11話 特訓
正確には特訓はまだしていないかなぁ
––––––パルチア王国 パーリア郊外––––––
テケルさんと再契約を行い、再び共に行動をすることになった私達は、今後の活動方針について話し合いました。
そしてその結果、目下当面の目標は、くだんの事件の犯人捜索ということになりました。
テケル「犯人を捜すとなるとお嬢にも危険が及ぶ可能性がありますぁ。だから非力のままではまずいですぁ。という訳で特訓をするんですぁ」
という訳で、私は特訓をする為に、王都から少し離れた人気のない平野にやってきた。
テケル「まずは魔法適正か魔術適正があるか調べまあすぁ」
魔法と魔術は、この世界で最も強力な武器となり得るものだけど、私なんかが本当に使えるのかな……
私が不安そうな表情をしていることに気付いたテケルさんは私に言った。
テケル「そんな心配することはないですぁ、ミゲルの坊主の件でお嬢が使っていた魔法は並大抵の魔法師じゃ使え無いですぁ。あんな魔法を使える時点でこの国でも既にトップの魔力を持ってるはずですぁ」
ユア「その時の記憶ないんですけど大丈夫なんですかね……」
禁忌魔法を使用したことは四人の内での秘密となっていた。
しかし、実は私はその時の記憶が曖昧であまり覚えてい無い。はっきり記憶があったのはシヤとミヤと抱きついていた時からで、正直本当に私にそんなたいそうな魔法が使えるのかな不安だった。
テケル「大丈夫ですぁ、自分を信じてくだせぇ」
そう言うと早速適性検査のような事を開始する。
テケル「どちらでもいいので片手を出してくだせぇ。そしてその手に神経を集中してくだせぇ。そして火、水、氷、風、光、闇を順番に思い浮かべるんですぁ。なるべく具体的、具現化できるようにするのがコツですぁ」
テケルは右手を出し順番に確認していく。
ユア「凄い! テケルさんは光と闇以外使えるんですね」
テケルさんは火、水、氷、風の四つを使えるようでした。テケルさんの凄さに改めて気づくことができました。
テケル「四つ使えると言っても氷と風はご覧の通りあまり力はないんですぁ。適正がある程、火なら強く燃え上がり、水なら溢れ出し、氷は周囲の熱を奪い去り、風は豪風を吹き荒らし、光は周りの者の心を癒し、闇なら光を奪うんですぁ。因みに闇の適正がある魔法師なんてこの世界に殆どいないですぁ」
テケルはユアにやってみるように促す。
ユア「それじゃあやってみますね」
先ずは火から……焔を想像して……具現化するようにと……
テケル「凄いでさぁ……」
ユアの左手からは物凄い勢いでメラメラと焔が燃え上がっていた。
テケル「予想以上ですぁ。これ程となると宮廷魔法師も目じゃないですぁ」
正直私自身相当驚いている。それよりも手のひらでこんなに勢いよく燃えていると考えると怖くなる。
私は次に水を意識する。
テケル「水もこれほどとは驚いたですぁ」
掌からは滝から溢れ出る水の如き勢いで噴出されていた。
テケル「これだけでていれば水魔法も完璧ですぁ」
私は次に氷を意識する。
テケルさんは濡れて居た私にすかさず乾燥をかけていた。
冷蔵庫や製氷機などが存在しないこの世界で氷を想像することはなかなかに難しいことであったがユアはシヤとミヤの3人で食べた砕き氷(日本で言うところのカキ氷)を主体に想像した。
しかし流石に砕き氷だけではダメだったのか、なにも起こらない。
ユア「氷はダメみたいです。あまり氷や雪を見たことないので具現化というのが難しく……」
テケル「氷は仕方ないですぁ。また後日機会があったらやるですぁ」
次は風です。私は数年前にフィヨルドの街で経験した豪風を想像してみた。
テケル「っ!」
ユア「あっ!」
なんと風が強すぎてテケルさんが遠くに飛んで行ってしまいました。まさかここまでの強風が吹くとは想定外で……今後は気を付けようと思う。
テケル「風巻よりすごい勢いですぁ……」
風巻とは日本で言うところの竜巻だ。
数分後何処かに飛ばされていたテケルが全身泥だらけになり戻ってくる。
ユア「こんなになるとは思ってなくて……ごめんなさい」
テケル「油断してたあっしが悪いんですぁ。お嬢はなにも悪くないですぁ。でも魔法を詠唱せずにこれだけとなると本気で魔法を唱えると街が一つ消えそうですぁ」
テケルさんは冗談のつもりで言ってるかもしれないけど、そんなこと言われたら怖くて魔法使えなくなっちゃうよ……
次に光……光?う〜ん、どういう風に想像すればいいんだろうか……
私はとりあえず太陽の光を想像してみた。
テケル「あーーー!! あっしの目がぁ〜! 目がぁ〜!」
この光は使用者にはあまり影響はないようだが、他の者には恐ろしいほどのダメージが入りそうであった。
ユア「テケルさん⁉︎」
私は急いで駆け寄る。
テケル「あっし目が見えなくなるかと思いやした」
お願いだから冗談でもやめて!
