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魔を統べる者  作者:
12/18

7話 壊れた心

投稿遅くなってすみません。


本当は今日のお昼に公開してた筈なんですが何故か10日公開になってました(^^;;

----フィヨルド ミゲル宅(仮)----


テケル「お嬢! 無事で何よりですぁ!」

シヤ「ユア! 大丈夫? 怪我してない?」

ミヤ「ユアさん、何か酷いこととかされませんでした?」


 私は今、3人の目の前にいる。私が無事なのをみて安心した様子だ。


ユア「テケルさん、シヤ、ミヤちゃん、心配かけてごめんなさい」


 ユアは頭を下げた。


ユア「皆んなに言っておきたいことがあるの、ついてきて」


 そう言うとユアは暗く、薄気味悪い廊下を歩き、ミゲルがいる部屋へ向かった。

 歩き出して3分くらいが経ち部屋の前についた。


ユア「ここなんだけど……取り敢えず中に入って」


 3人はそれを聞くと訝しげな表情になった。


シヤ「そんなことより早くここから脱出しなきゃ! それにユア何か私達に隠し事してる?」

ミヤ「そうです、ここは危険です」

テケル「そうですぁ、それにこの部屋はなんですぁ?」


 まずい、3人から疑われてる……


ユア「い、いいから! さ、さぁ中へ」


 そう言うとユアは3人の背中を押し、部屋の中に入ってもらった。


ミゲル「いらっしゃい、僕とユアの家へ。来るなら来ると事前に言って欲しいなぁ」


 その部屋の中にはミゲルがいた。彼はドアの近くに置かれていた化粧台の椅子に座っていた。その表情は非常に和らいだもので、3人がここまできたのに一切の不安、緊張が感じ取れない。


シヤ「ミゲル! あんたユアを攫って何をしようっていうの!」

ミヤ「ユアさんを今すぐ解放してください!」

テケル「てめぇ、お嬢まで……」


 ミヤとシヤは相当怒っているのが見て取れるがそれ以上の怒気を放っているのがテケルだった。今にもミゲルに襲い掛かりそうなテケルを見てユアは咄嗟に3人とミゲルの間に立った。


ユア「テケルさん、やめてください! ミヤとシヤも落ち着いて」

シヤ「ユア、ミゲルがした事は到底許されるような事じゃないの!」

ミヤ「いくらミゲル君と言えど、ユアさんを攫った事は許せません!」


 テケルは相変わらずミゲルを射殺さんばかりに睨みつけていた。


ユア「私は、これからミゲルと生きていくって決めたんです。私とミゲルは愛し合ってるんです。でも、私が貴族の娘のままでは、一般人であるミゲルと生きていくのは不可能でした。だから私が自らの意志で、ミゲルの元に身を寄せたの!」


 それを聞いて3人は驚きを隠せないようだ。テケルは一瞬驚きの表情をみせたが、すぐに切歯扼腕し、先程よりも強くミゲルを睨んだ。

 ミゲルは慰め顔で3人に言った。


ミゲル「そう言う事だよ。君達にとって大切なユアが僕に好意を抱くのが気に食わないかもしれないけど、これはユアが決めた事なんだ。ユアの決意も僕のユアに対する気持ちも固いから諦めて。ここまで僕のユアを心配してくれた事は感謝するよ」


