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学校復帰

回想から始まります

 

 ――――――――――そう、あれは入学式の日だった。


 遅刻しそうだった私は走って登校していた。


 その日はいつも以上に混雑していて、バスは渋滞にはまってしまっていた。

 時間的には走れば間に合うか間に合わないかの瀬戸際。

 ただ、これ以上待っても埒が明かないと思い、仕方なくぶらり途中下車して通学路を走ることにした。


 そんな時だった。 私は視界に映ったのものを一瞬信じられなかった。


 突き抜けるような青空の下、トラックにはねられ宙を舞う一人の少年の姿。

 あまりに唐突で衝撃的な出来事に、私は走ることを止めていた。


 明らかに無事では済まないような当たり方だった。

 流石に心配で、声をかけに行こうと脚に力を込める。

 しかし、それもまた途中で止めていた。


 なんとその少年はすぐに起き上がったのだ。


 ―――――信じられない、あの衝突を受けて起き上がるだなんて。


 しかし少年の無事が確認できた以上、私に出来ることも、そこに残る理由もなかった。

 そのまま野次馬になって眺めることに意味は全くないことを理解し、学校へ急ぐことにした。

 若干時間を取られてしまったが、秒単位でギリギリ間に合うだろう、と。


 でも、私は遅刻することを選んだ。

 だって、私にも出来ることがあったから。


「救急車…………!」


 いくら無事に見えたって、本当は重傷でしたなんてことはよくある話だ。

 それで手遅れになっては目も当てられない。

 しかしあそこで呑気に会話している三人は救急車を呼ぶ様子は無かった。

 なら、目撃者である私が伝えるしかない。 もしかしたら他にも呼んでいる人はいるのかもしれないけど。


 素早く病院へ連絡を済ませ、今度こそやれることは無いと、学校へ急ぎ走り始める。

 しかし、またしても私は足を止めざるを得なかった。



 ちらりと目を横に見やると、何故かまた、その少年は宙を舞っていた―――――――――



 --------------------------

 -------------------------------------------------------------------------







 ――――――次の日。


 僕は九条さんと一緒に登校していた。その際正門からは入らず、人目の少ない場所から入った。

 何故と訊けば、彼女は正門のある方を指さす。 残念ながら遠すぎて見えない。

 そこで彼女は言葉で補足する。


「マスコミが居ますのよ」

「マスコミって、何で?」

「これだけ注目されている学校で魔獣が逃げ出したのですよ? そんなネタは逃しませんわよ」


 確かに紙面を飾るにはうってつけの話題だろう。 世間的な注目度も高いに違いない。

 だがしかし――――――


「でもあの日から何日も経ってるよね? 毎日こうなの?」


 すでに一週間ほど経過している。 それほど注目度が高かったと言われればそれまでだが、外で待っていてそこまで有益な情報が出てくるものなのだろうか。


「いいえ、最近は落ち着いて来ていたのですけれど……恐らくあなたが原因ですわね」

「えっ僕?」

「今回の事件の最大の被害者が久しぶりの登校をする、これもまたいい材料でしょう。 全く、どこから情報が漏れるのか……」


 なるほど、だからこんな遠回りで登校してるのか。


「でも、入院中はそんな話一切来なかったけど」

「私が口止めてましたから。 それに私の他に誰とも面会していないでしょう?」


 名札が無かったのはそういうことか……。 でもじゃあ何で一之瀬さんは場所が分かったんだろう?


「というかそれじゃあ昨日のアレ結構やばかったんじゃ」

「そうですわね」


 えぇ!?


 全力でツッコミたかったが、あれは彼女なりの優しさからだと知っていたので押し黙る。


 この人どこか抜けてるんだよなぁ。


「何はともあれ、校内までは流石に入って来ないでしょうし。 数日もすれば収まるでしょう。 記者の中には結構乱暴な方もいらっしゃるかもしれませんし、むやみに正門には近づかない方が賢明でしてよ。 ――――――さて、私はあっちですので、それでは」


 そう言って九条さんは魔法科棟へと歩いて行った。


「誰にも伝えて無い……。 あれ、あの二人(けい みほ)九条さんから聞いたって言ってたよな、どうゆうことだ?」


 ひとつの疑問を胸に科学科へと足を向けた。





     ――――四限が終わり、昼休み(ぬすみぎきしたってさ)――――――






 早乙女さんに会うためにまた魔法科までやって来ていた。

 その時ちょうど彼女は読書中だったようで。


 めっちゃ文学少女してる……!!


