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魔を統べる者  作者:
15/18

10話 再契約

あれです、投稿予定日より一週間ぐらい遅れることがあるかもしれません。

––––––パルチア王国 首都パーリア 王城––––––


 件のキュリオル家襲撃から一月半程経過した現在、ユアは王城内にある応客の間に居た。

 現在キュリオル家の領地は貴族管理院から派遣された官吏により治められていた。

 事件の緊急性もあり、未だにキュリオル家領の処遇についての結論を決めかねている。


ロメルト「今回の一件、誠にお悔やみ申し上げます。今後の事につきまして、今回は話す所見でございます」


 ロメルトは礼儀正しく頭を下げる。

 今この場には当事者であるユアを始めとし、機密院ロメルト卿、枢密院リヒト卿、国務院都外局局長アルベルト伯爵、同院ラルフ卿、貴族管理院ケルト第三皇子、同院都外局局長マルコ高官という面々が揃っている。

 ユアはこのメンバーに戸惑いを覚えていた。


 何故、機密院が参加しているの? 機密院は王国内での案件には顔を出さないはずなのに……そうなるとやっぱり今回の一件は他国からの干渉が多少なりともあったという事なの?


ユア「当方の不始末を、キュリオル家代表として深謝します」

リヒト「ユア殿が詫びる事はない。 この件は、一伯爵家には手に余るものであるだろうからな」


 リヒト卿の言う通りだと、やはり他国か宗教が関わっているという事は確実そう。


マルコ「では、現時点で判明している事についてご報告します。キュリオル家は長女ユア殿と私兵のテケル氏を入れた館外で活動をしていた私兵隊を除く者全ての死亡を確認致しました。外傷は心臓を貫いたとみられる刺し傷が殆どでした。警備の者や館に居た私兵の傷を見る限り、抵抗する間も無く殺害された者が多いと予想され、相当な手練れだと思われます。館内の者を殺害後に禁止魔法である死者眷属化を唱えたと思われます。付近の者に聞き込みを行いましたが、大人数で歩く者などの目撃情報はない事から、一人ないしは少人数での実行かと思われます。探知魔法の捜索も失敗しており、事件後に消去魔法を使用したと考えられます。現時点で判明していることは以上となります」

リヒト「ユア殿、この内容に間違いや相違はないかな?」

ユア「キュリオル家が調べた結果と違いはありません」


 それを聞きリヒト卿は頷き先を促す。

 次にケルト第三皇子が立ち上がる。


ケルト「先ずは、キュリオル家について、貴族管理院からの処遇を発表させていただきます」


 私の家についてのようだ。

 テケルさんと事前に話し、大凡予想は立っている。お父様にはご兄弟がいた筈なので、その方が暫定的に受け継ぐことになると思う。私はまだ15歳になったばかりで未成年、婚姻は16歳からとなっているので、婚約者として入婿になってもらい、16歳になったら正式に結婚、キュリオル家を承継するだろう。家を取り潰すということにはならないと思っている。

 婚約も家を存続させるためには仕方のないことだとわかっているし、それが女の役目だと理解している。でも、私は結婚までの間、今回の事件の犯人を捜すつもりでいる。これだけは譲れない。



ケルト「キュリオル伯爵家は取り潰し。キュリオル家領は王国直轄地に、爵禄は剥奪となります」


 この結果は青天の霹靂だった。

 ユアは頭の中が真っ白になっていた。


ユア「そ、それはおかしいです!」


 つい反論をしてしまった。判断が変わらないとわかりつつも納得がいかない。

 他の参加者もさすがにやり過ぎではないかと思ったようで。


アルベルト「僭越ながら殿下、今回の件、一伯爵家として対応するのは難しかったとリヒト卿は最初に仰っておりました。それなのにいきなり取り潰しとは、ユア殿が納得しないのも至極当然だと思いますが、何かこの決定に至るまでの原因の証憑はございますか?」


 余りにも厳罰過ぎるのではとラルフ卿も続く。

 それを聞き、ロメルト卿が立ち上がった。


ロメルト「当処遇については、機密院、枢密院及び国王陛下の決定であります。その内容についても陛下より箝口勅旨がでており、お話しすることができません」


 ロメルト卿が話すと、少し不満げであったがアルベルト伯爵もラルフ卿も引き下がる。


ユア「そんな……」


 お父様が守ってきた土地を引き継ぎ、さらに豊かにすると誓っていたのに……


ユア「キュリオル家は当判断を断固として抗議とします」


 ユアは父の領地を守ろうと必死に食いつく。


ケルト「それは国王陛下の考えに反発するということですか?」


 ケルトはユアに厳しい目を向ける。

 勿論ユアは陛下に逆らおうなんてことは考えてもいなかった。しかし、この事に関しては異を立てる。


ユア「それでは当家に納得のいくご説明をお願い致します。家は取り潰すが事訳は秘匿など納得しません。父が長年にわたり統治してきた土地をそう簡単に手放す事はできません」


