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平和の終わり

 目が覚めた日の午後。


 やることがなくさっきと何も変わらない平和に退屈し始めた頃。

 ふと、入口のドアが開く音がした。


 ん、診察? 看護師さんがきたのだろうか? それとも友人かな?

 それにしたって何かしら声をかけそうなものだと思うんだけど。


 訪問者は何も声を発さず、入口付近に立っている。


 カーテンを日避けにしていたこともあり、それが誰なのかは分からない。

 しばらくの間、謎の来訪者は動く気配を見せなかったが、やがて意を決したようにこちらへ近づいてくる。

 カーテンの前でもう一度立ち止まり、逡巡するような間が空く。

 しかしそれも一瞬で、そーっとカーテンが開けられる。





 ――――――バッチリ、目があった。





「生きてる!?」

「そりゃそうですよ!!」


 なんで僕は既に死んだことになってるんだ……というか誰?


「…………」

「…………」


 両者の間に沈黙が訪れる。


 見れば突然の来訪者は女の子だった。


 顔立ちはまだ少し幼く、彼女の首の真ん中ほどで切りそろえられた髪には可愛らしい赤の髪飾りが添えられている。 髪の色は黒なのだが、光の加減か、薄茶色にも見える。

 横になった体勢だと判断しにくいが、同い年くらいだろう。 出るとこは出ていて、正直可愛いなぁと思った。

 学生服を着て、いかにも学校帰りといった感じである。

彼女の瞳には得も言われぬような魅力があり、意識は自然と引き込まれていく。


会話の無い短いとも長いともとれる時間で、僕はしばらく彼女に見惚れてしまっていた。


「ああっえと、私『一之瀬 沙月』っていいます!」


 彼女が自己紹介をしてきたので、僕もそれに答える。


「はあ……そうですか……僕は」

「いえ、それは知ってます。 入口に札が、あった……ので……」


「…………」

「…………」


 彼女は話の腰をへし折ったことに気づき、押し黙ってしまう。

 僕自身も話を中断させられたので黙ってしまう。

 再び二人の間に沈黙が訪れる。


 ……いや、なにコレ?


「ええと? 僕になにか用ですか?」


 とりあえず流れを変える意味合いも込め、無難な質問をして相手の反応を待つことにする。


「なんで生きてるんですか?」

「僕になにか恨みでも!?」


 無難じゃない答えが返って来た。


「でも植物状態だって」

「どこ情報だよ!」


「一部石化してるとか」

「僕は化石じゃないよ!?」


「ほんとに、生きてますか?」

「どんだけ疑ってんですか!! 見たまんまでしょ!」


「いえ、わたしの目に風穴が空いたのかと」

「むしろそっちが死んでないかな!?」


「昨日とかだって『へんじがないただの」

「しかばね』でもないよ!!」


 な、なんなんだこの子……というかなんで初対面の子とこんな話してるんだ僕は……。


 ふと、さっきの会話に気になる点があることに気づく。


 ……ん? 昨日も……? あ、もしかして―――――――


「もしかしてあなたが昔約束した美少女ですか」

「は、はい?」


 彼女は戸惑っている様子。 あ、これ想像の話だったな。


「あぁ違った、最近毎日来てるっていう美少女ですか」

「び、美少女は訂正しないんですね!」


 そういう彼女の顔は微かに赤い。 実際可愛いと思うけど。


「訂正したほうがよかったですか?」

「えっ!? いや、まあ……じゃあ少女Cとかで……」

「すごいモブっぽい!」



 …………ああ、なんだろう、楽しいなぁ。


 ついさっきまで暇を持て余していた分、余計に楽しく感じる。

 それに会ったばかりの子とこんな話をしている。 そう考えるとなんだか急に笑いがこみ上げてくる。


「……ははははっ」


「ぷっ……ふふふっ」


 彼女も同じだったようだ。

 互いにひとしきり笑ったあと、彼女は訪ねる。


「……一つ、いいですか?」

「何ですか?」



 そしておごそかに告げる。



「―――――本当に生きてますか?」

「しつこいな!?」

「そうですか、そうですよね……」


 結局なんなんだこの子。 なんでここに……



 ――――しかしその後の行動は予想外だった。



「よかったぁ――――――――う、ぁぁ……」


 泣き、ええっ!? なんでっ? 僕のせいですか!? そうなの!?


「ああああぁぁ……」


 どどどどうすればいいんだ? この前読んだ雑誌ではたしか、


「君に泣き顔は似合わない」


「あぁぁああぁああ!!」


 しょうじょCにはこうかがないようだ……!!


 カラカラカラッ


「おーっす三上ぃ起きたって聞いたんだ、け、どどどどどど!?」

「どーしたのよーちょっと、入れないじゃない。なにかアーーーーッ!?」

「あ」


 中学校からの友人である「榊原 啓」と「飯塚 美穂」。


 どうやら二人は僕のお見舞いにとんでもないタイミングで来てくれたようだ。

 いやぁ、とってもありがたくない。


 二人は入り口で立ち止まったまま動かない。 女の子を見、僕を見、お互いを見る。



 そして――――――――



「「三上が女子を連れ込んで泣かしている!?」」

「違ッ!?」

「うあぁぁぁぁん!!!!」




 退院まであと4日。


 こうして平和だった病室は、「一之瀬沙月」の来訪により喧噪に包まれたのだった。


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