表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

科学の得意なクラスメイト


 先日、大騒動があった。


 なんと魔獣が逃げ出したというのだ。 しかも四体も。

 その時は図書室で借りた本を返していたころで、このことを知ったのは放送が入った時。


 初めは何を言ってるのか分からなかった。

 何を言っているのか理解しても、その状況についていけなかった。


 魔獣が危険だというのは常々聞かされてきた。 有名どころの魔獣についてはその特徴にいたるまで教えられてきた。

 この学校に入って、実際の魔獣を見る機会もあった。

 でも、それらは全て間接的だ。 紙として、知識として、檻の外からただ見ていただけ。


 動物園のライオンがもしも逃げ出したら、人々はどう思うだろうか? どう考えは変化するだろうか?


 排除しようと思う以前に、きっと恐怖する。

 ましてや人を襲う生き物となれば尚更だ。


 そのことに気づいてからというもの、怖くてそのまま図書室にいると、しばらくして再び放送が入った。



 もう安全だと。



 私は気が抜けてその場にへたり込んでしまった。

 実際直接的に見た訳ではないというのに、想像の中での魔獣はまるでそこに居るかのように感じられた。

 ここまで生と死と実感した事は無い。


 でも、安心したのも束の間、救急車のサイレンに再び緊張が走る。


 そうだ、魔獣が逃げ出したのだ。 誰かがケガをしていてもおかしくない。 最悪の事態だって……


 大きな不安と心配でいっぱいになる。


 誰がケガしたのだろうか……



 ――――――後日それが誰だったのか知らされた時、しばらく言葉が出なかった。



     ◇    ◇    ◇    ◇



 テスト最終日の午後はいつも通り授業を行う。

 そして今日の科学の授業。 最近復帰した三上がまた間違えた。


 アルミラージによって負ったケガは致命傷には至らなかったらしい。 何があったのか、詳しい話は聞かされてないけれど、今回魔獣と生身で相対してこれ程までに無事(、、)なのは半分奇跡的なんだとか。

 数日に渡ってマスコミはそう騒いでいた。


 その結果と言えるのか、休んでた分の授業の遅れが結構響いているみたい。

 入試では私を抜いた科学も、こうして間違えているようではまだ本調子には遠い。


「んーその解答だと五割ってとこだな。じゃあここの補足を―――――」


 八坂先生は私を見る。


「二宮、できるか?」


「はい」


 もちろん。 彼には絶対に負けない。 ブランクがあるからといって手を抜く気は一切無い。

 そんなことは彼に対しても、私自身に対しても恥に他ならない。



 ――――――私に追いついてみろ。 そうしたらもっと先へ行ってやる。



 そんな思いを抱きつつ、「二宮巫言(みこと)」の日常は過ぎていく。






      ―――――放課後、外靴に履(あれ?)き替えて―――――――






 ……あれ?なんかおかしくない? おかしいよね? 絶対におかしい。 なんかこれじゃまるで三上のことずっと追いかけてるみたいじゃない? 乙女か私は。

 これじゃあまるで三上が想い人……いやいや無い無い、だってそもそも話したことすら無い様な相手よ? 好意なんて抱く訳が無い。

 第一、誰か異性に好意を抱いた事なんてないし、抱いてる自分も想像できない。


 大体なんでそれが三上なのよ。 この前だって女の子がどうとか叫んでたし、九条と喧嘩売買するようなヤツだし、普段から妙にどこか危なっかしいところあってほっとけないし……。 もし三上に彼女ができたなら、その人はさぞ苦労するに違いないわ。

 まあ確かに三上は普段はまじめで気がきいて、進んで黒板消したり、頼まれ事された時はちゃんとこなしてるみたいだし、文句とか言いつつもでも楽しそうにしてたり、たまに一人で居る時とかはなんだか妙に話しかけてみようかなって思ったりもするけど、まさかそれが恋愛感情とか私に限ってそんなわけあるはずがない。


 今まで何度か告白はされた事はあるけど、それら全て振ってきた私。 一つも恋愛感情に発展しないような冷めた人間だと自負しているくらいなんだから。


 ……でも一昨日はびっくりしたわね……いきなり彼女とか言い出すんだから。 てっきり本当なんだと思って

 一晩中考えちゃったじゃない。 おかげで眠くてテストにも集中できなかったし……どうしてくれるのよ。

 ま、彼女っていうのは勘違いだったみたいだけど。


 というか三上は妙に本気じゃないような節があるのよね。 だって科学最高得点だったくせに授業ちょくちょく間違えるし……。 この前なんて問題を聞きに来た人に解説してたけど、ちょっと違ってたし。 教える側が間違えてどうするのよまったく。


 そういえば私には誰も聞きにきてくれないよね。 私もそれなりに教えられると思うんだけれど。

 あれ、私ってそもそも普段学校でどの程度会話して……?