 そう言うと、ミゲルは立ち上がり、部屋の扉の前に立ち、3人へ退室を促した。

 これでいいんだよね? 私の選択は間違ってないんだよね?みんなが助かるにはこうするしか……シヤとミヤが私を見つめてる。

––––––ごめんなさい。

 そんな中で、シヤとミヤが私を見つめながら。


シヤ「ユア、嘘を付くのはやめてよ」

ミヤ「そうですよユアさん、私達にそんな嘘が通用する訳ないじゃないです、さぁ一緒にここから逃げましょう」


 え? なんで? 私はこれでも貴族の娘、社交辞令とか、本心を隠すのには自信があったし、今回も完璧に言ったはずなのに……

  ミゲルはそれを聞き、先程とは違い、苦虫を噛み潰したような顔をした。


ミゲル「いくらシヤとミヤと言えども、そんな事を言うのは許さないよ? 僕のユアも困ってるじゃないか! 本当に不愉快だよ」


 シヤはミゲルを見つめて言った。その顔は先程と同じように怒りに満ちていた。


シヤ「ミゲル! あんたはユアの事をまるで自分のもののように言ってるけど、ユアは誰のものでもないの! あんたのものでも、私のものでもね、ユアはユア自身のものなの。僕の、僕の、なんて言わないで! それにあんたはやっぱりユアの事を知らないようね、ユアはね、嘘を言う時、無意識のうちに小指と薬指をこすり合わせているの、それに今のユアの目を見ても分かる、いつもの凜とした目じゃなかった。あんたが何か脅しでもしたんでしょ!ほんと最低な男ね!」


 ミヤも続く


ミヤ「ユアさんと何年一緒にいると思ってるんですか?私とシヤはユアさん自身が気付いてない癖とか沢山知ってるんですからね!」


 ミヤは再度私をみた。


ミヤ「ね? ユアさん、私達は親友でしょ?隠し事は無しだよね?信じて欲しいの、私たちはユアを裏切らないし、嫌いになんてならない、私たちはユアの事が……」


 ミヤがユアに語りかけているのをミゲルが遮った。


ミゲル「ち、違う!ユアは僕を命をかけてまでして守ろうとしてくれたんだ、! だから僕はユアにとって特別で、僕にとっても特別な、大切な人なんだ!」

シヤ「やっぱり分かってない ユアが助けてきたのがあんただけだとでも思ったの? あれだけ一緒に街を歩いていてそんな事も気付かなかったの? ユアはたくさんの人から頭を下げてもらってたのを! あんただけが特別? そんな事はないの! ユアはねどんな人に対しても優しく手を差し伸べているのよ、私たちと出会う前からね。昔はもっとぶっきら棒で愛想もなかったけど今と同じように困っている人を誰隔てなく助けていたの! あんたはそのユアの優しさを踏みにじっているのよ、そんなこともわからないなんて!」


 実際にユアは、多くの人に手を差し伸べてきた。街を歩いている時の人の目は、中には良からぬ考えをしていたのもあったかもしれない、しかし、その多くはユアに対する感謝の思いや憧れだったのだ。

 ミゲルの顔から顔色がなくなっていく。


 ダメ! それ以上言ったら、ミゲルの心が完全に壊れちゃう、それに3人が危ない。

 ユアが再び3人とミゲルの間にはいろうとすると、ミゲルをずっと睨んだままだったテケルがユアの腕を掴み、止めた。


ユア「テケルさん、やめてください!」


 テケルはユアに向き直した。その顔は先程とは違い悲痛に満ちた顔だった。


テケル「お嬢は今の館の状況を知ってるんで?」

ユア「ミゲルが手を出してきた者を相手に怪我を負わしたんですよね?」


 それを聞くとテケルはミゲルに向かい言った。


テケル「おい、ミゲル!何故お嬢に本当のことを言わねぇんだ!」


 ミゲルは1人で何か呟いていた。


ミゲル「チガウ、チガウ、チガウ、ユアは僕のことを……そんな、あり得ない、ユアと僕は愛し合っているんだ……もう少し僕を見てくれたらきっとすぐに結婚も……」


 そんなミゲルをみたテケルは「あいつはもうだめだ」と言い、私に向き直した。


テケル「これから言うことはお嬢にとって、とても辛い、耐え難い思いをさせることになりますが……しっかりと聞いてください」


 テケルさんのこんな真剣な顔を見るのは初めてだし、とても嫌な予感がする……

 ユアが心を決め、首を振った。


テケル「まず最初に言わせていただきます。そこの男、ミゲルはオルカ様を含めた館の者を殺害し、その亡骸に『死者眷属化』の魔法をかけたんです……」


 死者眷属化、それはこの世界で定められている特定禁止魔法の1つである。

 特定禁止魔法とはその効果、副作用があまりにも反人道的、社会にとっての影響が大きい魔法のことを纏めて言う。特定禁止魔法禁止条約という条約が全国家で締結されており、当魔法の使用者及び協力者は例外なく死罪となる程の魔法なのだ。

