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一方では

 祐が一之瀬と相対していたころ、教室では。


『しっかりしろォ! 大石ィー!』


 大石が力尽きていた。


「落ち着けお前ら。 チームメイトに女子がいない程度で喚くな」

『榊原! お前に何が分かる!』


「分からんな。 生憎俺は女子二人だ」

『シネェェェ!!』


「おっと危ねぇ……大体な、お前ら今回の行事(コレ)なんだと思ってんだ」


 目配せをするも何も心配はいらなかった。 男子は皆理解している。


 そんなもの当然、


『『女子とイチャるイベントだろ?』』


 はぁ、と啓は溜息を零す。


「……バカか、と言いたいがあながち間違ってはいないだろうな。 この行事は知らない生徒とも組む可能性があり、一種の交流会の意味も含んでいるはずだ。 この学校は生徒数が多いからな」


 だから途中で女子と会話する機会もあるだろと付け加える。


『しかし榊原重罪人 兼 総合作戦本部長! それでは我ら組めなかった者の恨みが、無念が晴らせません!』


 一人が高速でカッターの刃を出し入れしながら訴える。


『見てください、この大石の哀れな亡骸を!』

「オンナ、ノ、コォォゥゥ……」


 大石は机に頬を押し当て虚空を見つめている。


「どうした大石。 俺は女子二人と組むぞ。 処刑するんじゃなかったのか」

「……榊原……はは、いくら処刑しようと俺のチームが男なのは変わらないな、って思ってさ……」

『『……』』


 一瞬にしてその場がお通夜モードへ移行する。


 暗い雰囲気の中でも絶えず効率的に啓を攻撃を繰り出す彼らは流石の一言である。

 啓はそれらを避けつつ再度ため息をつきながらある意見を示した。


「はぁ……しょうがねぇな。 俺からひとついいこと教えてやる」

「あー?」


「紙幣型はどこかに保管しなければならない。 ついうっかり望まぬアクシデントが起きてしまっても、しょうがないよなぁ?」


『『『???』』』


「当日の恰好は特に指定されていない。 ……そうだなぁ、ズボンは後ろにポケットがあるよな?」


 今それが何に関係あるのかと疑問の表情を浮かべる。


「紙幣型は、どこにしまうのだろうな?」

『『『っ!!!』』』


 そこで皆、啓が何を言わんとしているのか気づく。


「男子しかいない。 見方を変えれば連携が取りやすいとも言えるんじゃないか?」


 周りをもう一度見渡す。


「今回の行事、なんのためにある?」


『すまん、俺行事ガチ勢だから処刑とかやってられんわ』

『(ピリリリ……)今すぐ作戦会議するぞ集合、あん!? 明日にしろ!? 馬鹿いってんじゃねぇ!!』

『落ち着け、作戦本部長の指示を待つべきだ……!!』


 一斉に視線が啓に集まる。


「やる気になってもらえたようで何よりだ。 そこでひとつ言わせてもらうとだな、俺は一位を目指している。 そのためにも互いに利のある事をイルミナティでやりたいと思ってだな――――――」


 勝つための方法。 何も馬鹿正直に集め回るだけが全てではない。

 啓は策を弄する――――――そしてその具体的な内容について説明し始めた。


「簡単に言うと、お前らの集めたポイントと『商品』とを交換したい」


 他人からも集められれば、効率は何倍にも跳ね上がる。 普通に集めている者たちとは一線を画すことになるだろう。


『お前が何か売るのか?』


 それを聞く皆も好意的に耳を傾ける。

 勝つための方法がひとつではないように、勝つことだけが全てではないのである。


「いや、俺の立ち位置としては仲介役を努めたい。 後で説明する内容の情報処理を担当する感じだ。 あと当日の作戦立案もやろう」


 啓は確認するように皆の顔を見る。


「交換の方法としては当日までに出店された商品を買う形で行う。

 一品限りのものはオークションで、写真みたいに複製ができるものは普通に売る。

 まあ結局のところいつもの物販と変わらん。 違うのは支払いが『金』ではなく『ポイント』だということだ。


 当然出展者にもポイントは還元するし、そのポイントで買い物もできることにする。

 そうだな、仲介料をとりあえず三割としておくとして、当日は10分間隔で値段を確定しよう。

 売れ残ったものは繰り越しで、同じく10分は売れることはない。


 また、基本的に前日まで出品、もしくは取り下げを受け付ける。

 登録した商品は事前に販売時間も含め銀礼網(ネット)で公開するが、変動することを頭に入れておいてくれ」



「まて、買うまではいいが、ポイントの譲渡はどうする? 購入が確定してからやっぱり足りません持ってませんじゃ話にならないぞ」


 復活した大石からそんな疑問が発せられる。

 理解を示すように啓は首肯した。


処刑(それ)に関してはお前の領分だろう? 何、お前にゃ非売品をくれてやる」

「しゃあ!! まかせろぉい!!」


『『『っ!? まさか、榊原コレクション!?』』』


 それを聞いた全員が一斉に色めき立つ。


「そうだなぁ、支払いがしっかりできる奴には考えてやらんこともない」


『『『確実性を持ってお届けしよう!!』』』


「ま、それでも足りない分はいつもどおり金で補填になるだろう。 ペナルティである以上、通常よりも高額にもなる。 ツケはない。 最終的に俺の所に来るのなら咎めることはしないが、意図的に不足していた場合は……」