 ……私ってやっぱり 『どぅおりゃああ!!!』 そんなに話しかけ辛いのかな、 『馬鹿曽根ー!! どこ投げてんだー!!』 それとも 『すませーん!!』 皆に嫌われることとかしちゃってたかな……やっぱり私から話しかけないとダメよね、 「ちょっ二宮さん!? 前!!」 明日誰かお昼誘ってみようかな、いやでも―――――


「二宮さん危ない!!」

「ふぇっ?」


 体が右に強く押し出される。


「きゃっ……!」


 突然のことにバランスを取れず、そのまま尻もちをついてしまった。


「いったぁ……」


 顔をあげる。 いきなり突き飛ばしてきた人物を確認するために。

 危なすぎる。 一言二言文句言ってやらないと気が済まない。


 そして目の前には。


「って、三上!?」


 ボールによって盛大に吹き飛んでいく人影(みかみ)があった。


 空中で何回転かしたのち、派手に壁に激突して止まる。

 うつぶせに倒れたままピクリとも動かない。

 文句を言うというのはすっかりどこかへ行ってしまった。


「ね、ねぇちょっと! 大丈夫!?」


 急いで駆け寄る。 絶対に大丈夫ではない。 だが、二宮にはそんな言葉しか思いつかなかった。


「だ、だい……」


 祐は何かを掴むように手を伸ばす。 二宮は意識があることに安堵する。

 ああよかった、その手を取ろうと―――――


 ぽすっ


「ひぇっ?」


 その手は二宮の胸にしなだれかかってきた。

 彼女の意志とは関係なく、優しく柔らかく受け止める。


「じょ―――――ばなぃ……」


 ズルッと。

 力尽きた腕はそのまま重力に従って、二宮の下腹部に落ちる。


「――――――ぴッ!!!??」


 屈んでいた体勢において、スカートは受け皿となって祐の手をしっかりと抱え込む。


「ふぇぇっ!? はぅ、や、ちょちょちょっと!?」


 突然のことに動転し、上手く退けられない。 動くたびに祐の腕はもみくちゃにされていく。


「あ、ああ、あぁああ……」


 ポシューと頭から湯気がのぼる。 顔が熱くなり上手く思考がまとまらない。


 い、いいいいま、私にッできるこここと……


「きゅ、救急車ぁ……」




     ◇     ◇     ◇     ◇




 目が覚める。


「…………ん?」


 状況がいまいち理解できない。 何があったのだったか。

 というか直前まで何をしていたのだったかな。


「んー……?」


 近くに人の気配を感じる。 誰だろうか。


「起きた?」


 この透き通った声音には聞き覚えがある。 そう、学校のどこかで聞いた気がする。

 起きたばかりの頭ではそれが何だったか思い出せない。


 一体誰だ……?