次は闇かぁ。私は夜の森の暗さを想像していた。
あれ? 私夜の森なんて出歩いたこと無いのになんでこんなに……
そんなことを考えていた刹那に一帯が闇に包まれた。
それと同時に謎の頭痛がする。
ユア「ん、あぁ!」
私は辛さのあまり膝をついてしまう。
頭を抑えて片膝立ちになっている私を見てテケルが駆け寄ってくる。
テケル「お嬢⁉︎ どうしやしたぁ!」
頭痛はすぐに引いた。
心配を掛けまいと気丈に振る舞う。
ユア「大丈夫です。心配をかけてすみません」
テケルはユアになにも問題がないと知り、胸を撫で下ろした。
テケル「いや、それにしてもお嬢凄すぎですぁ!」
テケルさんは興奮気味に私に話す。
魔法についての教養がない私はまだいまいちピンとこない……私がそんなに凄いなんてことはない、という思いの方が強い。
テケル「これだけ力があれば平気ですぁ。すぐにあっしなんて抜いてしまうですぁ」
ユア「私がそんな……」
テケル「なにを言ってるですぁ! もっと自分を誇ってくだせぇ。これだけ力を持っているものなんて、この世界にいないですぁ」
褒められるのは嬉しいけどなんだか少し怖い……もしこの力が暴走したと考えると……実際一度暴走しかけたそうだし……
テケルは真剣な表情になり言った。
テケル「お嬢、力に飲み込まれないようにだけは注意してくだせぇ」
やはり強大な力を手に入れた人の人生は狂いやすいそうだ。普通の人間でさえも煩悩に悩まされるというのに、昨日までできなかったことが当たり前のように出来るようになるとやはり欲が出てしまう。意馬心猿を制し得ないのだ。
今は平気な私も、もしかしたら……と思う気持ちがある。
テケル「まぁ、お嬢のことですぁ。そこまで心配してないですぁ」
ユア「安心してください、私は私ですからね」
私は微笑みながら返事をした。
テケルさんはそれを聞き安堵の表情を浮かべた。
テケル「それとそろそろ何か頭の中で声が響きませんか?」
声? 私はイマイチ理解が出来なかったが直ぐに理解することとなる。
???(スキル:焔神を習得しました。 ユニークスキル:水神を習得しました スキル:初級氷魔法を取得しました。 ユニークスキル:風神を取得しました。 ユニークスキル:聖王を取得しました。 ユニークスキル:黒王を取得しました。 称号:焔を極めし者を取得しました。 称号:水を極めし者を取得しました。 称号:風を極めし者取得しました。 称号:聖を司る者を取得しました。 称号:闇を司る者を取得しました。)
私の頭の中で抑揚がなく、女性か男性か判断に悩む様な無性的な声が響く。
ユア「あ、今何となく聞こえました。スキルとか称号とか聞こえました」
テケル「そりゃよかったですぁ。それじゃあ所得スキルと頭の中で唱えてくだせぇ」
私は言われるがままに頭の中で所得スキルと唱えた。
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ユア 15歳
所有スキル
・焔神 10Lv
・水神 10Lv
・初級氷魔法 10Lv
・風神 10Lv
・聖王 10Lv
・黒王 10Lv
獲得称号
『焔を極めし者』……焔系統の魔法を極めた者にのみ与えられる称号 全焔系統の魔法が使用可能
『水を極めし者』……水系統の魔法を極めた者にのみ与えられる称号 全水系統の魔法が使用可能
『風を極めし者』……風系統の魔法を極めた者にのみ与えられる称号 全風系統の魔法が使用可能
『聖を司る者』……光系統の魔法を極めた者にのみ与えられる称号 全光系統の魔法が使用可能
『闇を司る者』……闇系統の魔法を極めた者にのみ与えられる称号 全闇系統の魔法が使用可能
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この様な者が私の頭の中に浮かび上がる。
ユア「所有スキルや獲得称号の一覧が頭に浮かび上がりました」
テケル「わかりやした。お嬢も今日からこれで立派な魔法師ですぁ」
嬉しかったけど、これだけで本当に良いのかという疑問も残る。しかし、これで少しでも強くなれるなら良いかと、疑問を一蹴する。