 息を呑んで次の言葉を待つ。


「二度と非売品の入手が不可能になる程度で済ましてやる」


 全員が固く誓いを立てた。




 ◇     ◇     ◇     ◇     ◇




 細かい調整や決まりをそれぞれ話し、啓の説明も終盤に差し掛かる。


「こっからは注意点だ。 まず術式型の方だが、あれは術式を発動した時点で無価値も同然になる。 拾っても魔力を込めんなよ?」


 了解を示すように一様に頷く。


「術式型も紙幣型も先に言ったように取ろうと思えば取れる物だ。 女子に突撃するのはお前らの理性と常識と社会的ペナルティの兼ね合いから勝手にしてくれて構わんが、逆に取られることがないように」


 再び首肯する皆。 仲間割れも厳禁だと付け加えられる。


「あとは風紀に気をつけろ。 危険行為は即失格まである。 まあよほど目に余る事しなけりゃ大丈夫だとは思うが……」


 ケガすら認可するような組織、学校なのだ。 集団で一人を集中的に狙うなど悪意ある行動でなければ大丈夫のはずだ。


「あ、そうそう、他のチームメイトもイルミナティに参加させておいた方がいろいろと楽だと思うぞ」


 動きやすさは当然上がる。

 第一、チームのポイントを使って買い物をするのである。

 メンバーの了承を得るのに最も手っ取り早い方法は組織に引き込むことだ。


 それに魔法科でイルミナティはまだあまり進出できていない。 この機にメンバーを増やせれば組織の利にもつながる。


「―――――という感じだ。 いいか?」


 最後に皆揃って了解の意思をみせた。

 啓の視線は大石へと移る。


「ん、告知しといた」


 よし、と前に向き直る。


「さあ、準備開始だ」


 ◇     ◇     ◇     ◇


 その頃、正門付近。


『魔獣は殺せー!』

『人殺し学校を許すなー!』


 先のアルミラージの一件から、反発を強めていたデモ隊が行事開催を前に学校の敷地内まで押し寄せて来ていた。

 拡声器で声を張り上げつつ、自分たちの考えを披露する。


『危険思想を正当化するなー!』


 警備員の制止も虚しく、飼育小屋のあるエリアを目指し歩を進める。

 人数は約30人。 常々魔獣や学校を批難してきた者たちである。


 彼らは各々武器となり得るものをもち、魔獣を殺さんと意気込んでいた。

 しかしその歩みは別の一団によって止められる事になる。


「5人も集まりましたか。 上出来です」


 落ち着いた少女の労いが側にいる者たちに届けられる。


「そこの集団、止まりなさい」


 5人の生徒たちが横一列に並び、その内の真ん中に位置する生徒が一歩前へ出て声を発していた。

 広い道を塞ぐには心もとない人数。 30人に対して5人という数の差。


「あなた方は学校の敷地を侵犯しています。 速やかに退去願いたい」


 少女―――――桑島はその差を意にも介さず、同じく拡声器で声を飛ばす。


「聞き入れられないようでしたら、相応の対応を取らせていただきます」

『魔法は平和のためにあるべきだ!』

『魔獣飼育などという狂気を見過ごしてはならない!』


「はぁ、聞いてすらもらえませんか……」


 熱くなり前進を続ける彼らを見て、小言を零す。

 おろした拡声器をもう一度上げ、警告のレベルを上げた。


「あなた方が武装している以上、武力行使も止む負えませんが。 おとなしく帰ってもらえないですか」

『人に攻撃するってのか!? それよりも魔獣を殺すべきだろう!』

『人殺し学校の生徒は考え方まで危険なのよ!』

『やっぱりここの教育方針は間違ってる!』


「はぁ、マジで殺しますよ?」

「『「っ!?」』」


 うっかり拡声器に声を入れてしまったことに気づく。


「……というのは流石に冗談ですが」

「先輩、冗談に聞こえないっす……!!」

「駄目ですよ? 殺っちゃ駄目ですからね!?」


 心配性ですね、と思いつつこれ以上は本当に迷惑なのでそろそろおかえり頂くことにする。

 あえて相手にも聞こえるように拡声器を使ったまま指示を出した。


「皆さん、これは実戦演習と思ってくれて結構です。 相手はせいぜいスライム程度といったところでしょう。 変に気負わずいつも通りで」


 そこで拡声器の電源を切る。


「初手は私がやります。 あ、威嚇射撃ですよ。 それ以降は狙って構いません。 適度に逃げられるような隙を作れると尚良しです」


 発動に時間かかる人は準備、と声をかける。


「やるなら派手な方がいいですね……よし決めた」


 そう言った後、無詠唱で出した小さな火球を前に、付け加える形で指で魔法陣を描き始める。


「【火柱(レッド・ピラー)】」


 直後、空気を焼くような音を提げ、デモ隊の頭上めがけて大きな火柱が発射された。


『『『っ!!!』』』


「ふぅ……あ、私会長に用があるので後は任せます。 緊急の場合は呼び出してください」

「「「了解です!」」」


 デモ鎮圧よりも毎日の抗議を優先した桑島は、ちょっと焦げた書類を手に校舎へと足を向けた。



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