 その正体を確かめるため、顔を横にむけると。




 ――――――そこには息を呑む程の美人が座っていた。




 この不意打ちに気の抜けた思考は一瞬で覚める。 少しの間、まばたきすら忘れて魅入ってしまう。


 細く長い手足にきりっとした表情、目鼻は整っており、一重で切れ長の目、右の目尻には泣きぼくろ。

 スラッと引き締まった体つきは筋肉質とは似て非なるもの。

 それでいてどこか女性的な柔らかさが見て取れる。

 彼女の容姿には美しさと、そしてどこか艶やかさも感じさせる。

 長く艶のある黒髪は彼女が動く度まるで絹のように滑らかに揺れ、頭の後ろで束ねられて尚、腰まで届く長さがある。


「……えっと?」

「悪かったわね、一之瀬沙月じゃなくて」


 ツーンとそっぽを向くその人は――――――


「……二宮さん?」

「そうよ。 一之瀬じゃないわよ」


 そ、そんなに拗ねなくても。 えっとしか言ってないのに。 うーん……


 彼女をこんなに近くで見たのは初めてかもしれない。

 普段クラスでは話すことはないから、実質今回が初めて顔を合わせることになる。

 一之瀬さんが可愛い系の女の子なら、彼女は着物の似合う和風美人といえるだろう。

 まさかここまで美人さんだったとは思っていなかっただけに、まじまじと見てしまう。



「……なによ、まさかリンゴとかむいて貰えるとでも思った? 私がそんなお約束みたいなことするわけないじゃない」


 そうですか……。


 訊いてもいないことで怒られてしまった。

 そこで何があったか思い出す。


 あ、そうか、ボールに吹っ飛ばされたんだっけか。

 どうやら誰もケガはしていないようだ。 よかったよかった。


 彼女はガサゴソとカバンの中を探る。 そしてやっと顔をあげた彼女はあるものを取り出した。


「これよ」


 リンゴは摩り下ろしてあった。


 ゴトッ


 あと、すりがね。


「っ、しょうがないでしょ! 今すりがねしか持ってなかったのよ!」

「何も言ってない、言ってないよ!」


 なんで持ってるのなんて言ってないよ! なんで今とか思ってないよ!


「タッパーと一緒に間違えて入れちゃっただけ!」


 ぐい、とタッパーを押し出す。


「ほら!」

「あ、ありがとう……」


 とりあえず受け取る。


「……なんで二宮さんがここに?」

「あんたが私を突き飛ばしたんじゃない」

「ああ、なるほど……?」


 微妙に会話が成立してない気がする。


「……それ、食べないの?」


 言われたので、 食べようとタッパーに手をかける。

 ただうまくタッパーを開けられない。


「二宮さん、これちょっと開けてもらっていいかな?」

「む…………ほら!」


 一度手元に戻し蓋を開ける。 またぐっと突き出される。

 それをテーブルの上に置き、一緒に渡されたスプーンでゆっくり食べ始める。

 ひとくち、ふたくちとぎこちなく食べる様子を彼女はじっと見ている。


「な、何?」

「……やっぱり右手だけじゃ食べ辛いの?」

「ん? まあ」


 ああ、心配してくれているのか。 まあ実は左腕はもうほとんど大丈夫なんだけどね。


「じゃあその……た、たっ、食べ、ささっ………や、やっぱなんでもない! 早く食え!!」

「あ、もしかして食べさせてくれるとか?」

「うるさい! 誰があんたにそんな厚意を向けてやるかっ!」

「傷ついた! その言葉に傷ついた!」

「ぬぬぬ……」


 まぁ、そんなわけないか……。 ちょっぴり期待してないこともなかったんだけど。


 ゆっくりと擦りリンゴを食べながら尋ねる。


「どれくらい寝てたのかな?」


 ふと気になった。 この前は四日も寝てたらしいし、もしかして結構時間経ってるのかなと思ったからだ。


「三十分くらいじゃないの」


 三十分。 そんなに経っていないらしい。 そうか、



 この人三十分で家帰ってリンゴ擦って来たのか。



 彼女のバイタリティに感心しながら咀嚼を続けていると、新たな来訪者の前兆があった。

 ドドド…と勇み足を猛然と踏み鳴らしてやって来たのは―――――


 バンッ


「茂上祐は起きてますの!?」

「あ、くじょ――――」

「あなたバッカじゃありませんの!? バカですの!? ヴァカですのね!」


 い、いきなりなんだ!?


「前々からバカだと思っていましたがまさかここまで莫迦だとは思ってもみませんでしたわこの御バカ!!」

「そ、そこまで言わなくても……」


「もっと自分を大切にしてくださいまし! あなたついこの間大怪我したバカりですのよ!? まだ左腕も完治してないのになぁんでまた担ぎ込まれてるのですか! 馬鹿!」

「う……面目次第もない……」


 全く返す言葉が見つからな、あれ、でも九条さんこの前追加攻撃しようとしてなかったっけ?


