8話 暴走
投稿が遅れて申し訳ありません
話の改編をしていたらこんなに時間がかかってしまいました(^^;;
今後の投稿ペースは1〜3日に1度になります(≧∇≦)
----フィヨルド ミゲル宅(仮)----
バゴォォォン!
ユアは掴み上げていたミゲルを床に叩き付けた。床は粉々に粉砕され、その衝撃によって周囲は20センチ程沈んでいた。
シヤ「ユア!? どうしちゃったの」
ミヤ「落ち着いてください!」
シヤとミヤはユアに必死に語りかけた。
ユア「五月蠅いですね。少し黙って頂けますか? 私の何を知っているというのですか?」
まるで私を知っているかのように……本当に鬱陶しいですね。殺しちゃいましょうか。
ユア「邪魔をするというなら容赦はしませんよ? そこの貴方もこの憎い者を片付けた後にお相手しますから、もう暫くそこでおとなしくしておいてください」
ユアはテケルにそういうと再び、叩き付けられた痛みで悶絶しているミゲルに向かった。
ユア「痛いですか? 死ぬのが怖いですか? いいでよ、その恐怖に歪んだ表情。」
そういうユアは普段は見せないような、まるで悪魔の如き、嫣然とした笑いをみせていた。
ユア「うふふ、人が苦しむ姿を見るのは気持ちがいいですね。」
するとユアは腕を上げ、何かを唱え始める。
それはテケルを震駭させるものであった。
テケル「お、お嬢! そ、その魔法はダメだ!」
シヤ「テケルさん、ユアはなにをしようとしてるの!?」
テケル「お嬢がやろうとしてるのは禁止魔法の上をいく、禁忌魔法の悪魔召喚だ! なんであんな魔法をお嬢が知ってるんだ」
ミヤ「悪魔召喚とはなんですか? 初めて聞く魔法です」
ミヤは暇さえあれば図書館へ入り浸っていたため、魔法の知識はある方だが、一切聞いた事がない魔法であり、字面からしてとても不安になっていた。
テケルは要所をかいつまんで端的に説明をした。
----悪魔召喚について----
悪魔召喚は禁忌魔法の一つ。名前の通り冥界より悪魔を召喚する魔法だが、その代償として生贄を捧げるか、強力な魂を捧げなければならない。召喚される悪魔の種類は捧げられた生贄や魂の強さによって変化する。
悪魔は自分より弱い者につかず、召喚された際に召喚主を見定め、弱いと判断するとその体と魂を喰らい、そのまま放逐されることになる。放逐され自由の身になった悪魔は見つけ次第人を食らいその力を増していく。
過去には悪魔を使役しようと考えた国王が宮廷魔術師を動員し、多くの生贄を捧げた結果召喚されたデーモンロードにより壊滅させられ、周辺諸国にも多大な被害を与えたという話が残っている。
傍若無人であるが、一旦強者と認めると従順となるのが多い。個体差はあるが中には狷介孤高なのも存在するそうだ。
当魔法は魔法師、魔術師、法術師の中でも極一部の者しか知られておらず、そもそも存在自体知らない者も多い。
消費魔力は戦術魔法を超えるほど必要で、そもそも魔法を発動させる事自体が困難な程だ。
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シヤ「な、なんでそんな魔法をユアが?」
テケル「わかんねぇ……俺も師匠が偶然この魔法を知っていて、気を付けておけと言われただけだから……そもそもお嬢は魔法が使えなかった筈だ」
ミヤ「いきなり魔力を保有していなかった人が唐突に魔法を行使できるようになったという例も聞いた事がありません……更に悪魔召喚だなんて、一体どうして……」
3人が思案している間にも詠唱は進む。
シヤ「ユアを止めないと! 何か方法はないの⁉︎」
シヤは藁にもすがる思いでテケルに問いかけた。
しかしテケルから芳しい答えは返ってこなかった。
テケル「止めるには詠唱を止めるか、生贄となるものを術者から遠ざけるしかない、一度発動してしまうと最後、もうとめられない」
テケルは自分の仕えるユアを攻撃する事を躊躇っていた。それは顔にも出ていたようで、眉間に皺を寄せ、コンマ数秒の間だが考えてい。
ミヤ「テケルさん! ユアさんを止められるのは貴方だけです! お願いします!」
シヤとミヤは宿屋の娘であり、魔法は勿論のこと碌な戦闘経験もなく、到底今のユアの詠唱を止めることは不可能であった。
それを聞きテケルは決断した。
テケル「お嬢! すまねぇな! これはお嬢の為なんだ、許してくだせぇーーー!」
テケルは床を蹴り、詠唱中のユアに向かい一直線に飛ぶ。
しかし……
テケル「なっ⁉︎」
テケルは勢いそのままに拳を突き出した、しかしそれはユアに届く前に透明な壁に弾き返されたのだ。
テケル「並列展開か! お嬢が何故そんな事までできてるんですぁ!」
ユアは一切話に耳を貸さず唯詠唱を続けていた。
詠唱ももう終わりに差し掛かった時だった。
シヤ「ユアの……バカァーーー!」
シヤは近くに置いてあった燭台を力の限りにユアに投げたのだ。
ミヤもテケルも意味がないと思った時だった。
パン!
