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テスト

回想から入ります

 ----------------------------------------------------------------------------

 入学してすぐの頃だったか、「三上祐」という生徒の名前が突如として話題に上がった。

 その話をしていたのは、同じクラスの「榊原啓」。 色々言っていた。

 それにより、まだ会ったことの無い彼の名は「変なヤツ」として一瞬にして科学科中に知れ渡る。


 でもきっと榊原による悪戯か何かだろう。 しかし「三上祐」は妙に印象に残ってしまった。


 なんだか裏にもう一人いる気もするけれど……まあどうでもいいこと。


 噂の内容は………まあこれも、どうでもいいこと。



 ◇    ◇    ◇     ◇



 ある日、三上と榊原の会話が耳に入ってきた。


 聞けば入試の科学最高得点者が、あの三上だというのだ。

 私は驚いて、そして同時に悔しかった。


 入学してすぐ、先生から自分が二番だったというのは聞いていた。 聞いていたが……


 正直、科学において一番の自信があったのだ。

 誰にも負けない自信と、そしてそれだけの実力があるものだと思いこんでいた。


 しかし結果は二番。


 私は負けたくなかった。 私から科学をとったら何も残らないから。 昔から科学だけが私の取柄だったから。 今も変わらず、だから――――――――


 -------------------------------------------------------



「ん? 通知……? 誰からだろ」


 九条家の広い一室で自分の端末の小さな変化に気づいた。

 学校に復帰してから数日後のある日、家から端末に文章で連絡があった。

 そこには短くこんな言葉が認められていた。



『ただいま禁断症状が深刻な状態にまで悪化しつつあります。 一刻を争います。 精神崩壊の危機です。 はやくかえってこい』



 ……うん、ここまでまっとうな文章が書けるなら大丈夫だろう。 送り主はどう考えてもアイツしかいないよなぁ。

 そういえば結局連絡取ってなかったな。


 アイツというのも妹の事なのだが。 今日中に覚えてたら連絡してやるか。

 今はちょっと面倒なので無しで。


「アイツ話すと絶対長いんだよなぁ……」


 妹に連絡するかは置いといて、そろそろ新しい住処を見つけたいところだ。 父親に催促はした方がいいかもしれない。


 火事の一件は収まったようだが、修復作業をするとかでしばらく様子も見に行けそうになかった。


 九条は居たいだけ居ていいと言ってくれたが、やはりどうしても申し訳ないという思いが立ってしまう。 厚意をただ享受するのにはかなり気が引ける。 かといって受け取らないのもまた失礼である。