テケル「次は魔法と魔術についての話ですぁ」
テケルさんは簡単に魔法と魔術の違いについて説明をしてくれた。
そもそも魔法と魔術の根源は同じ魔素となる。そして2つの違いというのは、魔素の使い方にある。
魔術は魔素をそのまま使用するのに対し、魔法は魔素を体に取り込み、魔力に変換して使用するようだ。
魔術とは即ち魔素の術式ということになり、魔法とは即ち魔力の法式ということになる。
これを聞いただけだと、魔法師は魔術師にもなれるんじゃないか、魔術師は要するに魔法を使えない魔法師なのかということになってしまいそうだが違うみたいだ。魔素を魔力に変換できるといってもそれは自発的に出来ることではなく、自然にできるようなものなのだ。無意識のうちに魔素を魔力に変換するということで、魔術師のように自発的に魔素を集めることはできないのだ。それに、どのような生き物も基本的にこのどちらかの力しか有していないようで、両方使用できるものは居ないという。このように、一長一短ある二つのうちどちらか一つしか体得できないということになる。その為に魔法師、魔術師どちらが上か下かという公式見解は行われていないのだった。
次に利点と弱点についてだ。
魔術とは名前の通り、付近の魔素を直接そのまま使用するのだが、そのお陰で魔法と違い魔力切れならぬ魔素切れということは発生しないのだ。他にも魔術が最も得意としている設置型魔術などに於いては、壮絶な威力の攻撃を使用できるという。逆に欠点となると、術を完成させるのに時間がかかるということだ。術を発動すると先ず、魔素を付近から集めるというプロセスから始まるわけだ。この時点でストックしてある魔力を使用する魔法との差がでる。加えて、魔術式を構築する必要がある。魔術式とは魔杖と言われる、杖を使用し書かれる紋様のことを言う。地面に記せば設置型の魔術が設置可能となる。基本的にこの魔術式は、規模、威力が大きければ大きいほど複雑になり、完成に時間が掛かってしまう。
次に魔法の利点というのは、即座に魔法を展開、使用できることにある。戦術魔法のような大規模な魔法は不可能だが、|炎球≪ファイヤーボール≫などの、初級〜中級までの魔法などは短詠唱により魔法名を唱えるだけで発動するのだ。また、種類が魔術に比べて格段に多い。魔術は基本的に、設置型の攻撃魔術、防御魔術と非設置型の攻撃魔術のみだ。それに対し魔法は、攻撃・防御魔法は勿論のこと、光魔法、闇魔法、支援魔法、支配魔法、死霊術など様々ある。種類が多くあるというのは、それだけ使える手が増えるということになり、様々なことに対して対応しやすいということになる。逆に欠点と言えば魔力切れがあるということになる。個人差があり、一概には言えないが、最大魔力保有量が存在する為、長丁場になるばなるほど不利になる。大半の魔法師は十人も相手をすると魔力切れが起こってしまう。
簡単に言えばこんな感じらしい。他にも魔導や魔工科学、仙術など数多く存在する。既に廃れてしまった魔法や魔術も数多存在するらしい。
そんな講義を聞いているといつの間にか日没の時間になっていた。
テケル「そろそろ時間も時間ですぁ、そろそろ帰りやしょう」
ユア「はい、今日はありがとうございます。これからもお願いします、師匠」
師匠と呼ばれ、テケルは満更でもない表情をしていた。
◆◇◆◇
ユアとテケルはパーリアの老舗魔術・魔法道具専門店の前にいた。
ユア「本当に良いんですか?」
テケル「大丈夫ですぁ。これでも若い時から貯めてきてたんですぁ」
ユア「それでもこんな高額なもの……それに無給状態なんですよ? 逆に私がテケルさんに何か……」
実は今のユアは殆ど金が残っていない。短期でも館に新たに人を雇い入れ、亡くなった衛兵や使用人の遺族には多額の慰藉料を払うなど他にも葬儀など余りにも出費が多く、いくら伯爵家と雖も常時大金を蓄えている訳ではなく、ユア個人で借り入れをしている程なのだ。
多少の路銀はあるが、魔法関係の道具のような高額なものを購入する余裕など無いに決まっている。
テケル「あっしはお嬢の師匠さんですぁ。弟子に魔法適正があれだけあったんですぁ、これくらいお祝いさせてくだせぇ」