 窓際後ろから二番目の席で静かにページを捲っていた。

 ちょっと声かけ辛いと思いつつも、待っていてもしょうがないので話しかける。


「早乙女さん。 久しぶり」

「……ん。 ……久しぶりだね。 腕の調子はどう?」


 本を読む手を止め、こちらを見上げる。


「まぁ何とかって感じかな。この程度のケガで済んだのも早乙女さんが居たからだよ。 本当にありがとう」

「お互い様かな。 結局私も君に助けられた訳だし」


 元気そうで何よりだ。



 それからは今日あった他愛もない出来事を話すなどして時間が過ぎる。 その過程で色々な事を聞く事ができた。

 聞けばあの日あの後、教師やら事務員やらたくさんの大人が駆けつけたらしい。

 あの惨状を見て皆一様に驚き慌てふためいたそうだ。

 女性職員の中にはヒステリックになる人もいたらしい。


 特に僕を見た時の反応が大変だったそうで、死んでいるものと早合点して『生徒一人で逝かせる訳にはいかない』といって舌を噛もうとしたのだとか。

 大の大人が三人掛かりで抑え事なきを得たが、その時の本気の表情は今でも忘れられないという。


 残った一羽のアルミラージについては一之瀬さんが跡形もなく『焼き払った』。

 その説明に納得しない大人たちもいたようだったが、そこは一之瀬さんが押し切ったそうだ。


 結果として逃げた四羽はすべて殺処分されたものとして処理され、今は今後の対策強化へと方針が変わっているらしい。


 一通り聞いたところで教室を見渡してみると、かなりの人が目を逸らす。 逆に言えばそれだけの人が様子を窺っていたということ。



 やっぱり科学科だからかなぁ。



 早乙女さんはそんな僕の様子に何か気づいたようで。


「ん、多分君が考えてるのとはちょっと違うと思うよ?」

「え?」


「皆興味があるんだよ。 君は渦中の人物だからね。 それにあの場にいた人も何人かいるから」

「なるほど、客寄せパンダみたいなものか……」

「そこまでネガティブじゃ無いよ?」


「珍獣を見かけた的な」

「まあ、ちょっと変ではあるけど」

「えっ」


 またも早乙女カウンター。 もはや必殺技が出来そうだ。


「はは、冗談だよ。 それよりさっき君が来たと同時沙月が全力で逃げて行ったんだけど……なんかあった?」


 入口の方を指さす。


「……いや、やっぱり嫌われてたのを痛感したというか………」

「……?」


 その時だった。 やかましいヤツが登場した。


「あー! 祐じゃん、何してんの? 逢引き?」

「どこがだよ」

「そんなとこかな」

「違うよね!?」


 早乙女さん、それはもうカウンターじゃないよ! 殴り行っちゃってるよ!


「おおっ、早乙女さん結構くるねぇ! 気に入ったわ!」

「ふふっ、どうも」


 一言で仲良くなった二人。 なんてコミュ力だ。 荒ぶるその力はこっちに向けないでほしい……!