ユア「なに⁉︎」
なんの変哲もない燭台がユアの後頭部に直撃したのだ。
自分に触れる事すらできないと考えていたユアは動揺を隠せない。
ユア「なにをしたの! あり得ない、私の絶対守護域を破るなんて不可能の筈です!」
ユアはいつの間にか意識が飛んでいたミゲルから3人の方へ振り返り柳眉を逆立て言った。
投げたシヤ本人も何故自分が投げた物がテケルですら破れなかった壁を破れたのか分からなかった。
シヤ「ユア! どうしちゃったの? 何でこんな事をするの?」
ミヤ「そうです、ユアさん……いつもの貴女に戻って!」
テケル「お嬢……」
何故? 何故? 何故? 何故、シヤは私の絶対守護域を破れたの? 魔法もない、力もない筈なのに……分からない、分からない、また邪魔されるの? 許さない……ん、あの光は……なに⁉︎
ユア「嘘! 嘘よ! なんでそれを! シヤ、その耳につけている髪飾りはどこで手に入れたの!」
ユアは完全に取り乱していた。先程までの怒りの顔も、既に驚きへと変わっていた。
シヤ「串飾り……これのこと? それはユア、貴女が贈ってくれたものじゃん!」
私が贈った?いや、違う……私の意思が覚醒した頃からあれを贈る以前に作っていなかった。じゃあ誰があれを……まさか……
ユア「分かりました。まだ時期尚早のようですね、だけど皆さんが知っているユアは必ずこちら側に戻ってきます。私達の復讐に精々怯えていてくださいね」
テケル「ど、どういうことだ!」
ミヤ「貴女は一体なんなんですか?」
シヤ「ユア⁉︎」
2人の言葉を無視し、ユアはその場に倒れた。
シヤがユアに近寄り、抱き抱えた。
シヤ「ユア! ユア! ユア!」
2人もシヤに続き周りで寄り添っていた。
テケル「お嬢! 目を覚ましてくだせぇ!」
ミヤ「ユアさん……」
シヤとミヤの目からは涙が滴り落ちていた。テケルも不安に押しつぶされそうな気持ちの中で必死に呼びかける。
5分ほどするとユアはゆっくりと目を開けた。
ユア「シヤ、ミヤちゃん、テケルさん……私は一体……」
私は確かテケルさんからお父様の……そうしたら私は何かに飲み込まれたような……
シヤ「ユア⁉︎ 良かったぁ……うぅ、うわ〜ん!」
ミヤ「ユアさん、無事で、よかった、です」
テケル「お嬢! 心配させないでくだせぇ! ほんと、どれだけ心配したことか」
シヤとミヤは枷が外れたかのように大号泣し、テケルは男泣をしていた。
みんな……私のことをこんなに心配してくれてたなんて。
ユア「ごめんなさいみんな、私のせいでこんなに心配かけさせちゃって」
ユアの瞳はいつものスカイブルーに戻り、そこからは3人同様大粒の涙が溢れ出ていた。
暫くの間再会の感傷に浸っていた4人だが、ミゲルを初めとした色々な情報を纏めなくてはいけなかった。
泣きながら抱き合っていた3人も落ち着き、その場に腰を下ろし話し合いを始めた。
ユア「テケルさん、改めてお父様や館での出来事は本当なんですか?」
テケル「えぇ、ほんとうですぁ……あれはもう完全に……」
それを聞くとユアは頷いた。
表情は今までの年相応のどこかあどけない表情から、まるで壮年の大貴族のように凛とした、何か心に決めたようなものに変わっていた。
ユア「分かりました。いつまでも私がめそめそしていては駄目でしょう。まずは街の衛兵に応援を求めましょう。それに王都へ伝令を、領内に特定禁止魔法を使用した者がいること、それにおとう……キュリオル家当主の卒去もお伝えしなければなりません」
地方の街には王国政府直属の衛兵が配属されるのが決まりとなっている。これは各貴族が各自で編成している領兵や騎士団とは別の組織となっている。
主に街の治安維持、風俗の取り締まりなどが任務となっている。しかし本当の任務は貴族が王国へ反乱を企てていないか、他国からの干渉を防ぐというものである。