 話を死者眷属化に戻そう、この魔法は死後間も無くの死体に対してかける事により、その死体に残っている魂を生命活動が停止した体に強制的に縛り付け、術者に逆らえないようにする呪縛をかける魔法である。

この魔法が禁止になる大きな理由は2つある。1つは不完全な魂を縛り付ける事によって暴走する可能性があるという事だ。あくまで残っている魂を縛り付けるのであって、死体から離れてしまった魂まで復元することは出来ないのである。不完全な魂は非常に不安定であり、術者にも制御できなくなることがあるのだ。その為、いきなり暴れ出すことがあり、その結果、術者を殺し、その周りにいる者や近くの農村や街へ行き無差別に人々を殺傷する恐れがあるからだ。

もう1つが人道的、道徳的観念からだ。縛り付けられた魂は生前の人の一部である。この魔法がかけられた魂は延々と殺された時の苦しみ、憎みし、痛み、悲しみを魂が完全にすり減り、消滅するまで味わうことになるのだ。その為に魔法をかけられた死体はずっと呻き声を上げているのだ。

このように、この魔法は死者への侮辱として多くの者に忌み嫌われている。その為、魔法師になる、ならない関係なしに特定禁止魔法というのはどのようなものか、かかっている者の見分け方、発見した時の対処法などを教わるのだ。

 そんな魔法が自分の父親や同じ館にいた人達にかけられたと聞いたユアは今にも狂いそうになっていた。


ユア「う、うそ……テケルさん、そんなの嘘ですよね?私がミゲルから離れるようにする為についた嘘ですよね? ほんと、そんな嘘をつくなんてテケルさんも性格悪すぎですよ!」


 ユアはそう言い聞かせないとどうかなってしまいそうになっていた。

 テケルは続けた。


テケル「嘘じゃないんだ……この目で確認した。丁度2日前、ユアが居なくなった次の日、俺はお嬢を捜索する為に街へ出ていたんだ。そこで色々と聞き込みをしていて、夕方になったから一旦館に戻ってご主人様にご報告をしようと思っていたんだが……館に入ると、そこには朝まで一緒に飯を食ってた俺の部下や執事のロイとトール侍女のトンやクーカ、そしてご主人様が苦しんでいるように呻き声や悲鳴を上げていたんだ。パッと見てすぐ分かっんだ、これが特定禁止魔法の1つだってことが。それでももしかしたらと思って、声をかけてみたが、返ってくるのは言葉にならない呻きと叫び声だけだった、それはまるで早く殺してくれ、楽にしてくれって言ってるように聞こえたんだ。つい今朝まで一緒に仕事をしてきた仲間や尊敬するご主人様がこんな姿になっているのを見て俺は怖くなって、館を飛び出してしまった」


 テケルの頬には涙が零れ落ちていた。普段どんな時でも弱音を吐かず、涙を見せないテケルだったが流石に堪え切れなかったようだ。


テケル「そのあと屋敷の周りに生きている者がいないか探したら庭に隊長のクエールが倒れていたんだ。腹を剣で刺されたようなあとがあり、そこから溢れ出るように血がでてきていたんだ。俺はすぐに治癒魔法をかけたが、いかんせ俺は魔法の才能がなく、そんな重症を治せるはずもなかった。屋敷にポーションがあることを思い出した俺はそれを取りに行こうとしたんだ。そしたらクエールは小さく掠れた声で「待ってくれ」と言ったんだ。俺はクエールに「待ってろ今すぐポーションを持ってきてやるから待ってろ」と言ったが、あいつは「俺はもうもたねぇ、だからせめて俺が見たことを他の生きてる者に伝えて欲しいんだ」と言ったんだ。クエールはベテランで、俺ともずっとパーティーを組んでたんだ。俺より全てにおいて優れていたんだ、そんな奴が自分はもう保たないと言ってきたんだ、クエールほどの奴が自分の死期を悟れないはずがない、だから俺はクエールの言った通りにことの顛末を聞くことにしたんだ。全部を話し終わったあとすぐにクエールは死んじまったんだ」