ユア「師匠にそこまで言われて断ったら却って失礼ですね」
私はプレゼントを頂くことにした。
ラグルド「いらっしゃいませ。わたくし店長のラグルドと申します。本日はどのようなものをお求めでしょうか?」
人の良い笑みを浮かべた店長のラグルドが入店した二人の元にやって来た。
テケル「お嬢のローブを見てみたいと思ってるですぁ」
ラグルド「ほぉ。この麗しく可憐なお嬢様のローブですか……ローブでしたらこちらです」
店の中には所狭しと商品が展示されていた。
あまりの数に思わず呆気に取られてしまう。
ユア「凄い品揃えですね」
ラグルド「はい、パーリア1の品揃えを自負していますので……さぁこちらです」
流石王都1の品揃えを自負しているだけはあり、ローブだけでも多くの種類がある。
ユア「うわぁ……」
どれが良いんだろ……
今まで魔法師になれるとは全く以って考えてなかったため、知識が殆どなく、良し悪しなどの見分けなど当然不可能であった。
私はテケルさんに一任することにする。
ユア「恥ずかしながら知識が乏しいので……テケルさんにお任せします」
テケル「お任せくだせぇ」
そう言うとラグルドと二人で話をしていた。
暫くして話がついたらしく一着のローブを取った。
テケル「お待たせしやした。これがあっしからのプレゼントですぁ」
テケルが手に持つローブは一般的なローブとなんら変わらないデザインをしていた。王都では猫耳付きのローブを妻や従者に着させるのが流行っているそうだ。
ローブはそもそも防御力を重視するのではなく動きやすさ、軽さを重視して作られており、基本的にデザインは変わらない。ローブの価値は付呪によって決まるのだ。付呪は製作者の腕によって効能が大幅に変化する。
今回テケルが選んだローブはデザインや見た目こそ何の変哲も無いローブだが、付呪がなかなか良いものになっている。
魔物や獣との戦闘においては基本、相手は知能が低い為に後衛の魔法師や魔術師を狙ってくることはなく、前衛の剣士やファイターなどにフォーカスが向く。しかし相手が人間だった場合は別だ。なるべく最初に後衛を潰そうと攻撃をしてくるのだ。特に魔術師などは後になればなるほど強力な魔術を放つので最優先目標となる。
ユアも例に漏れず魔法師の為に狙われる危険が高い。そんなことになら無いことがベストだが対策をしておくことに越したことは無いと言うことで、回避系のローブとなっている。ユアは魔力は無尽蔵なため、魔力増強系の付呪は必要なく、接近戦を主体とした戦闘スタイルでも無い為に筋力増強も不必要だからだ。
ラグルド「お嬢様、当ローブは当店最高傑作のローブと名高い品でございます。かの有名なペトラルカ様の作品であります。矢除けの加護、魔除けの加護、術式探知の加護、対火・水・氷・風の加護などが付呪されております。きっとお嬢様のお役に立つでしょう」
ユア「そ、そんな高価な物を私なんかが……」
貴族の子にしては庶民的感覚が強いユア。このような大層な物を買ってもらって良いのかという葛藤が心の中で行われている。
流石にこれは甘えすぎなんじゃ……これは断るべきかも知れない……
ユア「あ、あのぉ……」
ラグルドさんの隣でニコニコ立っているテケルさんを見ているとやはり断りにくい。
そんな私の心情を察してなのかラグルドさんが口を開く。
ラグルド「ご心配はいりませんよお嬢様。当ローブは8割引でご販売致しますので」
エェー⁉︎ なんで? 絶対何か裏があるよ。うんきっと何かある。こういう甘い話に乗るなとお父様から耳にタコができるくらい言われてきた。やっぱり断ろう
ユア「わ、私にはもう貴族の娘という後ろ盾は無いです。こんな私に何をさせるのが目的なんですか」
それを聞きテケルさんとラグルドさんは顔を見合わせ笑っていた。
テケル「考えすぎでさぁ」
ラグルド「そうですよお嬢様、なにも疾しいことがあるわけじゃありませんよ。これでも私も魔法師の端くれです、お嬢様はご自覚が無いのかもしれませんが、同じ魔法師同士ならお嬢様から溢れ出る魔力の強さからある程度の事は分かります。お嬢様は将来確実にこの国を担えるような魔法師となっていると確信しております。その時の為の先行投資と考えて頂けたら結構でございます」
