低限の配慮と思いますが……

 ユアがそんな事を考えていたがテケルもなんとなく察して料理に手をつける。



 夕食を堪能した後は風呂という事になったが大浴場に行くのか個室の風呂で済ますのかで悩むが、この様な宿に来たんだしどうせなら大浴場に行こうと決めるのであった。


ユア「それでは私はこっちなので」

テケル「ゆっくり疲れを癒してきてくだせぇ」

ユア「テケルさんもですよ」


 旅館に到着したのが遅かった事もあり、夕食を摂った後の現在は夜もそこそこ更けており、大浴場に人の姿は確認できなかった。


 げぇこんな広いお風呂で一人かぁ……いやぁ寂しすぎでしょ……


 大浴場のセンターにはこの国の英雄の一人である大賢者フェリメール師の若かりし頃の白亜の石像が設置され壁面には四季選り取りの絵が描かれている。中でも目を引くのは木々の葉が黄色やそれが少し焦げた様な色や赤く染まった、謂わば紅葉、絵の美しさに目を惹かれた。


ユア「お風呂の中も流石ですね」


 そんな独り言を呟きつつ体を洗う。

 元から15歳とは思えない様なプロポーションをしているユアの肢体から雫が滴る。腰の辺りまで伸ばした髪が絡みつき、お湯の温かさで少し体が火照っている姿は同性であっても心の中で、性別なんて関係ない! と思わせるにも十分過ぎる程に艶やか且つ年相応の少女らしさをも併せ持つのだった。この場に人がいれば確実に目を惹いたであろう。

 しかし現在この大浴場に居るのはユアたった一人のためそんな目に晒されることもない。不幸中の幸いといったものだ。


ユア「ん〜、極楽です〜」


 1日の疲れを癒す。

 長い髪を縫い上げ、手の甲の上に顎を乗せ今日の出来事を思い出す。

 落ち着いて思い返すと自分の不甲斐無さや無力さを改めて痛感するのだった。

 当事者である筈の私に対しても詳細を秘匿すると言うのは、何かしらの大きな事が起こっているということだろうか……それとも私はほんの15歳の娘になど伝える意味が無いとでも考えたのだろうか……

 でも、一辺境の貴族に対してあの様な大物が出てくるのは有り得ない。となると私が退出した後の会議が今日の本命と考えるべき……

 一体何があったのか……

 それに爵位取り上げなどになればお父様やお母様の親族達が反発する筈だが今のところその様な話を耳にしていない。反発しないだけなのか、それとも出来ない理由があるのか……私には分かりかねない。

 そんなことをあれこれ考えている内に結構な時間が経過していたようで、逆上せていたようだ。


ユア「う〜、頭がクラクラする」


 湯あたりした体を動かしつつ浴衣を着る。


 浴衣を初めて見たユアだが脱衣所の壁に書かれてあった着付け方を見様見真似で真似して試してたのだが、思いの外上手くできたことに嬉々としていた。

 ユアの黒髪と浴衣の相性は抜群であった。


 案外動きやすいし着心地も悪く無いですね。

 そんな事を思いつつ脱衣所を後にし、部屋に帰る。


 部屋に帰るとテケルが売店で買ったであろう飲み物が幾つか机の上に置かれていた。


ユア「テケルさん?」


 ユアはそう呼びかけるが返事は返って来ない。


 あれ? テケルさんどこいったんだろ……


 ユアは取り敢えず置いてあった飲み物の内の一つをとり、飲んだ。



◆◇◆◇◆◇


同国 王城


ファーメリア「あ、あ、哉太様、ダメ、です、これ、以上は、あぁ!」


哉太「ふん。これ程で意識が飛ぶとは所詮口だけの女という事か。それに最初はまるでゴミを見るかの如き態度だった筈だが、もう堕ちたか」


 今日の哉太こ機嫌は少々悪かった。


 さっきの女、この俺が勇者だと分かった上で拒絶しやがった。自分で言うのもなんだが、俺は顔もそこそこいけてるし、あいつの隣にいた野郎より確実に強くていい男だ。それなのに二人で逃げやがった。さぞ愛し合ってるんだろうな。あの女も健気なもんだ、あんな男に尽くしてるんだろ? そんな奴でも俺の力にかかれば一瞬で崩壊するんだがな。へへへ、必ず見つけて俺から離れられない様に躾けてやるよ。


 哉太から笑みがこぼれる。

更新速度が非常に落ちてすみません。


誤字・脱字などがございましたらご報告の程宜しくお願いします。



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