 そう言うとテケルの顔は怨色を帯び、ミゲルを睨めつけた。


テケル「クエールはしっかし言ったんだ、金髪ショートの10歳ぐらいの子供が館の者を皆殺しにして、あの禁止魔法を使ったって!ミゲル!お前がやったんだろ!」

ミゲル「僕のユアは……」


 ミゲルは未だに1人でなにかを呟いていた。

ユアの心はもう崩壊寸前だった。体が無意識に震え、大粒の涙が頬を伝う。

シヤとミヤはユアに寄り添う。


シヤ「ユア……」

ミヤ「ユアさん……」


 2人はそれ以上なにも言えなかった。


ユア「ミゲル! 本当にあなたがやったの⁉︎ 答えてよ‼︎ ねぇ‼︎ 答えろ!」


 ユアの悲痛な叫びは奇しくも今のミゲルに届くことはなかった。まだなにか1人で呟いている。


ユア「ミゲルーー!!」


 ユアはミゲルに駆け寄り、彼の胸倉を掴んだ。

ユアはか弱い華奢な体の力を振り絞り、まるで魂が抜けたようなミゲルの体を精一杯揺さぶる。


ユア「なんで答えてくれないの⁉︎ 私が悪いの? 分からない……喋ってくれないと何もわからない……私はただ困っている人を助けようとしただけなのに……間違っているの? お父様、もう、私はこんな世界に居たくない。死んだ方がいい……」


 ユアはミゲルを揺さぶりながらそんなことを言った。



???(それが人間よ、我儘で、自分勝手、何かにすがらないと生きていけないような惨めで強情な生き物なの)


 ユアの心の中からまた声が聞こえる。


ユア(もういや、こんな思いをするのは……もう十分……)

???(ユア、もういいんだよ、後は私に任せて、あなたは十分に頑張ったんだから)

ユア(もういいのかな……私は頑張ったんだよね?)

???(そうだよ、もういいんだよ)

ユア(そう……もう……いいんだ……ね)


シヤ「ユア!」

ミヤ「ユアさん!」

テケル「お嬢!」


 ユアはミゲルの胸倉から手を離しそのまま跪いた。その瞳には以前のような澄んだスカイブルーの光は消え、まるで混沌のように濁った灰色をしていた。いきなりスイッチが切れたように反応が無くなったユアを見て3人は最悪の事態を考えた。

––––––もうあの優しいユアが消えてしまうんじゃないのかと。


シヤ「だめ! ユア! 私はあなたがいないと……」

ミヤ「ユアさん! お願い、負けないで……」

テケル「お嬢! 頼むよ! あんたまでいかないでくれ!」


 3人はユアの周りで必死にユアに話し掛けていた。


 すると……


ユア「ごめんね、3人とも」


 ユアは顔を上げて言う、その瞳はあのユアの澄んだスカイブルーの光が宿っていた、しかしそれは非常に弱弱しく感じ、今にも消えてしまいそうな儚いものだった。


ユア「シヤとミヤと一緒に過ごした時間は私の宝物だよ。テケルさん、いつも迷惑をかけてごめんなさい、こんな私をいつも守ってくれてありがとう……」


 ユアは微笑んでいた。その微笑みはこの世界で一番綺麗で、純美でありながら儚げなものだった。


シヤ「ユア……そんな別れの言葉みたいに……」

ミヤ「ユア……さん?」

テケル「お、お嬢⁉︎」


 ユアは立ち上がり、ミゲルの胸倉を再び掴み上げていた。しかし先程までとは違い、か弱い華奢な体からは想像もできないような力であった。更に瞳も、全てを焼き尽くすかのような真紅に染まり、ミゲルに侮蔑の眼差しを向けていた。さらにあの微笑みは既に無く、憎しみ、憎悪、嫌悪全てを曝け出している表情だった。

補足

ユアはシヤとミヤ達とは10歳の頃からの付き合いです。後の話で色々わかってくるので今はこれぐらいで構いません。(分かってない人が居たので)




今日は土用の丑の日ですがみなさんは食べました?

実は私鰻が苦手なんですがこんな日ぐらい食べろと妻に強制的に食べさせられました(^^;;

鰻食べれたんだ、文句を言うなと言われればそれまでなんですが、やっぱり苦手ですね……

無性に鰹のたたきが食べたい今日この頃。


次話投稿予定日は9日です


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