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三勢力

「会長、今回の抗争、本当に実施するのですか?」


 学校のとある一室で、語気も強く「会長」に詰め寄る一人の女生徒がいた。


「あんな事があった後に行うのは下手をすれば過激派を刺激するだけになります。 我々から学校に掛け合えば中止までとはいかずとも延期くらいはできるでしょう。 それでも会長は考えは変わりませんか?」


 態度では何とか抑えようとしているらしいが、言葉の節々にイライラとした雰囲気が漏れ出してしまっている。


「ふむ。 君も考えが変わらないね?」


 そしてそれに相対する「会長」はのんびりとした態度で応答する。


「ええ、当然です。 風紀委員としては不測の事態は可能な限り避けたいですから。 会長もわかっているのでしょう? あのアルミラージの脱走はあまりに不自然すぎます。 学校側の小屋の老朽化という説明……あれはあまりに無理があります。 それに逃げた4羽が全て同じ場所に集うだなんて……」


「誰か意図的にやったと? たしか一週間前くらいから君はずっとそればかりだね」

「分かってるなら真剣に検討してください! 生徒の安全が掛かってるんですよ!」


 もう我慢の限界とばかりにその苛立ちを顕わにする。


「そうは言ってもだねぇ……学校の意向だし、今更なところもあるしね」

「もー! だぁからずっとそう言ってきたんじゃないですかー!! いいです! 一生徒として直接学長に掛け合ってきますッ!!」


「学長はお悩み相談人ではないのだがね。 それにそもそも既に何度か会いに行ってるのだろう? 結果はどうだったんだい?」

「見ての通りです! 変化なし! 平和安泰不導体! そもそも会ってくれませんでしたよ!」


「まぁまぁ、一度落ち着いて。 深呼吸して。 大きく息を吸って?」

「すぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 大きく大きく息を吸って。


「なぁんでこんな緊張感ねぇんですか心配してる私が馬鹿みたいじゃないですかあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


 ビリビリと生徒会室に大声が反響する。

 ひとしきり叫び終わったのを見計らって耳栓を外した「生徒会長」こと「徳永 理人」は改めて風紀委員「長」、「桑島 凪」に向き直る。


「凪君の言いたいことも分からんでもない、こともないがね」

「分かってねぇじゃねえですか!!」

「まぁまぁ」


 荒ぶる凪を前にして、冷静に対応する。

 両手のひらを前に、凪を押し返すようにして宥めすかし、そのまま言葉を続けた。


「この学校は科学、魔法を重点に置いた教育をしているんだ。 危険やトラブルはあって当然だし、それをいちいち気にしていてはキリがない」

「ですが今回のは――――――!!」

「それに、だ。 皆この程度で(、、、、、)へたるようでは今後生きていく上で魔法を使うに値するのか甚だ疑問なんだがね」


「っ……問題発言は控えてください。 今のは聞かなかったことにしておきます」

「甘っちょろい風紀委員だねー」


「なんですかその言い草は! 別に風紀委員会(ウチ)は悪を根絶やしにする組織じゃないんですよ! 学校でのトラブルもめ事を減らすことが目的なんですから! わざわざ必要もない問題を掘り起こしたりしません!」

「……仕事してる?」


「だぁからしてるっつってんじゃねぇですか!! なんですか、もしかしていつも仕事ばかりしてて時には強大な権力を行使することができる鬼軍団とでも思っていやがるんですか!!」

「違うの?」


「違ぁう!! いちいち服装の乱れをチェックしたりしません! 勝手に好きなの着てろってんですよ! 私たちが動くのはあくまでもめ事、特に魔法関連の危険事態に対応するんです! 他は放置! じゃなきゃ身が持たない!」