テケル「分かりやしたぁ、すぐお伝えしてきやす」
そういうとテケルは部屋を飛び出していった。
シヤ「ユア、ミゲルはどうするの?」
シヤはまたミゲルを殺そうとするのじゃないのかと不安そうにしていた。
私はどうするか決めていた。
ユア「衛兵に引き渡す。本当にミゲルがこの惨事を引き起こしたと確定したわけじゃないし、それにもし犯人ならちゃんと王国に裁かれるべきだと思う。私が決めるべきことじゃないから」
さっきはお父様の死を知り混乱してしまっていたけどミゲルがやったという確証がある訳でわない。テケルは金髪の少年と言っていただけでミゲルだとは言っていない。私はどこかでまだミゲルが犯人じゃないんじゃないかと思っているんだと思う。
ミヤ「そうですね、それが一番いいと思います」
シヤもミヤの横でうんうんと頷いていた。
ミゲルは砕け散った地面で気絶したままでいた。
ユア「私がこっちの肩を持つからミヤは反対の肩をお願い。ミヤは先にでて近くの人を呼んできて」
シヤ「分かった」
ミヤ「分かりました、気を付けてくださいね」
私とシヤはミゲルを肩にかけ家の外へ歩いていた。流石街でも一二を争う程の豪邸であり、家の外にでるのにもすぐとは行かない。
私を監禁していたのは地下の一室だったみたいで、陽の光が一切入らず、蠟燭の火の光が足元を照らしているだけ。とても不気味。
ユア「ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって……」
私はこんな大変なことに3人を巻き込んでしまったことを謝る。
シヤ「何言ってんの? 私達は親友でしょ、困ってるときに手助けするのは当たり前よ! そんなしょぼくれた顔してたら折角の顔が勿体無いじゃない、もっとしっかりしてよ」
ユア「へへへ、ありがとう。そうだね、もっとしっかりしないとね」
その後階段を上がり玄関へと辿り着いた。
外には衛兵が4名程待機していた。
衛兵「ご息女、お怪我はありませんか?」
衛兵は私達に気が付くと急ぎ、走り寄ってきた。
ユア「はい、私達に怪我はありません。それよりもこのミゲルを……」
衛兵「分かりました、取り敢えずこの子はこちらでお預かり致します、お疲れのところ申し訳ありませんが何が起こったのかお聞かせ願いますでしょうか?」
私達はミゲルを衛兵に預け、3人で衛兵の詰所へと行き、ことの顛末を話していた時、テケルが入ってきた。
テケル「お嬢、衛兵隊と話が付きました、街の聖職者と共に館へ向かうようです。衛兵への説明は後でお願いします。これがその命令書です」
命令書を衛兵に渡すと衛兵は分かりましたと言いユア達を解放してくれた。
4人は館へ走った。
テケル「すまねぇお嬢、俺に力が無かったばかりにこんなことになっちまって……ご主人をお守りできなかった罰はしっかり受けやす」
テケルは悔しそうに歯噛みをしていた。
ユア「罰を受けるなんて、そんなこと言わないでください。テケルさんは大事な家臣の1人です。それに、私を探すために出ていたんですし、そんなに抱え込まなくて大丈夫ですよ……これからは、お家建て直しの大事な仕事が残っています。それにテケルさんが居なかったら大変です。もし、今回のことでなにかトラウマを負って辞めると言っても止めません。でも、これは命令じゃなく、私個人からのお願いです、どうかお家建て直しのお手伝いをしてください。女で継承もほとんど不可能なこんな私からですが、お願いします」
私は立ち止まり、頭を下げた。
テケルさんから聞いた情報だと、大凡館の人はもう間に合わないでしょう。お父様もお母様も亡くなられたとなると、当主のお父様の近親のものが代わりに就くことになる。態々お家断絶まですることはない筈。確かに私は娘だが継承権がない……
パルチア王国での貴族制度は基本女当主は禁止されている。国王からの勅旨などがない限りは無理だ。一部の国家を除く多くの国では男尊女卑の傾向が強い。女は他家へ嫁ぐのが基本となる。