「全く……!! しんぱ、迷惑かけられるこちらの身になってもらいたいですわ!」

「わざわざ言い直さなくても」


「そこは聞こえなかったふりをしてくださる!? ええ心配でしたわよ! なにせあなたのケガはもとはといえば私の責任ですし……!」

「だから気にしなくていいのに」

「私個人の自由ですわ! ――――――ってあら?」


 ここでやっと二宮さんの存在に気が付いたようだ。


「あなたは?」

「はぁ……いいわ、私はもう帰るから」


 そのまま席を立ち出ていこうとする。

 しかしその行く先を九条は塞いだ。


「待ちなさい。 私は名前を訊いたのですよ?」

「答える気が無いって言ってんの。 そこどいてくれる? 邪魔なんだけど」

「失礼ですわね……! そんな失礼な事言われたのはそこの茂上祐以来ですわ!」


 ついこの間じゃん。


「は? 茂上……?」

「そこの彼です。 彼の見舞いに来たんじゃありませんの?」

「み、見舞いじゃない! リンゴの期限が近かったからそいつに食わせようと思っただけ! ていうか人に名乗らせたいなら自分から言いなさいよ!」


 リンゴのそんな事情聞きたくなかったよ……。 僕は残飯処理班かなんかですか。


「それもそうですわね! わたくしは九条・ヴァントロイス・麗奈ですわ!」

「っ!? っあ、『九条』……?」


 一転、二宮さんが明らかに動揺する。 表情に陰りが見られる。


「さあ、私は名乗りましたわ! あなたの名前は?」

「わ、私は……」


 返事を求められ、答えに困窮する二宮さん。

 きょろきょろおどおどする彼女と目が合った。


「……あー巫言ちゃん、そこの水とってくれる?」

「っ! …………ほら」


 二宮さんが水の入ったペットボトルを寄越してくる。その顔は若干ふてくされているように見える。


「ん、どーも」


「あなたミコトといいますのね」

「まあ……」

「そうですか。 お時間取らせてしまって申訳ありませんわね。 私はこれにて戻らせて頂きますわ」


 扉の前まで行き、一度こちらを向いて、


「先に帰ります!」


 ピシャン!と勢いよく扉を閉めた。


 忙しない人だなぁ……文句言いにきただけじゃん。 なんと苦情さんなことか。


「…………なにあれ?」

「ん? 九条さん」


「彼女?」

「いや?」

「……そう」


 しばらく九条さんが去っていった入り口を見つめる。


「……それじゃ私も帰るわ」

「あ、待って二宮(、、)さん」


 そのまま出ていこうとする彼女を呼び止める。


「なに?」

「いや、タッパーどうしようかと思って」

「次会う時渡せば…………はぁ、まぁいいわ。 食べ終わるまで待つわよ」


 全くもう、と言いながら再度椅子に座る。

 シャクシャク擦りリンゴを食べていると。


「……ねぇ、私のこと『巫言ちゃん』って呼んだわよね」

「あー、呼び、ましたねぇ……はい」


 やっぱりまずかっただろうか。 出しゃばり過ぎだったかもしれない。



「……さっきはありがと」

「ん?」


「助かったって言ってんの」

「ああ、気にしないで。 僕も似たような感じだし」


「そうね、三上何故か茂上ってことになってるみたいだし。 …………三上は知ってたの? 二宮と九条の関係」


「いや? 二宮さんが『九条』に反応してたから苗字で呼んだらまずいかなーって」

「そう…………二宮と九条ってね、結構関係悪いの」


「ふぅん……そうなんだ……」

「興味無いのね」


「他人のお家事情だしね。 下手に口出しはできないよ」

「ま、私としてもこれ以上訊かれたくはない事だから。 私もなんで茂上なのかは訊かない」

「……うぅん」


 今更大した理由じゃないとは言い出せない。


「下手に九条の前で二宮って言われたくないし……これからは下の名前で呼んで」

「……そっか。 じゃあ、巫言ちゃんでいい?」

「っ……」


「ミコトさん?」

「み、ミコトちゃんでいいから!」



 そこで、ノックの後もう一人来訪者が現れた。


「三上。 起きてるか?」


 そこに現れたのは―――――


「中曽根くん?」




      ◇    ◇    ◇    ◇




「悪かったな。ボールぶつけちまって」


