80話 緊急クエストをこなそう2。
「アレックス!しっかりしろ!」
アイの叫び声が響く。アレックスを抱き寄せ、肩を震わせた。そこへユリが近寄ってくる。
「!?」
両手を口に当て、声にならない声を出した。全身をガタガタ震わせ、包丁を握りしめた。涙を流し、手は震える。
「あわ、わ、私も、す、直ぐ、直ぐに、行くから、ね?」
ユリは包丁を首に向け、かっ切ろうとしていた。
「ユリ!アレックスはまだ死んでない!何をしているんだ!やるべき事があるだろ!」
「やる、べき、こと?」
「アレックスを今すぐ殺したいのか!治療が最優先だろ!ユリ!今何をすべきか考えるんだ!止血するぞ!」
「ああああ!!うああああ!」
包丁をカラーンと地面へ落とした。
その時、ピンキーが駆けつける。
「おい!こんな所に居たらデススコーピオンの攻撃に巻き込まれるぞ!て、アレックス!?うわ!」
「ピンキー!何とかしろ!」
アレックスがいつも言う言葉だ。とりあえず、血液を補わなければ!
「わ、わ、わ。僕には無理だよ。ど、どうしよう?」
「やる前から無理だと言うな!くそ!ううう!!ピンキー!確か僧侶レベル20だな?」
「うん、そうだけど、何とかなるの?」
「ハイヒールだ!ハイヒールを使え!早くしろぉ!」
「わ、や、やってみる!」
特技は、転職しても使える。ピンキーは僧侶レベル20。ハイヒールも勿論使える。
「大地の精霊達よ!アレックスを癒したまえ!ハイヒール!」
アレックスは、緑色の優しい光に包まれる。
「とりあえず傷は治った。でも、HPは回復しないよ?どうするんだ?」
この世界は、HPの回復手段が少ない。寝る以外の回復方法が無いからだ。ナイトなら、特性の自動HP回復で、少し少しづつだが、回復出来る。が、アレックスは、遊び人。回復出来る見込みは無い。アイテムも、超レアアイテムの世界樹の雫と、これを持つ冒険者は、いない。
HPは辛うじて1残っている。だが、カスっただけで、死ぬだろう。
近くには、デススコーピオンがいるから、大暴れがくれば間違いなく死だ。無論、ユリやサボタン、ピンキーも死ぬかもしれない。
アイは考える。血液が足りない。ほっておけば、アレックスは間違いなく死ぬ。デススコーピオンが近くにいるから、大暴れで巻き添えを食らうかもしれない。
血液補給が先か?避難が先か?一刻を争う。
「ええい!ユリ!血液回復剤と血液増量薬を出せ!」
「うん!分かった!」
ユリは素早くそれらを用意した。
「アレックス!さあ!飲め!」
アイは、アレックスの口に血液増量薬を含ませる。が、全く飲む気配が無い。これでは錠剤も飲めないだろう。
アイは迷わなかった。錠剤と液体薬を口に含む。アレックスに口移しをしたのだ。
柔らかい唇の感触、注がれれ喉をゴクゴク鳴らす。何度も何度も繰り返し、アイはアレックスに口移しで飲ませた。
「とりあえず、アレックスを守りながら、ここを突破する!」
「「了解!」」「キュピ!」
アイは、アレックスを担ぎ上げ、背負う。ピンキーは、アレックスに攻撃が当たらないように、盾を構え、被弾を防ぐ。
ユリは、何とか付いてくるのがやっとだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ、ここまでくれば大丈夫だろう。」
「ぜー、はー、ふぅ!はー!アレックスは大丈夫か?生きてるか?」
「意識はまだ無いが、HPは0にはなってない。」
「うわああああん!!あああん!!」
ユリは泣いた。大声で泣いた。
気絶でも、寝ている判定となるので、HPは少しだけ回復していた。HP残り3、レッドゾーンだが、アレックスは大丈夫だろう。