「ふぅん」


「なんですか何が不満ですか会長権限で規則改定でもしたらどうですか」

「いや、別に不満は無いよ。 ただ怒ってる凪君かわいいなぁと思ってね」


「なぁっ!? い、いいいきなりなに言うんですか!! 取り締まりますよ!」

「権限無いくせにー」

「きぃーーーー!!」


 二人で騒ぎ立てる中、一人が手を挙げる。


「あのー、会長」

「ん、なんだい?」

「ここ、生徒会室であってお二人のプライベートルームじゃないんですが……」

「そぉそぉ。 見せつけちゃってさぁー、そんなことすると会長のファンが怒っちゃいますよぅー?」


 今生徒会室にいるのは四人。 それぞれ発言した二人は会長と凪のやり取りを見ていた。


「見せっ、私と会長はそういう関係じゃありません! 変な誤解しないでください!」

「そういう関係ってどういう関係ですぅ?」

「掘り下げんなっ!!」


 面白半分に追及しようとする生徒会メンバーを凪は一喝する。


「凪先輩、その口調が荒くなる癖直した方がいいですよ。 会長に嫌われちゃいますよ?」

「えっ……!?」

「いやいや、ボクはその程度で凪君を嫌ったりしないよ」

「えっ……!」


 ニヨニヨと意味深な笑みを浮かべた生徒会メンバーの視線が集まる。


「ッとにかく! 与えられた仕事はこなします! はいこれ、当日の警備配置図と時間割です!」

「結局諦めたのかい?」

「現実を見ているだけです。 考えが変わったわけではありません。 これから毎日でも抗議しに来ますから」

「やーい通い妻ぁー」

「うるせぇ!!」


 ――

 ――――――

 ――――――――――


「ははっ凪先輩はいつも通りでしたね」

「ああ、そうだね」


 会長は書記、「東郷雅史」の言葉に首肯する。


「でもかいちょー、確かに彼女の言うことにも一理あると思うんですぅ」

「おや、悠里君は凪君に感化されてしまったかな?」


 だらけた態度で言うのは会計長こと「船越悠里」。 普段はだらりとしているが金を扱う大事な役職である。


「別にそういう訳でも無いんですけどぉ……結局危険は少ないに越したことはないっていうか」

「ま、そうだろうね。 アルミラージの件もあの場にいたのは全員一年だったそうだし、ああ言ってしまうのは少し酷だったかもしれないな」

「その一年で行う抗争ってなるとやっぱりちょっと心配ではありますね」

「ふむ……」


 凪の置いていった用紙を手に取る。


「……どうやらすでに警備の増強案を提出してきたようだ」


 この学校は大きく分けて三つの勢力がある。 最も権力が強いのは学校。 当然といえば当然である。


 そして二番目に食堂、三番目に生徒会である。 食堂に関しては一つの企業が多額を融資している関係で、実はそれなりの発言権を有している。


 なので今回の抗争のように景品の特権や優先権などは見た目以上に大きな価値を持つ。 例えるならば一市民として要望書を出すところを、直接お偉いさんに会えるようなものだ。


 そしてそれら権限を有していない一般生徒側の立場に立つのが「生徒会」。 それぞれの委員会の長が属し、それらの総括役として会長が存在する。

 学校の意向に対しある程度の発言権がある。 桑島の言うようにおそらく延期について交渉することもできるであろうが、今回はそれを見送った。 なぜなら―――――


「まさか食堂側があそこまで強く開催を主張してくるとは思わなかったからねぇ……凪君も大変だ」

「他人事じゃないですよぅ。 風紀で人手が足りないなら自分たちから人員出さないとならないんですからー」

「当日は学校側からも警備に回してくれるらしいがね」


「そうですが……アルミの件、学校側(、、、)とも限らないですから。 少し心配ですね」

「そうだね。 ただそれを言ったら生徒側(、、、)とも限らないし、気にしてもしょうがないだろう」


「……ねぇ、二人ともちょくちょく問題発言っぽいこと言うの止めてよぉ」


「そうかい?」

「そうですか?」


「……この中であたしが一番まともなの……?」


 今日も生徒会は忙しい。

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