「いいよ。大してケガしてないし」

「そう言ってもらえると助かる。やっぱり直撃しても大丈夫だった訳だ」


「気絶するとは思ってなかったけど。 流石剛速球、凄いね」

「あの状況で追いつくお前も大概だがな」


「わざと当てないでよ? また気絶級ボール食らうのはいやなんだけど」

「分かってるさ。 状況にもよるが。 ………で」


 一旦話を区切ると、声を潜める。


「(なんで二宮がここにいるんだ?)」

「(見舞いに来てくれたらしいよ)」

「(バカ言え。 あの二宮だぞ。 どうやって落としたんだよ)」

「(いや、別に落としてないし落ちてないし何もしてないんだけど)」

「全部聞こえてるわよ」


 静かな部屋でこれだけ至近距離にいるのだから当然といえば当然か。


 祐は半眼の二宮に向き直りつつ。


「まぁ……落ちてないよね?」

「ばっ、当たり前じゃない!! 何言ってんの!?」


(こいつぁ落ちてるな。 なんでだ?)


 中曽根は密かにそう思った。

 彼が原因について思考に耽る最中、コンコンとノックの後、ドアが開けられる。


「あ、中曽根くんちょっと先に行かないでよ! 置いてかれると困るんだけど!」

「ん? ああ、すみません」


 また新たに一人増えた。 その来訪者は―――――


「こんにちは三上くん。 私野球部のマネージャーやってます倉持です。 一応彼の先輩なんですが……この度は本当に済みませんでした!!」


 ばっと頭を下げる。


「ほら、中曽根くんも謝る!」

「いや、さっきあやま――――――」

「いいから!」


 ぐいっと強引に頭を押さえつける。


「ああ、大丈夫ですよ。 大してケガしてないですし」

「えっでもその腕――――――」

「これは別件です」


「そ、そうですか、よかった大事に至らなくて……もう、中曽根くん反省してる!? 一歩間違えれば大変だったんだからね!」

「わ、分かってます、ただ事故はどうしようも」


「だったら事故しないように練習する! いい?」

「は、はい」


「まったくもう……だいたいあなたはいつも――――――」


 そのまま倉持によるお説教タイムへと突入した。


「二宮さん、ちょっと端末貸してもらえる?」

「何? 変なことしないでよ?」

「んー大丈夫ちょっと一枚写真が撮りたくて」


 カシャッ


「んで、この写真を僕の端末に、送って……うし、OK。 ありがと」

「何? なんの写真撮ったの?」

「んー? あそこにいる病室でイチャイチャしてる二人」

「はぁ? なにそれ、そんなんで勝手に端末弄んないで――――――っ!?」


(こここれって、三上の連絡先だよね!?)


 大いに動揺する二宮。 端末を凝視する。


「いや、なんか端末家に忘れたままだったみたいで……にのみ、ミコトちゃん? 大丈夫?」

「っ―――――!?!? ななななんでもない!! ていうかいきなり名前で呼ぶな!!」

「ご、ごめん。 二宮さん?」

「ッ!! やっぱミコトで呼んで!」

「えぇ? どっち?」

「ミコト!!」


---------------------------


 一方、その様子を見ていた二人は。


「……倉持先輩、あれどう思います?」

「え? カップルじゃないの?」

「ですよね……」


 二人にさせてあげた方がいいのか、中曽根は逡巡する。


「三上、それじゃ俺はこれで部活戻るけど大丈夫か?」

「ん、ここから学校まで戻るの?」

「ここは学校の保健室だ」

「あ、なるほど……大丈夫だよ。 もう動けるし。 倉持さんもわざわざありがとうございます」

「え? ああ、うん。 体に気を付けて」

「それじゃ倉持先輩。 行きましょう」

「うん……?」


 そうして二人は保健室を後にした。


「……三上、もう一個あるけど食べる?」

「ていうかお見舞い用意するほどのケガでもなかっ―――」

「食べるの?」

「に、二個はいらないかなぁ……?」


 ――

 ――――――――


「先輩、あれどう思います?」

「いや、普通にカップルでしょ?」

「ですよねぇ……」


 クラスメイトに知れたら大変な事になるだろうなぁとその時中曽根は思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