当家はなかなか子宝に恵まれなかった、現に子供は私1人だけ、お父様は来年私が成人したら他家から入婿を迎えると言っていたけど……
テケル「顔を上げてくだせぇ、そんな……私のような者で宜しければお願いしやす」
そんなこんなで4人は館に到着した。
既に衛兵隊が館へ突入し家の中の死者と剣を交えていた。
外では教会の聖職者が呪文を唱え、穢れた魂が街に行かないように消滅させていた。
ユア「お父様……お母様……」
私は声が出なかった。
衛兵「お嬢様は、身元確認のため此方へ」
既に討滅された遺体が裏に安置されていた。
ユア「クーカ⁉︎ こんなになって……苦しかったよね……」
その中には侍女のクーカが傷だらけで横たわっていた。
衛兵に切られた傷、苦しみのあまりに自分で付けた傷などユアにとっては見るに堪えない姿であった。
シヤとミヤはその姿をみて思わず後ずさってしまった。
そしてそこに父オルカの亡骸が運ばれてきた。
その体も切り傷や掻き傷だらけであった。着用していた服もボロボロで、右腕の上腕辺りから先が無くなっていた。
それを目の当たりにしたユアは言葉が出ない。
ユア「お父様……お父様……私です。ユアです。必ず今までお父様が守ってきたこの土地と民は私が守ります。なので安心して、安らかにお眠りください」
ユアは父オルカの亡骸に縋り嗚咽を漏らす。
凡そ1時間後、館の制圧は完了した。
死者 キュリオル家54名 衛兵隊 11名
負傷者 キュリオル家0名 衛兵隊 32名
キュリオル伯爵家当主オルカ・フォン・キュリオル伯爵 卒去
キュリオル伯爵家正妻メリア・フォン・キュリオル 死去
王国政府へは改めて報告が送られた。
側室や妾達は街にある別館にいたため死者は居なかった。
私はお父様、お母様の仇を取ると誓う。許さない。許さない。この手で必ず……
––––––エールリヒ帝国 帝都アルカント––––––
アイヒ「なんと!」
大変じゃ、陛下にお伝えせんと。
しかし何故今なんじゃ? おかしい、おかしすぎるぞ……あと4万年は大丈夫な筈じゃ。
アイヒ「ロンメル陛下! 異常事態じゃ、直ぐに主だった者に召集をかけるのじゃ!」
ロンメル「アイヒよいったい何事だ? 我は対アルメニアへの会議で忙しい。 第1研究所の成果は後にせよ」
アイヒ「そんなことじゃないのじゃ! 魔王じゃ! 魔王が現れたのじゃ! そんなアルメニアのことを考えてる暇なんてないのじゃ!」
ロンメル「なぬ⁉︎ それはまことか?」
アイヒ「なんの為にわしら第1研究所があると思っておるのじゃ、本当じゃ。ついさっき反応があったのじゃ」
ロンメル「そんなはずは無い! 先代の魔王一族は一万年前に滅んだ筈ではないのか? それならばまだ早すぎぬか」
アイヒ「この世に絶対はないのじゃ! それに4日前にも勇者が現れたと言った筈じゃ、これからこの世界は大変なことになるぞ!」
ロンメル「むぅ……分かった! 直ちに各大臣へ伝達せよ。魔王出現、緊急会議を招集する。尚当情報は我、皇帝からの勅旨により、第1級機密とし箝口令を敷くこととする。第4研究所に伝達、勇者召喚の儀式を明日の夜行うと。インディール帝国へもパルチア王国との戦争中止せよと打診せよ。それでも宣戦を布告するようなら我が国に対する敵対行為と見做すと通達せよ。者共急ぎ行動せよ」
この夜エールリヒ帝国皇帝ルードル・ヨハメール・ロンメルは魔王出現を各国へ通達。帝国は秘密裏に勇者召喚の儀式の準備を進めた。
魔王と勇者、決して相容れぬ両雄がこの世界で対する。その結末は誰も予想することはできないのである。
衛兵隊
パルチア王国 貴族管理院 王都外管轄局所属
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