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選んだのは―――


    たすくの授業ノート~端書き(サボリ) 学校について~



 まずひとつ。 僕の進学したこの「銀礼高校」は全国的にもトップクラスの偏差値を誇る進学校である。


 ここは学生人気が非常に高く、頭の良い人間が集まるから偏差値が高いのも当たり前といえば当たり前なのであるが、その人気の理由には大きく二つの事柄が挙げられる。



 ひとつ目。 偏差値が高いことそのもの。


 学力の高い所へ行くというのはそれだけで憧れや目標となって学生の前に現れる。 ここに入れたらカッコいいだろうな、きっと将来有望なんだろうな、そんな思いが交錯する。

 実際僕もかなり影響されたと思う。


 そうして集まった才ある者たちがまた高い偏差値を保つ。 そんな好循環が生まれている。

(一応僕もその才ある者の一人ということにしておきたい)


 しかし、これは元々もうひとつの理由によって人が集まったからできたに過ぎない。

 この学校の、そもそもの人気の理由はやはり二つ目だろう。



 二つ目の理由。 それはこの学校の授業の一端を見ると分かる。



 選択制授業――――。


 これが人気の最大の理由であることは間違いない。


 少し前までこの学校には選択科目は無く、その代わり『科学』を主に教える所だったそうだ。

 しかしある時をきっかけに当時の学長は選択制を導入。


 新一年生は全員、入試の時点で二つある科のうちどちらか一方を受験し、入学後の希望先を決める。

 合格してからの変更はもちろんできず、特殊な理由がある者でもかなり厳しい審査があるらしい。

 らしいというのは、今までこの審査を実際に行った前例が無いからだ。


 しかしこれを導入して以降、入学希望者は倍増したという。

 今ではそちらの教科も全国的にも高い水準の教育を受けることができる程になった。


 その選択肢のひとつは今まで学校がやってきたものと同じ『科学』。

 そしてもうひとつ。学生人気の大元、二つ目の選択肢は、



 『魔法』である。



 ―――――――

 ―――――――――――――――――――――――――



「おーい三上ぃー、次移動教室だぞー起きろー」


 まだ眠い目をこすりながら顔を上げると、正面には中学からの悪友、「榊原 啓」が立っていた。 腕には教科書を抱えている。


「あれ、寝過ごした?」

「まだ始まってねぇよ。 ほら、寝ぼけてないでさっさと行くぞ。 早くしないと俺まで遅刻するだろうが」


 すでに彼は準備を終えて待っている。 僕の準備は遅いだとか、授業やる気おきないだとか不満を愚痴る。

 そうやってあーだこーだ言いつつもちゃんと僕を待ってくれるあたり、彼のいいところだ。



 移動後、先程とは違う教室で着席後すぐ、啓はこちらを向いて。


「あ、そうそう三上、宿題忘れたから見してくんね?」

「……啓さ、初めからやる気ないでしょ」


 露骨にいやな顔をする僕。


「そーんなことねぇよ」


 そうは言いつつもちゃっかり写しているあたり、彼の悪いところである。


 ―――――――

 ―――――――――




 授業は淡々と進んでいく。


「ここは5つの力が1点に集まる場所であるからして―――――――――」


 教師の説明をしっかりとノートにとっていく。 初めのころ授業に参加できなかった分、周りよりも頑張らなければという思いが僕の中では強い。 そんな思いとは反対に「隣」では一人爆睡しているヤツもいるがまあ、いいだろう。

いつも通りなので放っておく。


「じゃあここの問題、榊原……はまた寝てんのか」


 講師の八坂先生は一人の生徒を見て、呆れた口調で言う。


 初めての授業が始まってからというものの、毎時間寝ている「隣」の生徒のことは既に若干諦めているような気がする。


「起こしますか」


 先生に一応確認を取ってみる。


「いや、いい。 ほっとけ。 それより代わりに三上、答えてみろ」


 ここは昨日やった範囲だ。 これならある程度答えられる気がする。


「はい、ここは―――――」


 昨日の事を思い出しながら答えていく。


「―――――になります」


 完全には思い出せず、若干足りない説明になってしまった。


「んー八割ってとこだな。 二宮、補足してくれ」

「分かりました」


 指名された二宮さんが完璧な回答を述べる。 まだまだ勉強不足のようだ。 しっかり復習しないと。


「残念だったなー三上」


「隣」とは逆サイド側に座る、「大石賢真」がにししと笑う。


「せっかく女子に良いとこ見せるチャンスだったのに。 あの問題結構難しいからなぁ?」

「いや、別にそういう目的でやってるわけじゃないんだけど」

「まあまあ、そうは言っても男ならやっぱカッコいいとこ見せたいって思うだろ?」


 そりゃあ、まあ、確かにそう思わんこともないけども。 少なくともそういう目的で授業受けてるのは大石くんくらいなものだろう。


「ま、なんにせよ、おいしいところは全部二宮ちゃんに持ってかれちゃったけどねぇ」


 大石は遠い目で奥に座る二宮を見つめる。


「むしろ二宮ちゃんに良いとこ見せつけなきゃいけないんだけどなー」


 はぁ、今日も美しい……と大石君は唸った。


「大石くん」

「んー?」

「ちょっときもい」


 あれ、無言で机に突っ伏してしまった。 効果音をつけるなら「ずぅーん……」がぴったりな感じだ。


 よく見れば若干大石の肩が震えている。

 直後、突然ばっと立ち上がり祐を指さしたかと思うと。


「お前に何が分かるんじゃあぁぁ!!」


 大声で叫びだす。


「ちょっ!? そんな大声で――――――」

「お前らなにをしゃべっとるんだー!!」



     ―――――数十分後(おこられた)――――――



 しばらくして終業のチャイムが鳴る。


「ん? もうそんな時間か。 では続きは次の授業でやるから復習を忘れないように。 ああ、それと大石、三上、次は無いからな。 榊原、お前後で職員室来い」


「隣」で小さく悲鳴が聞こえるが気にしない。 気にする余裕はない。


 恐えぇ……次があってよかった……。


 先生が部屋から出ていくのを見届け、「隣」が抗議してくる。


「おぉい三上! なんで起こしてくれないんだよ!! この時間は起こしてくれっていつも言ってるだろ!? 八坂の野郎やたらと怖ぇんだよ!!」

「いや、だって起こしても3秒しか持たないじゃん」

「じゃあ3秒ごとに起こしてくれ!!」

「無茶言うな!」


 今回に関してはそれどころじゃなかったし。


 あああくそまた反省文かよぉ!!!!と絶叫する彼をみんなが哀れみの目で見ている。

 まあ、完全に自業自得だ。


「ていうかなんでお前ら起きてられるんだよ? あいついっつも催眠術かけてくるじゃんかよ」

「え、そうかな?」


 祐個人としてはとても面白い授業だと思ってるので、あんまりそんな風に感じたことは無いのだが。

(それ故に目をつけられる行動は大変宜しくない)


「うーん……まあみんなこの分野が好きだからじゃないの?」


「えぇーそんなにいいかぁ? この――――――」



 ――――入試の際、『魔法』と『科学』の選択肢から僕らが選んだのは―――――――



「『科学』ってさ」



『魔法』ではなく、『科学』である。


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