 今度何らかの形でお礼しないといけないな。

 執事さんに何か出来る事がないか訊いてみようか。



 今後の事を考えつつ、何となしにテレビをつけてみた。


『―――――――で、先日あったアルミラージの脱走。 学校側は小屋の老朽化だったと言っているみたいですがねぇ、ワタシはそうは思って無いんですよ』


 ちょうどワイドショーっぽいものをやっているところで、その話題はまさにあのアルミラージの件だった。


『と言いますと?』

『ええ、ワタシはあれは誰かが故意にやったんじゃないかと思うんですねぇ』


 ええー!? と出演者から驚きの声があがる。


『あ、でも僕もそれは思います。 こういうのってやっぱなんかウラとかありそうですよねー』

『そうですねぇ、こういうのって大体都合の悪いモノは隠してしまいますから。 ワタシ個人の考えですけどねぇ? あれは実はテロだったんじゃないかと』

『えーテロー!?』


 そう言って話はどんどん飛躍していく。 最後に出演者が笑いを取ってこの話は終わった。


 今回死者こそ出なかったが、魔獣は重大な危険性をはらんでいる事が改めて示された事件だった。

 そういう事からもマスコミは大きく取り上げたのだろう。


 近年魔獣の数は増える傾向にあり、世界的に被害は絶えない。

 そういう意味において、魔獣を飼育し研究することには大きな価値があるのだが、今回はそれが裏目に出てしまった。

 結果として僕以外にひどいケガをした人は居なかったものの、やはりトラブルの火種となってしまうのかもしれなかった。


 今朝も市民団体が魔獣飼育反対のビラ配りをしていた。 彼らの言い分としては、被害が出る前に殺すべきだということらしい。

 ずいぶん過激的な考え方だが、これには理由がある。



 十年前、ひとつの事件が発生する。


 複数種の魔獣が集団で人里を襲ったのだ。 今までにない事態にこの時は対応が遅れて、多くの犠牲を出してしまっている。

 これはとある研究チームが遺跡を掘り起こしたことに端を発する。

 僕らの住む大和国はそこら中から遺跡が出土する遺跡大国としても知られている。

 その遺跡群の内ひとつが魔獣の巣窟になっていたのを知らず、調査員たちが刺激してしまったからだという。

 このニュースは連日報道され、アンチ魔獣の社会現象も引き起こした。

 比較的害意の無いタイプの魔獣も含め多くが忌避され殺されてきたそうだ。

 しかし逆にこちらが甚大な被害を受ける事も少なくなかった。

 後に保護の論調が高まってきてむやみに殺されることは無くなったが、今でもそういう思想を保持する人は少なくない。



「学校でトラブルが起きなければいいんだけれど」


 今心配なのはそれである。 保護賛成派と反対派による衝突。

 起きるのかどうかは別として、どんな形で起きるか分からない以上、心配にもなる。


 実際あの場に居た者はむしろ保護賛成派だろう。 「知ること」の重要性を身に染みて分かったはずだ。


 問題はその時学校に残っていたその他の生徒。


 緊急事態に対して脳が危険を敏感に感じ取れなかったのなら対して問題ではない。

 しかし、感じ取ってしまったのなら、それは今後未知のものに対する強い恐怖となりえる。

 後々それが鎌首もたげて来た時、思想が過激な方向へ走れば、それこそ何が起きるか分かったもんじゃない。


 まぁ今のところ大丈夫そうなので、杞憂に終わると思うのだが。



「さて、と……」



 明日はテスト初日だ。 苦悩の後には午前で学校が終わりという幸せを享受できる日だ。


 ……ということでそこで考え事は中断し、明日に備えることに決めた。




          ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「あ、啓」


 テスト当日。 下駄箱にて早速悪友に出くわした。


「うーっす。 三上、勉強した?」

「お前は?」


「「してない」」


 その返答に。


「「だよねぇー」」


 結局あの後テレビを見て終わってしまった。

 こうして祐の高校で初めての中間テストはノープランで幕開けした。





  ――――――――午前で終了―――――――――





 うぅん……平均割りは覚悟しないといけないかもしれない……!


「おーい三上、ってなにしけた顔してんだ?」

「いや、ちょっと調子乗りすぎたなと」

「テストのことは忘れろって。 折角午前終わりなんだし、カラオケでも行こうぜぃ」


「いや、遠慮しとくよ。 今日は真面目にやる」

「まぁまぁ。 帰ってからも時間はあるだろ?」


 悪魔の囁きが聞こえる。 だが耳を傾けてはダメだ、きっと明日も同じ轍を踏んでしまう。


「二時間までで」

「決定だな。 大石、三上追加でー」

「うぃー」


 二時間くらいならいいよね……?


 しかし許してくれない人がいた。


 バンッ


「茂上祐はおりますの!?」


 威勢よく扉を開き、九条さんが召喚される。


「なんですかここは! まだテスト初日だというのに浮かれて喜んで悦に入るとは弛んでますわ!」

「同じ意味だよね」

「何? お前またなんかやったの?」

「いや……」

「あれ!? この間の金髪美人!!」


 九条を見つけた大石が騒ぎ出す。


「こんにちは! 美人ですね!」

「ふふ、そう言われて悪い気はしませんわね!」


「握手してください!」

「嫌ですわ!」


「サインしてください!」

「いいですわ!」


 どこからともなくペンを取り出し、九条は大石の掌に自分の名前を書く。


「じゃ最後に罵倒してください!」

「やかましいですわ! 散りなさい羽虫!」


「ありがとうございましたあッ!」


 そう言って彼は教室の隅へ引っ込んだ。


「なんなのですあれは……それよりもほら、遊んでないで帰りますわよ!」

「ああ、うん」


 返事は待たずにずんずんと廊下を突き進んで行く。


 そうだった。 居候の僕にカラオケという選択肢はそもそも存在していないのだった。

 雑談が長かったかもしれない。 思ったより待たせてしまっていたようだ。


『『『……んん?』』』


「三上、何今の?」


 榊原は今しがた九条が歩いて行った方を指さして言う。


「ああ、ごめん。 やっぱりカラオケは無しで」

「待て待て、説明しろ?」

「ごめん、彼女待たせると面倒なんだ。 それじゃ!」


『『『彼女!?』』』


 クラスがどよめく中、祐は九条の後を追っていった。


 それは多分違うだろうなぁ、と榊原は心でその疑問に解答する。

 ただその時は ああ、コイツまた面倒くせぇことしてんなぁ……としみじみ思ったのだった。

 クラス中に過激思想が電波していく。


『明日確実に殺るぞお前らァァァ!!』

『『『キエーーーーッ!!』』』


 ……明日三上は生き残れるだろうか。


「はは、やべぇな」


 彼の独り言は喧噪の中に消えていく。


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