リヒト「これは王国全体にかかわる問題でな、ユア殿の異論も最もだがここは納得してもらわんといかぬのだ」


アルベルト「私はオルカ殿と交友があり、擁護したいのは山々なんですけど、陛下のご意向でもあります。ユア殿、ここは引くべきかと」


 ここで私がいくら反対しようと無駄かな……お父様すみません、私如きでは守りきれそうもありません。

 ユアは自分の無力さに嘆きながら悲痛な判断を下した。


ユア「了解しました。キュリオル家は当処遇を受け入れ、現領地を陛下へご返還致します」


 唇を噛み締めた。悔しさのあまり涙が溢れそうになる。


ロメルト「ユア殿の英断に称揚致す」



マルコ「詔は後日発表されますので、暫くの間王都で滞在していただく事になります。宿は王国で手配させて頂きましたので、そちらでお過ごしください。何かございましたら当院までご報告願います」


 正式に詔が発せられると、領地返還の儀が執り行われる。


リヒト「それでは、ユア殿はここでご退室願います」


 これから本格的な対策を話し合うのかな……まぁ私は関係ないかな。

 自分の無力さに絶望、失望していた。


 ユアは立ち上がり頭を下げる。


ユア「それでは失礼致します」




 ユアが退出した後の応客の間では今後の対策について2時間程会議が行われた。


 会議終了後、ロメルト卿、リヒト卿それにケルト第三皇子はある一室で話をしていた。


ケルト「それにしても父も無茶振りが過ぎますよ。あの様な処遇にされてはあの様に憤慨するのも当たり前です」

リヒト「そうでありますな、短絡的な貴族であったら更にすごい事になっていたでしょうな」

ロメルト「全くですな。それにしてもユア殿の絶美の景は聞いていたが予想以上の優美さでありましたな」

ケルト「オルカ殿が公に出さずに秘蔵の娘として育てていましたからね。あの怒った姿も非常に艶麗でした」


 三人はユアの姿を思い浮かべ、現を抜かしていた。


ケルト「しかし父上の思い通りに事は進みますかね?」

リヒト「どうなるでしょうな。こればかりは実際にやってみないと分からないですな」

ロメルト「成功する事を願っております」



所は変わって王城前


 私はテケルさんにどう今回の処遇について説明したらいいのか分からなかった。家の取り潰しという事はテケルさんは失職する事になる。お父様が亡くなった後も私について来てくれた人で、こんな結果を言えるはずがない。