「まあ実際はこの前のこと話してただけなんだけどね」

「えーっ、なぁんだぁ。 てっきり二人であんなことやこんなことや自主規制な事とか」


「するかっ!」

「そうだよ、そんなことする訳ないじゃないか。 ここは学校だよ?」

「そこじゃないッ!!」


「あっははは!! メモメモ……あ、そうそう。 今度抗争あるらしいから、知っとくといいよー」


 じゃ! とそれを言い残して去って行った。

 あんなのただの災害だ。


 それと最後に言い残していった言葉が気になった。


「早乙女さん、コウソウって何?」

「ん? あ、そうか。 休んでたから知らないのか」


 その後、抗争の概要を説明してくれた。

 具体的には、


 ・学校行事のひとつ

 ・場所は敷地内、三人単位のチーム戦で行う

 ・勝利条件は隠された食券を他より多く取ること、上位五チームまで景品あり

 ・学校から支給される術式札で妨害などはして良し

 ・今回は一般公開し、プロモーションを兼ねるのでがんばれ



 もっと詳しい内容などは別でしっかり確認してとのこと。


「これはいつやるの?」

「三週間後の日曜だったかな。 中間テストやった後だって。 で、翌日が代休」

「なるほど」


 意外と時間はあるようだ。 準備とかで時間がかかるのかな。


「この間の件での悪い印象を払拭したいのかもね」

「なるほど……」


 だから一般公開なのか。 色々な人が見に来るに違いない。

 ……いや、敷地には入れないかもしれないな、危ないだろうし。

 そうするとテレビだろうか。


「抗争の三人組はテストの成績で決めるらしいよ」

「なるほどー………」


 これは大事な情報だ。 決め方は分からないけれど、このテストの結果によって男子の命運は左右される。 女子と組めなかった者は恐らく反乱を起こすのではなかろうか。


「後三分で授業始まるけど、大丈夫?」

「なるほ、早く言ってええええーーー!!」


 そこから先は全力疾走だった。




      ―――――――――――放課後(しらべた)――――――――――





 抗争か……結局皆まだほとんど情報を与えられてなくてあまり分からなかったなぁ。

 毎回ルールとか変更されるらしくて、先輩とかに訊いてもあまり分からなかったみたいだし。


 一応今回訊いてみて分かったことは、


 ・一人に初期ポイントとして1000pt分の食券が配布される

 ・校舎内は禁止

 ・実はケガさせられる

 ・テストが終わった後に内容の開示がある



 ……くらいかな。 テストが終わってから一週間あるみたいだから、その間に作戦を練るなりしろってことなのだろう。


 先輩から情報を訊いて来た人曰く、ケガは僕みたいな大ケガはアウトらしく、魔法ですぐに完治できるような軽度のものであれば黙認らしい。


 でも大きな魔法とか使ったらヤバいよね? と訊いたら、支給される物の一つに、放出魔力に制限をかけ、一定値以上は抑え込むものが配られるから大丈夫なのだとか。 どうやら術式札とはまた違う物らしい。

 その性質的に簡単な魔導機器の類だろう。 簡単と言っても市販されている訳ではないので、物自体はそこそこ高価になるはずだが。


「ちょっと三上いいか?」


 教科書類の片付けをしていると、背後から渋い声で話しかけられた。


「ん、中曽根くん? 何?」

「お前のそれって、アルミラージ受け止めた傷だよな」


 左腕を指さして言う。


「そうだね」


 なんだろう、これについては朝散々いじられたんだけどな。 あ、皆と違って心配してくれてるのかな?


「いや、思ったんだが。 お前なら俺のボール直撃しても大丈夫なんじゃないかと」

「うん、重傷患者にそれが言える君はすごいと思う」


 コイツマジ何言ってんだ。


「まあまあ。 それ治ってからでいいからさ、練習に付き合ってくれないか?」

「それは僕にボール当ててやるから覚悟しとけやコノヤローってこと?」


 喧嘩を売られたと取るべきだろうか。


「違う! 普通に練習に付き合ってほしいだけだ!」


 ふむ、普通に練習か。 普通なのか。


「当たる可能性は?」

「割とある、けど……」


 普通とは。


「おい……。 はぁ……別にいいけどさぁ」




『『『いいのかよ!!』』』




 うおっと、びっくりしたぁ。 いえ、別に当てろって言ってる訳じゃないんですよ?

 ちょっと痛いだけで。


 皆の声に心で弁明する。


「そうか、助かる! じゃあまたその時になったら声かける。 宜しくな」

「ん、おっけー」


 そう言って彼は部活をしに行った。

 腕は医者から1,2週間で大丈夫だと言われている。

 そうするとちょうど中間テストが終わった辺りになるのかな。


 そして僕も帰る支度が終わったので廊下に出ようと―――――――


「ん?」


 ふと視界の隅に何かを捉えた。 近くの机が妙に物が散乱してるのが気になったのである。

 一番上に置かれていた紙を手に取る。


「『イルミナティ 今後の活動計画表』――――――――なんだこれ?」


 その席は大石くんの所であった。 この紙以外にも色々な書類やら何やらが置かれている。

 ちょうど大石くんが席に戻ってきた。


「ん? 三上もそれ欲しいか?」

「大石くん。 これは?」


「ああ、それに希望する内容とか参加したい日程とか書いてくれ。 書けたら俺か榊原に渡して」

「いや、そうじゃなくて」


「悪いが俺ちょっとまだ用事が残ってるんだ。 何も無ければ無いでOKだから、じゃ!」

「あっ……行っちゃった」


 短くそう言った後、別の書類を持ってどこかへ行ってしまった。


 物販だとか討論会だとか書いてある。 なんかのサークルみたいなものだろうか?


 ふと腕時計を見る。


「あっ時間が……!」


 九条さんが裏に車をまわしていると連絡が入っていたのだった。

 紙をポケットにねじ込んで、僕は教室を飛び出した。

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