そういうとにっこりと笑顔になるラグルド。
ユア「買いかぶり過ぎです。私如きがこの王国を担うだなんて……」
私は両親すら守れ無いような女で、そんな私が王国臣民を守るだなんて到底無理です……
テケル「お嬢は自分を過小評価しすですぁ」
テケルさんは困った顔をして私を見ている。
ラグルド「その通りです。それにこの様な一級品はやはりそれに似合うお方に使って頂くのが一番ですので」
褒められて嫌な気分になる物じゃ無いけど、やっぱり複雑な気分……期待を背負うことが本当にできるのかとても不安で、怖いです。でもこれから、くだんの件の犯人を捜すにあたってはやはり備えが必要なのもわかってはいる。ここは素直に甘えておく方がいいかもしれない……
ユア「ご期待に添えるか分かりませんが……ありがとうございます」
ユアの答えたのを聞いた二人は嬉々としていた。
ラグルド「それでは早速ご契約書の方をお持ちいたします。お嬢様、ローブを着用して行かれますか?」
折角テケルさんに買ってもらったので、ローブを身に纏った姿を早く見せてあげたいと思い、お願いしますと試着室を借りた。
ラグルド「おぉ……なんと言う煌びやかさ……言葉もありません」
先ほど着ていた服とは違い、単色で統一されたローブを身に纏った姿からは奥床しさが感じられ、閑雅な雰囲気を醸し出しつつ、美しさを引き立てる。ローブを羽織っただけで大袈裟なと思うかもしれないがそれほどまでに雅やかなのだ。
ラグルド「お嬢様のお美しさはフードをお被りになって隠しきれませんな。そうそう、これをどうぞ」
ラグルドは指輪を差し出す。
ユア「えぇ⁉︎ こ、こ、婚約はもっとお互いをし、し、知ってからの方が……」
ユアは顔を赤く染め恥ずかしそうに言う。
この世界でも婚約指輪なるものは存在する。プロポーズする時などに相手に渡すことが多い。
初心でナイーブなユアにとっては少し衝撃が強すぎた。
そんな姿をみたラグルドは暫しの間、本当にプロポーズを……など考えていたが直ぐに意識を戻し説明する。
ラグルド「いえいえ、この指輪は一種の魔具でございます。お嬢様は未だ魔力を抑えることができていない様ですので、その力を狙うような不逞な者や同じ魔法師などに絡まれない為の魔力を誤魔化せる指輪であります。お付けになった方がよろしいかと思います。それにサービスですのでご安心ください」
自分が勘違いをしていたことに気付いてまた恥ずかしくなり、バツが悪そうに照れながら何から何までありがとうございますと感謝の気持ちを伝え、店を後にした。
日が沈んだ街の大通りは未だに各所に火が灯り、囂しい。酒に酔った者が歌を歌いながらフラフラ歩いていたり、カップルが昵懇にしている。
正に平和な風景であった。
二人で王国政府がとってくれた宿に向かい帰っていた。
ユアは数歩スキップをしてテケルの前に立ち、手を後ろに組み少し腰を曲げ、覗き込むようにして上目遣いで微笑みかける。
ユア「その……どうですか? 似合ってますか?」
少し恥じらいが混じったような感じで聞く。
テケル「それはもう、天女が下界に顕現したのかと思うほどですぁ」
聞いておいてなんだけど、ここまで言われるとやっぱり恥ずかしい……
ユア「へへへ、ありがとうテケルさん。テケルさんが付いてきてくれてよかったです」
そう言うとユアはまた歩み始める。
???「おい、そこのお前!」
まさか私に話しかけているとは思わず、そのまま歩いていると、いきなり男が前に現れる。
驚き、後ろに後ずさろうとした際に足が引っかかり転けそうになる。
しかし前に現れた男が、さっと腰に手を回し支える。
ありがとうとお礼を言おうとしたが相手からの一言でそんなことを言うことも忘れてしまう。
???「お前は俺の嫁になれ」
えぇーーー‼︎
スキル獲得時に聞こえる声は次回から『アナウンス』と表記します
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