 肩を窄め、テケル達が居る居酒屋へ向かった。その足取りは重く、悄気込んでいた。


 テケル達が居る居酒屋は王城から真南に向かった所の繁華街にある。

 王都ということもあり王都守衛隊が多く見廻りをしている為、治安も良く、ユアの様な少女が一人で歩いていても問題に巻き込まれる様なことはない。


 しかし、ユアの歩く先々で人集りができていた。絶世の美少女に見蕩れる者、馬車を止めてまで見入る者などが大量に発生していた。


 渦中の本人は、そんな事に気づく事もなく、どうすれば良いのか思い悩んでいた。


 その悩む姿が非常に健気で保護欲を掻き立てるものとなっていた。


この日の守衛隊は、久々に大忙しとなっていた。


 暫く歩き、目的の居酒屋の前に到着した。

 私はテケルさんに会わせる顔がないです。でもここまで私を支えてくれた人で、逃げる訳にはいかない……


 ユアは心を決め、店のドアを開けた。


 ユアが入った瞬間居酒屋の中の喧騒が一気に静まる。


客「お、おいなんだよあの美人は?」

客「天使様だ」

客「あんな美しい人なんて初めて見たぜ」


 皆そんな事を呟いていた。しかしユアはいきなり静かになった店内を見て、何かやらかしてしまったのかと不安になる。

 おろおろしているユアを見て客は更に目を奪われる。

 ユアが混乱しているとテケルが走って近寄ってくる。


ユア「テケルさん!」


 静まり返っている中、テケルを見つけ安心した。


テケル「すまねぇ、お嬢が息を呑むほどの美人ってこと忘れてやした。ささ、こちらでさぁ」

ユア「び、美人なんて……照れちゃいます」


 普段テケルはこの様なことは言わず、唐突に言われ、恥ずかしくなり、顔を赤らめた。ユアは非常に純情なのだ。箱入り娘であり、当然とも言える。


 そんなユアの姿を見ていた客はつまらなそうにしていた。


客「なんだあの男!」

客「あいつは世界の敵だ!」

客「あいつより俺の方が!」


 側から見ると、美少女に男が声をかけ、それに照れ、顔を赤らめている姿はまるで恋人同士の様に見え、多くの嫉妬を生む結果となっていた。

 しかしそんなこと御構い無しだ。

 フィヨルドでナンパされた時に対処してた時の癖で、周りの目が気になり、手をとり席に案内してた。


 その姿を見て更に客はヒートアップする。


客「俺、あいつに決闘挑んでくる」

客「世の中理不尽だ! 神様ぁ!」

客「俺もう帰るぅ!」


 段々と店に活気が戻り始めていた。



テケル「なににしやす?」

ユア「この季節フルーツジュースでお願いします」


 テケルは店の店員を呼び注文した。


ユア「これ美味しいです! テケルさんも飲んでみて下さい!」


 出てきたジュースがとても甘美で、シヤとミヤと一緒にいる時の癖でテケルにグラスを差し出す。

 流石にテケルも少し迷った。

 しかしユアの欣幸な表情を見て、まあいいかと少し飲んだ。

 30歳のテケルにしてみると、やはり少し甘すぎる感じがしたのだが、そんなことを言う筈もなく。


テケル「こりゃ美味しいですぁ!」


と言った。


 ユアからすると、美味しいものを一緒にいる人に共有することは当たり前と考えていて、この行為も特になにも思っておらず、当たり前の事をしたという認識で行っていた。シヤの教育の賜物だ。


 周りの人はもうなにも見ていないと嘆いていたり、何故か泣き出す人まででていた。


ユア「へへへ、美味しいでしょ」


 そう言い、ジュースを飲む。


 テケルは段々と物悲しげな表情になっていくユアに気付く。


テケル「お嬢、そう言えば今日の会議どうだったんですぁ? やっぱり入婿を迎える感じですぁ?」


 あぁ……どう言おう。


ユア「あ、うん。そのね……何ていうか……」


 私はやはり言い出せなかった。ここまで支えてくれたのに、取り潰されました、あなたは失職しましたなんて言えない……いや、テケルさん程の人なら他に仕官したら直ぐに採用されると思う。逆に勧誘が来るかも。多分だけど私はテケルさんと離れたくないんだ、唯一お父様やお母様のお話ができる人でもあり、昔からの知り合いでもあるテケルさんには、離れて欲しくないのかな……でも言わなきゃいけない。


テケル「お嬢? どうかしやした?」


 テケルさんは何かを感じ取ったのか尋ねてきた。

 テケルさんを心配させちゃいけない。


 ユアはキュリオル家の処遇についてテケルに話した。


ユア「ごめんなさい、わたしに力が無いばかりに……」


 私は頭を下げたままでいた。上げられないのだった。


テケル「お嬢、顔を上げてくだせぇ」

ユア「お父様が亡くなった後も私について来てくれたのにこんな事になってしまって……ごめんなさい。何とかして他の貴族家に仕官できる様、働きかけます。今まで、ありがとうございます。テケルさんの事は一生忘れません」


 私は頭下げたまま言った。


 テケルはそれを聞き優しい声で言った。


テケル「お嬢、いや、ユアさんは本当にそれでいいんですか? それが貴女の望みなんですか?」


 違う、違うよ。そんなわけ無いじゃん……


テケル「やはり私じゃダメなんで」


ユア「そんな訳ない!!」


 私はそう叫んで立っていた。

 周りの人も何があったかと見てくる。


 私は周りに頭を下げ、座った。


ユア「つい、興奮しちゃって……」


 テケルさんは優しい目で私を見てくれていた。不思議と落ち着く感じがする。


テケル「もう一度聞きます。ユアさんは本当にそれでいいんですか?」


 私は正直に言う事にした。


ユア「良くないですよ。お父様が守ってきた土地だって手放したくない。テケルさんとも別れたくない。強欲だと思われるかも知れないですけど……私はこれ以上何も失いたくないです」


 それを聞きテケルは満足気に頷いた。


テケル「ユアさん、それじゃあ私を雇ってください」


ユア「ふぇ?」


 驚いて変な声がでてしまった。


ユア「でも、もう私は貴族でもなく、唯の一人の小娘です……テケルさん程の人を雇う事なんて……」

テケル「別に雇い賃なんていりません。これは私からのお願いですからね」


 私は夢を見ているのかな?そうとしか思え無い。


テケル「愛着ってものですかね? どうですか?」

ユア「も、勿論いいに決まってます! そのうち必ず雇い賃を支払うので、こちらこそお願いします!」

テケル「それじゃあお願いしやすよ、お嬢!」

ユア「はい!」

今回登場した各院の簡易的な説明

機密院……国外対策(外務省的な業務が多)

枢密院……王室関係・国内監視

国務院……都内局・都外局(南部、西部、東部方面)・国務会計局の3つの局がある。内政、財政

貴族管理院……都内局・都外局がある。王国内の貴族家に関する事が主


登場人物


ロメルト卿……機密院院長 侯爵家

リヒト卿……枢密院院長 公爵家

ラルフ卿……国務院院長 侯爵家

アルベルト伯爵……国務院都外局局長

ケルト第三皇子……皇位継承権第三位 貴族管理院院長

マルコ高官……貴族管理院都外局局長


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